あらゆる関係をつなぎ、「呼吸する建築」をつくる | 長坂 常さん〈4/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。建築家の長坂常さんをお迎えする最後のエピソードでは、あらゆる「関係」を紡ぎ、人の「営み」を生み出す建築のあり方についてお話しいただきました。
参加型建築としてのSayama Flat
原田:今日も建築家の長坂常さんをお迎えしています。これまでのお話の中でも「抜き差しなる関係」という言葉が出てくるなど、長坂さんの建築やクリエーションにとって「関係」というのはひとつ大きなテーマだと思うので、今日はその辺のお話を聞いていきたいなと思っています。
山田:僕にとって長坂さんは建築家であると同時に、デザイナーではないですが、建築とデザインの間と言うか。建築はデザインの中の一部だとも考えられると思うので、長坂さんはそうした上位概念のところまで見ている人なのかなという印象があります。建築とデザインというのは別の村のようにも見られがちですが、もっと大きな国の中に入っている別の村だとすると、長坂さんの活動というのは国の方から行われているような感じもしていて、その辺はどこまで自覚的なのかというのは気になる部分ではあります。
原田:それで言うと、長坂さんが手掛けられたSayama Flatというのは、色々な壁を取り払ったことによって普段だったら繋がらない和室と洋室がつながっていくようなところがあって、それ自体が凄くデザイン的だなと思いました。デザインというのは、本来関係ができるはずのものが何かによって断絶されている中で、それらを新しい関係につなげ直すような行為かなと思っていて、そういう意味で凄くデザイン的な建築だなと。
山田:皮肉なことにSayama Flatは影響力が大きかった分、形だけを模倣した空間というのが相当増えたと思うんですね。その時に、大事な考え方の根幹があまり継承されないまま、「施工費が安く済みそうだからやってみるか」という感じだったのかはわかりませんが(笑)、結構模倣作も多かったなと。でも、本当にフォーカスすべきは、「なぜあれをつくったのか?」「なぜああいう風に空間を再構築していったのか」ということですよね。もちろんきっかけは、低予算だというのが大きかったとは思うのですが。

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長坂:あれ自体はそこまで全部見通しが立っていたわけではなくて、現場にバールを持っていったところから始まっているんですね。意外と解体だけでいけるね、カッコ良いねということがあるわけですが、同時に減らしていくことで何かしらの不都合が色んなところで起きる。「そこはもう自分たちでやってくださいね」とかなり自分勝手な話で。普通賃貸は手を入れていはいけないけど、手を入れてもいいですよというルールにした。それをきっかけにみんなが凄い喜んで、全国からあの場所に移住してきて住んでいて、楽しそうに足らない部分を足したり、色を塗ったりしているのを見て、いいなと思ったんですね。それまでは、自分が設計したところに人の洗濯物やイケてない家具があったりすると、他人の家なのに「けしからん」と思っていたんです(笑)。でも、Sayama Flatは初めてそうじゃなく見えて、凄く楽しそうだし良いなと思ったんです。それがきっかけで、「参加型の建築ってあるんだな」と自覚したし、そういうことを自分も喜べるんだと思ったんです。それまでは、「こういう建築家になりたい」という欲求や、「こんなソファを置きやがって気にくわん」みたいなマインドだったのですが、ここから自走する建築というものを長い時間かけて模索するようになったんです。
建築というのは自分が最初から最後まで建てたものが残り、そのまま朽ちていくと考えていたのですが、僕も人の建築を触るし、僕のものもきっと触られるだろうし、そういうものを受け入れた瞬間にちょっと楽になったというか。じゃあ何をしておくかということを考えるようになったのは、本当にSayama Flatが大きなきっかけになったと思います。
「呼吸する建築」をつくりたい
山田:東京都現代美術館の仕事なんかは、常さんの家具が入ったことで空間が凄く変わりましたよね。凄く端正な既存の建築や空間には手をつけられない中、その魅力を損なわずに凄く居心地が良い空間へと変わりましたよね。
長坂:あれは自分ながらに凄いなと思いました。凄くイカツイ怒られそうな建物だったじゃないですか。それが凄くゆるい、どこに座っても大丈夫そうな顔になりましたよね。
山田:凄くフレンドリーな空間に変わって。
長坂:僕の予想以上でしたね。
山田:これはスキーマの仕事の中でも結構エポックな仕事の一つだなと僕は思っていて。家具はメチャクチャ役に立っているんですけど、実は一番仕事をしているのは、協働されたアートディレクターの色部(義昭)さんで、グラフィックがあんな膨大な量あったのかということも取材を通して色々お聞きして。実はサイン計画も凄く効いていて、それらも含めてスキーマが全体の指揮を取っていて、本当に良い空間だなと。

