「課題先進地」の地域でつくる最先端のケーススタディ | 新山直広さん〈3/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。新山直広さんをお迎えする3回目のエピソードでは、「課題先進地」としての地域で重ねるデザインの実践というテーマで、地域でデザインをすることの意義や可能性について伺いました。
地域は周回遅れのトップランナー!?
原田:日本はよく課題先進国と言われますが、中でも地域/地方というのは課題が特に早い段階で顕在化している場所でもあると思っています。新山さんをはじめ、地域で活動されているデザイナーの方々は、そういった場所で日本社会の未来をつくっていくためのヒントであるとか実践を積み重ねている存在でもあるのではないかという気がしていて、今日は「課題先進地で重ねるデザインの実践」というテーマでお話を聴いていきたいと思っています。
例えば、地域というのは資源が近くにあり、原料調達から製造、使用、廃棄までのサイクルが都市部にいるよりは見えやすい場所です。グローバリゼーションによって地域内の循環が失われてしまっているといった問題もあるとは思うのですが、モノの循環や環境の問題などを考えやすかったり、小さな規模で実践がしやすい環境にあると思うんですね。また、一次産業や伝統産業などは特に顕著だと思いますが、後継者不足の中で産業をどういうふうに盛り上げていくのかという話など、本当に色々な社会課題、特にこれから日本において向き合っていかなくてはいけない課題といち早く対峙せざるを得ない環境がある場所だと思います。そういった場所でデザインをされてきた新山さんは、色々な社会課題に対してデザインで向き合っていく、実践をしていくみたいなところは意識としてお持ちだったりしますか?
新山:最近ちゃんと考えるようになりましたけど、よくよく考えると移住した時から「これからは地域が凄く大事になってくる」とぼんやり思っていて、その勘みたいなものがやっているうちに本当にそういう状況になっているなと思います。周回遅れのトップランナーじゃないですが、課題はたしかにたくさんあるけれど、人口が少ないとか、意思決定の機関との距離が近いということで、できることはたくさんあるなと思っています。
原田:TSUGIでデザインをされている方だったり、あるいはデザインに関わらずこの地域に移住をしてきて活動する人たちというのは、必ずしも社会課題だけではないと思いますが、色々な実践ができる場として地域というフィールドを選んでやって来る人たちも結構いらっしゃったりするのですか?
新山:まさにそうですね。TSUGIのメンバーがいま19人いて、そのうち移住者が15人くらいいるのですが、うちに来る子らは大体そういう課題意識というか、伝統工芸を何とかしたいとか、いつか自分の地域でデザイン事務所をやりたいからここで学びたいとか、そういう思いを持った人たちが移住してくれているなと感じます。
一方で面白いのは、みんながみんな意識が高いわけではなくて、ものづくりもまちづくりも全然興味ないんだけど、なんか鯖江って面白そうだし、自分らしく暮らせそうという感じで移住をする子たちも多くて。それが凄く面白いなって思っていますね。
「入って来てもいいよ」みたいな柔軟さというか、寛容さみたいなものがちゃんと街から感じられるかどうかというのが僕は凄く重要だと思っていて。そういう感覚にピンと来た子たちが移住してきていますね。ものづくり、まちづくりには興味ないけど来てくれるみたいな状況ができてきたことは結構凄いことで、ぶっちゃけちゃうと僕はいわゆるカッコいいロゴとかつくるよりも、そういう状況をつくることに最もデザインの醍醐味を感じちゃいますね。
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地域での実践とナレッジの共有
山田:この10〜15年というのは、中央にいるデザイナーが地方に行ってつくり手と出会うことで次のステップに進むことができたり、お互いにとって良い関係というか、ブランド側にとっても新しいことができたり、課題解決の新しい手法を見つけることができるようになっていて。特にいまの若いデザイナーたちは、本当は地方で仕事をしたいと思っている人が結構いるのではないかと思います。
新山:東京でデザインするのも僕は良いと思うんですよ。僕もいつかやってみたいなと思うくらいなんですけど、一方でこっちはこっちで凄い面白いよというのは仕事をしていて感じますし、実際に鯖江では毎日のように色んなデザイナーが来て、夜には職人さんと飲み会したりしてみんなが仲良く友達みたいになったりしているのが凄く健全というか。10年前とかは飲み会では愚痴と悪口と噂話の飲み会しかなかったのが、いまでは外から来るデザイナーたちとワイワイ言いながら「次は何を仕掛けようか」みたいな話をしている状況になっていて、もう泣けますよね。
