外部からの「稲妻」がアイデアを呼び覚ます。三澤遥のマイコレクション | 日本デザインセンター・三澤 遥さん 〈4/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。日本デザインセンターの三澤遥さんをお迎えするシリーズ最終回では、三澤さんのクリエーションの源泉にもなっている“マイコレクション”について伺いました。
一人遊びに誘ってくれるモノたち
原田:日本デザインセンターの三澤遥さんをお迎えするシリーズ、今日が最終回となります。前回は、三澤さんのデザインの活動と社会の接点について伺ってきましたが、最終回は、「三澤遥さんのマイコレクション」というテーマで聞いてみたいと思っております。
三澤さんは日頃から、制作のヒントになるようなものを収集されているイメージがあります。例えば、2014年の『TAKEO PAPER SHOW』で発表された『紙の花』も、鉛筆の削りかすを作品にされていて、削りかすのコレクションを集めているという話を何かで読みました。そうした三澤さんの収集がものづくりにどう繋がっているのか。そのあたりを伺えれば面白いなと思っています。日々、三澤さんはどのくらいモノを集めていらっしゃるのでしょうか。
三澤:「収集しよう」と意識しているわけではないのですが、会社でも家でも机の周りにはモノがたくさん置かれています。先ほど挙げていただいた削りかすもそうですし、石や枝だったり、工場で見つけた削りくずだったり、「これ綺麗ですね、もらってもいいですか?」と言って、職人さんからたくさん木くず、おがくずのようなものをもらって帰ったりということをしていますね(笑)。
原田:やはり、普通の人が集めるものとは少し違いそうですね(笑)。

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山田:ここまでに何度か話が出ている21_21 DESIGN SIGHTでの『Material, or』では、三澤さんはもともとグラフィックの担当で、出展作家には入っていなかったんですよね。21_21 DESIGN SIGHTはリリースが早いので、ビジュアルを先につくらなければいけないという難題があり、そこで三澤さんが千葉の海岸で石というか、漂着物を拾われたんですよね。その中には人工物と天然物がくっついたようなものなど本当に色々なものがあって、それを使ったグラフィックを提示されました。それをミーティングの時に見た誰かが「これ展示しないの?」とおっしゃって、ディレクターだったTAKT PROJECTの吉泉聡さんによって、「ぜひやりましょう」という流れになりました。その作品の展示では、テグスでグリットをつくられていたんでしたっけ?
三澤:ゴム糸ですね。
山田:そのグリッドの中に、三澤さんご自身にしか分からないような規則性でモノが並んでいて。展覧会の中でも大人気作品になって、特に若い方々が膝を折った状態で長い時間ずっと見入っていました。心が遠くへ飛んでいってしまうようなポエティックな瞬間があって、それに多くの人が惹かれていたのだと思います。これはまさに三澤さんのモノを集める目のようなものが、最も顕著に現れた展示だったのではないかなと。
原田:三澤さんの中で、「これを取っておこう」と決める基準は直感なんですか?
三澤:そうですね。近くにいたいという感覚ですね。時系列もバラバラに集めてきたモノを、例えば「透明であること」という共通点だけで隣に置いてみたり、素材的に近いものを横にしばらく置いてみて、配置や距離、あるいは何の上に置くかを変えてみるんです。ただそれを持っていることにあまり喜びはなくて、モノの影やモノ同士の接点を観察していく中で自分の思考が遊び始めるというか。それがモノをコレクションをしている意味なのかなと思っています。
原田:面白いですね。モノ単体の形の美しさだけではなくて、モノとモノの関係性を見ているのですね。
三澤:そうですね。角にきれいに寄せてみたり、束ねた紙の間に一枚だけスッと挟んでみたり、コレクションしたモノ同士で共通性や違いを探しながら、一人遊びをしているような状態ですね(笑)。
コレクションの背後にある思考
原田:『DESIGN MUSEUM JAPAN展』で、三澤さんは南方熊楠の収集にデザインを見出すという展示を発表されていました。やはり、その人がどんな思考で、何と何を組み合わせて集めているのかといったところへの個人的な関心が強いんですかね。
三澤:そうですね。南方熊楠の標本も開ける向きがあって、「どちらが正なのだろうか」と思うんですね。先ほどの『ものうちぎわ』なども、砂浜で出合った時は向きなんてないはずですが、いざグリッドに並べてみると、「こちらを上にするべきだ」とか「側面を見せるべきだ」という向きがなんとなくあるんです。グリッドに収納するようなイメージで、どこに置くか、線の真上か、あるいは線と線の間に挟むのか、それとも線と線で挟んで一対一で置こうか、90度回転した方が線とより近くなるからからいいかなといったことを考えていくんです。カニの甲羅の横にそっくりな石の色を並べて置いてみて、「凄く両方美味しそうだな」とか(笑)、「茹でていないのになんでこんなに赤いんだろう」と思ったり、そういうことを考えるのが好きですね。コレクションを持っていることに喜びというよりは、並べた時に自分の「大好き」があるという感じです。
原田:面白いですね。
三澤:南方熊楠の標本も、フラットな視点で眺めつつ、「なぜこれとこれを隣同士に置いたんだろう」と、彼の意図や偶然性を想像するのが楽しいんです。産地が全く違うのに似ているもの同士を集めたのかな、とか。単に美しいコレクションを眺めるだけでなく、つくり手の「なぜこうしたんだろう」という問いを追いかけることに、無限の喜びを感じます。
原田:収集の段階では、それほど先のことを考えているわけではない気がしますが、『紙の花』のように結果的にアウトプットに繋がるソースになることは多いのですか?