原田:ちょっと補足をすると、什器とサインが融合したようなものを色々つくられていて、もともとある建築には手を触れていないけれども、什器が移動させられるようになっていて、そこに人の新しい動きや活動が生まれるようなもので、長坂さんはそれを「インターフェース」と呼ばれているんですよね。そういうものをつくるに至った一つの着想として、パリなどヨーロッパの広場みたいなものがあるんですよね。東京都現代美術館の仕事では、そこに来館する人たちと建築を繋ぐという意味での「インターフェース」で、これはヨーロッパの広場における都市と市民の活動を繋ぐインターフェースというものが着想源になっている。こうした活動を促していくようなデザインというのは、先ほどのSlayama Flatにおける人やモノが入ることで成り立つ建築という話に通じるものだと思います。
そもそも活動を促していくというところは、ここまで話には出ていないですが、長坂さんご自身のバックグラウンドにも実は凄くつながっているなと思っています。もともと長坂さんは音楽、レゲエが好きで、音楽に関わる人たちが活躍できる舞台をつくりたいというところから、建築だったり裏方の仕事にまわったという意味では、人々の活動を促す舞台をつくるということはSayama Flat以前から実はベースとしてずっとあったのではないかという気がします。
長坂:そういうところが好きなんですよね。例えば、本当に夏のパリとかにいると、「この人たちはなんて楽しそうなんだ」と思うんですよね。それに刺激を受け、自分なりに解釈するために「なんでなんで?」ということを繰り返していくうちに見えてくるものがあって、それがハンドリフターを使った家具たちだったり、ポールシステムだったりという結果なんです。
もともとレゲエが好きで、何か音をガンガン出せる場所はないかなと江戸川と運河の堤防がある中側に行って、そこは音が絶対に外に漏れないのでその河原でガンガン音を出しながら夜通し遊ぶということを高校卒業したくらいからずっとやっていて。それがだんだん拡張して、色んな祭りに足を運ぶようになって、そこからですよね。こういう人たちといつまでも遊んでいるためには自分に何ができるんだろうということを考えたのだと思うのですが、歌を歌えるわけでもないし、楽器を鳴らせるわけでもない。僕がこの人たちとどう楽しんで遊べたら良いのかということを多分考えたんだと思う。そこからしばらく遊ぶことを絶って、勉強するという期間を設けたのですが、またそこから再びそういうものと絡み合って遊ばせてもらっているのがいまなのかなと。
最近もう一つでてきているのは、「呼吸する建築」という言葉なんです。最近、銭湯とか温泉とか関わっている中で、「僕は何であの建物が好きなんだろうな」と考えるんですね。窓が空いていて、湯気が立っていて、浴衣を着た人たちがちょっと外にはみ出して出てきて、ビールを飲んで楽しそうにしている。建築は動いていないけど、周りに動いている感じが出ている。やっぱりこういうのが好きだなと思っていて、音楽イベントとかで人が群がっているのとか、パリの人たちが凄く楽しそうだなとか、基本的にはそういう空気、バイブというか、そういうものが好きで、それをつくり出すきっかけとして建築に何かできることがあるなら、それをどう活かしたらそういう役に立てるのかなというのはやっぱり常々考えているところで。

「建築」よりも「営み」を見ている
山田:マージナルと言うと少しネガティブかもしれませんが、常さんが手掛ける空間というのは、中間領域的なものというか、室内であっても半屋外的というか半分空いているような空間になっていますよね。庭にベンチを置いてそこで飲んでいるような感覚、気持ち良さがスキーマの空間にはあって、例えば黄金湯なんかもサウナの外の空間というのがやっぱり人気の一つだろうなと思うんですね。オープンエアーになっていて自然の風が入って気持ちが良いんですよ。タイやベトナムに行った時の外でベンチに座っている感じというか。
長坂:それそれ。僕は大学時代にタイに行ってなんて羨ましいんだと思ったんです。簾の先に室内が見えて、そこでテレビを見ながらご飯を食べていて、音まで漏れている。あの行き来する感じが憧れで、でも日本に帰ってくると寒さ暑さが厳しかったりしてなかなかそれができないというところの戦いをずっとやっているような気がします。こないだ沖縄でビラをつくった時も、まさに「沖縄ならできるかな」ということを考えたやったものだし、たしかに言われてみるとそれが結構僕のベースにあるかもしれないですね。

