#00 デザインの「手前」の話をしよう | 原田優輝+山田泰巨
「デザインの手前」は、デザインという領域に関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。このニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化して配信。初回は、パーソナリティである編集者の原田優輝と山田泰巨が番組が生まれた経緯や番組タイトルに込めた思いなどについて語った第0回の配信内容をお届けします。
デザインの分野に関わる編集者として
原田:デザインの手前は、デザインという領域に関わる編集者2人がさまざまなクリエイターをゲストにお招きし、デザインの本質的な価値や、これからの可能性についてお話していくトークプログラムです。この番組をお送りしていくのは編集者の原田優輝と山田泰巨です。
山田:よろしくお願いします。では、まず最初に自己紹介を。
原田:僕はもともと学生時代から出版社でアルバイトをしていまして、その流れでずっと編集者/ライターの仕事をしています。もともとファッションやカルチャー周辺のことが好きで、学生時代からカルチャー誌のアルバイトをしていましたが、割と早い段階でフリーランスになり、そこから色々仕事をして現在に至ります。
番組のタイトルの通りデザインの仕事を結構していまして、デザインの専門誌で記事を執筆したり、デザイナーの皆さんと一緒に仕事をするようなことも多いです。
あとは個人的にカンバセーションズというインタビューのサイトを運営したり、拠点である鎌倉で「◯◯と鎌倉」というプロジェクトを主宰している編集者です。
山田:私は大学で文系の学部を出た後に建築の学部に行っていて、2つの学部で学びました。その後、建築の専門雑誌で3年半〜4年ほど働き、その後に一般誌で10年間ほど働きました。その後にフリーランスになり、一般向けの雑誌でデザインについて書くことが多いです。もちろん専門誌で書くこともありますし、あとは企業の書籍や美術館の企画とかをお手伝いしたり、そういうことをしています。
僕はどちらかというと、建築や家具がメインですが、原田さんは?
原田:僕はグラフィックやWeb/インタラクティブなどデジタル領域のデザインに関わることが多いですね。例えば、編集者としてウェブサイトの制作に関わることもあったり、いわゆる商業誌やメディアの仕事以外で制作に入ることもあったりします。
山田:僕たちは大きな枠で見ると同業なんですが、近くにはいるものの意外とクロスオーバーしないというか。僕がもともと一般誌で会社員としての編集者を務めていたときに、原田さんにライティングをお願いしたていて、そこからお付き合いをさせて頂いています。
原田:僕らは世代が一緒なんですよね。山田さんが『PEN』という雑誌で働かれてる時に何回かデザインの特集でご一緒していて、その後、山田さんが独立をして、フリーの編集者/ライターとして活動されることになったというご連絡は結構前にいただいていたのですが、その後そんなに時間が経たずにコロナ禍になったんですよね。
山田:そうですね。僕は2017年からフリーなんですけど、最初の方はドタバタしていて、気がつくとコロナに突入してしまったっていう感じでした。
原田:その後、やっと人とも会いやすくなってきたかなというタイミングで山田さんにご連絡をして、近況報告じゃないですけど、1、2時間カフェで話をしたんですよね。そこで色々話す中で、音声コンテンツに興味があるという話をしたら、山田さんもちょうど興味を持たれていて、何かやってみましょうかというので始まったのが、この『デザインの手前』ということですね。
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番組名の由来
原田:僕も山田さんもほぼ同世代なので、仕事を始めたタイミングも一緒だと思うんですけど、その頃から比べると色々とメディアの環境が変わり、デザインというものもだいぶ対象や領域が変わってきた印象があります。もともとグラフィックやプロダクト、建築などが、僕らが働き始めた頃はデザインの中心にあって、いまもこれらは大きな分野ではあるんですけれども、Webデザインという領域が出てきたくらいの時期に僕らは仕事を始めたと思うんですけど、そこから気づけばデザインという領域がどんどん広がって、特にデジタルメディアが台頭してきたことで、例えば、UI/UXのデザイン、サービスデザインみたいなものもデザインの領域になってきて。あるいはアナログな分野でも日本各地のローカルのデザインとか、あるいはソーシャルデザインみたいなものが出てきたりとか、どんどん何かデザインというものの前に付く言葉が増えてきた印象があるんですよね。
