「縦」を掘り下げ、「横」にハミ出る地域のデザイナー | 新山直広さん〈2/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。福井県鯖江市に拠点を置くTSUGIの代表、新山直広さんを迎える2回目のエピソードでは、全方位的に広がっている地域のデザイナーの活動について伺いました。
地域におけるデザインの進め方
原田:前回は新山さんが鯖江に移住をされて、デザイン事務所としてのTSUGIを立ち上げるまでの活動について聴いてきましたが、今日は地域においてデザイナーがどんな活動をしているのかというところを色々聴いていきたいと思っています。
地方というのは、都市に比べると職種的な多様性が乏しかったりするような状況から、結果的にデザイン以外のことも色々やらざるを得ない環境があるという話をよく聞きます。それ自体が良い状況かどうかということは一度置いておいて、職能が専門分化する前の仕事との向き合い方というところに、これからのデザイナーにとって色々なヒントが隠されているんじゃないかと。地域で新山さんが活動を始めた頃といまではまただいぶ変わってきているとは思うのですが、地域においてデザインの仕事が生まれるまでにはどんな流れがあるのでしょうか?
新山:うーん、どういうふうに仕事来ているんだろう? 電話とか、いきなり事務所に来られて、「デザインやってますか?」みたいな感じもありますね。デザイン事務所っていきなり「こんにちは」と入りにくいじゃないですか。うちはお店があるので敷居はちょっと低くて、店員さんに「デザインをお願いできると聞いたんですけど」みたいな相談は結構あって、それはちょっと都市と違うところかなと。あとは割と普通にデザインをしてもらえるところを探していて、うちのホームページを見て良いなと思ってメールをしてくれることももちろんあります。
原田:デザインの仕事が始まってから完了するまでの流れというか、地域ならではの仕事の進め方や関わり方というのは何かあったりするのですか?
新山:2パターンあって、ひとつはわかりやすく「チラシつくってください」みたいな感じですね。でも、話を聞いてみると「チラシじゃない方が良いかも」と思うことも結構多くて。「なぜチラシなんですか?」「何が目的ですか?」というのはかなりヒアリングをしていて、チラシじゃないと思ったらそう言いますね。というのも、地域でデザインをしている中で、基本的に一回も失敗してはいけないとずっと思っているんです。人生で初めてデザイナーに頼んだけどヒドかったとは絶対思ってほしくないですし、噂というのはすぐに広まるので「あいつらはダメだった」と一瞬で仕事なんてなくなってしまうので、成功させるための確率を極力上げないといけないと思っています。
もう一つのパターンは、「なんかわからんけど相談していい?」みたいな、それこそデザインの「手前」の身の上話みたいな感じですね。一番多いのは、一念発起して2代目を継ぐことにしたけど、どうしていいかわからないとか、「父ちゃんはこう言っているけどなんか違う気がすんねんけどどう思う?」みたいな、本当に根っこのところから話をさせてもらえるパターンですね。
その中で自分が頑張っているのは、ひたすら話を聴いて「本質はどこにあんねん?」みたいなことを一生懸命考えるということをしていて。例えば、その会社の強みとか他と違うところは何だろう? とか、生産キャパがどのくらいで、どういう商流になっていて、みたいなことを結構聴いていて。独自でシートをつくって埋めたりしていて、その辺は建築で言うサーベイみたいな感じにかなり近いなと思っています。そういうリサーチをして、なんとなくこういう方向性だとなってからは、商品施策と呼んでいるんですけど、5W1Hみたいな感じでどんな商品を、どういう人をターゲットに、どういう商流で、いくらでどうやって売んねん、みたいなことを考えて。そこからコンセプトやネーミング、キャッチコピー、ステートメントみたいな言語化をして。そこまでやってからやっとロゴやパッケージをつくって、発表する手段や売り方をどうするかということをずっと考えていくという流れですね。
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山田:ちなみに、ご依頼に来られる方々はどんな層が多いのですか?
