多くのデザインイベントで作品を発表
原田:今月は「デザインの手前」2周年記念の特別月間として、グラフィック、プロダクト、建築、映像、広告など、さまざまなデザイン領域から新世代のクリエイター4名に週替わりでご登場いただきます。今週のゲストは、インテリアやプロダクトのデザインを中心に手がけている竹下早紀さんです。竹下さん、よろしくお願いします。
竹下:よろしくお願いします。
山田:よろしくお願いします。
原田:竹下さんは、「デザインの手前」が公開収録を行った一昨年や昨年の「DESIGNTIDE TOKYO」でも作品を出されていたり、山田さんが企画に関わっていた東京ミッドタウンの「DESIGN LIVE」にも作品を出されるなど、色々なデザインイベントで作品を目にする機会が多い方ですね。
山田:そうですね。ただ、どう括っていいか分からない人でもあって(笑)、今日はそのあたりを解き明かせればと思いますが、解き明かされないまま終わる気もします(笑)。
原田:先日、日本デザインセンターの三澤遥さんにご出演いただきましたが、竹下さんは三澤さんの研究室にいらっしゃったんですよね。
竹下:はい、数年働いていました。
原田:「デザインの手前」との繋がりでいえば、以前ご出演いただいたバイヤーの山田遊さんの回で、最後に太田琢人さんというクリエイターに出ていただきましたが、その太田さんと一緒にお化け屋敷をつくられていましたよね。
竹下:はい、お化け屋敷つくりました(笑)。
原田:なかなかユニークな活動を色々されている方だなと。
山田:そうですね。武蔵野美術大学の16号館にいらっしゃるんですよね。
竹下:はい、そうです。
原田:助手をされているんですよね。
竹下:はい、3月末までが任期になっています。
原田:その後は独立して活動されるということですよね。
竹下:そうですね。
原田:今回は、それぞれの領域でデザインのあり方を更新しようとしている方々にお声がけしているのですが、テーマとして「新しいつくり方」にフォーカスしたいと考えています。プロセスそのものからデザインを考えるという話は、番組でもよくしてきています。課題が複雑化する中で、既存の手法では解決しきれなくなっていたり、AIなどのテクノロジーが発展してくる中で、同じツールでデザインをしているとアウトプットが均質化してしまうところがあると思っています。その中で、他にはないものをつくったり、課題を解決するためには、つくり方に立ち返ることが大事だと考えています。竹下さんにもそのあたりを意識しながらお話を聞いていきたいと思っていますが、まずは竹下さんのプロフィールをご紹介します。
竹下早紀さんは、1996年福岡県生まれのデザイナーです。2019年に武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科を卒業後、日本デザインセンター三澤デザイン研究室を経て独立されました。ギターのエフェクターからインテリア、プロダクトまで幅広くデザインし、国内外で作品の制作・発表を行っています。主な受賞歴には、TOKYO MIDTOWN AWARD 2018優秀賞、2019年武蔵野美術大学卒業制作優秀賞、DESIGNART TOKYO 2024 Under 30選出などがあります。では竹下さん、よろしくお願いします。
竹下:よろしくお願いします。

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デザインの手前にあるモノとのやり取り
原田:今回の企画では「新しいつくり方」を主軸に考えていますが、竹下さんはそこになかなかハマりにくい方だということが正直ありました(笑)。ただ、そこに繋げるならば、「機能」や「コンセプト」から始まらないデザインのプロセスやつくり方について伺うのが面白いのではないかと思っています。
竹下さんは、素材とのやり取りから生まれる発見や、ご自身の驚き、あるいはスーパーボールのシャンデリアの作品のように、子どもの頃の記憶から発想される、内面的なところから始まるものづくりというのが特徴だと思っています。それ自体はそれほど新しいことではないかもしれませんが、AIが発展していく中で、内発的な動機でものをつくることの重要性はますます高まっている気がしているので、今日はその辺を深掘りしていきたいと思っています。
竹下さんがものづくりをされる際には、どういうところから始まることが多いのでしょうか。最初から明確につくりたいものがあるのでしょうか?
竹下:つくりたいものがない状態から始まることが多いですね。ものづくりのハードルは凄く低くて、「ものづくり」と言えないようなことをしている時間が大半です。その延長線上に展示などの機会があり、そこで初めて形になっていくような感じですね。
山田:具体的にはどんなことをやってるんですか?