最近だと「デザイン思考」や「デザイン経営」などビジネスの文脈にもデザインが広がってきていて、これまでは美大で学ぶものだったデザインが、最近は一般の大学でもデザインというものが学べるようになってきたり、色々環境が変わってきた。
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それ自体は良いことだなと思っているんですけど、気づけばデザインというものが広がり過ぎていて、「猫も杓子もデザイン」じゃないですけど、デザインっていう言葉を聞いたときに思い浮かべるものが人によって全然違う感じになってきたなと。
あまりにデザインが色々広がりすぎたが故に、専門分化していくことで何かデザインという世界も少し分断されているのかなとか、スプロール現象的に無秩序にデザインという言葉が独り歩きしていろんなとこに広がっていくな、ということ感じていました。
そもそもデザインって色々な関係を繋いでいくものなんじゃないかなっていうことがあって、僕らがやっている編集の仕事も少し近いところあるのかなと思うんですけど、色んな関係を繋ぐことだったり、デザインというものを開いていくような活動をしている人たちにフォーカスするような番組ができるといいのかなということを考え始めていたというのがまずあります。
山田:僕らが学生だった頃、高校生ぐらいからそうだと思うんですけど、デザイナーのチャールズ&レイ・イームズの再評価が始まったりして、90年代の終わりぐらいのデザインは何かおしゃれなものというイメージもありましたよね。
原田:デザイン家具とかデザインホテルとか、そういう言葉もよく見聞きしていましたね。
山田:アップルのMacが復活してきた時期だったりとかもして、綺麗というとやや語弊があるんですが、すごく魅力的なフォルムを持ってるようなものがデザインだというところから、今はずいぶん遠く離れてしまったというか。もちろん今もそういうものもデザインだとは言うけれども、考え方であったりとか概念的な部分にもデザインという言葉が入ってきて。デザインと呼ばれる領域自体が凄く広い中で、みんなどういうことを考えているのかなということを、「手前」という言葉を一つキーワードに聞いていきたいなと。
たとえデザインをする対象が違っていても、ある種の普遍性があるのではないかと思って、その普遍性がどういうことなのかということが、皆さんに届けられたらなと思っています。
原田:デザインが多様化しているという話でいうと、そもそも多様化する前のデザインって何だったんだっけ? という話が「手前」というところにも繋がってくるんですけど。デザインの語源と言われてるものがあって、古代ローマのラテン語らしいんですけど、「デシグナーレ」という言葉があるんですね。
これには「意図する」「計画する」「記す」「描く」みたいな意味合いがあって、ここにデザインの本質的なものというか、源流があるのかなみたいなことを思っていて、そこから広がってきて現在に至るみたいなことを考えたときに、このデザインの源流に立ち返ってみるということによって、広がり続けているデザインの本質的な部分に迫るようなことができるのかもしれないなと。そういうところから、「デシグナーレ」みたいな言葉を番組タイトルに入れるみたいなのちょっと考えていたんですよね。
とはいえ、ちょっとこなれない言葉というか、難しい感じもしますよね。
山田:頭の中に「?」が思い浮かぶこともすごく大事ではありますけどね。わからないことをわからないまま、どう向き合っていくかみたいなことがすごく大事な時代ではあるとは思うんですが、ここではもう少しスタートのところに立ち返るというか、皆さんの、「手前って何なんだろう?」みたいなところを多種多様な分野の方々に聞いていきたいなと考えています。