三澤:創作に繋がることはたくさんありますが、国立科学博物館で先生に出会った時に聞いた「三つの無」という話が心に残っています。「無計画に集める、無制限に集める、無目的に集める」という三つの無が博物館には大事だとおっしゃっていました。
日々蒐集している中で、それが何のために必要かという目的はその時点ではない。とにかく、いつか手に入らなくなるかもしれないから、いまのうちに集めておくという姿勢があるんですね。
無計画というのは、何ヶ月集めないといけないとか、何頭集めたら終わりというのもないということです。また、交通事故で亡くなった動物がいたら回収しに行くというのをとにかく無制限にやると。なぜなら、 一匹だけでは精度の高い研究ができず、多くの個体が集まることでやっと研究ができるからです。
そのお話を聞いた時、勝手ながら自分たちと共通する部分を感じて凄く嬉しくなりました。そういう姿勢で活動している方がいると知った時に、自分たちがやっていることもその一部にいるというか、凄く重なるところがあるなと。「なんでつくっているの?」と聞かれて「わからない」と答えるのと同じで、「何で集めているの?」にも別に意味はない。でも、いつの間にか役に立っていたり、毎日見ている集積の中から気づきを見出すことができたりする。それが創作のヒントになったり、きっかけになる行動なのかなと思っています。
コレクションからアイデアは生まれない!?
原田:その時々でマイブームというか、「最近はこういうものばかり集めている」といった、ご自身の興味が反映されるようなことはありますか?
三澤:ひとつのものをずっと集めるタイプではなくて、例えば砂浜に行っても「貝だけを集める」といったことはしません。「不思議だから持っておこう」という感覚に近いですね。「不思議なもの」が好きで、誰がデザインしたとか、どんな意味があるかといったことは全然大事ではないんです。むしろデザインされていないもの、デザインの匂いがついていないものが周辺にあった方がうれしいので、自分の机の周りには、自分がデザインしたものも、デザイン的な意図が強く感じられるものもあまり置いていません。
原田:最近、何か不思議なものに出合えましたか?
三澤:最近だと、石川県の職人さんのところへ伺った時にいただいた「おがくず」ですね。それ自体もきれいなのですが、削りたての木くずを触った時、ふわっと木の匂いがして、とても軽くて温かかったことに驚いたんです。また別の職人さんのところでは、カンナで削ったレースのような削りかすを回収して帰ってきたりしました。普通の人からしたらゴミかもしれないですし、職人さんにも「何で?」と怪訝な顔をされましたが(笑)、「別にいいよ」と。
山田:まさにその言葉の通り、三澤さん以外の人には全く価値がないものだとしても、三澤さんの中に引っかかるものがあって、それが後で表現にヒントを与えてくれることもある。でも多分、その表現のヒントを日々探しているわけではなくて、直感的に自分の心が奪われたものを集めていて、それが何かの時にふと表に出てくることもあるし、出てこないまま溜め込まれているものもあるということですよね。
『紙の花』があるのでついつい削りかすに目が行きがちですが(笑)、別に削りかすをコレクションしているということではなくて、どちらかと言うと、偶発的に生まれた美しさのようなものに心を奪われているのでしょうね。
三澤:光が当たっている横で偶然生まれてきた産物なんかに美しさを感じると、「自分だけが見つけたかもしれない」と思えてとても嬉しいんです。
山田:『Material, or』ではレンガとコンクリートが混ざった漂着物がグラフィックに大きく使われていたのでしたっけ?
