歴史をリスペクトし、愛着を育むデザイン | 光井 花さん × 高田陸央さん × AATISMO・海老塚啓太さん〈4〉【デザインの手前×DESIGNTIDE TOKYO 2024】
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人がさまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。DESIGNTIDE TOKYO 2024で行われた「デザインの手前」の公開収録シリーズの最後は、登壇者3組によるクロストークの模様をお届けします。
感情的なサステナビリティ
原田:せっかく3組出ていただいているので、クロストークも設定させていただきました。
山田:三者三様過ぎてまとまるのかという気もするのですが(笑)。
原田:それぞれ違うところと共通するところが両方ある気がしていて、先ほどの自然の話は時間軸で捉えると、産地の技術や職人さんが紡いできたものなどともつながるし、今回のテーマというのは自分たち一世代の話ではないという前提があった時に、未来を考えるのと同時に、これまでの時間軸の中でどう自分をデザイナーとして位置づけるのかということは凄く大事な話なのかなと思って聞いていました。御三方それぞれ、他の2組のプレゼンを聞いた感想や全体として思ったことなどを話していただけますか?
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高田:まず、本当に良いキャスティングだなと思いました。2組とも凄く共感ができるし、特に光井さんの産業に対する姿勢も近いですし、先ほどのAATISMOさんの愛着や時間軸の話も凄く共感できる部分がありました。僕がサステナビリティに関して持っている姿勢は、最近麻布台ヒルズを手掛けた建築家のトーマス・ヘザウィックが提唱している感情的なサステナビリティというものです。彼は、愛着を持ち続けて長く使い続けることが最もサステナブルだということを提唱しています。建築においてスクラップアンドビルドされるよりはずっと長く愛されて残った方が環境負荷が少ないという話なのですが、先ほどの愛着の話だったり時間軸の話でいうと、伝統工芸や織りの技術というのは、例えば越前和紙なら1500年前からあるのですが、それがいま眼の前にあるということ、歴史が紡がれてきたことの尊さだったり、それに対する愛着というのは、感情的なサステナビリティにおいては凄く重要なことだと思います。自然素材においても何万年前から時間をかけてつくられてきた石がいまこういう形で目の前にあるということに対する感情は凄く大事なものだと思いますし、感情が大事だということはデザイナーが言わずして誰が言うんだと僕は思うんです。言語化しづらいことでもあると思うのですが、そういったことへの共感が2組とも凄く高くて、まずはその気持ちを伝えたかったのと、このDESIGNTIDEの出展者の皆さんもそこを大事にされている方ばかりなんだなということを改めて感じました。
山田:光井さん、いかがでしょうか?
光井:私は、自分がこのトークの一参加者であることを忘れるくらい、2組の話を凄く楽しく聞かせていただきました。自分はテキスタイルが凄く好きでずっとやってきていますが、テキスタイルというもの自体、人がつくり上げた文化で、人が生まれてから始まったものであるけれど、AATISMOさんの話を聞いて、大谷石の歴史に思いを馳せた時に、そういうことを超えたもっともっと昔からある化石のようなものを布にしてみてもいいかもしれないとか、新しい布への関わり方が湧いたような気がして、凄くインスピレーションが得られたトークでした。
原田:ありがとうございます。海老塚さん、お願いします。
海老塚:おふたりの話を聞いていて、古いものと言ったらざっくりし過ぎかもしれませんが、そういうものへのリスペクトは共通していて共感できるなと思いました。それは多分、結構いまの人たちがみんな持っているものなのかなと。先ほどのサステナブルとリジェネラティブの話で、自然と人間の関わりという話もありましたが、個人的にはそこを二項対立で分けることに凄く違和感があって、「人間も自然の一部でしょ?」と思うから、人間がつくるものも自然物なんじゃないかなと思ったりします。その中で、人へのリスペクトも自然へのリスペクトも持ってものをつくっていくということができたらいいのいかなと聞いていて思いました。
表現欲求と社会課題の折り合い
山田:例えば、光井さんがやっているジャガードの技術は、いまのパーソナルコンピューターの原点になっているんですよね。いまそこら辺で動いているプログラムというのも光井さんが取り組んでいる織りの表現と実は変わらないと言うか、ルーツを辿っていくとそこにいくんですよね。どんな視点でものを見るかによって歴史の読み解き方や物事のつくり方というのは変わらなかったり、海老塚さんがおっしゃるように人も動物なので、これは取材の中でなるほどと思うことがあるのですが、僕たちはつい太古の人は現代の人間より劣っていると勝手に考えがちだけど、全然人間としての時間軸は変わらないので、別にいまを生きているからよく物事を知っているかと言うと決してそんなことはない。縄文を生きた人とかもっと前の時代、有史以前の時代を生きていた人々というのも実はまったく変わらないところがあって。多分その中で生きていくためにものをつくってきたというところでは凄く人間も動物的な生き物で。あまり壮大な話になり過ぎると取っ掛かりがなくなってわからなくなってしまう部分があるのですが(笑)、あくまでも人間もそういうものの中のひとつに組み込まれているということが、リジェネラティブを考えるひとつのヒントにもなる部分なのかなという気がします。