原田:そういう状況も凄く面白いなと思っていて。さっきの課題の話もそうですが、人口規模こそ全然違えど、日本の大部分は結局地方/地域だったりするわけじゃないですか。地方で色々なデザインをしていくと、その事例は他の地域にとっても参考になるし、結果として日本全体にとっても参考になるかもしれないと考えると、地域で活動している方々は常に色んな事例をつくり続けている存在だと思うんですよね。例えば、新山さんたちがやられている産業観光イベントとしての「RENEW」というのも、いまや日本でも有数のイベントになっていて、色んな地域が視察に来るような場にもなっている気がしていて。色んな実践やモデルケースが共有されていくような状況が生まれつつあるのかなという気がするんですよね。
新山:そうですね。特に他地域、他産地というのはライバルでもないし、なんだったら生き別れた兄弟みたいな感じなんですよ。地域でモノをつくるとかデザインをするというのは、ある種の孤独があると思うんですね。それなりの苦労やしがらみもありますし、その中でみんな戦っているんですよ。「RENEW」とかで色んなローカルの友達に来てもらって話すことで、結構泣けるような瞬間が多々ありますし、去年から始めている「LIVE DESIGN School」では、地域やデザインを学ぶ学校と言っていますが、誰かが何かを教えるというよりは、普段孤独に戦っている人たちがみんなで会って、それぞれの街で何をやっているかということをナレッジシェアするようなことが起きているんですね。それは全然コピペができなくて、地域ごとに全然状況が違うわけなんですよね。色んなケーススタディのアーカイブを見ながら、自分ならどうするか。そういうことを確認し合う場みたいになっています。やっていて凄く楽しいし、東京を介在しなくても、そういったコミュニティが大きなムーブメントになろうとしているのは、すごく面白い状況だと思っています。
最先端のケーススタディをつくる
原田:「LIVE DESIGN School」の話も追々聞いていきたいのですが、そこでも関わられている原研哉さんがディレクションしている竹尾ペーパーショウも今度鯖江で開催することになったんですよね。原さんご自身も「観光」というものに着目されていますが、日本のインバウンドを考えることは地域に限らず全国的に大きなテーマになっています。その中で、原さんのような方が鯖江という地域に目を向けて、観光なり産業観光みたいなもののヒントを見出そうとしたり、関係をつくろうとしている状況が凄く興味深いというか、地域のポテンシャルというものを感じられているのかなと思ったりしますよね。
新山:そうですね。僕も鯖江でやると言ってもらえてうれしかったです。原さんも「低空飛行」とかでも言っていますが、やっぱり色々な街に光るものがちゃんとあって、それを見つけていく作業は、これからの社会の中で凄く重要だと思いますし、可能性は確実にあるなと強く感じています。
原田:そうした色んな可能性が各地域で試され続けている状況がいま生まれてきている感じはしますよね。
新山:そうですね。以前は、東京というすごい街と地方といった対立構造みたいなものがあったと思うんですけど、それこそ原さんから言われた言葉が凄く印象的で。やっぱり自分たちも知らず知らずのうちに「地域のデザイナー」というジャンルをつくってしまって、その枠の中で勝負しようというのが見えないうちにできていた気がするんですけど、原さんからは「そんなこと言ってちゃダメだ」と。「君たちが最先端かもしれないから、そんなことを考えない方がいい」と言われて、そりゃそうだよなと。それからは、原田さんが仰っていた今日のテーマのように、自分たちがこれからの日本や世界における最先端のケーススタディをつくり続けていることは間違いないと思うようになりましたね。
原田:新山さんが定義されている「インタウンデザイナー」という存在は、捉え方によっては未来の日本のために多くの実践をしている存在なのだと思います。だから、原さんの話には凄く共感しますし、地域という枠を外しても、いま非常に重要な活動をされていると感じています。
ローカルの範囲をいかに捉えるか
山田:TSUGIがある場所というのは、鯖江の中でも実はエッジの部分というか。新山さんは鯖江とか越前とかもう少し広域に「地域」というものを捉えていると思うのですが、他の地域の方々との交流をどうされていて、地域の範囲というものをどのように捉えているのかということもお聞きしたいです。
新山:その範囲感みたいなものは、コミュニケーションをする上で重要で。例えば、本当に集落単位のところだけでやっているようなデザイナーもいれば、僕の場合は自治体3つ分くらいが自分の領域になっています。県をまたがって活動している人もいるかもしれないし、地域ごとにスケールみたいなものは変わるし、それによってアプローチもかなり変わってきますよね。自分の場合は、自治体となると少しややこしいし、僕らものづくりの街なので自治体で括るのも変な話なので、産地ごとみたいな感じで自分の守備範囲というか、活動領域を考えています。鯖江市、越前市、越前町の3市町が半径10キロくらいで、いまはそこを主な領域にしていて、それだとだいたい端から端まで行くのに40分くらいなので、普通に打ち合わせに行けちゃう距離なんです。