三澤:私もわからないですが、コンクリートとレンガの間のようなものですね。
山田:おそらく、建物か何かが崩れた時にどこかから辿り着いて波に削られたもので、言ってみればガラクタなのだと思いますが、三澤さんのフィルターを通してそこに新しい意味が与えられ、展覧会では多くの人の心を掴んでいました。それは三澤さんのデザインの行為そのものにもつながる部分なのかなと。
三澤:砂浜などはもうすでにコレクションされているところがあると思うんです。砂浜では、出来立てのものから数億年前のものまでが当然のように隣り合わせにある。学生さんの作品を当然のように見てはいけないという話と同じですよね。それを当然だと思って踏みしめるのではなく、一つひとつが全く違う組成、全く違うマテリアルでできていて、全く違う場所から来たかもしれなくて、全然違うストーリーを持っている。誰かが一回拾って落としたかもしれないし、同じものを良いと思った人もいるかもしれないし、素通りした人もいるかもしれないということに思いを馳せる場として砂浜を捉えてみると、全く違うグレーの地面が見えてくる。同じものを見ても全く違って見えてしまうという思考の動きに凄く興味があるんですよね。
山田:そのお話を聞くと、南方熊楠と砂浜は一緒なのかなと(笑)。
三澤:たしかに一緒ですね(笑)。だから好きなのだと思います。私は熊楠について「フラット性」という言葉で話しましたが、それは決して平坦という意味ではなく、すべてを等しく、それぞれにピントを合わせて見ていけるということです。熊楠は誰よりもそのピントが合っている人で、そのように見れる人は実はなかなかいないと思うんですよね。
山田:人間はどうしてもエゴがあるのでヒエラルキーを与えてしまいますが、それを排してモノを見ていく視点がコレクションを形づくっていく部分があるのかなと思うと、面白いですよね。
三澤:おふたりと話していて気づいたのですが、コレクションからアイデアが生まれるということは実はあまりないんです。そもそもコレクションという意識もなくて、集まってくるモノたちが、大体「不思議さん」みたいな顔つきをしていて(笑)、よく分からないものがいっぱい集まっている状態をずっとつくっているところがあります。自分が持っているモノの中にヒントがあるというわけではなくて、むしろ他者との出会いの中で強烈なインパクトのある言葉をもらったり、何かを見たことがきっかけになったり、違うところに落ちた「稲妻」によって何かを思い起こさせられた瞬間にアイデアになるところがあります。アイデアを溜めるためにコレクションをつくっているわけではなくて、日常でやっている手癖が誰かによって揺り起こされる感覚です。自分だけでは何かが浮上することはなかなかないと思うんですよね。だから、色々なことにある意味偶発的に出会っていくことや、「知らない」を無数に浴び続けることによって、常に自分が触っているものと結びつけられるということが凄く大事なのかなと思います。
原田:なるほど。コレクションだけをじっと眺めていても、アイデアは浮かばないということですね。
三澤:そうなんです。
山田:これは色々な人にとってヒントになるお話ですね。
初めてとなるミラノでの個展
山田:三澤さんは今年、ミラノデザインウィークのタイミングで個展を開催されるそうですね。これはどういった展覧会なのでしょうか?
三澤:ミラノで展示するのは初めてなのですが、ADIデザインミュージアムという主にデザインの展示をしている美術館の一角をお借りします。不思議な展示なので、実際に見ていただかないと説明が難しい部分もあるのですが、いまちょうど最後の詰めを行っているところです。これまで日本では多くの展示をさせていただいたのですが、言語や文化が異なる場所でやってみたいなと。モノを見ただけで通じ合えるのか、笑顔で会釈し合えるようなことは起きるのだろうか、ということに挑戦してみたいと思っています。
原田:具体的には、どんなものが展示されるのですか?