原田:今回のテーマというのは、どうしても抽象的、概念的な話、それこそ壮大な話になりがちですよね。リジェネラティブデザインというのは、より広い視野でものづくりの循環のシステムから考えていかないといけないとか、先ほどの時間軸の話もそうですが、自分の世代だけではなく、過去と未来をちゃんと考えていくみたいなこととか、そういう概念的な話ももちろん大事なことではあるのですが、高田さんがおっしゃった感情のサステナビリティというところで言うと、いまの時代はサステナブルが前提でものづくりをしないといけない中で、周囲からの要請がデザインをする上で凄く増えているというのがあります。そこは大きな問題というか、その中で地球のため、環境のためだけにものづくりをするというのもデザインの可能性を狭めてしまう側面があるなと思うんですよね。
ある種内発的な動機でのものづくりみたいなことが人を動かすこともあるし、社会を変えることもあると思うんですね、結果として。そのバランスはやっぱり忘れてはいけないと言うか、プリミティブなものづくりの楽しさとかワクワクする感じとか、そこと社会がどうつながっていくのかというところのそれこそ関係をどうつないでいくのかというのが、デザイナー一人ひとりに問われているんじゃないかという気が個人的にはしています。
光井:いままさにおっしゃっていただいたことは本当に課題だと思います。新しいものを生み出すことが凄い難しくなっているじゃないですか。モノも溢れているし、素敵なデザイナーの方がたくさんいらっしゃる中で、何を自分が新しくつくるのか。なんとなく面白いとか素敵だったり、きれいなものをいまつくることに意味があるのかなと結構悩んでしまったり、立ち止まることが多くて。でも、大前提としてものをつくったり、色や形で遊ぶことが好きで美大に入ってデザイナーになったわけで。人にパッと見てもらった時の「楽しい!」「きれい!」「素敵!」みたいな感情は絶対に大事で、でもそこには実はこういうことがあって、コンセプトや背景のストーリーがあるよということまで考えてものをつくることが大事だなとは日々思っています。
でも、なかなか制約の中でそれをクリアしながら、なおかつ見た目にも魅力的だというところに行き着くのがどんどん難しくなっていて、クリアすべき課題も年々いっぱいになるし。このDESIGNTIDEではそういうところも考えながら、いつもならやらないような遊びや、どんな人にもアプローチする楽しさみたいなことを考えてちょっとしたチャレンジができました。
原田:そのバランスは難しいですよね。とはいえ光井さんの作品もアパレル業界の課題があって、その制約に対しての答えという意味では、ある意味そこがデザイナーの腕の見せ所でもある。制約だったり、窮屈になっている状況をむしろポジティブに捉えてクリエーションに昇華させることもやっぱり凄く大事なことですよね。
光井:そうですね。でも、本当はきれいな青が使いたかったけど、今回の廃棄生地は赤だったり、コントロールできない部分の難しさはかなりありました。
原田:ありがとうございます。海老塚さんお願いします。
海老塚:ものをつくる時に考えることとしては、つくった時が一番良い状態じゃないものにしたいということです。それをやってしまうと、どんどん古くなったら悪くなって、ダメだから次のものをつくるとなってしまうので。時間を取り込むというか、時が経てば経つほど良くなるようなものは何なのかなと考えています。それが先ほどおっしゃっていたような、ずっと長く使えて愛着を持てるようなものにつながっていくんだろうなと思い、その辺りにこれからのヒントがあるんだろうなとは思っています。
原田:ありがとうございます。時間的にそろそろ締めたいと思います。皆さん、どうもありがとうございました。
クロストークを振り返って
原田:残りの時間でこのトークの振り返りを僕と山田さんでしていきたいと思います。今回はあえて3組それぞれ異なる領域の皆さんに出ていただいたのですが、皆さんの感想を聞いていると、お互いに共感できるようなところもあったようですね。
山田:そうですね。 三者三様で共通する部分もあれば、それぞれで考えている部分もありましたね。ただ、やはり時代が求めるものというか、持続可能性ということについては皆さん共通する意識があるのかなと。
原田:光井さんのトークの中でも、RCAで「サステナビリティとテキスタイル」という課題ががあったという話が出ましたが、いまこの時代においてデザインをする上で、そこがそもそものスタート地点になっていますよね。
山田:常識というか大前提で、いまさらそれを大きく構えることは逆にできないというか。それを踏まえた上で、その先を考えていかなきゃいけないというところになっている感じがしますよね。
原田:今回は3組とも30代前半よりも若い世代の方にお声がけをさせていただいたのですが、新しい手法やテクノロジーを用いているというよりは、光井さんであれば伝統的な裂き織りという技術に着目されていたり、高田さんも伝統の技術である越前和紙で作品をつくられていたり、AATISMOに至っては数千年前の大谷石の歴史に着目していて、どちらかというと本当に古くからある技術や技法を見直したり、素材を再発見していくようなところが面白いと感じました。歴史に対する眼差しというものが共通していて、それが今回「サステナブルの先」という言い方をさせてもらっている「リジェネラティブデザイン」というところにもつながっていくヒントがあるように感じました。
