デザインの「シーズ」と「ニーズ」はどこにある? | 有馬トモユキさん〈1/2〉【デザインの手前×Web Designing×dotFes】
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。雑誌『Web Designing』との共同企画、今回はdotFesの公開収録として日本デザインセンターの有馬トモユキさんにお話を伺いました。今週は前編をお届けします。
仕事と趣味を“ないまぜ”にする
原田:今回は、dotFes2025 YOKOHAMAの公開収録という形で、有馬トモユキさんにご登場いただきます。有馬さんは日本デザインセンターに所属し、今年7月に「有馬デザイン研究室」を社内に立ち上げられました。さらに、9月には2冊目の著書が刊行されるというタイミングになりますね。
有馬:はい。さまざまな形との対談集になっている『デザインの入口と出口』という書籍で、「デザインの手前」にも出演されている柴田文江さんとの対談なども収録されています。
原田:今回の公開収録もいつもの『WebDesigning』との共同企画と同様に、前半・後半の二部構成で進めたいと思います。前半は、有馬デザイン研究室や新刊の話を中心に、デザイナーが自分のエゴや偏愛、好きなことに向き合いながら、それをデザインのニーズとどうつなげていくのかをテーマを伺います。後半は、今回のdotFesでもAIエージェントを扱ったワークショップやトークセッションがありましたが、10月18日発売の『WebDesigning』12月号がちょうどAIエージェントの特集なので、そこにつなげて「AIツールがデザイナーの役割をどう変えるのか」という話をしていきます。後半にはDentsu Lab Tokyoの土屋泰洋さんにも加わっていただく予定です。
それではまず簡単に有馬トモユキさんのプロフィールをご紹介します。有馬トモユキさんは、1985年生まれのクリエイティブディレクター/デザイナーです。2009年に日本デザインセンターに入社し、「コンピューティング」「タイポグラフィ」「物語」をキーワードに、企業のVIや商業コンテンツの販促物、アニメ・ゲーム、VR関連のデザインなど複数の領域を横断して活動されています。また、TATSDESIGN名義でのグラフィックデザインをはじめ、自主プロジェクトも数多く展開されてきました。
主な仕事に、ハヤカワSFシリーズ《Jコレクション》、書籍『ILLUSTRATION』シリーズの装丁、さくらインターネットのVI、テレビアニメ『アルドノア・ゼロ』『Re:CREATORS』のグラフィックデザイン、cluster社のデザイン・エバンジェリストなどがあります。武蔵野美術大学基礎デザイン学科の非常勤講師やZEN大学の客員教授を務め、2025年7月には日本デザインセンター内に有馬デザイン研究室を設立されました。これまでの著書に『いいデザイナーは、見た目のよさから考えない』があり、今年9月には新著『デザインの入口と出口』がグラフィック社より刊行予定です。

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原田:先日立ち上げられた有馬デザイン研究室では、主にアニメやゲーム分野のデザインの活動というものを標榜されていますが、これは急に有馬さんが言い始めたことではなく、これまでも続けてこられたことですよね。
有馬:そうですね。僕はもともとはWeb屋さんで、いわゆるFlashエンジニアを2000年代からやっていました。これは時々話すエピソードなのですが、初音ミクを描いたKEIさんというイラストレーターがいて、もともと友達だったんですね。たぶんKEIさんはデザイナーの仕事の領域をあまりわかっていなくて、「デザイナーなら本くらいつくれるだろう」と思ったのか、「今度初音ミクの企画をやるから一緒に本をつくらない?」と誘ってもらったんです。いわゆる画集ですね。そこからキャラクターものの商業流通に関わるデザインをするようになり、次第にアニメーションなどのデザイン領域の仕事を時々するようになり、2010年代頭くらいにはそれがほとんどになっていったみたいなことがありますね。
