小さくて弱い声をすくい上げ、一人ひとりに思考の場をひらく | 日本デザインセンター・三澤 遥さん 〈3/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。日本デザインセンターの三澤遥さんをお迎えするシリーズ3回目では、デザインの専門性や美意識を社会にひらくことをテーマに、デザイナーと社会の接点について考えます。
「コミュニケーション」に対する恐怖
原田:日本デザインセンター・三澤遥さんをお迎えするシリーズ3回目になります。前回は、三澤さんのプロジェクトにおける「言葉」にフォーカスしてお話を伺ってきました。3回目の今日は、デザインの専門性や美意識を社会に共有していくデザインの活動についてお聞きしてみたいと思っています。
1回目で「わからなさ」からスタートするプロジェクトが多いとおっしゃっていましたが、三澤さんのお仕事にはデザインとサイエンスの間のようなプロジェクトが多く、これらはある種のサイエンスコミュニケーションになっていて、科学的なものを人々に分かりやすく伝えるためにデザインの力が使われていると思います。また、三澤さんがワークショップなどで、葉っぱなど身近に落ちているものを拾い、デザイン的な観点で見てみるという活動もされています。
デザインの力を、商業的なことだけでなく、文化的な部分も含めて一般の人たちに開いていく姿勢があるのではないかと思い、その辺のお話を聞いてみたいと思いました。三澤さんの中では、デザインの力を社会に開いていくという意識はどのくらいありますか?
三澤:私はコミュニケーションや言葉が上手いわけでもないですし、デザインを通してでしか何かつながるようなことができないかもしれません。私にとっては「社会」という言葉は恐怖で、社会とつながれと言われることが学生の頃から一番苦手でした(笑)。 社会とつながるために社会人になって、社会に人と書く「社会人」にならなければいけない。私はサラリーをもらって、社会の中で生きていけるタイプだろうかと。「コミュニケーション」という言葉も凄く怖くて苦手な言葉でした。
「デザインはコミュニケーションだ」という人もいますが、私にとっては一番の恐怖というか、 一番葛藤している部分です。コミュニケーションが得意でやっているのではなく、「つながってみたいけど、どうつながれるんだろう」と。誰かの役に立つ明快なものをつくっている仕事ならいいのですが、私の場合、「これは何の役にも立たないんじゃないか」「何の意味があるんだろう」というせめぎ合いの中で提示しているところがあります。だから、「絶対つながれる」というよりは、「きっとつながれる」という感覚に近くて、堂々とやっているというよりは、念じるようにつくっているというか。どうやったらつながれるかなということを凄く模索しながらつくっているというのが正確ですかね。
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原田:社会とつながることや社会に何かを開くことが目的になってしまうと、それは少し違う気もします。いま三澤さんがおっしゃったコミュニケーションや社会に繋がることへの恐怖や葛藤を持っているデザイナーは実は多い気がしています。コミュニケーションが異常に上手いデザイナーがいる一方で、あまり上手ではない方も同じくらいいる気がします。コミュニケーション自体はそんなに得意ではない人は、いま三澤さんがおっしゃったように、自分が持っているものでどうすれば社会との接点ができるのかということへの問題意識が強いのかもしれないなと思いました。
三澤:そうですね。デザインの専門性というものが自分にあるのかもよく分からなくて。デザイナーだからデザインが得意なわけではなくて、一緒にお仕事をするクライアントの中にはデザイナーよりもデザイン的な思考や編集的な思考を持っていて、私よりもよっぽどデザイン的なことを言っている方もいます。国立科学博物館の担当者の中にもそういうキーパーソンが一人いて、その方に教わる部分もたくさんありました。“デザイン脳”というのはみんなが持っている部分というか、デザインにはそういう力があって、デザイナーだけのものではないと思いますし、国立科学博物館のプロジェクトではそこが凄く通じ合った方がいたから良い感じで流れに乗れたのかなと思います。
原田:それがデザインの専門性と言えるのかは分かりませんが、三澤さんには、世界をどう見るのかという視点の部分と、それをどう伝えるのかという部分に専門性があると思っています。例えば、こういう世界の見方ができるということを、普段デザインに接する機会がない人、デザインの専門家ではない人たちに伝えていく。国立科学博物館のプロジェクトは、結果的にそういうことが実現されていたと思います。