竹下:幼稚園の頃と変わらない感覚で、拾ってきたものだったり、たとえばスーパーボールを100個くらい大人買いして、それを光らせてみたら凄く綺麗だったり。モノとモノを組み合わせたり、くっつけたり、何にもならないようなものをずっといじっていることが多いですね。
山田:その中から結構偶然発見するようなことが多いのですか?
竹下:そうですね。ただ、作品にしないといけない段階、プロセスが進んだ時に発見することも多いです。逆にまだモノになっていない時には、あまり発見はないかもしれません。
原田:発表の場や期限が決まってから、ようやく発見があると。
竹下:そうですね。作品の大まかな佇まいや持っていきたい雰囲気、存在感をどうつくっていくのかというところが自分が最初に把握したい部分で、それを決めてから形になっていくことが多いですね。
原田:それまでは「デザイン」や「設計」をしているという意識はなく、まさにその「手前」にいる感じなのですか?
竹下:そうですね。なかなか設計作業というものが始まらなくて、大枠を掴んだ先にやっと具体的な寸法が出てきたり、ちゃんとした設計作業に移ります。
原田:ある種モノと戯れるというか、モノに触るということを、発表の機会がない時も日常的に色々やっているのですか?
竹下:そうですね。スーパーボールの作品なども、発表する前から一旦何かしらの形にはしていました。興味のあるところから、自分の見たい景色をまず一旦立体物にしてみるというところまでは普段からやっています。
原田:アウトプットのタイミングや場所が決まってからそんなに上手く「発見」ができるものなのですか?
竹下:そうですね。「場所」から考えることも結構多くて、東京ミッドタウンであれば、家族連れや子どもたちが多く訪れるだろうなとか、天井が高い空間だなといった条件から、そこにどんな人が来てどう見られるかというところから、最終的な大きさや形が決まっていくことがあります。
山田: 竹下さんのプロダクトに対しては、一般の方々も「これ何だろう?」「どうなっているの?」と、普通の感覚で反応されている印象があります。デザインのイベントでは、デザインに詳しい人がほとんどなので、意外とそういうピュアな話にならないんですよね。
竹下:そうですね。子どもが正座してスーパーボールをもぎ取ろうとしていたり(笑)。そういう素直で可愛い反応を見ると嬉しいですね。
デザインにおける「コンセプト」や「機能」
原田:デザインにおけるコンセプトや機能については、どのくらい意識されていますか。どの段階でそれらを考えることになるのでしょうか?
竹下:機能やコンセプトももちろん重要だと思っていて、そこから何かモノをつくり出すことももちろんあります。ただ、「Eeyo」をつくっていた時に、タイトルにもそれが現れているのですが、ものづくりが少しシリアス過ぎるんじゃないかと、個人的に息苦しさを感じていました。
原田:それは世の中的なものづくりのあり方がですか?
竹下:その時の自分の状況もあったと思いますが、そういうことを感じていた時に、「Eeyo」という作品で木材を染色して200度くらいの熱風をかけると色が変わる現象を偶然発見ししたんです。そのマテリアル研究を前面に押し出しても良かったのですが、それだとデザインの理論やプロセスというもので作品が人に届いてしまう気がしたんです。それよりも、コンセプトを知る前にパッと見た瞬間の「色が鮮やかだな」「何だこれ?」という第六感的なところから入ってもらえることを大事にしたかったんです。つくったモノがそれくらいの魅力を持っているべきだと思っているので、機能やコンセプトに負けないモノをつくりたいんです。そう思いつつ、プロセスには絶対に機能やコンセプトというものも入ってくるので、最終的にそれをどう伝えるのか、あるいは隠すのかということを考えているという感じですね。
原田:デザインにおいて、機能やコンセプトが前に出すぎているという話や、ものづくり自体に重さや息苦しさを感じる理由というのは、どういうところにあるのでしょうか?