山田:僕が少し前までご一緒していたのが、燕三条の「工場の祭典」というイベントなんですが、東京の人からすると「燕」と「三条」が別の市ということも知らないんですよね。地元においては、燕と三条は別だという考え方があるんですけど、東京からは一緒に見られていて。そういう地域性みたいなものというのも曖昧な部分があるから、その中でどういうふうに地域区分を考えていくのかというのもデザインの考え方の一つの大きな指針なのかなと思っていて。
新山:本当に仰る通りだし、凄くタイムリーな話です。僕は「燕三条」みたいことで良いと思っているんですよね。もちろん、「燕三条市」と間違えられるみたいなこともあると思うんですけど、結局誰かが行政区分で分けただけの話で、その前から燕三条というのはカトラリーや高級食器の街としてやってきたのは事実で、行政区分を外せばそりゃ「燕三条」という名前になるよねというのは健全だと思うんですよ。
自分たちの街にしても、実は鯖江市と越前市というのは犬猿の仲というか、自治体同士がやたら仲悪かったんですよ。だけど、そこで「RENEW」という工場見学のイベントが功を奏したというか、もともと民間としては行政区分など関係なく普通に仲が良いし、何だったら「RENEW」をきっかけにメチャ仲良くなったりとかもして。
ムーブメントになってきた時に、たまたま両市長が変わったタイミングで新しい市長同士が一緒に飲みに行って、もう行政区分とか言っていたらダメだよねといった感じで、「燕三条」ではないけど、「越前鯖江」みたいなエリア名としてつけて、一緒にやっていこうぜとなって。いま僕が取り組んでいる仕事で「越前鯖江デザイン経営スクール」というのをやっているのですが、これは越前市と鯖江市が歴史上はじめて2市共同で取り組むプロジェクトなんです。そのきっかけが「RENEW」であることは間違いなくて、ものづくりが行政を変えたみたいな、地味だけど凄いことが起きたなと思いましたね。
こっちの方が絶対正しいからと言って無邪気にやりまくった結果、そういうことが実現できたというのは僕にとっても成功体験になっていますし、その時くらいから「街って政治家にならなくても変えられるや」ということを凄い意識するようになったんですよね。街というのはなんやかんやで政治にかなり関係すると思っていたけど、市民運動というか、産地運動かもしれないですけど、そういうものが街を変えたというのは、それこそ課題先進地のひとつの良い事例になったんじゃないかなとは思います。
原田:街を変えていける感覚が持てるのは、やっぱり規模が大き過ぎず、デザイナーとして関わりしろが大きいからというのがあるのだと思います。山田さんが仰っていた地域をどのくらいの範囲で捉えるのかという話にも繋がりますが、自分が活動している場所をどう捉えるかというのは結構重要な気がしていて。
よくローカルのデザインという言い方をされますけど、ローカルというのは別に地方とか地域だけの話ではなくて、都市部にもローカルはあると思うんですよね。自分の身の回りとか足元とか関係していける範囲というのをどう定めるのかというのは地域で活動していなくても重要なことのような気がしていて。自分がローカルに根ざしてデザインをしているという考え方をすることで、デザインの考え方はだいぶ変わる気がするんですよね。それこそ循環のサイクルを考えてみるとか、適正規模なデザインって何だろう? みたいなこととか、たとえ都市でデザインをしていても色んな見え方が変わってくるところが結構ある気がしていて。いまはどうしても東京とかで「街」みたいな話になると開発の単位として捉えられがちだと思うんですけど、もう少し地に足の着いた、関係性がちゃんと見えているローカルとして、自分が立っている場所を認識することは凄く大事なのではないかと思います。
新山:そうですね。例えば、下北沢のBONUS TRACKとかは度肝を抜かれたというか。再開発とか開発フェーズの中ではかなり抑圧された都市計画になっていると思うんですけど、ハード整備だけではなくて、コミュニティづくりも含めて、僕はあれを見た時に、それこそローカルの意識が変わったというか。清澄とかも良いメンバーたちが素敵な動きをしていたりとか、別にローカルというのはいわゆる地方や東京ではない場所だけの話では全然ないんだなというのは感じますね。
地域の価値を高める編集の力