原田:先ほどのプロフィール紹介でも触れましたが、「コンピューティング」「タイポグラフィ」「物語」をキーワードにされていますよね。
有馬:これは経験してきた順番ですね。小さい頃からパソコンに触れていて、10代の頃にタイポグラフィに出会って、朗文堂という小さなタイポグラフィスクールに通っていました。物語は、SF作品などを見て「こういうことが考えられるのは素晴らしいな」と思っていました。
こうした要素はパラレルに生まれてくるじゃないですか。会社の仕事、自分の趣味、帰って個人で考えたいことを僕は結構ないまぜにしたい人で、それを同時に実現できる仕事がどうやらなさそうなので、自分で考えてやるしかないと思い、話がわかりそうなお客さんと一緒にやるということが少しずつ増えていきました。
稲妻のように響く“同意の種”
原田:これまでに有馬さんは色々な領域の仕事をされてきていて、いまはゲームやアニメといったコンテンツに関わるデザインが主ですよね。通常これらのデザインはソフトのパッケージなど“側”のデザインがイメージされやすいですが、それだけにとどまらず、コンテンツの世界観そのものに対して、グラフィックデザインで何ができるかということをされていますよね。
有馬:そうですね。ちょうど良い例があって、『学園アイドルマスター』、通称学マスというスマートフォンゲームがあるんですね。『アイドルマスター』シリーズのゲームなのですが、IPコンテンツのデザインは、ロゴをつくるとか、いわゆる表面のものをつくることが多いんですね。この時は手書きロゴと、ゲーム内に登場する「初星学園」のロゴを僕がつくったんですね。これはゲーム内でかなり使われているのですが、それを意図して設計しています。初星学園のロゴの扱いが明らかに学園アイドルマスターよりも大きいというか。

有馬:僕は、ロゴにロゴ以上の意味を持たせたいと思っていて、これはゲームやマンガ・アニメのデザインだけではなく、さくらインターネットさんのVIの仕事などからのフィードバックでもあるんです。例えば、ステンドグラスに使われているのですが、よく見たら椅子の背もたれにもロゴと同じ様式が使われているんですね。これは、背景チームやアートディレクションチームと調整しています。学園ものなので、会話シーンの時にどこにいるのか一瞬わからなくなる問題が発生しがちだと思っていて。ソーシャルメディアでも、個人的にプレイしていても、「自分はこの学校にいるんだ」という一体感を感じてもらえるようにしたかった。そのために、ロゴそのものよりも、この影の形を覚えてもらうみたいなことにしたかったんですよね。
アイデンティティの末端はそうした何気ないところに現れる気がしていて。僕はもちろん、中身の設定に直接関わっているわけではないのですが、今回で言えば制服のスカートの柄などを描いているんですね。そうした細かい部分に先ほどのステンドグラス的な様式やストライプと星の意匠が入っていて、学校だから常に背景に学章が見えているということではなくて、なんとなく雰囲気として持続するみたいなことをやりたかったんですよ。そうした空気感や風景を覚えてもらえることが、このゲーム体験の価値になるといいなと考えてつくっていきました。
山田:設定の段階から関わられているのですか?
有馬:そうですね。ゲームがつくられようとしている時から参加させてもらいました。彼ら彼女らと対話するためには、そこまで解像度を上げないといけないと考え、こうした様式をつくらせてもらいました。もうひとつあるのは、真似しやすいことです。アートチームにとってもそうですし、二次創作をしたい人にとっても、真似しやすいデザインであることは重要です。だから描きやすさ、真似しやすさという点は結構意識しました。
山田:僕は建築を学んでいるのですが、フランク・ロイド・ライトが手掛けた池袋の自由学園明日館は、このような模様の連続性がアイデンティティになっています。そういうものも参照されているのですか?