原田:冒頭で少し触れた『視点の採集』というワークショップもそうですよね。色々な葉っぱを拾ってきてみんなで見てみるということも、まさに「こういう世界の見方があるんだよ」「デザイン的に見るとこうだよね」といった視点を、一般の人たちに伝えている場になっていたのかなと思っていて、三澤さんにはそういう意識があるのではないかと思いながら今回のテーマを考えていました。
三澤:そうですね。大それたことはできませんが、制作中には特定の少数の人を思い浮かべて狭い世界でつくっていたはずのものが、蓋を開けてみると驚くほど多くの人に届き、会話が生まれているのを目にして、「あれ、こんなにも広がっている」とびっくりする時もありますね。
弱い声をすくい取れる人でいたい
山田:三澤さんが関わっている展覧会や展示には、ささやかな幸せというものが通底するのかなとと感じます。同じ日本デザインセンターだと、色部義昭さんはまさに王道的な社会に開いていくデザインを、CIやVI、サインなどでされている感じですが、三澤さんはもう少しナラティブな物語性があって、見る人が子どもからお年寄りまで思わず微笑んでしまうような、ワクワクするような三澤さんならではの社会への開き方というのもあるのかなと。
原田:その話は結構大事な気がします。「社会」と言うと、どうしても不特定多数の大きな対象と思えてしまいますよね。でも、三澤さんのプロジェクトは、もう少し個人それぞれが物語を見出せるものだったり、一人ひとりの視点が変わっていくような、個人に何かしらの影響を与えるようなアプローチが凄く多いと思っています。それは、色部さんがやられている公共に近いような社会におけるデザインのあり方とはまた違う、もしかすると対極にあるものかもしれませんが、個人もまた社会であると捉えるなら、そことの接点をどうつくれるのかというところを模索しているのかもしれないですね。
三澤:私自身、一つひとつの声がパワフルなものよりは、むしろ結構弱いかもしれないけれど、凄く大切なことを言っている声が大好きで、そういう作品に出会うと凄く嬉しくなるし、そういうものをつくっていきたいというのはあります。ボソボソ喋っていたり、コソコソ喋っている中に凄く大切なことが混ざっていたりして、それをすくい取れる人でいたいと思っています。それは誰かの一言だけど、実はみんなにとって大切だったり、誰かが聞くべき言葉だったりした時に、それに気づけるデザインができる人でいたいですね。
原田:これまでにその手応えを実感できたプロジェクトはありますか?
三澤:『WHO ARE WE』もそうですし、『虫展』もそうでした。ちなみに、『虫展』の時は「国立科学博物館の方が一人くらい見に来る可能性があるかな」と思っていて、国立科学博物館の方といつかお仕事をしてみたいということもあったので、その方に届くようにつくろうと目標を定めていました。実は全員に届けようということではなくて、博物館の研究者の人が見たら何と言うかなと考えながらつくったら、コンペの依頼が来たんですね。「伝わった」と思って凄くうれしくて、「念じていると出会える」という体験をその時にしました。だから、伝わってほしいとは思っているのですが、伝わりきらないかもしれない。でも伝わるかもしれないという境界でいつも揺らいでいるタイプで、強く力のある言葉では言えない自分がいるのですが、凄く考えながらつくっていますね。

山田:たとえに出すのが良いのかわかりませんが、ブルーノ・ムナーリの活動というのが三澤さんと重なる部分があります。僕たちからするとムナーリはデザインの大巨匠だけど、子どもや絵本が好きな人からすると、やはり絵本作家なのかなという気がするんですよね。活動的にもグラフィックをやっているところもあれば、オブジェクトをつくっているところもある。装丁にも紙を破くような本があったり、ご年配の方でも童心に返るというか、子供心というのはずっとあり続けるのかなと感じさせてくれる人です。
ムナーリは、根源的な喜びや出会いというものを提示し続けました。一方で、戦後にイタリアが民主主義を獲得していく中で非常に重要なデザイナーでもあったわけですが、本人は最後まで凄くユーモアを持って、人間が普遍的に持っている好奇心や喜びと生涯を通じて向き合ったデザイナーだと思うんですね。
社会を大きく変えるためのラディカルな提言も大事だけれど、三澤さんが目を向けているところは人々の生活にあるささやかな喜びで、そこにデザインが関与できることもあるのかなと思っています。三澤さんの仕事は、みんなの目を輝かせるところがあって、それが社会に開かれていく部分でもある。純粋なものをつくる喜びや見る喜びを感じる時、人は「デザイン」という言葉があまり頭に浮かんでいないのかもしれなくて、それがいいのかなと思うんですよね。