原田:この「手前」という言葉を見つけられたのが凄く良かったんですよね。「デジグナーレ」ってちょっと難しいよなとか思ってる時に、昔からお付き合いのあったあるデザイナーの方が展覧会をしてまして。それがグラフィックデザイナーの大原大次郎さんという方なんで、この「デザインの手前」のカバーアートも大原さんにデザインをしていただいています。
銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリーというところで展覧会をされていて、エントランスを入ってすぐ左を見たら、「手前」という言葉が書いてあって、そこに大原さんが短い文章を書かれてたんですけど、デザインというものが生まれる手前の話とか、線が生まれる前、歌が生まれる前といった何かが生まれる「手前」の話について大原さんが興味を持たれているということが書かれてたんですね。僕らが考えていたデザインの源流みたいなことに繋がる話なんですけど、その「手前」という言葉が僕の中でビビっときまして、意外と色んなことを表せる言葉なんじゃないかなと思い、山田さんにもお話ししたら賛同いただいたという経緯があったんですよね。
手前という言葉が持つ多様性
デザインの源流ということだけではなく、よく「お手前」と言うように「作法」とか「流儀」みたいなことも「手前」という言葉には含まれているので、デザイナーのそれぞれのお手前とかも聞けるかなとか。また、プロジェクトの上流からデザインをしていこうみたいな話もよく最近聞きますが、そういったデザインプロセスの「手前」みたいな話も関わってくるなとか、例えばデザイナーになる「手前」ということで言うと、デザイン教育とかも話せるなとか、意外と言葉としての広がりがあって、解釈が色々できる言葉でいいなと。
山田:僕たちと同世代のデザイナーは、デザインする状況をどうするかみたいなことってよくおっしゃるなと思っていて、その状況をつくるというのもまさにデザインの「手前」の話だと思うんですよね。デザインすべき必然性のある状況をどうつくっていくのか、ある種の「地ならし」をどうするのかといったことも人によっては聞けるのかなと思っていて。なかなかそれはデザイン教育の現場では学ぶことのないことですよね。
多様性を持つ「手前」という言葉をキーワードに、色々な視点からデザインについて語っていけるなと考えていて、とても良い言葉だなと。そもそも「デザイン」と「手前」という言葉が普通はくっつかない。どういうことなんだろう? という疑問をまずは皆さんに持っていただいて、そこからいろんな話を膨らませていけるといいなと思っています。
原田:デザインっていうものがメディアで取り上げられるときに、こういうデザインをしましたとか、どうやってデザインしましたといった、いわゆる「HOW」にフォーカスされがちですが、そもそもデザインをする手前の理由、なぜデザインをしたのか?というWHYの部分はコンテンツにする時などは割と端折られがちな部分でもあって。でも、そういう「手前」にこそデザイナーの問題意識があるんじゃないかと思うので、そういうことを聞けるような番組にしていけるといいと思いますね。
山田:たしかに雑誌やメディアで紹介するのは結果の方なので。「手前」ってデザインプロセスの一環として紹介することはあるけれど、主役になることはあまりない要素なのかなと。だからこそ手前が大事だし、その「手前」を丁寧にに向き合っている人たちをゲストにお招きしていきたいなと思っていますね。
原田:僕らは普段仕事としてお話を伺う機会が多くて、この番組に関してもデザインの実践をしてる方々が、それぞれどんなデザイン観を持っているのかというところを話していただけるような番組にしていけるといいかなというイメージがあります。
山田:なかなか表に出てこないそうした考え方というのは、デザインに関わる方ではなくても参考になるようなことだったり、すごく普遍性のある話になるんじゃないかなと。デザインと別の仕事をしていたり、色んな人生の色々なフェーズがある中で、その考え方ってこういう風にも応用できるな、みたいな話がおそらく出てくるのかなと思っていて。
先ほど原田さんがおっしゃった「デザインが何にでも使われてる」という点では、「人生をどうデザインするか」みたいなこともおそらく皆さんが普遍的に抱えてる悩みの一つだと思うので、そういうこともひっくるめてお話しできたら面白いかなと思っています。
誰に聴いてもらいたいか?
