目の前のモノと向き合い、マイナスをプラスに変えるデザイン | 𠮷田勝信さん×狩野佑真さん 〈2/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。グラフィックデザイナーの𠮷田勝信さん、デザイナーの狩野佑真さんのシリーズ2回目は、狩野さんの活動にフォーカスし、デザインの考え方やマテリアルデザインの実践を伺いました。
アートとデザインのあいだで
原田: 今週は、採集者・デザイナー・プリンターの𠮷田勝信さんと、デザイナーの狩野佑真さんのシリーズ2回目になります。初回は𠮷田さんの活動について、色々な観点からお話を伺ってきましたが、今日は狩野佑真さんの活動についてお伺いしていく回になります。まず簡単に、狩野さんのプロフィールをご紹介させていただきます。
狩野佑真さんは1988年、栃木県生まれのデザイナーです。東京造形大学室内建築専攻にて沖健次さんに学び、卒業後はアーティストの鈴木康広さんにアシスタントとして師事されました。2012年にSTUDIO YUMAKANOとして独立し、2023年に株式会社NOUを設立されました。
マクロなコンセプトメイキングからミクロなディテール検証に至るまで、発想のスケールを自在に横断し、実験と試作を重ねながら新たな価値へと昇華するものづくりを行っています。プロダクト、インテリア、マテリアルリサーチ、空間演出など領域を超え、デザインを通じて世界の見え方そのものを更新し続けています。
これまでの主な受賞に、日本空間デザイン賞、グッドデザイン賞、M&O Rising Talents Award、German Design Awardなどがあります。
それでは、狩野さんよろしくお願いします。
狩野:よろしくお願いします。

↓こちらからポッドキャスト本編をお聴きいただけます
▼Apple Podcast
https://apple.co/4oAEalS
▼Spotify
↓続きもテキストで読む
原田:狩野さんのプロフィールにもあるように、大学時代は研究室の教授が沖健次さんで、もともと倉俣史朗さんと一緒に仕事をされていた方ですよね。倉俣さんといえばコンセプチュアルなデザインで、アートとデザインの境界にあるような作品で知られています。また、狩野さんは卒業後にアーティストの鈴木康広さんに師事されていました。そうした意味でも、学生時代からアートとデザインの境界線上にいるような方々と関わってこられたのかなと思うのですが、そのあたり、デザインとアートの関係についてどんな感覚を持っていらっしゃいましたか?
狩野:大学自体はあくまでもデザインの文脈の中で学んでいました。ただ、いわゆるインダストリアルデザインというよりも、倉俣作品ではないですが、アートにも見えるようなプロダクトとか、そういったものが原体験として最初にありました。
高校を卒業して間もない頃にいきなりそういう刺激を受けたので、ある意味で違和感なくスッと入っていけたという感覚がありました。そんなにアートとデザインの違いを意識することもなく、大学3年、4年と進んでいったんです。
大学3年の時にアーティストの鈴木康広さんと出会ってお手伝いを始めました。そこから思考としては「自分もアーティストになりたい」と思うようになり、そして卒業後もそのマインドのまま、鈴木さんのフルタイムでアシスタントとしてつかせていただいていました。
原田:鈴木さんのもとでお仕事をされて、アーティスト的な考え方やプロジェクトのつくり方など学ばれたことはありますか?
狩野:スキルを学ぶということではなくて、作品との向き合い方とか、ある意味で作品しか考えない姿勢のようなものですね。そういったことを教わるではないですが、間近で見て感じ取ったというか。それはいまも、自分のつくるものに対する責任感と言いますか、強く影響していますね。
鈴木さんご本人が本当にいつでもアイデアを考えている方で、帰りの電車の方向が一緒だったので、アトリエでの仕事が終わった後も一緒に帰って、電車の中で立ちながら鈴木さんのスケッチブックを開いて、お互いああだこうだ話しながら帰ったりしていました。いま思うと凄く贅沢な時間で良かったなと思いますね。

マイナスをプラスに変える視点
原田:アート的な影響なのかどうかは分からないですが、狩野さんの初期の作品は、コンセプトやアイデアの純度が高いまま提示されている印象があります。言い換えるとちょっとトンチっぽいものが多いというか。
例えば、スマイルマークのネジとか、自転車型の自転車スタンド、電球の一輪挿し、スポンジのiPhoneケースなど、どれも割と一言で説明できる純度が高いものをそのまま提示しているような感じのものが多いなと思っていて。そういったアイデアや思考、あるいは視点みたいなものを提示していくことは、狩野さんにとってデザインの中でもかなりプライオリティの高い要素なのかなと思うのですが、その辺はどうでしょうか?