原田:デザインという言葉が大事なわけではなくて、例えば『waterscape』にしても、「水槽はこういう見方をするとこんなに美しいんだ、綺麗なんだ」という体験が大事なのだと思います。それを言葉にすると、見る人がデザイン的な観点を獲得しているということなのかもしれませんが、デザインという言葉自体は本当は重要じゃないという気がします。
山田:やはり視覚的な喜びや驚きというものが先にあって、その上で例えば魚類の研究をしている人がそれを見てどう思うかといった対話が生まれたりするところも三澤さんの面白いところなのかなと思っています。ただファーストインプレッションはもう少しピュアなところにあって、それが社会に開かれていくのかなと。
三澤:今度、海外で展示があるのですが、できれば違う言語を話す方や全く違う世代の方、自分の周辺にあまりいないような職業の方とつながりたいと思っています。できる限り噛み砕いた難しくないことで、絵本を読んでいるかのように楽しんでもらいたい。文字が読めない子でも通じるような、世界共通言語のような形での視覚的なコミュニケーションでつながっていきたいという思いはとてもあります。
いまブルーノ・ムナーリの名前が出ましたが、ムナーリさんは色んな面を持っているから、どこで出会うかは人によって違って、プロダクトだったり、オブジェクトだったり、実験的なものだったり、絵本だったりすると思うんですね。私はそんなに小さい頃ではなく、高校生くらいで出会ったのですが、絵本なんだけど絵本以上のプラスアルファの力を感じました。人生の中でムナーリさんのことを思い出すことが何回もあって、自分の「好き」の延長にムナーリさんがやっている研究とかがあるのかなと思っています。私にとって会ってみたかった人ナンバーワンなので(笑)、もっと早く生まれていたら会いに行きたかったなと思います。
継承でも何でもないですし、大きなお世話だと思うのですが、やっぱり私は多大なる影響を受けていて、デザインの良いところはモノが残っていくことだと思うんですね。絵本にしてもそうですし、おばあちゃんが読んでいた本が孫に読み継がれたり、椅子も100年くらい大切に使えば持つかもしれない。もしかしたら、私がいなくなった世界で誰かが『HIHI DADA』に座って楽しく暮らしているかもしれないと想像すると、デザインは一過性のものではなくつながっているものだと感じます。良いと思ったものを未来へつなげていける、その一員になりたいという思いは凄くあります。

“その先”を考えるきっかけをつくる
原田:仮に届く人数が多くなかったとしても、一人の人に届いた時のうれしさは、先ほどの国立科学博物館のエピソードのように非常に大きいものだと思います。その届いた先にいる人にどのような感情を持ってほしい、あるいはどのような変化が起きてほしいといった「作用」まで考えることはありますか?
三澤:自分自身の体験で、凄く素晴らしいプロダクトの展示やアートの作品を見ると、ひれ伏すというか何も考えられなくなって、「凄かった」という感想だけで終わってしまうんです。でも、できれば自分が関わる展覧会に関しては、その先でみんなが考え始めることが凄く大事だと思っています。「凄い」が感想になるよりは、「だったらこんなものをつくってみたらどうかな」とか、帰り道に石ころを見てブツブツ喋りかけたくなるとか、二次発生的にそれぞれの方の人生につながっていくようなものにしたいということをチームの中でよく話しています。それができているかなという話をずっとしていますし、凄いものをつくるのではなく、その後も考え続けるきっかけになるようなもののひとつになれたらいいなと思ってつくっています。
原田:やはりそれは凄くデザイン的な行為というか、デザインというものを一般の人に広げるという意味で凄く真摯な姿勢だなと思います。考え続けることや、視点を変えてみることというのがまさにデザインの力だと思いますし、そういう意味でやはり三澤さんはデザインの力を開いている方なんじゃないかということを、今回の話を聞きながら思いました。
これらは一般の方に向けてのアプローチになると思うのですが、一方で三澤さんはデザインを学びたい人たちに教える機会もありますよね。
山田:4月から武蔵野美術大学に戻られるんですよね。
三澤:はい。学生さんには申し訳ないのですが1年間お休みをいただいていて、4月から戻らせていただきます。これまで3年間、基礎デザイン学科で学生のみんなと接してきて、大学2年生には少し難しいかもしれないお題なども出していました。かなり手を動かすお題が多くて、「考えながらつくり、つくりながら考える」を繰り返すようなことが多いのですが、自分でつくれたという達成感も大事なのですが、せっかく横で違うものをつくっている人がいるので、他の人の作品をしっかり観ることがそれ以上に大事だと思っています。それをちゃんと分析できるようになることや、何が良いと思ったのかを観察できるようになることの方がより大事だということを伝えています。