山田:パリのセーヌ川沿いで夏にビールを飲みながら歩いていたり、公園の緑色のベンチに座って噴水を見てボーっとしている瞬間と意外と変わらないというか、タイとかで感じる気持ち良さはきっと一緒なんですよね。
長坂:本当ですね。そこで着目をしたんですよ。パリというのは、一晩外に家具を置いていたら一瞬でなくなるんですよ。ルールも厳密で、境界というものに凄く意識的じゃないですか。扉もガチャンと締めて鍵を掛けるし、全然マージナルじゃないんですよ。でも、ひとたび夏になって人が溢れ出すと、あんなに境界をぼやかしているかのような風景ができるのかと。ましてや古い建物だから絶対にさわれないじゃないですか。開口だってほとんどいじれない。そんなところでああいう人並みがつくれているのはなんでだろうと考えて色々研究していたんですよね。
ハンドリフターとかを見つける前は、色んな写真を撮ったりして研究していたのですが、例えば日本は室外機のちょっと出た脇に植物が置いてあったり、電柱があったりして、ちょっと影を見つけては染み出していくというか。僕らが小さい頃に見ていた風景はやはり凄く居心地が良かった。みんな寛容だし、外も中も横断しながらみんな楽しんでいて、それが僕が小さい時の東京や日本にあったと思うのですが、かたやフランスはビシッとしていてちゃんと椅子が外に出ていてカフェができている。僕は「アンビギュアス・ボーダー」と呼んでいたのですが、パリに「アンビギュアス・ボーダー」は見つかるのかというテーマで資料をつくったことがあって。でもなかなか見つからない。市外に行けばそういうところもちょっと出てきますが、市内は完璧につくられていてそれがない。そこからパリと東京の違いを考えるようになったのですが、その後に京都芸大のプロポーザルに取り組んでいる頃に頻繁にパリに行く機会があって、「何でこんな賑やかさが生まれているんだろう?」というところから初めて気づいたのがさっきのポールシステムやハンドリフターだったんですよ。そんな変遷を経ながら探求を続けている感じはありますね。でも、その前はたしかにタイだったというのはいま気づいた(笑)。
自分には好きな営みというのがあるんですよ。多分建築ではなくて、好きな営みがあって、それをどうつくるのかということをずっと考えているんだと思います。建築家が営みをつくるなんてというのが僕らが学校で教わっていた頃のことで、「植物に頼るな」「そこに人を入れれば良いと思うな」と散々言われて。「建築家は建築をつくれ」と。それからいまは全然ちがう状況になってきていると思うんですけど、僕はずっと建築というより営みを見てきているんだなということが、いまタイの話で合点がいきました(笑)。

いかに基盤をつくれるか?
原田:いまデザインの世界では、そもそもデザインが統制・統制するものというところから、使う側に委ねていくようなもの、介入できるものをつくっていこうという流れがあるような気がしていて、長坂さんにおける使い手に委ねる建築や、活動を促す空間づくりというのもそうした流れと共鳴するものだと感じています。でも、それはなかなか難しいところでもあり、制御・統制しないデザインや建築は何をするのかという時に、ある種の基盤をどうつくるのかというところが結構大事かなと思っています。もしかしたら「呼吸する建築」という話ともつながるのかもしれませんが、活動を促したり、使い手に委ねるとは言え、何かしら基盤は必要だという話があると思うのですが、長坂さんはその基盤づくりが凄くお上手なんじゃないかなと。そこの考え方や意識されていることがあったらお聞きしたいなと。
長坂:まさにさっきのパリの話ですよね。ルールの組み立て方ということをちゃんとして、自分たちの外に向く気持ちをちゃんと実現できる状況をつくろうと。民主的なんですよね。みんなでちゃんとそれをルール化し、共同で物事を考えていこうという。非常に計画的にできている状況というのは、かつての日本やタイとかで染み出しちゃっているというところとは大きな差があって。僕らは残念ながらもうそこに戻ることはできない。やはり自分たちで計画してつくっていかないと、僕らがもうそれを得る機会はないのかなと感じたんです。だからちゃんと計画しようということを考えています。
どうやったら浴衣の人たちが街に出ていくのか、窓が開いて人が行き来するのか。ちゃんと計画しないと、多分揺らいだ空間はつくれないという自覚ですよね。特にいまはもっと厳しくなっていてサッシ一枚すら変えられない状況になっている時代に対して、いまやっているプロジェクトはそうではない新築のあり方を考えられないかということを提案して考えたりしていますが、たしかにそこは大事な部分です。どうやってちゃんと計画してできるのかというのは考えなきゃいけないし、楽しんでいますけどね。