竹下:根底に「デザインは自由で楽しいものだ」というシンプルな思いがあるのですが、世の中にはそうではない解釈のモノがたくさん溢れていて、その時に自分が何をつくるのかということを一旦構えてしまったんです。でも、もともと私はデザイナーである前に、ものづくりや図工がただ好きだった人なので、その純粋な動機や衝動でつくってもいいんじゃないかなと思ったんです。
山田:数学のテストで方程式を書かなければ点数がつかないように、デザインの世界でもリサーチとデベロップメントをどういう風にやったのかということが重視されていますよね。方程式が明確に見えている方が「良いデザイン」とされる傾向が強いのかなと。
竹下さんの「Eeyo」を東京ミッドタウンで初めて見た時、綺麗で可愛いと素直に感じました。色や柄がまるでファッションショーのコレクションを見ているような感覚がありました。布を板で挟んで染める「板締め」という染色の技法があって、ISSEY MIYAKEやMame Kurogouchiなどが採用しているのですが、その手法だとこれに近い柄はできるんですね。でも、素材が木なのでそれができるわけでもないし、一体どうやってつくっているのだろうと。モノとしての魅力が先行し、後からよく考えてみると「これはどうなっているんだろう?」という不思議さにいざなわれて、この人は一体何を考えているんだろうと(笑)。そういうところが凄く魅力的だと思ったんですよね。
原田:デザインのことに興味がある人、知っている人ほどオリジナルの素材開発というところに目が行きがちだと思いますが、竹下さんの作品は、それよりも形や色というところで、そんなにデザインに詳しくない人でも純粋に「綺麗だな」「良いな」と思える力があります。多くのデザイナーがプロセスを見せるというところを重視している流れがあると思いますが、竹下さんの場合は、「コンセプトに負けない」という話もあったように、それよりもやはり色や形というところを大事にされていますよね。
竹下:「Eeyo」の椅子を12脚展示した時も、それぞれに私なりのコンセプトや機能はありました。「Eeyo」は木材ですが、針葉樹や合板など色んな材料に染色ができるんですね。それぞれ素材や色を変えて、どういう模様をつけていてということが一つずつあります。それを知りたい人がいれば、もちろんハンドアウトを見たり話を聞いてもらえればわかるようになっているのですが、その前に色彩や椅子の形から入ってもらいたいと考え、あえてそのような展示にしていました。
山田:一方で「MITOMA」は、非常にテクニカルな作品ですよね。
竹下:最初の着想源は、Illustratorの画面を拡大した時に見えるピクセルが、棚板に見えたことでした。「MITOMA」は、パネルの角と角がくっついて成り立っているように見える不思議な棚ですが、強度を保つために間に1ミリの鉄板を入れています。それで「三笘の1ミリ」から「MITOMA」という名前をつけました。
山田:棚板が微妙にズレている棚ですよね。絵で描くことはできるけど、物質としてそんなことできるわけないよなと思ってよく見ると、それを支えている薄い存在があるという。もともとその考え方があって、三笘(薫)選手のあのシーンがあったということですか?
竹下:逆ですね。順番的には、三笘さんが先にいらっしゃって。
原田:それはそうですよね(笑)。
山田:いや、コンセプトはもっと前から考えてたのかなと。
竹下:コンセプトは結構以前からありました。ホームセンターに行ってどうやったら成り立つのかを色々考えて、最初はなかなか成り立たなくて、つくっていくうちにこういう形になりました。MITOMAをつくっていて面白かったのは、棚板がズレることによってモノを置くスペースが生まれて、くぼんだところに色鉛筆なんかを置けたり「器」としての要素が加わったり、新しい棚をつくりたいと思ったら新しい機能もついてきて、「二度美味しい」みたいな発見があって凄く楽しかったです。
山田:制作を進める中で付与されていく機能もあるのですね。
竹下:そうですね。
真剣にふざけて新しいものをつくる
原田:「MITOMA」もそうですが、竹下さんのプロダクトは空間の中での存在感が独特で、浮遊感のようなものがありますよね。モノとして存在しているのに、どこか希薄で不思議な存在感がある。そこが面白いと思うのですが、そうしたものをつくった結果、新しく機能が生まれたという話もありましたが、制作当初は何を目指しているのでしょうか。
竹下:ワクワクする好奇心から新しくて見たことがないものをつくりたいという思いがあって、それが重力に逆らうようなことや、魔法のように「普通できないじゃん」ということを変えていきたいというか、それを素材と戦ってどうにか実現させ、驚かせたいという気持ちがあります。
山田:子どもの頃から人を驚かせたり、感情を動かしたりすることが好きだったのですか。
竹下:そうですね。小さい頃からおふざけが大好きだから、いまもこういうものをつくっていると思うんですよね。私の兄も本当にふざけた人ですし(笑)、職場の山中(一宏)先生や太田(琢人)さんにしても、私の周りにはふざけている大人がずっといて、それが当たり前だったのかもしれないですね。
山田:真剣にふざけて、本気で怖がらせるお化け屋敷をつくったりするということなんですかね。
竹下:そうですね。内容はめちゃくちゃ真剣に考えますが、その過程は全部おふざけですからね。どうしたら怖いかなと(笑)。
山田:「GO GO FLOWER!!」はどうやって生まれたのですか?