山田:はい。 あと、非常に多くの情報を色々な形で取れる時代になっているところがあり、皆さんそれぞれ参照されるものも非常に幅が広いと思いました。AATISMOとかはまさにそうですが、「そんな古い話を」ということではなく、そこは時間軸で現在とつながっていて、あくまでも自然にそれらを参照されているのかなと。色々な知恵を参照しながら、それは近い過去でも遠い過去でもあまり変わらないというところも面白いなと思いました。
僕は雑誌の仕事が多いので、どうしても綺麗にまとめようと思ってしまうのですが、3組の話を聞いていて、まとめなくてもいいのかなと思うところがあって。それを無理やり多様性という言葉でつなげたいということはまったくなくて、色々な考え方の方向性がある中で、彼らがそうであるように色々な参照元を持ってまた次の時代の方々がデザインやものをつくっていくことが生まれてくるのかなと。その分岐点をいかに広げていくのかということが、今回のクロストークのような機会ではできることが良いなと思いました。DESIGNTIDE自体が本当に色々な態度の方々が出展されていて、そういった色々な人たちの色々な対話が生まれるとより面白いのかなと。そういう意味で今回のクロストークはそれが提示できる場として、凄く良い時間だったのかなと思います。
原田:そうですね。AATISMOのトークで、一般的に言われているリジェネラティブデザインの定義というよりは、自分たちのアプローチや考え方をちゃんと実践していきたいといった話が出たと思うのですが、それは凄く大事ですよね。教科書的にこうあるべきという話もあると思うし、その辺の話は今回のトークでも出てきたと思うのですが、一方で自分たちの活動の延長線上で考えていくことが大事だということは当初から話していたところだと思うんですよね。ちょうど先日完結したNOSIGNER・太刀川英輔さんのシリーズでも話に出てきましたが、このリジェネラティブデザインというものは議論をする上でまだ土台ができていない段階だという気がしていて、それを共有していくという意味でも、最後のクロストークを含めて今回の試みの意義はあったのかなという気はしています。
山田:そうですね。言葉というのは問題を共有するためには凄く重要な機能だと思うのですが、逆に言葉にとらわれすぎると本質を見失ってしまうところもあるので。ただ、今回のテーマである「リジェネラティブ」というのは今後僕たちが考えていかないといけないことは本当に間違いないことですよね。日本にこの言葉がうまく定着するのかというと⋯、結構僕らも何回も言い淀んでいますが、発音しにくいので(笑)。
原田:発音をマスターしないままこのシリーズが終わってしまいそうですね(笑)。
山田:本当ですね(笑)。その言葉自体を目標や概念を共有するための道具として使っていくのが良いのかなと思っています。
原田:クロストークでも少し出ましたが、この「リジェネラティブ」を含めてデザイナーが向き合わないといけない課題がどんどん増えていく中で、社会課題に対する意識だけでものをつくっても、それが人を惹きつけたり、愛着を生むものになるのかというと、なかなかそれは怪しいというところはどうしてもあると思います。また全然違うところで、まさ「「リジェネラティブ」をテーマにしたお店づくりに関わっているというデザイナーさんに話を聞いたのですが、「リジェネラティブ」を押し出したところで人は来ないだろうということになったと(笑)。そこにはある種の真理があるなという気がするし、デザイナーならではの遊び心みたいなものも含めて、自分がこういうものをつくりたいというある種のエゴやピュアなものづくりの欲求みたいなところと、向き合わないといけない課題というもののバランスというか、その両方を考えておかないとデザインというものがどんどんつまらないものになってしまうというのもありますよね。
山田:そうですね。うまく翻訳することであって、あまりそれを目的に、最上段に打ち立てても人の心はそんなに揺さぶられないというところもあって。その辺をどう織り込んでくのかというのはデザインにとって凄く重要な課題ですよね。その辺の難しい綯い交ぜの部分をどう折り合いをつけていくのかという。
原田:たしか山田さんがAATISMOの大谷石について、素材においてストーリーも大事という話をされたと思うのですが、そういったストーリーをどう語っていくのかということもデザイナーが今後より考えていかなきゃいけない問題なのかなと。
山田:そうですね。そこにもひとつの問題というのがあって、ストーリーに絡め取られすぎてもいけないし、物語性にあまりに寄りすぎてもいけないんだけど、やっぱり人の心を惹きつけるためには物語も必要で。白黒つけられない部分があるのですが、今回の3名はそういう意味で凄く素敵な物語を提示しながら、物語に寄りすぎないところもあって、そのバランス感覚というものも現代においては非常に重要な部分かなと思います。
原田:5年後、10年後、どんなデザインの状況になっているのかわかりませんが、今回話したことがそこにつながっていくような話であれば良いなと思います。まだわからないことが多いですが、とはいえいますぐに取り組まなくていけない問題でもあるわけですよね。
山田:そうですね。
原田:いまここで何か答えが出るわけではないですが、一度こういう試みをしたことには意義があったのかなと思います。どうもありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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