有馬:正直しています。おそらくフランク・ロイド・ライトも、これがアイデンティティになると考えたんだと思うんですよ。
山田:まさにそうですね。

有馬:もちろん、アートチームが先にそういったことを考えてはいるんですけど、僕は影や光自体がアイデンティティになるんじゃないかと思ったんですね。そういうところで、彼ら彼女らに一体性のようなものを感じてほしかったんです。僕らはキャラクターを画面で見ている時に、色んなバイアス、つまりユーザーインターフェースの層やガラスとか、リアルタイムじゃない感覚や会話が微妙につながらない感覚など、さまざまなアンフックな部分、アンコネクトな部分があると思うんです。でも、それを一緒に感じられるというか。だから時間軸も一応同期しているんですね。ホーム画面を見ると、夜にログインすればちゃんと夜になっているんです。そういうことを少しずつ積み重ねて、同一性を得るようなことをやっています。
原田:例えば、ゲームであればゲームをデザインする方がいて、アニメであればアニメーターのような方たちがいて、それぞれ専門性を持つ方たちがいますよね。その中で有馬さんはグラフィックデザイナーやアートディレクターの立ち位置になるのかなと思うのですが、そういう人間だからこそできること、もう少し引いて言えば、デザイナーだからこそできることという意味で、どんなところに価値を見出してこれまで活動されてきたのでしょうか。
有馬:僕はオタクなこともありますが、オタクを凄く尊敬しているというか、憧れている部分があるんです。何が言いたいかというと、ちょっとしたところに強烈な感動の種があるんですよね。強烈な同意だったり、忘れられないものだったり。キャラクターの髪の毛のハイライトがキラッと光っただけでそれを数年忘れないとか、稲妻のように響くみたいなことがあるわけですよね。それをどこに設計するのかという話です。
さっきドトールに行ったのですが、やっぱり黄色い看板を見つける本能があるわけです(笑)。僕らグラフィックデザイナーは、そうした本能を考えるわけですよね。誘目性、色のアイデンティティや動きのアイデンティティとか。Webやインタラクション、あるいはプロダクトのデザインに関わっていると、そういった特徴点がどこにあるのかを最適化以前に考えてしまうと思うんです。例えば、うちのサービスは赤いから、このくらいのバランスの色面がいいんじゃないかとか。そういうことを僕は大事にした方が良いと思っているんです。IPが好きな人、漫画やゲームが好きな人にとっては、それが強烈に記憶に残る手段になる。その意識を持ちながら、どこにそういう種が潜んでいるかを探しています。どういう子がここで活躍するんだろうとかはもちろん全部見せてもらうし、プロットも読む。感情移入が凄く強くなって、呆然とする瞬間もあるのですが(笑)、言わば“同意の種”を探しているというか。カッコ良いことを言ってしまっていますが(笑)、そういうことが凄くあるんですよ。そこをどうにかちょっといじるだけで、例えば絵の一部をいじるだけ、スカートの柄を少しいじるだけ、学園の校章を少し変えるだけで、何か決定的なものが生まれやしないか。そういうことをずっと探していますね。
有馬デザイン研究室設立の背景
原田:有馬さんから「オタク」という言葉が出ましたが、デザイナーでアニメ好き、ゲーム好き、漫画好きという人はたくさんいると思います。でも、実際のデザインの仕事とそれを結びつけている人は少なくて、割と別物として捉えている方も多いのかなと。
有馬:おっしゃる通りですね。
原田:有馬さんは今回、有馬デザイン研究室を立ち上げられましたが、日本デザインセンターといえば、日本を代表するデザインの集団ですよね。
山田:そもそも、設立の経緯も錚々たる日本の企業が後ろ盾となって設立されたという、まさにデザイン界の王道中の王道ですよね。
有馬:自分の会社のことを壇上でこういう風に紹介されるムズムズ感というのが……(笑)。でも、うちを創業した人たちは、相当な覚悟を持っていたんだと思います。銀座の真ん中で、自分たちのオリジナルの社名ではなく、「ここが日本のデザインの中心になる」という強い意志、凄いモチベーションだなと思います。
原田:その会社が有馬デザイン研究室を立ち上げたというのは結構凄いことだなと思っていて。僕自身、有馬さんとは長くお付き合いがあって、これまでの活動も見てきましたが、ある種日本デザインセンターの中で治外法権というか、かなり自由な動き方をされているイメージだったのですが、今回研究室を立ち上げるに至ったということは、会社としてもそこにやる意味を見出したからこそだと思うんです。
有馬:そうだとうれしいですが。研究室というのは具体的には部署のことです。自分の研究ももちろんしていいのですが。
原田:日本デザインセンターには、色部義昭さんや三澤遥さん、大黒大悟さんといった、いまのグラフィックデザイン界をリードする方々がそれぞれ研究室を持っていますよね。代表の原研哉さんをはじめ、そういう方々が研究室を持っている中、今回有馬さんもそこに仲間入りをしたということですよね。これまでの活動が会社に認められていなかったわけではないですが(笑)、好きなことをデザインとして形にして、その価値とニーズを証明したからこそ実現できたのだと思います。
有馬:もちろん僕も、いわゆる企業のVIであるとか、芸術祭であるとか、メーカーのデザインなどを担当していて、それはいまも正直変わっていません。ただ同時にこういう活動をしたいと思ったのは、僕自身がオタクでそういうことをやりたかったからでもあり、時々そういう声掛けをいただくこともあったからですが、会社で取り組む理由は僕の中で割と明らかでした。
例えば、うちの会社は、アサヒビールさんのスーパードライの商品開発に関わっていたりするわけなんですね。80年代のことですが、銀色の缶で価値観を変えていったのは間違いなくあったわけです。それを担当したデザイナーの顔や名前は、もちろん社内の人間なのでわかります。そういうことは今後もしていった方がいいと思うんです。
グラフィックデザイン的なもの、自分たちが信じるものを足りていない領域に投入していくということが、それがお酒の業界でもいいし、IPの世界でもいい。僕はIPの世界にもっとこういうデザインができるんじゃないかと思っています。別に足りていないとは言いませんが、こういうデザインの方向性が実現できたら面白いのではないかということをやるのは、非常にうちの会社的な行為だと思っています。
社是に照らし合わせると、突拍子もないことをしている会社も結構あると思うんです。本人たちにとっては文脈的にもの凄く正しいことをしていると思っているけど、傍から見ると「え、なんで?」と思われるようなことがある。今回の件も、そういう「なんで?」の事例なのかもしれないですね。
山田: ちょうど話題が出たので伺いたいのですが、「アイドルマスター」の時はどんな経緯でお仕事の依頼が来たのですか?