山田:1回目のエピソードから度々TANKという会社の名前が出てきていますが、日本でも有数のクリエイティブな施工ができる会社です。TANKもそうだし、長嶋りかこさんもそうだし、色部さんもそうですが、みんなと手をつなぎながら進んでいくというところもスキーマらしいスタイルだなと。いまはそれが当たり前のことというか、時代の要請としてもそこにヒエラルキーはないし、みんなで一丸でやっていくものでしょというのが当たり前だと思うのですが、少し前までの建築家というのは先生というか、なかなかそういった関係性が難しかった気もします。
長坂:やはりその頃は、「どう上に立つか」「どう先生足り得るか」「なめられちゃならん」みたいなところはあったと思うのですが、いまそんなことをスタッフに言っても「何言ってるんですか?」と(笑)。グラフィックでもなんでも僕は切り離されちゃうと気持ち悪いんです。だから、とことんまで彼らに投げる前の条件を我々の設計しているものから導き出して、何をこの人たちにやってもらいたいのかということをある程度筋書きをつくってから相談するんですね。誰にやってもらいたいというのも当然それによって変わってくるし、できるだけその人たちのポテンシャルを引き出せる条件をちゃんと設定できるかということはいつも考えているつもりです。
建築だけできても何も活きないので。別府でいまビルを作っていて、風俗ビルがあったところをどう改修するかという時に、やっぱり入るテナントがちゃんとしていないとなかなか自分たちが描いているイメージに乗っかってこないので、テナントとの関係をつくらないといけないということで、うちのスタッフが10日間別府で飲み歩いて関係を築いて、我々が関係を持てるのは、このネットワークとこのネットワークなんじゃないかとかそういうことを見てきてくれて。実際に入ってくれるところもイメージしながらテナントビルを設計するんです。
なんだったら自分たちで告知もしながら、その人たちともコンタクトを取って入ってもらえる条件をすり合わせていく。箱だけただつくってもまったくもって活きないというのは僕らの考えるベースにあって、だから、もちろんグラフィックもそうだし、つくり方もそうだし、入ってくるテナントもそうだし、そういうすべてが関係づいてこそ初めて建築ができると思っています。ずっとプロセスを外に垂れ流しながらフィードバックを得てつくっていて、全部関係しているものだなと思っています。だから、そこの関係づくりというのは映画のシナリオをつくるような感覚というか、大事なものだと思っています。

原田:ここまで全4回にわたってお話を伺ってきました。長坂さん、どうもありがとうございました。最後にお知らせごとや告知がありましたらお願いします。
長坂:まずボフミルですかね。もともとは年末までという話だったのですが、来年半年追加してここで営業していくことになりました。日本に拠点を構えるべく、いまどういうあり方をしたらボフミルの新しい形ができるのか、どういう場所だったら彼らの求める場所になるのかということで場所探しをしています。面白い場所があったら紹介してほしいのと、ぜひアイデアを提案しにカフェに来てもらえると良いかなと思っています(笑)。
来年2月までGA galleryで、我々がいまカリフォルニアのオハイというところで設計させていただいている奮闘中の住宅の展示をしていますので、他の建築家の作品も含めてぜひ見に行っていただきたいです。あともうひとつ、1月から今度はロンドンに行ってAA Schoolでの展示があります。共同展示なのですが、僕らは相良(育弥)さんという茅葺き職人の方と一緒に茅を使った小屋というかベンチというか、そういうものを設計していまして、それを展示することになっています。1月16日から展示が始まるので、もしロンドンに足を運ばれる方がいたら、ぜひ見てください。
原田:今日はどうもありがとうございました。
長坂:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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