新しい「つくり方」や「プロセス」を探求する | 長坂 常さん〈3/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。建築家の長坂常さんによる3回目のエピソードでは、建築や空間、プロダクトをつくる方法からデザインする長坂さんのものづくりに迫ります。
考えたことがないことから始める
原田:今週も建築家の長坂 常さんをお招きしています。先週は「言葉」をテーマにお話をお伺いしましたが、長坂さんは空間や建築、あるいは形をつくる方法やプロセスそれ自体を独自につくられている印象があります。今日はその辺りのお話を聞いてみたいなと思っています。
例えば、「ピタゴラスイッチ」などで知られているクリエイティブディレクターの佐藤雅彦さんという方がいらっしゃいますが、佐藤さんは、つくり方自体をつくる、デザインすることで、自ずと生まれるものも新しくなる、オリジナリティが生まれるという話をよくされています。実際に、他の方と異なるデザインをされている方の中には、つくり方自体が独自であることが多い印象があって、長坂さんもつくり方の部分をある意味で発明されているイメージがあります。例えば、これまでも話に出てきているSayama Flatにしても、既存の内装を解体をしていくことで完成というかフィニッシュとしてしまうというところが、それまでにないつくり方というところで注目された側面があると思います。そうしたつくり方やプロセス自体をまずは考えるというところは、ご自身としても意識はしているところなのでしょうか?
長坂:そうですね。それを目指してやってるわけではないと思うのですが、自分の中で「これは面白い」というものはある程度絞られた形のつくり方の中で小さく選択肢を広げていくというよりも、やっぱりもう少し振れ幅が大きい、いままで考えたこともないことから想像し始めた方がワクワクするというか。こう言うとあれですが、最後は何とかなるという圧倒的な自信はあるんですよ。前回の寝技の話じゃないですが、最終的には何とでもなるという自信があるので、スタートはズレていた方が振れ幅が大きい、気付きも大きいというのがあって。もちろん、限られた時間の中でちゃんと着地できるかという射程はいつも考えていますが、基本的には広げたいと思ってやっているんですよね。いままでの考えではないところに至りたいというところがベースなので、どうしたらいままでと違うつくり方ができるのかということはいつも考えているかもしれないですね。
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長坂:同時にそれは1回のプロジェクトでコンプリートするわけでもないので、前回の話のように古材にまつわることをずっとコネコネやっていくうちに、その都度完成はしてちゃんと作品にもなるのですが、やっぱり自分の中ではちゃんと進化していて、そういうものとまた違うものがどこかで混ざったりしてという関係を大事にしています。でも、「気づき」ですよね。本当にあの一連にはいろんな気づきがあって、例えばイソップ青山の時は単にアンティークというか古い表情がお店に必要で、そのために古材をどう入手するのかということを考えていましたが、そこから10数年経ってこないだつくったものでは、環境のことを考えた結果古材が必要になった。全く同じ行為をしているようだけど全然変わっているんですよね。ベネチアの時なんかは、あんなゴミみたいなものを感心しきりながら見ているヨーロッパの人たちを見た時に、僕らも価値は認めているものの、そこにまつわるストーリーにこんなにも共感するんだということが凄く面白くて。そうか、ゴミもよその国にスライドしたら価値を生むんだなと。
長坂:それがブルックリンにもつながって、もともと海外のプロジェクトはいくつかやってきていて、L.A.でもブルーボトルをやったのですが、全然僕が描いた図面と異なるような納まりをたくさんしてきて、「アメリカ人は大味すぎて仕事にならない。どうしようどうしよう」といつも思っていたんですね。それでブルックリンの仕事が来た時に、またどうしようかなとなって、「そうか、日本人を連れていくというのもあるのか。でも、高いんじゃないか。でもいまの価格を考えたら、もしかしたら安いんじゃないか」とか色々考えて、そこで「DEKASEGI」という言葉が出てきました。その後、材料をせめて安くしないとということで、日本ではゴミになっていたものを使えばタダになるんじゃないかと。それを使ってやってみようと。そうすると今度は施工のTANKが「ゴミは安くない」と言い始めて(笑)。「釘抜きとかどれだけ大変だと思っているんだ。間違ってやると刃物が痛む」と。そういうことを言われてずっと釈然としなくて、その後も何度かそういうことをやっているのですが、今度新しく50 Norman Nextというものができるのですが、そこでも古材をやるぞと言ったら、またTANKが「高えんだよ」という感じになって。「ふざけんな、この野郎」と(笑)。「じゃあ探します」とインスタで募集をして、絶対見つけるぞと(笑)。毎回毎回少しずつ揺れ戻しはありながら、そういうものをアップデートしていく。すべてが関係していて、何となく自分が最初に思っていたことが実現できるように道をつくっていくというのが、うちのもののつくり方ですかね。