新山:本当に多種多様ですね。行政もあれば、ものづくり系もあれば、福井県内の上場企業から、福祉施設を一人でやっているような方まで本当になんでもありですね。年齢層は、さっき話した2代目、3代目の人たちがボリュームゾーンとしてはありますが、中小企業が多いから社長自ら相談に来るようなことも多いです。
山田:クライアントやメーカーさんの中にも一緒に仕事をしているとだんだんとクリエイティブな意識が芽生えてくるじゃないですか。そこからより面白いものがつくれるようになっていったり、彼らの方からも新山さんが驚くような発言や提案みたいなことも出てくるのかなと想像します。
新山:やっぱりそれはメチャクチャありますよ。ものをつくっている人たちなので、そもそもクリエーションというものをフィジカルに感じているから、デザイナーと一緒にやって腹落ちした時に化ける感じというのはあります。はじめはTSUGIにお願いしていたけど、デザインというものを携えてゴリゴリやる人が増えていくのはメチャクチャ面白いし、何だったらそのために仕事をしているなと思います。人の意識の変化みたいなところに凄く興味があって、熱量とか意識とか、そういうところに何かが宿っている気がするんです。アミニズムと言うのかはわからないですが、地域においてはそこが実は超重要だと思っているんですよ。感情に火をつけるというところは凄く意識しているつもりです。自分もそれに引っ張られて熱量が高くなるようなこともあって、そういうクリエーションが大好きですね。
デザイナーは街のカウンセラー
原田:ロゴやグラフィックのデザインをする「手前」のことを考えるというお話がありましたが、新山さんはご自身が提唱されている「インタウンデザイナー」のことを、「広義のデザイン視点を持って、その土地の資源を活かした最適な事業を行うことで、地域をあるべき姿に導く」と定義しています。冒頭にある「広義のデザイン視点」というのが、いまお話しいただいたような実際に形をつくる「手前」のデザインとうことになるのですか?
新山:そういう部分もあるし、「サービスを一緒に考えよう」とか「流通のあり方を考えよう」みたいな、デザインをしないようなこともあります。もうモノの形はある程度出来上がってるから、売り方を変えませんかという話をすることもあります。これはお店をやっていることが結構大きかったりしますね。お店をやっていることは凄くデザインだと自分では思っていて、そういうところも含めて広義のデザインだと自分の中では解釈しています。
昔はデザインのことを設計・計画とか、それこそ「designare」(=デザインの語源)のことを思っていたのですが、最近はもうちょっと俯瞰して、より良くなるためのものととらえています。例えば、暮らしなのか社会なのか、そういう部分がより良くなるための手段としてデザインというものが効くみたいな感覚なんですよね。デザイン的な思考で、ビジネスや地域、自治体も含めてそこがどう良くなっていくのかみたいなことを一生懸命考えるような感じです。
山田:必要があればチラシをつくるし、チラシが必要なければ別の伝え方を考えていきましょうと。カウンセラーじゃないですが、便宜上デザイナーとみんな言ってるけども、本当にもうちょっと曖昧な仕事というか、曖昧なんだけど凄く社会に必要とされてる仕事なのかなと。
新山:カウンセラーは近いかもしれないですね。カウンセラーとか町医者みたいな感じかなと思っていて、本人は「足が痛い」と言っているけど、本当は心臓の病気かもしれない、とか。最近本当にそうやなと思ったのですが、一緒に「LIVE DESIGN School」をやっている奈良の坂本大祐さんと一緒に、一昨年のグッドデザイン賞の大賞を取った「チロル堂」というところに行ったのですが、いかにかっこ良くしないかを意識したと言っていて。坂本さんと話していて本当にそうだなと思ったのは、「『美しさ』は時に人を遠ざけてしまう。お医者さんじゃないけど、薬の用量をちゃんと守るとか塩梅が大事で、2錠出すのと3錠出すのでは全然違う」と。自分もデザインが好きだから、凄くかっこ良いデザインをしたいという気持ちがないわけではないんだけど、どちらかというとちゃんと用量を守って、この人ならこのくらいにしておくのがベストだと感じていますね。
山田:新山さんがやられてることは、コミュニケーション設計じゃないですか。時代の変化やインターネットの拡大などの中で、色んな産地の方々がどうやって消費者と繋がっていいかわからなかったり、先ほどのお話の中にもあったように、自分でゴリゴリ道を拓ける人は良いけれど、やっぱり拓けない人もいる中で、そのサポートをデザインというものがお手伝いする。デザイン的に物事をロジカルに積み重ねて考えていくと、どうやって人に届くかというところもちゃんと考えることができて、そこに並走することで地域の信頼を勝ち得てきているのかなと。社会との接点をどう繋いでいくのかというところの整理整頓と形の表現の仕方というところで、デザインというのはまだまだ役割がいっぱいある気がしていて。それはまさに色んな地域で、特にものをつくられている方々にとって凄く重要なことなんだろうなと。ただ、それは時間を必要としますよね。