竹下:大学3年生の課題で「FOR SALE」というものがあって、花器をつくって販売するというもので、それに私も便乗してつくりました。お花が人間の顔みたいだなと思ったところが始まりで、一つひとつ色や形に個性がある花たちが、人と同じように走ったら面白いんじゃないかと。花器は本来静かにそこに置かれていてお花を楽しむものだけど、一緒に楽しめたら面白いと思い、深夜にふざけてつくったら学生が凄く楽しんでくれて、「これでいいんだ」と。
山田:ミニ四駆みたいな感じなんですかね(笑)。
竹下:そうですね(笑)。中に入ってるのは四駆のラジコンなので。
山田:子どもから大人まで思わずクスッとしてしまうようなユーモアが竹下さんの作品にはありますが、それが「自分らしさ」みたいな感じなのですか?
竹下:毎回素材やプロセスを意図的に変えている分、自分でも「自分らしさ」がよく分かっていません。ただ、根底にはおふざけや楽しさだったり、新しいものをつくりたいというものが共通してあって、それが自分らしさなのかもしれません。
原田:「他にはないものをつくりたい」「自分にしかつくれないものを生み出したい」という意識はどのくらいあるのですか?
竹下:「自分だったらどうするか」ということは凄く考えますね。クライアントワークだとしても、自分だったらどうなるか、どうしたいか、どうなったら楽しいかを考えて、楽しい方に持っていく感じですね。
原田:コンセプトや機能から入らないデザインで、かつ他の人にはないものをつくるとなると、自分の内面と向き合っていかないとオリジナリティが見出されにくい気もします。自分がいま何に楽しさを感じ、何に違和感を覚えるのか、そういった自分自身との向き合いということは結構意識されていますか?
竹下:率直に自分の気持ちがどう動くかが一番大きくてわかりやすいので、素直にそれに反応しているところが大きいですが、日々色々なものを見て、好きな色合いや素材など、たわいもないことを保存しておいて、それを見返したりはします。
山田:デザイナーがたくさんいる中で、空いている枠に自分を無理やり持っていくというやり方もあると思いますが、結局は自分の内側から出てくるものでなければ続かないんじゃないかと思っています。デザインを続けていくということは、自分の内側と語り合うことだと思いますが、竹下さんの場合、幼少期から蓄積された膨大なストックがあり、それらがなかなか枯渇しないというか、ふとした瞬間に結びついて作品になるという感じなのでしょうか。
竹下:逆に狙ってできる人は本当に羨ましくて。私は私なりのやり方しかできないのですが、確かにそれがなくなる感じはないなと思っています。
山田:あまりゴールを定めて計画してというつくり方ではないのですか?
竹下:それができなくて。こういう人になりたいというものもあまり明確にないので、「どう行ったらいいんだろう」みたいな迷いだったり、「これでいいのかな」「いまこんな感じでやっていて大丈夫かな」という不安は全然ありますね。
山田:クライアントワークでは、どういうところから面白さを見つけてくるのですか?
竹下:自分は立体系が好きなので、そちらに持っていったり、自分が使ってみたい素材や好きな色を持ってくるということもあります。それがクライアントさんにとっても新しい試みになって、いいねとなる時はうれしいですね。あまりやったことないけど挑戦してみましょうと言ってくれることが多くて、それを一緒に楽しんで取り組むような感じですね。
山田:受け手側の方も、竹下さん的なデザインのアプローチとか感情の動き方みたいなことを求めている傾向があるのかなと。竹下さんのユーモアや可愛らしさ、直感的に魅力的だという思わせてくれる目の喜びのようなものが、クライアントに届いているのかなと。
今後そういったプロダクトなどを企業と組んで進めていたり、あるいはやってみたいというものはありますか?