「腑に落ちる」ためのプロセスを探す
原田:長坂さんの言葉にもありましたが、「つくり方をつくる」ことを別に目的にしているわけではなく、例えば「Sayama Flat」であれば単純に予算がないとか、目の前の制約条件や環境に対して、つくり方やプロセスを長坂さんなりに最適化していると言えばそうなのかなという気もしていて、それ自体が目的になっているわけではないというか。
長坂:そうですよね。例えば、そこ(スタジオ)に置いてある棒はベネチアの時につくったものですが、古材を持っていくということは決まっていたんですね。でも、古材だけで強度を維持しようとするとちょっと足りないので、補強的に単管が必要だということになって。その時に単管と古材をどう結びつけるかということを考えた時に、単管は綺麗な正円で、古材はそれぞれまちまちだという時に、どうやって円柱をつくるのかというところから、まちまちの形のものからきれいに円柱をつくるにはどうしたらいいかという問いを見つけるんです。
それで、考えていった挙げ句、丸鋸をこうやって回転させれば、最初はよくある螺旋のノミでやるやつですよね。でも我々ではノミではそんな綺麗にできないから、丸鋸を使ったらいいんじゃないのと。その時にTANKの福元(成武)さんとかは、「丸鋸は横にスライドするものじゃなくて縦に切るものだよ」と。「いや、でも一回横にスライドしてみて、僕ヘタクソだから曲がっちゃった時に横切れているような気がするんだよ」と。それで実際にやってみたら丸く切れたんです。「やったー!」「お前~!」みたいな感じなんですよ(笑)。そうやって喜びながら新しいものを見つけていくのはやっぱり面白いですよね。Flat Tableだって単純にこぼれてしまったエポキシを見て、「これ綺麗じゃん」ということで使い始めたんですよね。そういうことを考えるのが好きだし、そこをきっかけにさらに何かをものにしていくということが楽しいんですよね。
山田:やっぱり与条件に対して答えていかなきゃいけないわけですが、その条件自体が腑に落ちないこともあるわけじゃないですか。だから、腑に落ちるためにどのプロセスを経ないといけないのかというところをどの建築家よりも大事にしている印象が僕の中にあって。腑に落ちるためのプロセスの行為がそのままデザインに結びついていたり、何のためにそれをやるのかという目的の方が腑に落ちないと気持ち悪くなっちゃうところがあるのかなと見ています。
長坂:そうやってスライドをしていって、気づいたらここで腑に落ちているという感じですかね。たしかに「そうやって使っちゃえばいいんじゃん」となだめられても、「それじゃ意味ないじゃん」と思うんですよね。それで悔しくて腑に落ちるところを探して、だいぶ遠くまで行っちゃうというのは大いにありますね(笑)。
山田:いまも韓国のボフミルというコーヒースタンドと一緒にプロジェクトをやっていますよね。自分の事務所自体が実験の場になっているというか、もともと事務所の運営自体も実験的にやられていますが、本当にサインひとつ取っても色んなトライアルをしているんですよね。「腑に落ちる」というところも感覚的なものでありながら、民主主義というか、「みんなにとって気持ちの良いやり方は何だろう?」ということを実践しながら考えられていて、いまならそれがしばらくは僕たちもここに来れば見られるという。こんなに事務所をオープンにしている建築家もいないというくらいですが、コーヒーを買いに来れば、常さんたちのいまの動きが見られるというのも凄く面白いなと思うところではありますね。
長坂:本当に「ながら」ですよね。このことなんて全然想像していなかったです、ボフミルは。最初全然イケてないショッピングモールに連れて行かれて、「ヤバい、ここで店を出すことになったらまずい。絶対違うじゃん」みたいな。帰りには逃げていたボフミルのブランディングを引き受けてしまうという(笑)。自ら「うちでやったらどうなの?」みたいなこと言っちゃっているんです。出会い頭的にぶつかったものと真正面から向き合っていると、意外と面白い世界が見えてくるんですよね。
そういうことになんとなくみんなが共感できるようになると、面白い世界というのはそんなに遠くにいかなくても近所でたくさん見えてくるという風になったらいいなと。デザインと言うと高尚過ぎて、どこか遠くに、高みに行かないとなかなかそうはなれない。色んなものが揃ってないとダメだと思われがちですが、そうじゃない感覚をこういうエピソードや出来事を通して皆が気づいていくと、出会い頭の数だけ多分色んな面白さが出てきて、そうなったらいいなと思ってやってはいるんですけど。