有馬:DMとかですかね(笑)。ゲームを開発しているQualiArtsさんという会社から、以前「IDOLY PRIDE」というアイドルゲームのお仕事をいただいたんです。その時の担当の方がたぶんTwitterのDMで連絡をくださったのだと思います。
山田:つまり、ゲーム内でVIやCIにあたるようなものが必要だと認識して、デザイナーが必要だと先方が判断されたわけですね。

有馬:そこがありがたいところで、そういう人が増えてくれるのはやっぱりうれしいことですよね。その認識を新しくしていくのは結構大変なことで、いらないと思っているお客さんに対して、それが本当は重要だよと伝えるのは凄く大変で。そういう場合、凄く有名な人にお願いするしかなくなっちゃうんですよね。でも、そういうことではない気がしていて、だんだんとこういう選択肢もあるんだと色んな人が思えるようになることが重要だと思っています。だから、そういうDMは非常にありがたいですよね。わかってくれている人から直接声をかけてもらえるというのは。
原田:実はこの有馬デザイン研究室を立ち上げる前から、ポリローグ研究室という前身となる活動をされていましたよね。その中で、今回有馬デザイン研究室を立ち上げたことで、具体的には何が変わるのですか?
有馬: もちろんマネジメントが強くなるとか、色んな人が味方をしてくれるとか、多分そういうことはあると思いますし、Slackが急に賑やかになるみたいなこともあるのですが(笑)、やっぱり大きいのは、まさにこういう話がしやすくなった、対外的なお話ができるようになったことじゃないかと思います。ちゃんと場所をつくった方がいいのかなとか、僕の永久にモラトリアム的な脳みそをもう少し大人にしていかなきゃいけないのかなみたいなことも思ったりします。
多分、上の人たちのメッセージもそこにあるんだと思います。ちゃんと働けている感じというか(笑)。一応会社のファンクションにしていくんだろうと思っています。うちの社長である原研哉からは「僕らじゃできないものをつくれ」という話をされていて、それはまさにいまやっていることだなと思っています。
原田:これから先はどんな活動を予定しているのですか?