竹下:私は基本断らず一緒にやるというスタンスなので、どんなメーカーさんとでもやりたいなと思っています。
山田:来たものに対して面白さを見出していくという。
竹下:そうですね。
山田:斜に構えることなく、素直に「これ面白いかも」と発見していくプロセスが重要だと。
竹下:重要ですね。分野を問わずやってみることが多いですし、いまもいくつかプロダクトの開発を進めています。
原田:そうしたプロジェクトでも、冒頭でお話しいただいたデザインを始める前の「手遊び」のようなプロセスを共有されることはありますか。
竹下:形式的に提案資料をつくってプレゼンをするのですが、結局は決め打ちでいけることがないんです(笑)。結局やってきた「手遊び」をゴチャっと持ってきて、「これはこうだったんです」というご相談になることが多いので、いっそ最初からそういうやり方にしてしまった方がいいのかなと。
原田:そうですよね。手遊びの段階から一緒に並走してくれるような優しいクライアントさんがいたら、それが一番良さそうな感じがしますよね。
ディテールに対するこだわり
山田:三澤デザイン研究室にいらした頃は、国立科学博物館の「WHO ARE WE」の会場構成にスタッフとして携わられていたんですよね。
竹下:はい。メインでやっていたのが「WHO ARE WE」で、展示構成だけではなく、哺乳類に関する本を読み込むところからチームでやりました。
山田:会場を訪れた方はご存知だと思いますが、合板という比較的手頃な材を使いながら、驚異的な精度で什器がつくられていました。「MITOMA」もつい名前につられて笑ってしまいがちですが、実はとんでもないことをやっていて、ディテールには凄く詰めないとつくれないものづくりをされていますよね。アイデアからディテールの詰めまで持っていく時というのは、視点がガラッと変わるなと思うのですが。
竹下:シンプルなアイデアのものほど、最後の詰めが難しくなりがちです。「MITOMA」も角がピシッと合った棚をつくりたいという一心で、自分でパテ埋めをしてヤスリをかけるまで全部自分でやっていて、3日間ほどかけてようやく見せられるくらいまでの角になりました。ディテールを詰めないと「MITOMA」という作品自体が成立しないので、やるしかないという感じでしたね。
山田:先ほど「魔法」とおっしゃいましたが、倉俣史朗のようなマジカルなデザイン、まるで魔法がかかったようなデザインというのはいくつか文脈があると思うんですね。倉俣さんなんかが浮遊感を凄く大事にされていたように、それらは割とすぐに「ワッ」と感じられるものが多い中、「MITOMA」はちょっとした違和感はあるものの、一瞬でそれがおかしいと気づかないというか。ちょっとしたズレが鈍感な人には察知できず、何が凄いのかわからないんじゃないかなという気がして、そこも面白いなと思っています。
竹下:そこで驚いてほしいというのは思っていないんです。まずは棚として、何かを置くものとして伝わっていれば良くて、そこから「どうなっているの?」と興味を持ってくださる方がいればうれしいなという感覚です。
山田:良し悪しの問題ではないですが、倉俣さんとはスタート地点も目指す場所も全然違っていて面白いなと思っています。何か明確な目的に対してものをつくるのではなく、もっとシンプルで、竹下さんの中にある個人的な動機が一般的なデザインに落とされていくのが特徴なのかなと思っています。
原田:先ほどのお化け屋敷はいわば「体験」をつくることだと思うのですが、それと「モノ」をつくることの間に、竹下さんの中で境はあるのですか?