新山:それはありますね。地域でデザインしたい人は増えていますが、1年とかで結果を出そうと焦ってしまうと失敗するなと思っていて。地域おこし協力隊みたいな制度を使って、デザインで地域活性という話もよくありますが「(任期の)3年で結果を残そうなんて思わん方がいい」と僕はずっと言っているんです。
でも、やっぱり3年待てない人もたくさんいて、そこがジレンマなんですよね。もっと早く、もっと効率的に、となるのはわかるけど、そんなに早くないというか、何だったら早いどころか、やればやるほど事業者さんに寄り添うという姿勢が凄く重要だなと思っていて。何かアイデアを考えるということよりも、話を聴きながら彼らがいまの規模感だとつくれる量はこのくらいだとか、こうなりたいということを丁寧に紡いでいく中で、多分こうだよねという答えというか、「最適解」みたいなものを提示しているような気がしていて。やもすると凄く突拍子のない、みんなが驚くような何かを僕は多分出していなくて。それが良いやり方かどうかは別として、長く続けていける可能性はあると思うし、実際デザインをお手伝いした会社の売り上げが伸びるとか、その商品がきっかけで雇用が何人増えたとか、そういうところが凄く大事だといつも思っていますね。
創造的な産地をつくるために
原田:前回のエピソードでも、かつて地域に来るデザイナーはモノをつくっても、それが売れるかどうかまでは責任を持たずに帰っていってしまうという話がありましたが、そういう意味では、そこまで面倒を見ることが新山さんが考えるデザインにおいては凄く重要だということなんですよね。例えば、自社ブランドをやられていたり、先ほどお店の話もありましたが、やっぱりデザインをした先のところまでちゃんと面倒見るとか、自分たちでも実践をするとか、そういうところをかなり大事にされているような気がします。
新山:そうですね。デザイナーがそもそも信頼されてない街において大事だなと思ったのは、やっぱり販路まで考えることで、それを愚直にやっています。販路や流通を学ぶためにまずは本を読んだりしたのですが、やっぱりよくわからないから自分らでブランドを立ち上げてみようと。色んな失敗をしながらモノを売るということを一つひとつ学んでいきました。その次は、やっぱり売り場所がないとダメだということで「SAVA! STORE」というお店をつくったんですね。ここで販売している商品の6割くらいは自社商品だったり、何かしらデザインで関わったモノたちなんですよ。凄く大事だなと思っているのは、1、2人くらいの規模感でものづくりをしている人たちが商品をつくりたいとなった時に、あまりデザイン費とかないことが多くて。もしそこで僕が断ってしまうと、何のために仕事をしているのかわからなくなっちゃうんですよね。だから極力お手伝いしたいと思っていて、でもさすがにボランティアではできない中で、お店があるというのは凄く良いなと思っているんですよ。要は、お店で頑張って売って、自分たちでデザイン費を稼ぐみたいな。そういうことは後付けだったのですが、そういう仕組みができたことは大きな出来事だったなと思っていて。ヴィジョンである「創造的な産地/地域をつくる」ために何が必要かというピースをちょっとずつ埋めていった感じでしたね。
原田:地域の産業なり、新山さんがデザインで関わっている領域の方々にとって、色々な切実さがあって、そこに寄り添って何ができるのかということを、それこそ新山さんの言葉を借りるなら「愚直」に考えていった結果が、いまの活動に繋がっているのだろうという気がするんですよね。
TSUGIとして、「創造的な産地をつくる」というヴィジョンを実現するために、「支える」「作る」「売る」「醸す」という4つを掲げられていますよね。「支える」というのはロゴやパッケージなどのグラフィックデザインであり、「作る」は自分たちでブランドを持ってモノをつくるみたいなところで、「売る」では「SAVA!STORE」という自分たちでお店を運営されている。そして、「醸す」というのは、ここまでまだあまり話に出ていないですが、「RENEW」という産業観光のイベントなど、職人たちの熱量をつくっていくというところがあるわけですが、最初の段階でこれがすべて見えていたわけではないんだろうなと。むしろ活動をする中で整理されていったというか、必要だったというところが大きいのかなと思っています。切実に何が必要なのかということを突き詰めていったところに、「広義のデザイン」のあり方が見えてきたのではないかと。

