技術だけじゃダメ!? AI時代に選ばれるデザイナーとは? | 有馬トモユキさん×土屋泰洋さん 〈2/2〉【デザインの手前×Web Designing×dotFes】
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。有馬トモユキさんをお迎えする『WebDesigning』との共同企画後編は、Dentsu Lab Tokyoの土屋泰洋さんとともに「AIとデザイン」をテーマに議論しました。
AIはデザインの仕事をどう変えるのか?
原田:後編では、Dentsu Lab Tokyoの土屋泰洋さんにも加わっていただきます。
有馬:土屋さんについて私見を述べると、2007、2008年くらいに、僕は土屋さんのブログを心の支えにしていたんですね。インタラクティブの話もあり、アートの話も、音楽の話も、流行の話も一緒に語ってくれるブログで、22、23歳の頃、これが面白いと思っていたものについて周りの人は一切その話をしないという孤独感があったんですよね、インタラクティブに関しては。それをいまのカルチャーとの交差がこの辺にあるんだよと鮮やかに解説してくれるお兄さんが土屋さんでした。土屋さん、よろしくお願いします。
土屋:よろしくお願いします。
原田:前編では、有馬デザイン研究室の話と、新たに有馬さんが出される書籍の話から、デザイナーがこれから何を見ていったらいいのかということを伺いました。後半は冒頭にもお話ししたように、『WebDesigning』10月18日発売の12月号が「AIエージェントとデザイン」というテーマで、このdotFesでもAIツールに関するワークショップやトークがあったと思うのですが、そこに関わる形で、AIがデザインの仕事やデザイナーの役割をどう変えていくのかということについて話したいと思っています。
今回のdotFesでは割とテクニカルな話やワークショップがあったと思うので、この「デザインの手前」のセッションでは、デザイナーとしてのあり方やスタンス、考え方について聞いていけるといいのかなと思っています。
本題に入る前に、まずは土屋さんに簡単に自己紹介というか、今回のテーマであるAIにも関わるところを絡めながら、どんな活動をされているのかお話しいただきたいと思います。

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土屋:私は電通のDentus Lab Tokyoという組織に所属しています。電通は広告の会社ですが、その中でもテクノロジーにフォーカスしながら、新しい体験をどうつくっていくか、新しい領域をどう広げていくかということを色々やっています。
キャリア的にはもともとWebディレクターをしていて、自分でデザインもしていましたが、転職して色々やっているうちに、コミュニケーションそのものをデザインするというより、テクノロジーによってどうコミュニケーションが変わっていくのかということをリサーチしながら、メーカーさんと商品開発をお手伝いするようなことをやってきました。僕も自分でクライアントさんを連れてきて、一緒に同じことを企める人と一緒にやっていくというタイプの仕事の仕方をずっとしていて、会社の中では浮きまっている“こっちの側”という感じです(笑)。
原田:AIというところで直近で取り組まれたことはありますか?
土屋:そうですね。生成AIが凄く話題になっている中で、我々がいわゆるクリエイティブと呼ばれる領域においてAIをどう扱うべきかを議論しようということで、昨年、Dentsu Lab Tokyoの中に「Hallucination Research Group」という小さなリサーチグループを立ち上げました。
有馬:幻覚リサーチグループ。
土屋:そうですね(笑)。AIは「手」を上手く生成できなかったり、ラーメンを上手く食べれなかったりするじゃないですか。そういう、AIが誤解して下手に描いてしまう部分にこそ、実はAIを活用する可能性があるのではないかと。人間では絶対に見間違えないけどAIだと間違ってしまう、そこにいまAIを活用する面白さの種があるのではないかと考え、ハルシネーションの可能性を掘り下げるディスカッションをするグループを立ち上げて、小さな冊子をつくるなどの活動をしています。
原田:AIツール、例えばコーディングエージェントのようなものは、作業を色んな人にとってやりやすくする、いわゆる最適化の方向だと思うんですね。そう考えると、ハルシネーション、AIの誤作動に注目するというのは、その逆のベクトルとも言えそうですね。
有馬:スペキュラティブ感ありますよね(笑)。
原田:そこも含めて、AIとどう付き合っていくんだろうという話をこのセッションでしたいと思っています。AIエージェントが出てきて、それまでコーディングはエンジニアが担っていて、デザイナーとエンジニアが明確に分業されていたものが、その境界がどんどん融け合っていく状況があります。そうするとデザイナー自体の役割も変わるだろうし、デザイナーと他の人たちの協業のあり方も変わっていくはずです。そのあたりがこれからどうなっていくのかを今日はお聞きしたいと思っていました。
それが単純に最適化していく、つまりプロセスが滑らかになっていくだけではないことも、いまの土屋さんの話を聞くとありそうだなと感じています。その辺も含めて、AIツールがどうデザイナーの役割や仕事を変えていくのかというお題を投げて、あとはおふたりに話していただこうかなと(笑)。