山田:番組を色々な方に聴いていただくことが大きな目標ではありますが、原田さんはどんな方に届けていきたいと思っていますか?
原田:まずはやっぱり実際にデザインの現場にいる方々には聴いていただきたいという意味では、デザイナーやクリエイターの方ってのは聴いてもらいたいというのはがりますよね。それこそデザインの仕事にも色々なものがあって、皆さん色々なデザインとの関わり方をしていると思うんですけど、そういった方々がいま自分がやってる仕事って何のためだっけ? とか、日々の仕事の中でなかなか立ち止まって考える機会がないのかなと思っていて。この番組を通して色んな方のデザイン観に触れてもらって、自分自身の活動にそれらがフィードバックされたり、デザインの仕事に対して気づきが得られたりとか、そういう機会をまずはデザインを実践されてる方々に提供できるといいかなというのはひとつありますよね。
山田:あとはやはり、老若男女問わず色々な方に聴いていただいて、そこには共感もあるだろうし、自分だったらそうは考えないなみたいな話もあるとは思うんですけど、例えばお皿を洗いながらとか、洗濯をしながらとか、レンダリングを待ってる間かもしれないし、色んな作業の合間に聴いていただきたいですね。僕たちは仕事柄、色んな人に会いに行って話を聞く機会があるので日々刺激を受けられるんですけど、そんなに外の方と繋がらない仕事というのもあると思うんです。そういう方々にこそこの番組を聴いてもらって、そんなこと考えてる人いるんだ、といった素直な驚きみたいなものを感じていただけたらいいなと思っています。
原田:デザインというものが広がっていく中で、普段のお仕事の中でデザインと関わる機会が増えている方も多いのかなと思うんですよね。その中で例えばデザイナーと一緒に仕事をするとか、デザインの力を使って新しいプロジェクトを立ち上げるとか、そういう機会も出てきているのかなと考えると、普段デザイナーの人たちってこういうこと考えてるんだみたいなことももちろんそうですし、メディアでは伝わらないようなデザイナーの人柄とか、何かそういったものを感じていただけることで、デザインをより身近に感じてもらいたいというのも思っているところですね。例えばビジネスとデザインを繋げるためのヒントを提供できたり、あるいはデザインの敷居を少し下げられるようなこととかも番組としてできるといいなと。
山田:僕たち自身もいろんな方たちに会いたいというのがありますよね。これをひとつの機会に、普段の取材とは違う切り口でいろんな話を聞いていけたらいいなと思っています。その辺りは番組を育てながら、どういう方々に届くのか。予想外の出会いとかがあっても良いと思うんですよね。
記念すべき初回のゲストは?
山田:先ほどからお名前も上がってはいますが、初回のゲストにはどなたをお迎えするのでしょうか?
原田:ここまで聴いていただければもうわかると思いますが(笑)、グラフィックデザイナーの大原大次郎さんをお迎えします。
山田:大原さんには、「デザインの手前」のカバーアートをお願いしているので、このタイトルについての思いなどもお話しさせていただいて、それをどう受け止めたかといったこともお聞きできたらいいなと。
次回から今日お話したような内容を色々聞いていきたいなと思っていますし、やっていきながら色々と変化することもあるだろうなと。
原田:そうですね。色々試しながらやっていきましょう。
山田:SpotifyやApple Podcastなど、色々なプラットフォームで聴いていただくことができますので、ぜひチャンネルのご登録をしていただきたいと思います。また、番組の概要欄にSNSのアカウントも記載していますので、そちらもぜひフォローいただけるとうれしいです。
お知らせなどは今後SNSでお伝えしていくことになるかなと思います。
では、まずは大原さんのお話を楽しみに。ぜひ皆さん聴いていただけたらと思います。
原田:よろしくお願いします。ありがとうございます。
山田:ありがとうございます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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