狩野:そうですね。いま挙げていただいた作品はどれも20代前半の頃のもので、スマイルネジなんて23、24歳の時の作品なので、本当に何も考えていなかったタイミングではあるんです(笑)。
スマイルネジをつくった時は、鈴木さんのアシスタントを辞めて、自分の活動を始めた直後でした。世の中に見せられる作品が何もない中で、一発目に何をするかということを色々考えた上で思いつき、実際につくったスマイルのネジでした。社会に対して何かを落とさないと、このままいなくなりそうだなという、割と絶望や危機感からつくったものでした。たまたま発表してすぐに色んな人に見てもらえる機会があり、そこから作品が広まっていったという感じですね。
原田:自分の存在を社会に知ってもらうために、何かをつくらなきゃという気持ちでやっていた時期だったんですね。
狩野:そうですね。本当に社会との接点がなかったので、危うい時期でした(笑)。
山田:いくつか作品を拝見すると、たとえば椅子の上に椅子を重ねた椅子などは倉俣史朗さんがかつてそういったものを発表されていたり、先ほど話に出た沖健次さんは、大橋晃朗さんというもともと伊東豊雄さんなどと一緒に仕事をされていた、それこそ倉俣さんとほぼ同じくらいの56歳くらいで非常に早くお亡くなりになられた伝説的な家具デザイナーに師事をされていた方なので、狩野さんはその孫にあたるわけですよね。そうした色々なDNAを受け継ぎながら、ご自身の中で活動を続けてこられたのだろうなと思うのですが、そこから急に方向転換をされるので、僕もそこでビックリした印象があります。

原田:その方向転換とは?
山田:サビの採取ですよね。
狩野:そうですね。やっぱり卒業すると制作場所に凄く困るんですよね。特に東京だとスペースもないし、家賃も高いし、どうしようかなと探していた中で、たまたまご縁があって、川崎の工業地帯の中にある個人の造船所の一角をアトリエとして使っていいよという機会をいただいたんです。
そこを拠点に卒業後はスタートしたのですが、明らかに特殊な環境だったので、この環境を活かしてオリジナルの作品をつくれないかなと思ったのが純粋なきっかけです。改めて環境を見渡すと海も近いし、工業地帯なのでそこら中が錆びていて、サビに目に留まったんです。サビは汚れとか汚らしいという見え方もしてしまうのですが、改めて見るとグラデーションが綺麗だったり、模様が凄く複雑だったりするんですよね。このサビの魅力を生かしたプロダクトをつくれないかと思ったのがきっかけで、大きくサビをモチーフにした何かをつくろうというので自主制作でスタートしました。
原田:それがいま狩野さんの代表作のひとつになっている「Rust Harvest」という作品につながっていくわけですよね。このサビもそうですけど、狩野さんの作品にやはり先ほど少し話したような、ちょっと違う視点で物事を捉えるところがあって、しかもその対象が割と日常に近いものだったりしますよね。その辺が狩野さんのデザインにおける起点、あるいは軸になっている部分なのでしょうか?
狩野:そうですね。「Rust Harvest」はもう8年くらいやっていて、当初はそこまで深く考えてスタートしたわけではないのですが、いま振り返ってみると、その間も色々な作品をつくったりする中で、きっかけとなったスマイルネジも含めて、価値観を変えることが自分は好きなんです。
マイナスをプラスにするとか、マイナスをゼロにするとか、ゼロをイチにするとか、個人的にはそういうところに「やってやった感」があって(笑)。1を10にするとか、10を100にするタイプのクリエイターもいると思いますが、僕はゼロ周辺の動きが好きですね。
山田:図らずも時代の転換期でもあって、狩野さんは環境の中から自然にそれを見つけていったと思うのですが、ちょうどその頃からマテリアルへの関心が世界的にも高まり始めた時期だったように思います。
狩野:そうですね。もともと海外のデザイン動向を調べるのが好きで、デザインに限らず、色んな作品をよく見ていました。マテリアルに関するジャンルだとヨーロッパの方が圧倒的に早かったですよね。あと、僕自身パソコン作業が凄く苦手というか、嫌い過ぎて(笑)。目の前で手を動かしたり、ゴチャゴチャやるようなことは無限にできるので、そうすると目の前にあるものをいかに扱うかということになっていって、自然とマテリアルみたいな方向になっていったというのもありますね。
サビを育てる“農業的”なデザイン
原田:この「Rust Harvest」という作品が具体的にどんなものなのかを、リスナーの方にご紹介いただけますか?