有馬:もちろん普段のデザインの仕事もそうなのですが、夢というかやってみたいことがあって。グラフィックデザインやVIは、凄くシンプルなものを機構化したり、動きをつけてシステム化してキャラクターにしていくみたいな話があるじゃないですか。僕は、この世の中が薄味すぎるんじゃないかといまだに思っているところがあって。だからこそ、例えばウェブサービスでそういう提案をしてみたいんですよね。
実際にいくつか具体的に走っている案件もあって、例えばウェブのプロダクトがあって、「デザインのスタイルやVIを考えてください」と依頼された時に、僕はコンセプトアートをアニメーターさんと一緒に描いたりするんです。それはVIマニュアルよりも早く患部に届くみたいなところがある気がしていて。VIマニュアルの16ページ目まで読まないと理解できないということはなく、絵があると即座に届くみたいなことがあると思うんです。
実は、アニメや漫画やゲームをつくっている人たちがもの超複雑な現状理解というか、つまりコンセプトアートがあって、プロットがあって、シナリオがあって、カラースクリプトがあって、もの凄く複雑なものをつくっている人たちのつくり方に、もっと僕らは学んだ方がいいし、もっと味が乗っていていいんじゃないかという気がしているんです。もちろん全部がそうだとは言いません。ただ、文脈がちゃんとあって、架空であってもストーリーがちゃんとあって、それがプロダクトに紐づいていて、色を決める強烈な動機になっている。そういうことにならないかと常に思っています。
これは小塚ゴシックを作られた書体デザイナーの小塚(昌彦)さんに言われたことなんですが、「完全に透明な水は存在しない」と。「ノーマルな書体ってあるんですか?」みたいな議論をした時に、「小塚さんの書体も凄くノーマルですよね?」と言ってしまって、多分地雷を踏んだんですよね(笑)。でも、たしかにそうだなと思うんですよ。いくら透明に近くても完全な透明はなくて、絶対に指向性がある。だったら、その指向性をちゃんと考えてあげた方がいいなというのがいまの僕の態度です。ちゃんと味がするものを現実のレイヤーでもつくれないかと思うんです。例えばそれは企業のサービスでもいいし、ある団体のVIでもいいし、そういったものにちゃんとした味がついていた方がいいと思っています。
それは、通常だと数年かかるVIの構築をもっと短縮できないかとか、もっと早く、もっと確実に、あるいはもっと楽しくつくれないか、ということでもあるんです。コアシステムを決めているグラフィックデザイナーが、完全投入しているような世界はいい加減やばいなと思っています。もっと自律的に立ち上がってくるものがあってもいいと思うし、結果的に「あの絵やストーリーを見ているから、なんとなく全員同じ価値観を共有できている」という状況の方が良いと思うんですよね。
自分の興味とデザインの営みをつなげる
原田:デザインに味がなくなってきているじゃないですか。もしかすると、デザイナーの主体性がどんどん奪われているんじゃないかという気もしていて、いわゆる与件に対して答えるだけのデザインをしているだけでは、味のあるデザインというか、他にはない新しいデザインのニーズは生まれてこないんじゃないかと。
有馬さんの活動は、まさにそこを切り開いてきていると思うんですけど、せっかくなので、有馬さんの本の話ともつなげたいなと。
事前の打ち合わせの中でも、発注される前段階で色んなことをやっているという話があって、その辺と今回の本を出す動機が関わっていると仰っていましたよね。今日の話の中でもとても大事な視点だと思うので、この本をつくった動機や、その背後にある思いをぜひ聞かせていただけますか?
有馬:別に「みんなを啓蒙してやる」とか大それたことを考えていたわけではなくて、編集を担当してくださったグラフィック社の室賀(清徳)さん、もともとデザイン誌『アイデア』の編集長をされていた方なのですが、最初に話していたのは、デザインのティップス本をつくらないかということだったんです。
ティップスとは何かと言ったら、例えばIllustratorのパスをきれいに引ける方法とか、複雑な模様をワンクリックで一瞬でみたいなこともティップスではある。ただ、僕が大学の授業で学生たちと接していて伝えられたらいいなと思っていたのは、自分が好きなものとか興味のある領域を大事にした方が良いということだったんですね。
大学生は凄く忙しいから、自分が得ているときめきみたいなものはとりあえず横に置いて、目の前の先生が喜びそうなものを正当化して課題に答えて、卒業まで持っていく。そういう賢いけど少し不幸な学生をよく見てきたんです。テクニックは凄く豊かで、PhotoshopもAfter EffectsもUnityも使える。ソフトウェアのスキルは凄く上がっていて、大学3、4年生になると本当に優秀なんですが、何に気をつけてデザインするとデザイナーになれるのか、どんな課題にどう答えるのか、何に興味を持つのかという話はなかなかできていないなと思っていて。
だから今回の本では、15人のデザイナーが普段何を気にして、何を考えているからこういうアウトプットになるのか、何を面白いと思っているのか、自分は何を目指しているのかということを感じてもらいたかったんです。「自分もそういうことを考えていいんだ」と思ってもらいたくて15人に話を聞いて、自分でもコラムを書きました。