原田:デザインは高尚だというイメージは、デザイナーや建築家がある種魔法を使うように何かものをつくるというか、ものづくりのプロセスがブラックボックス化されていることも影響している気がしています。それをしたくてしているわけではないと思いますが、そうなっている側面が多少なりともあって、それに対して長坂さんは特にプロダクトにおいてつくる工程自体がそのまま形になっているFlat Tableのようなものが多いですよね。ある種イレギュラーなことも含めてつくるプロセスに取り込みながら、それがそのままアウトプットにもなっているので、つくられていく工程を想像しやすい。そういう意味では、高尚なイメージがあるデザインに対して、長坂さんがつくるものはもう少し距離感が近いものに結果的になっているような印象もあります。
長坂:相当パクられますけどね(笑)。これがどうやってできているのかわかってもらうためにつくっていて、その驚きを共感したいわけですが、つくり手からするとそれを単に喜びにするだけでなく、持ち帰って何かをつくろうとなるので。でも、それは全然光栄なことだなと思っています。特にプロダクトというのは、前回話した「言葉」と同じくらい、自分の気づきをピュアに表現できるんですよね。「半建築」とか「見えない建築」というのと同じくらい、言いたいことを100字か200字くらいで説明できてしまうものなんです。それに対して建築はもっと複雑じゃないですか。物事が決まるまでに色んな条件や法律などが絡んでくるけど、プロダクトは結構そこと切り離された純粋なところなので。もちろんマスプロダクトになると、色々な問題が出てくるのですが、僕らがやっているプロダクトは、もの凄くピュアで、言葉みたいなものなんですよね。それは言葉と形がつながった時に突然生まれるんですけど、結構自分たちにとっては大事な作品なんですよね。
他のものは多分もっと複雑に色んなことが絡んでいて、それを簡潔な言葉にして発表はしていますが、色々な事情が重なっているので、なかなかプロダクトのようなピュアさは持っていない。その違いは大きくあって。あと、プロダクトは基本的にクライアントがいないので、何かの条件に縛られてものをつくっていない分、ピュアに自分の考えを表現できる場所だと思って大事にしています。
異なるスケールを行き来するものづくり
原田:条件が複雑な建築から、ピュアに見つけたことを形にできるプロダクトまで、スケールが異なるところを行き来しているからこそ、色んなレイヤーでもののつくり方やプロセスを考えていきやすかったり、見出されやすいというところもあるのかなと。
長坂:そうですね。ここでギュッとやって、そうじゃないところに展開してというのはありますね。空間においてほぼほぼラフなのが僕の仕事ではありますが、あるところではそうじゃない精度でモノがないとやっぱり人は安心できないと思っています。時にそういうものが絡んでいくことが大事で。僕が特殊なところは、スケールが大きい建築においては結構雑に扱われるものでも、僕の場合は両方を行き来するので時にそこが凄く大事で。かたやポカーンとラフな空洞が空いていたり、空間の距離感というのは結構我々には大事なことで。だから、自分の身の周りに触れるところと、見えているところの差異というのはいつも結構意識しています。そういうことは両方やっているからできてるんだろうなと。
山田:空間的な考え方でもあるけれど、やっぱり同時にプロダクトの発想と常に行き来している部分があるのかなと。
長坂:そうですね。先日、重松(象平)さんが手掛けた大きなビルの一角のカフェをやらせてもらったのですが、全然どっちにも入れるんですよ。大きな側をつくることもできるし、その中に入って仕事をするのでもいいんです。そういう意味では色んなスケールに行けて、どっちにいてもその掛け合いが面白いというか。例えば、僕らが武蔵美でああいう自由な場をつくった時に、学生たちがそれをどう使いこなしていくのかということもあるし、重松さんが立てたコンセプトを僕がどうひっくり返すのかでもいいのですが、そういう掛け合いがやっぱり面白いなと思います。全部自分でコンプリートするよりも、誰かに委ねてどう変えていくのかというのが大事な要素かなと思っています。もしかしたらスケールを横断して仕事ができるから、そういうことが得意なのかなと。
山田:どうしても建築家は思考がマッチョで、神様になりがちなんですけど、全然神様になる気がないというか(笑)。
長坂:本当です(笑)。もともとそういうことが嫌で、裏方を務めるつもりで建築をやるようになったので、そこはもう全然違う発想なのかなと。僕の同世代は立派な建築家が多いじゃないですか。いつも凄いなと思いながら見ています。僕はいつでも手伝うよ、と(笑)。
原田:今日は形や空間をつくる方法やプロセスをデザインするというテーマでお話を伺いました。最終回となる次回は、関係を生み出し、継続させるためのデザインというテーマでお話を聞いてみたいと思っています。
山田:ありがとうございました。
長坂:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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