狩野:「Rust Harvest」は、自分で開発したオリジナルの技術を使った作品です。鉄板などを錆びさせて、その表面に生じたサビの粒子だけをアクリル樹脂に転写するという技法を用いています。 アクリルに写し取った後は、そのサビが剥がれ落ちることも変化することもなく、加工もアクリルと同様に行うことができます。それが時には家具になったり、建材になったりという形で、プロジェクトに応じてアウトプットが変わっていくのですが、サビ一点一点をすべて自分で育てるというコンセプトでやっています。
原田:この技術はどうやって見出されたのですか?
狩野:頭で考えても思いつくようなものでもなく、偶然生まれたものでした。サビは凄く魅力的なんですけど、触ると汚れるし基本的にはデメリットしかなくて、模様は綺麗だけど扱いづらい存在でした。
それこそバラの花を樹脂に封入するような感覚で、錆びた鉄板をそのまま樹脂に封入しようとしたんです。自分で型をつくってエポキシを流したのですが、型枠に隙間が空いていて、ドバドバ流れ出してしまったんです。結果的に、錆びた鉄板の上に薄く樹脂を塗ったような状態になって大失敗したのですが、それを何気なく剥がしてみたら、ペラペラの薄い樹脂にサビの粒子がくっついていて。それを見て、これは自分がサビのデメリットだと思っていた問題を解決できると思いました。
偶然発見した現象ではあったのですが、これを狙って再現できるのかというところから試作を重ねていきました。最初のうちは硬化不良とかも多かったんですが、ノウハウを少しずつ蓄積していって、いまではほとんど失敗なくできるようになりました。
原田:それもやっぱり手を動かしながら、あれこれ試していくということですよね。
狩野:そうですね。失敗を繰り返していく中で見えてきたことで、想像だけでは絶対に思いつかなかった技術です。

山田:錆びた鉄板が近くにあるという環境自体なかなか限られていて、それもまた面白いですよね。
狩野:そうですね。最初は、そこら辺に落ちている鉄板を拾ってきて転写していたんですけど、フラットじゃないと樹脂を流せなくて。それで、フラットな鉄板がなくなってしまって、じゃあ自分でサビをつくった方が早いなと思ったんです。 そこからサビを育てるということを始めたのですが、サビをデザインするという文脈が凄く奥深いことに気づいて。作品のタイトルも「Rust Harvest」(=サビの収穫)というのが良いなと思ったり、徐々に作品の強度が増していった感じですね。
山田:本当に自分でサビを育てて収穫しているわけですもんね。
狩野:そうです。もう本当に「良いサビが育ったな」という感覚なんです(笑)。良いサビをつくるのは難しくて、普通にしていると均等に錆びてしまう。いかに魅力的なサビをつくるかがデザインのポイントでもあって、実は何層にもサビを重ねたりしているんです。転写することで、その重なりや痕跡が見えてくる面白さもありますね。
山田:サビは本来ネガティブな要素になるものですよね。腐食だから物質が退化して悪くなっている。人間にとっては都合が良くないはずなのに、そこにたしかに人は美を見出すというのが昔からある。それを自分のマテリアルにしてしまったというのは、結構衝撃的ですよね。
2010年代に入ると、バクテリアを使って物質を変化させたりするデザインもだんだん出てきた時期でしたが、サビもある意味バクテリアのように素材そのものが環境によって自発的に育っていって、それをマテリアル化していくということですよね。
狩野:本当に良いリンゴを育てるような感覚でやっていますね。
原田:まさに農業的だし、自然の力を取り入れるという意味では、いまの発酵文化のような動きにも通じるところがありますよね。目に見えない自然の力にある程度委ねて少し待つという感覚。そういう感じが凄くあるんだろうなという気がします。