社会が要請していて、こうすれば自動的にデザイナーになれるといったモデルなんて存在しないということを学生たちに伝えたかったんですよね。自分がつくる意義や好きであること、興味を持つことを大事にして、それをデザインという営みに結びつけていってほしいという願いから、色んな人にお話を聞いてみたという本です。
有馬:例えば、同じ会社の同僚で話を聞きやすかった三澤遥は、国立科学博物館の展示システムを手がけたり、最近では飛騨産業と一緒に「HIHI」と「DADA」という椅子をデザインしたりしています。実は僕の同期入社なんですよ。年は少し違いますが、ほとんど同期です。
あるいは、もともとBasculeにいた北千住デザインさんですね。ARのアプリや楽しいものをたくさん出されていて、『HUMANITY』というゲームの体験版を六本木ヒルズの前で展示したりしているインタラクティブ畑のAR極まっている人で、App Storeで特集もされていましたね。昔のFlashの話などもしています。
ウェブデザイナーの木戸(馨一)さんともよくお付き合いがあります。彼はにじさんじのキャンペーンサイトなど、膨大な数のアニメ関連サイトをつくっていて、一時期は日本のアニメサイトの2~3割を彼が手がけていたんじゃないかというほど信じられない仕事量を誇っていた人です。木戸さんは不屈のサービス精神、奉仕の心を持っていて、それが一体どこから来ているのか。IPならではの細かい文脈も全部読んでいて、そのセンサーはどこから来ているのかという話も聞きました。
そして、『融けるデザイン』を書いた渡邊恵太さんですね。これは10年前に出た名著ですが、ユーザーインターフェース研究者であり、2025年のコンピューティングの姿をかなり的確に予測していた明大の教授です。彼は学生時代からユニークな研究をしていて、例えばひとつカーソルを動かすと眼の前に25個のカーソルが分離して現れて、どれが自分のカーソルかわからなくなる。でも、動かしていると数秒後には直感的に自分のカーソルを把握できるんですよ。そういう人間の認知の面白さと、Flashの楽しさのあわいをやっていた人で、実は結構やんちゃボーイだったんですよ。その彼がなぜいまは研究者として学生を率いて学びの領域を広げているのかを聞いてみたかったんですよね。「なぜデザイナーにならなかったのか?」みたいな話です(笑)。だから、普通のインタビュー本とは少し違う味が出ているんじゃないかと思っています。
原田:これはぜひ読みたいですね。
山田:そうですね。 多分、有馬さんの中では自然に出てきたメンバーなんだと思うのですが、編集者の視点から見ると「なるほど、ここから来るのか」という部分と「そうきたか」という意外な組み合わせもあって、不思議なラインナップに感じます。
有馬:もう完全に思いついた順に近い感じで出てきたメンバーですね(笑)。
原田:僕ら「デザインの手前」的にも凄く共感できるところがあります。領域を超えて、それこそ「デザインの入口と出口」と仰っていますが、そこを聞いていくことで相対的に浮かび上がってくるものが有馬さんの中でもあったんだろうなという気がしています。
有馬:そうですね。色んな領域の人がいるからこそ、例えばイラストレーターの米山舞さんが、カメラの画角について語ってくれるパートがあります。米山さんはフォロワー百何十万人を誇る著名なアニメーターでありイラストレーターで、もちろん絵はメチャクチャ上手いのですが、画角のコントロールが凄くお上手なんです。アニメーターとしては「構図としてつくっているのか」「先にカメラを意識しているのか」どちらなのかと尋ねたら、「先にカメラを意識している」と答えてくれたんです。「これはどこにも書かれていないぞ」といった凄く良い話が載っていたりするわけですよ。そして、これは実は凄くデザイン的な話なんじゃないかと思っていて。どれも割とみんなが読んで同意できる話に落ちていると思います。
原田:ちょっと後半につながる話をすると、そういった「デザインの入口と出口」、あるいは「手前」と言い換えてしまってもいいのかもしれないですが、そこをちゃんと見て考えていかないと、実はデザイナーではない人にデザインの仕事を奪われるということも実際に起こると思っています。
それこそ後半に話そうと思っているAIツールの話もそうですが、こういったものを使えるようになると、デザインのスキル以上に、それこそデザインの「手前」の話として、何に興味を持つのかというところがより問われてくると思います。 そうなってくると、最適化をしていくだけのデザイナーは本当に大丈夫なのかという話になってくるような気もしています。
ということで、前半は一度ここで締めさせていただき、後半はDentsu Lab Tokyoの土屋泰洋さんにも加わっていただき、AIツールの話をしていきたいと思います。 後半も引き続きよろしくお願いします。
有馬:よろしくお願いします。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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