原田:「広義のデザイン」ということで言うと、いまのデザインの世界では地域のデザインに限らず、プロジェクトの上流から関わっていくことが大事という話があって。そこと新山さんが実際にやられていることはそんなに変わらないと思うけど、その広がり方というのが、ある種計画的にデザインというものを機能させていくというよりは、そこまで意図せずにデザインの領域が広がっていったみたいなところがあるのではないかなと。
新山:いや、もう本当にその通りです。最初はそんなことまで考えていなかったのですが、やっぱり流通まで案内することは凄く重要だし、それが信頼関係にもなるんですよね。心のつながりも大事なのですが、やっぱりものづくりの街だし、商売の街なので、売れなければダメというのは僕の中ではかなり強い。それは職人さんから教わったことで、売れないと続けられないよねというのがまずベースにあって。そこから、街の生存戦略でもあり、自分たちの生存戦略として、4つのキーワードの事業になりました。今日は話していないですが、「SOE」という観光の会社を2022年につくったのも、そういう流れの賜物という感じだったのかなと。
「横」に逸脱していく活動
原田:新山さんに限らず、地域でデザインの活動をされている方のお話を聞いていて強く感じるのは、「計画」や「意匠」というデザインが持っている大きな要素はもちろん満たした上で、それに加えて、「世話」をしていくとか、領域を「逸脱」していくとか、何か「横」にはみ出ていく感じがあるなと思っていて。「広義のデザイン」という話になると、どちらかと言うと上流のプロセスなど「縦」のイメージがあるのですが、地域でデザインをされている方は、デザインの領域を「横」にはみ出ていくような活動をされる方が凄く多い気がしています。
新山:「横」と「縦」というのは凄く面白い視点だと思います。僕らは根っこからやるということをずっと取り組んできたし、そこが大事だと思っていたんですよ。消費地のデザインは分業制がしっかりできていて、高いクオリティで世に出せるというのがあって、それはデザインとしてのひとつの解としてあると思うのですが、生産地である我々はまず人材がいないし、失敗ができないから根っこからやらざるを得ない。予算もないから、写真も自分で撮って文章も書いて、なんだったら小ロットのパッケージだったら自作した方が早いし、コスト的にも良いという考え方でブランドづくりをしています。これらは「縦」の部分に近いと思うのですが、地域や街のビジョンとか、「こうなったらいい」という未来を考える時には、グラフィックというところだけでは全然無理だと思っていて。後で話が出てくるかもしれない「RENEW」なんかも、デザインのイベントではなくて、ものづくりの工房見学みたいなことが凄く大事なんじゃないかという考えがあったり。いま力を入れているのは、町の労務環境をどう良くしていくかということでそれが横軸みたいなところで。それによって結果的に移住者が増えて、街の産業が残っていくといったプロジェクトに取り組んでいるんですね。最初は「縦」の部分をやっていたんだけど、やりながら「横」もやらなきゃとなっていったところは凄くありますね。
「横」の領域のことをする時に凄く感じるのは、1人では全然無理なんですね。僕の場合は、最初は何でもやるみたいな感じだったのですが、案件数が増えすぎると絶対爆発してしまうので、仲間を増やさないといけないとなって。そうすることで徐々にやれる領域が増えていったイメージです。
原田:いわゆる大文字のデザインの領域を「横」にはみ出しながらデザインの活動なり営みを続けていくことというのは、地域に限らず今後デザイナーとして大事かなという気がしています。それこそAIが出てきて、形をつくったりある種の計画をするということを人以外の存在がある程度担保するような時代になった時、デザインの「横」にどう広がりながら、デザインを欲している人たちに並走していくのか。そういったデザイナーのあり方を考える時に、地域のデザイナーの方々の活動には何かヒントがあるのではないかという気がしていたので、その辺のお話が聞けたのではないかと思います。
さて、地域というのは都市部においてもこれから顕在化してくるような課題が集まっている場所でもあると思っています。次回は、課題先進地と言える地域で重ねるデザインの実践というテーマでお話を聴いていきたいと思います。今日もどうもありがとうございました。
新山:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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