狩野:そうですね。かといって適当にやっても良いサビはできないので、そこはかなり慎重にやっています。
原田:条件そのものをデザインしているということですよね。
狩野:そうですね。コントロールしつつも、自然に任せつつという感じですね。

マテリアルデザインとその先
山田:さらに続いて発表されたのが、「ForestBank」という作品ですよね。考え方としてはつながる部分もありますが、またまったく違うアプローチでマテリアルに向き合っています。
狩野さんの面白いところは、ゼネコンのような大きな会社から、個人の設計事務所まで幅広く関わっている点で、狩野さんがデザインした板というか素材というか、物体をまた次の人が使ってデザインをしていくということになっていますよね。それは「Rust Harvest」でもそうですし、「ForestBank」でもそうですよね。マテリアルそのものをデザインして、それを渡していくというか。日本においてはなかなか独特の立ち位置のデザイナーだなと。
狩野:たしかにそうですね。
原田:プロダクトをつくってどこかに納めるというよりは、もう少し建材に近いようなものへと手渡していくような感じですよね。
山田:例えば、倉俣史朗さんの「ミス・ブランチ」のように、アクリルにバラを封じ込めた板があったとしたら、当時あれを使いたかったデザイナーはごまんといたと思うんです。 同じように、イッセイさんの「プリーツ・プリーズ」の布だけをもらって服をつくりたいという人もたくさんいたでしょう。でも、やっぱりそれは彼らの考えに基づいたフォルムになっていかないと話にならないので、それを譲り渡すことはないわけですよね。
一方で狩野さんは、そこも凄く21世紀型だと思うのですが、クリエイティブ・コモンズじゃないけど、マテリアルとして渡していく。同時に、これは自分にしかつくれないという自負もあるから渡せるのだと思いますが。
狩野:そうですね。
原田:そのバランスが面白いですね。
山田:簡単には真似できないし、その蓄積は狩野さんの中にしかないからこそ、自信を持って渡せるという部分もあると思うんです。それも含めて、お話を聞いていきたいなと。

狩野:「ForestBank」は、2020年か2021年に日本の国産材を有効活用できないかというリサーチで飛騨に行ったことがきっかけでした。現地の方々に山をご案内いただいたのですが、飛騨には針葉樹よりも広葉樹の方が多いという地域性がありました。
針葉樹の森はどこか木の畑のような印象を受けるのですが、広葉樹の森はいわゆる絵本の世界に出てくるような森で、とても豊かなんです。色んな種類の木があって、実が落ちている。ただ、建材の視点で見るとコスパが悪く、実際にはあまり有効活用されていないという現実も見えてきました。
それまでにも素材を使った実験は色々していたので、この森の豊かさや多様さをそのままギュッと固めたようなテラゾーをつくれないかなと思ったんです。石のテラゾーがあるなら、木のテラゾーもできるんじゃないか、と。そこから、じゃあやってみるかという感じで、自分で固めてグラインダーで削ってみたのが最初の試作です。
当初は角材とかも混ぜていたのですが、それよりも小さな枝の断面に凄く魅力を感じて。枝って面白いなというところから、枝の太さや形状を変えながらどんどん試作を重ねていきました。そうするうちに、枝の見え方や出方をコントロールできるようになってきたという感じです。
原田:さっき山田さんが話していたように、マテリアルをデザインすることと、その先のプロダクトをデザインすることの関係は、狩野さんの中ではどうなんでしょうか? 「ForestBank」や「Rust Harvest」を見ていると、マテリアルデザインの段階で、すでに強いコンセプトやクラフトを含んだ高い強度があって、それを色んな人が色んなところに使うという感じになっていると思いますが、デザイナーとしてのスタンスとして、その辺はどうお考えですか?