同じテーマなのにそれぞれが違うものをつくることを当然のように思っているけれど、よく考えると不自然じゃないですか(笑)。みんなつくるものが違うという当たり前のようでいてとても不可思議なことが起きている。それを意識的に見てみると、自分のつくったものと、それ以外のみんなのものを見た時の吸収量が変わるんです。自分のものだけに向き合い続けると、どうしてもその範囲での発展しかないのですが、他の学生のものを見た時に、稲妻が落ちるような衝撃があるということを知るべきかなと思っています。私自身の人生を遡っても、自分の作品からは達成感を得たことくらいしかなくて、意外と覚えているのは他人の作品や先生が見せてくれたものだったりするんです。そこで色々な感情をうごめかすことが大切だと思うので、それを伝えていますね。

山田:例えば建築家というのは、社会をポジティブに変えていくというスタンスが強いじゃないですか。社会に対してかなり強烈なアクションをするので、そこを考えざるを得ないかなとは思うのですが、ただ、上の世代の人が切り拓いてくれたから、いまやるべきはもうちょっと繊細なところでもいいのかなという気はしているのですが、その辺を三澤さんはどう見ていますか?
三澤:実は私がデザインの道に行くきっかけは安藤忠雄さんで、一番最初にものをつくる人で興味を持った方でした。安藤さんは凄く強烈でエネルギッシュで、たくさん本も読んできました。そういう方が切り拓いてきていることや、原(研哉)さんのことも近くにいるだけでも得られているものが多いと思います。原さんだけが奥の部屋で電気をつけて何か執筆しているのを見ると、「もっとやらなきゃ」と思ったりします(笑)。そうした凄みもパワフルさも分かりますが、原さんが「自分の部屋では全く違う方向でやってくれ」とラーメン屋さんのたとえで言ってくれていたように、私はどこを見るべきなのか、時代が動く中でどこに敏感になるべきかを意識しています。「白か黒か」というよりは、揺らぎ続ける中でどこにでもはまっていけるようになっておくことが問われていると思いながら仕事をしています。
また、大きな一言ではなく、小さな言葉を集めてくる力も凄く大切だと思っています。「観察」と言うと実験的な響きがしますが、言語化できない部分での観察だったり、単にものの変化だけではなく、作用し合っているものの間を読み解く力、関係ないと思っていたものが関係していることを想像する力も含めた観察だと思っていて、そこを考えていく時代なのかなと私なりには捉えています。
原田:「社会」や「デザイン」は言葉として大きいですが、その中には色々な要素が含まれていて、個人ということもそのひとつだと思います。コミュニケーションが苦手という話もありましたが、デザイナーという仕事をするからには、何かしらとつながってコミュニケーションしなければならないという側面はあると思います。ただ、その関係性のスケールには色々な形があるのだと感じました。
今回のエピソードは、過去3回の中では一番抽象的なテーマだったかもしれませんが、意外と三澤さんのスタンスが最も見えてくるような回になったのかなという気がしました。
三澤:最初に戻りますが、コミュニケーションが苦手だからこそ、苦手な人の気持ちも分かるというか。放っておいても堂々と行ける人もいれば、色々な人がいて、声を発しづらい人の言葉をすくい取ろうと思う気持ちが生まれるのも、逆説的に言うと自分がそれをできなかったり、大きい声を出すことが苦手だからこそ、そうじゃない方に目を向けるようになったのかなと。コンプレックスがある部分がいまの自分をつくっているところもあるし、凄く難しいのですがそんな気がします。
原田:日本デザインセンターの三澤遥さんをお迎えする3回目は、三澤さんご自身と社会の接点についてお話をしていただきました。次回最終回はまたテーマを変えて、デザインそのものの話というよりは、三澤さんが普段どんなものを集めているのか、コレクションしているのかといった、もしかするとプライベートに近いお話になるかもしれませんが、その辺りを聞いてみたいと思っております。三澤さん、今日もありがとうございました。
三澤:ありがとうございました。
山田:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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