三澤:三澤デザイン研究室が発足して11年目になりますが、その中で生まれた『動紙』や、『TAKEO PAPER SHOW』で発表した『一枚』、『Just by』といった作品を展示します。全体にテーマを設けて再解釈・再編集をして、11年間の活動を展示する試みを行います。
原田:これまでの集大成的な位置づけの展覧会になりそうですね。
三澤:そうですね。2018年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで展示した『続々』展に続く展示というイメージです。俯瞰して見ることもできるし、寄って目を凝らしても見ることもできるような、三澤デザイン研究室のこれまでの活動が立体的に見えてくるような展覧会にすべく、いま集中してつくっているところです。
原田:実は三澤さんは以前、コロナ禍の影響でイタリアでの個展が中止になったことがありましたよね。
三澤:そうなんです。作品を載せた船はすでにミラノに着いていたのですが、そのまま静かに戻ってきました(笑)。
山田:コロナ禍が一番深刻な時期でしたよね。
三澤:そうです。毎日ニュースを検索して、開催できるかどうかを追い続けていましたが、結局中止になってしまいました。それから「縁がないのかな」と思って過ごしていましたが、今回ADIデザインミュージアムから呼んでいただけました。
原田:6年越しの実現ということですね。
三澤:はい。
山田:ADIデザインミュージアムは、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計したマイクロソフトのオフィスがすぐ近くにあったり、チャイナタウンなので美味しいバールや飲食店も多かったりと、凄く良い場所ですよね。
原田:会場に行かれる方向けの周辺情報ですね(笑)。
山田:そうですね(笑)。普通に楽しい場所ですし、三澤さんにお伝えをしておくと、 チャイナタウンなので中国の方がやっている本格的な整体や足つぼマッサージも多いので、お疲れの際はぜひ。
原田:そこに行けば三澤さんに会えるかもしれない。
三澤:いや、見られたくないです(笑)。
原田:改めて会期と展示タイトルを教えていただけますか?
三澤:展覧会名は、まだ決まったばかりなのですが、『bit by bit』です。「ちょっとずつ重ねる」「少しずつの変化」という意味ですが、そこには「取るに足らない」という意味も含まれています。でもそれは消極的なものではなく、謙虚な姿勢という意味合いが入っています。強い言葉ではないのですが、淡々とものをつくっていくようなイメージです。これはコピーライターの磯目健さんが言ってくれたことなのですが、『続々』展を英語に置き換えると「again and again」、つまり「AAA」になるのですが、今度は『bit by bit』で「BBB」になっているので、次は「CCC」かもしれない、と(笑)。
会期は4月21日から6月7日までになります。ミラノサローネは4月26日までなのですが、その後も1ヶ月以上会期があるので、海外出張やプライベートでイタリアに行かれる方は、周りに美味しいものもあるので(笑)、ぜひ足を運んでみてください。
原田:日本デザインセンターの三澤遥さんをお迎えする最終回は、三澤さんのコレクションというテーマでお話を伺い、最後にミラノでの個展のお話もしていただきました。11年というお話もありましたが、今後三澤デザイン研究室としてやっていきたいことなどがあれば伺いたいと思います。
三澤:これからについては、今回の展覧会『bit by bit』に込めているので、ぜひ見に来ていただきたいです。言葉とデザインの回もありましたが、簡単に言葉にできないことを形にできるのがデザインの力だと思っていて、自分が取り組んでいることにも言語化しづらい部分が含まれています。だからこそ、『bit by bit』を体験していただくことで、同じ温度が伝わってくれるのではないかと期待しています。
言葉も大切ですが、言葉が引っ張ってくれた先で言葉になりきらないものをつかみたいと思っていますし、モノがあふれる中でつくることの責任についても考えながら日々制作をしています。展示を通してそういうものをお見せしたいですし、毎回少しずつ自分の中で言語化できるようになるので、今回も展示が終わる頃には今後のことをもう少し明確に話せるようになると思います。いつもつくりながら話せるようになっていくというか、言葉を覚えていく感じがあって、最初は全然喋れない赤ちゃんのような状態なんです(笑)。だから今回もつくり終わったらもう少し話せるようになっているかな、というのがいまの段階です。
原田:では、またその頃にお話を聞かせてください。今回の全4回の収録でも、三澤さんの普段考えていることを言語化していただいた部分もありますし、逆に言葉に逡巡するところも含めて、言葉にならない部分というのも伝わる収録になったのではないかという気がします。
山田:一緒に言葉を探っていただいたという感覚があって、それはやはり生でお話をさせていただくからこそ出てくるものだと思います。三澤さんが言葉を選びながら、悩みながらお話しいただいたことが、今回の配信では感じていただけるかなと思っています。それこそが、デザイナーがずっと向き合い続けなければいけない「考えること」と同義なのかなと思ってお聞きしていました。
原田:たっぷりとお話しいただきありがとうございました。
三澤:ありがとうございました。
山田:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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