竹下:お化け屋敷は特殊ですからね。体験は体験なのですが、真っ暗にして光をまったくつけずにモノが見えない状態にしたので、いつもとやっていることが真逆でした。普段は形や色をつける作業をしているのですが、お化け屋敷はまったく逆で何も見えない状況でどう怖がらせるかという体験をつくったので、楽しかったのですが、ただお化け屋敷に関しては…。
原田:特殊すぎると(笑)。
竹下:特殊ですね。
原田:そういう意味でも基本的にはモノをつくり続けたい、という思いが強いのでしょうか。
竹下:そうですね。やはりインテリアやモノが好きなんだと思います。実は以前、体験系の会社にいたこともあるのですが、そこは5ヶ月で辞めてしまったので、やはりそういうことなのかなと(笑)。
原田:いまこの時代に本当に新しいモノをつくる必要があるのかという議論もありますが、ご自身のモノをつくりたいという欲求との間で葛藤をすることはありますか?
竹下:そうですね。「これつくらない方がいいんじゃない?」と言われて、つくらないわけにもいかないじゃないですか。そっちの衝動が勝ってしまうのですが、モノが溢れている時代だからこそ、モノの存在感や持っている力、そのモノがどうなくなっていくのか、それがなかったらどういう状況が残るのかということを考えることはあります。
原田:便利な機能だけを追求するなら、すでに世の中には代替品が溢れています。だからこそ、機能を超えたモノの存在が人にどう作用し、どうコミュニケーションを促すのか。そこにこそ、いま新しくモノをつくる意義があるのかもしれないですね。
竹下:そうですね。
つくる行為の「手前」にある純粋な衝動
原田:最後に、2周年企画共通の質問をさせてください。竹下さんにとって、「つくる」という行為の「手前」にある最も純粋な衝動とは何でしょうか?
竹下:これまでにもう話してしまっている気もしますが(笑)、自分が「つくりたい」という欲求と、それを形にして見てみたいという「好奇心」や「ワクワク」ですかね。
原田:それは今後も枯渇することはなさそうですか?
竹下:いまのところなさそうですね。
山田:いきなり飽きる可能性はなさそうですか?
竹下:全然違う道に行ってもいいと思っているので気楽なのですが、急にやらなくなることも全然ありえますね(笑)。
原田:竹下さんは今年3月で武蔵野美術大学の助手を卒業されると伺っていますが、その辺りも含めて、最後に今後のデザイナーとしての展望を聞かせていただけますか?
竹下:助手を終えてつくる環境が変わってしまうのは不安ですが、これからもたくさん作品をつくって、異なる分野の方たちとお仕事をしてみたいと思っています。
原田:ありがとうございます。今後のお知らせや告知はありますか?
竹下:展示は5月に大阪の北加賀屋、11月には渋谷の(PLACE)by methodで個展をします。プロダクトに関しては、静岡の革メーカーである日本スエーデンと制作したスツールの販売が始まるのと、9月頃にはもうひとつ新作が出る予定です。
原田:かなり忙しそうですね。どれも新作を出す形になりますか?
竹下:はい。基本は新作をつくって発表するスタンスです。
原田:楽しみに待ちたいと思います。
山田:ミラノとかは出さないのですか?
竹下:以前にグループ展などで2回くらい出したことがあるのですが、どうしてもお金がかかるじゃないですか。私の作品は大きくて重いものが多いので迷っています。メーカーさんと出すことはあるかもしれませんが。
山田:最近イ・カンホさんと話していたのですが、「最近はみんな日本に来るから、無理にこちらから持って行かなくてもいいんじゃないか」と。
竹下:そこにかけるお金があるなら、何か新しくつくった方がいいんじゃないかなと。
山田:そうですよね。もっと近ければいいですけどね。
竹下:そうですね。
山田:「GO GO FLOWER!!」は外国人が凄く好きそうですよね。
竹下:ミラノで走らせたこともあるのですが、超ウケてましたね。大爆笑みたいな感じで(笑)。
山田:大爆笑しそうですよね(笑)。
竹下:11月くらいに販売予定で一応動いているので、買えるようになるかもしれないです。
山田:結構いろんな色が出るのですか?
竹下:どうですかね。最初は一色ぐらいからですかね(笑)。
山田:楽しみにしています。
原田:今日は、『デザインの手前』2周年記念月間として、さまざまな領域のこれからを担うデザイナーの方々に出ていただくシリーズのゲストとして、竹下早紀さんをお招きしました。機能やコンセプトを起点とせず、個人的な記憶や発見からつくっていく竹下さんのデザインについてお話を伺ってきました。竹下さん、今日はありがとうございました。
竹下:ありがとうございました。
山田:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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