狩野:僕の場合、まずマテリアルの実験や試作を繰り返していく中で、「これはいけそうだな」というタイミングが来るんです。その段階で、「この素材だったらこの大きさまでいけるな」「強度的に大丈夫だな」といった感覚をつかんでいく。つまり、家具レベルまでしかできないのか、あるいは一枚の大きな板として建材レベルまで持っていけるのか、そのあたりをなんとなく初期段階で掴んでいきます。
その上で、どういう使い方ができるかというのは、最初にこちらから提案しないと誰もわからないし、不安だと思うので、マテリアルができたら次の段階として、自分でそれに形や機能を与えて、分かりやすく家具というアウトプットにして色んなところで展示として発表します。
その後はそれを見た人たちが何かに使えそうだなと思ってくれるので、他の方たちの想像力も借りながら展開していく。あとは空間までは自分の力ではできないというか、クライアントがいないと実現できないので、家具までは自分でなんとか落とし込んでいくという感じです。
作品をもっと広めたいという気持ちもあるので、建築家やインテリアデザイナーの方たちに自分の作品を他人のデザインの中に取り入れてもらうということは全然ウェルカムで、そこは一緒に協業という形でやっていますね。
山田:阪急うめだと伊勢丹新宿のBAUMという資生堂のスキンケアブランドのショップは、まさに「ForestBank」で空間がつくられていますよね。
狩野:そうですね。なんなら空間設計も僕なので。店舗デザインからレイアウト、ストックやレジの位置まですべて考えながら、違う脳みそで「素材をどう納めようか」「このくらいの量が必要だな」といったことも同時に考えていたので、結構不思議な体験でしたね。
原田:それを一人の人間が担っているというのは、空間デザインへの関わり方として面白いですよね。
山田:BAUMの店舗では「ForestBank」のさまざまなバリエーションを見ることができて、色味や配合の細かな違いなども体感できます。お近くにお住まいの方は、ぜひ実物をご覧になると理解がより深まると思います。
原田:やっぱりポイントだなと思うのは、冒頭でも話したように、狩野さんのつくるものは手法やアイデアが一言で説明できるんだけど、その一言で説明できて終わらないというか。その先にあるクラフトの部分が凄く大事で、実際に手を動かしながら、アイデアを最終的なアウトプットへと落とし込む時の精度を自分でしっかりコントロールされているということが凄く大きなポイントなんだろうなと感じますね。

デザイナー人生の岐路!?
原田:冒頭で、初期は社会に認めてもらうために何をつくるのかというところからスタートしたとお話されていましたが、いまは狩野さんの作品が色々な場所に広がり、むしろ作品の方が狩野さんを連れて行ってくれるような状況も生まれているのかなと思います。現在の狩野さんとしては、デザイナーとして自分が進む方向は見えてきている感じなのですか?
狩野:いや、むしろ全然見えてこなくなっていて(笑)。いま迷い始めている時期なんです。
原田:傍から見ると、この方向で行くのかなという感じなのかなと。
狩野:全然ですね(笑)。マテリアルというのは、ある意味で終わりのないテーマでもあるので、それはもちろんこれからも続けていきたいと思っていますし、まだまだ扱っていない素材もたくさんあるので、ライフワークのように一生続けていく感じかなと思っています。
ただ一方で、例えば家具のデザインとかもう少し工業製品寄りの形を意識したもので、量産されて、値段がついて、誰かの手に渡っていくようなものもつくりたいなと思い始めています。
6月にコペンハーゲンに行ったんですよ。それがかなり衝撃的で。メチャクチャ疲れた状態で行ったというのもあるかもしれませんが(笑)、北欧の豊かな生活というのは嘘だと思っていたんです。でも実際に行ってみたら本当に存在していて、それを身をもって体験してしまった。そこに置いてあるベンチが良かったり、生活の中で使われているコップや歯ブラシなども凄くいいなと思えてきちゃって。そういう生活の中で、自分がデザインしたコップが使われていたらいいのになと。そんなマインドを持つことがこれまでなかったのですが、もう少し日常の生活に寄り添ったプロダクトもつくってみたいなと今年になって思い始めました。
だからいまはデザイナー人生の岐路に立たされているというか、「自分とは一体?」みたいな状態で過ごしています(笑)。
原田:𠮷田勝信さん、狩野佑真さんをお迎えしてお届けするシリーズ2回目は、狩野さんの活動について色々お話を伺ってきました。次回3回目はまた𠮷田さんに戻ってきていただきます。1、2回のエピソードを通じて感じるのは、𠮷田さんも狩野さんもデザインのつくり方のプロセスが、ある種凄く遠回りをしているというか、非常にユニークなプロセスでデザインに取り組まれているということです。
次回は、そうしたモノが生まれてくるプロセスにデザイナーとしてどう向き合うのかという話を伺ってみたいと思っています。今日はありがとうございました。
狩野:ありがとうございました。
山田:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
「デザインの手前」は、Apple Podcast、Spotifyをはじめ各種プラットフォームで配信中。ぜひ番組の登録をお願いします。
Apple Podcast
https://apple.co/3U5Eexi
Spotify
https://spoti.fi/3TB3lpW
各種SNSでも情報を発信しています。こちらもぜひフォローをお願いします。
Instagram
https://www.instagram.com/design_no_temae/
X
https://twitter.com/design_no_temae
note
https://note.com/design_no_temae