原田:前回も紹介した「インタウンデザイナー」の定義で、「広義のデザイン視点を持って、その土地の資源を活かした最適な事業を行うことで、地域をあるべき姿に導く」というものがありますが、特に「土地の資源を活かした最適な事業を行うことで、地域をあるべき姿に導く」という部分は、地域の文脈や歴史などもともとあるものをいかに紐解いていくのか、それをどう編集していくのかといった力が求められる作業なのかなと。最近はローカルのデザインと同時にローカルにおける「編集」というものも注目をされていて、少し前ですが「ローカルメディア」みたいなものが単に地域の情報を発信するだけではなくて、地域にあるものを地域の人たちと掘り起こすためのひとつのツールになっていたりします。地域に目を向ける時に編集的な感覚は凄く大事だと思いますし、新山さんがやられている活動もデザインではあるけれども、かなり編集的な要素が強いんじゃないかという気がしています。
新山:結果的にそういうことは多いと思うし、例えば「RENEW」という工場見学のイベントも、ものをつくっている工場というのはすでに地域にあったものですよね。でも、モノが売れていない、廃業する人が多いという状況の中で、現状としては下請けの仕事をして、それがなくなったらそのまま仕事がなくなるとか、頑張って百貨店に売りに行っているけど、その間は手が止まっていますと。そういう中で伝統工芸をどうやって伝えたら良いんだろうということを考えた結果、発想の転換じゃないですけど「来てもらった方がいいんちゃう?」みたいな考え方になったんですね。来てもらえば、モノがどうつくられているのかとか、そういう背景みたいなものをちゃんと知ってもらえるし、街としても、ものづくりの真髄みたいなものを知ってもらって、見てくれて評価されることで意識が変わると思うんですね。
そういうことも凄く大事だし、お客さんも福井なんて来たことないという人がほとんどだと思うのですが、来てもらって「メチャおもろいやん、この街」みたいなことが生まれるんじゃないかということで「RENEW」をやったという話なんです。結局グラフィックデザインとかやるのはたかが知れていて、そうじゃなくて工房に来てもらうことで意識を変えることができた。すでにあるものをちゃんと拾い上げて、どうやったら伝わるだろうという作業というのは、もしかしたら原田さんが仰るような編集的作業だったんじゃないかと言われながら感じたところはあります。
山田:結局のところ100円の包丁を1万本売るよりも、1万円の包丁を100本買ってもらった方が工場にとっては幸せじゃないですか。それだけの価値があるのかどうかというのはなかなかわからないけど、工場に来てもらうとわかる。どこかで日本というのは、安くてもいいやという考え方が蔓延してしまったところがあるけど、やっぱり良いものは適正な価格でちゃんと売っていくものなんだということをつくり手側も認識を改めた部分もあるし、そういう状況をどうつくっていくのかということがこの10年くらいで新山さんがやられてきた活動もそうだし、他の地域で起こってきた活動というのも皆さんそこを凄く考えて動いてきたような気がしていて。それがある種の編集の力なのかなとも思います。
新山:そうですね。いまあるものに新しい目というか新しい視点をちゃんとつくることが、長期的に幸せな関係がつくれると思うんですよね。お互いにとって愛着性みたいなものがちゃんと持てるということはこういう世の中だからこそ凄く大切なことだなと、やりながら凄く感じたところでもありますね。
原田:新しい形をつくるだけではなく、いま話していたような文脈を繋いでいく編集の力もそうかもしれないですし、あるいは新山さんのバックグラウンドである建築的な発想や感覚も凄く大事な気がしていて。例えば、建築では「バナキュラー建築」みたいなことが言われたりしますが、地域固有の風土の中で培われたものとか、周辺の環境の中で成立するものを、ちゃんと計画をしてつくっていくという感覚も凄く大事な気がしているんですよね。形をつくるというデザイナーの職能の周辺にある、何かを繋ぐとか、状況を観察して未来を構想していく力は、地域のデザインに限らず、日本社会の未来を考えていく上で凄く大切になってくるのかなと。
山田:そこにデザイナーが深くコミットしていくとやっぱり面白いというか、新しい可能性が出てきて、それは新しい生活様式も生み出す可能性を持ってるのかなと思います。
原田:今日の話の中にも、等身大の個人として実践できる場としてのローカルがあるという話が出てきましたが、そうした日本各地のローカルで色々な活動をしていくような、ひいては日本各地を面白くしていくような人たちを育んでいく活動として、ここまでにも少し話が出た「LIVE DESIGN School」というものがあると思います。最終回となる次回は、これからの日本を盛り上げていく「熱量」を育んでいくスクールの話をぜひ聴いてみたいと思っています。今日もありがとうございました。
新山:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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