有馬:放流された(笑)。
土屋:AIといっても色々あると思うんですよね。いま皆さんがイメージするAIというと、ChatGPTのようなLLMをベースにした、いわゆる生成AIがまず思い浮かぶと思いますし、もっと古く言えば、例えばスマホのカメラを立ち上げて顔を認識するのもAIの一種です。AIの活用方法は色々あるので、一概にAIでどう変わるかというと、さまざまなパースペクティブがあると思います。
ことデザインに関していえば、グラフィックデザインなどでは、基本的に自動化していこうという力学が歴史的にずっとありますよね。例えば、先ほど有馬さんの話にもあったティップスのような話で、PhotoshopやIllustratorを使えば、誰でもある程度デザインができるようになり、さらにこう使うとより便利で速くはかどるという流れがありました。
そこで、強烈なアンチを提案したのがジョン・マエダだったり、MITメディアラボにあったAesthetics & Computation Groupという研究グループです。僕がそれを見たのは2004年頃なのですが、当時のジョン・マエダの文章を見て衝撃を受けたんです。いまやデザイナーの仕事は、PhotoshopやIllustratorのコマンドの連続をいかに覚えるかという技芸になってしまっていると。デザインは本来そうではないはずで、コンピューテーショナルなデザインを目指すなら、コンピューターそのものの素材としての特性に注目するべきだと書かれていました。
そこからProcessingのベースとなるDesign by Numbersというプロジェクトが出てきて、現在のProcessingやジェネラティブデザインみたいなところにつながっていきました。ただ、ジェネラティブデザインはAIを生成するというよりも、絵をプロシージャルに生成しようというアプローチだったと思います。いまはその考え方を経て、デザインシステムの話などに連なっていて、いわゆるバウハウスから始まっているもので。
有馬:つまり、“モダニズムの件”ですよね(笑)。効率化して材料を少なくしつつ、快適さは大きく得られる。そうした効力はたしかに有効ではあったけど、それは無限に発生可能なものなの? 効果が得られるものなの?と。
土屋:そうですね。パラメトリックに分解していくという力学で、それにAIが入ってくると、自動的にいい感じに調整してくれるようになるだろうと思うんですよ。
有馬:結果として、3Dプリンターでできた空間のように、この辺に変な柱が通っているけれど、それが彼らからしたら一番快適らしい、みたいな話ですよね。我々からすると一体? みたいなことが起きるのかもしれないですよね。
土屋:それもあるでしょうし、例えばPhotoshopやIllustratorが登場したことで、近所の人たちが簡単にチラシをつくれるようになってきたことと同じように、色んな人たちがウェブもデザインできるし、映像もつくれるという状況になっていく。デモクラタイゼーションという意味では凄くあると思うんですけど、じゃあデザインがそれによってどう前に進んでいくのかというと、また別の話だと思うんですよね。そこには多分、先ほども出ていたように「均質化」というリスクがあると思うんです。誰もがデザインができるようになってきたことで。
有馬:ブートストラップ全員実装時代みたいな感じになると思うんですよ。
土屋:サクッといい感じの80点のものができてしまう。しかもシンプルでモダンな。
有馬:費用対効果が高くて、効果測定でもばっちりみたいなことが起きますよね。でも、だからこそ僕らは突拍子もないことをしてみた方がいいんじゃないかという話はあるわけですよね。突拍子もないことといっても、すってんころりんというわけではなくて、言葉になっていないもの、数値化されていないものですよね。もちろん、データのクローリングを避けているものでもいいかもしれないし、いわゆるあえて言葉では分離不可能な何かをつくる、考えるというのは、人間の栄光のような気がするんですよね。斜めにスクロールしてみるとか。そこに論理的な意味はないけれど、このコンテンツっぽい、このメーカーっぽい、この会社っぽい何かが生まれているような気がする。
そういう思いがけないところに、先ほども話したイナズマのような接続があるんじゃないかと思うんですよね。そういうものは常に探したいし、相対的にそっちに行った方がいいんだろうなとも思います。どうしても「彼ら」と言ってしまうのですが(笑)、AIの賢さを見ていると、そう感じるところはありますね。
土屋:非言語の感覚が大事になっていくというのは凄くあると思います。例えば、いまのAIのインターフェースは基本的にチャットで、プロンプトという形で言葉を入力して指示するものなので、言葉で説明できるものしか生成不可能なんですよね。それは、知っているものしか検索できないというかつてGoogleが持っていた問題と同じものです。
有馬:つまり、どこまで言っても、巨大なCLI(コマンドラインインターフェース)の世界に取り込まれているんですよね。もちろん最新のGPT-5とかは結構いい感じで、絵を描いたら「これっぽいUIにならない?」と言えばかなり近づけてくれる。でも、それもまだ定着可能なコマンドに陥っている部分がある。
ここについて一緒に考えたいし、こういう気持ちを言葉にしていったら何になるんだろう、ということはまだ探索可能性がメチャクチャある気がします。

AIによってデザインが局所解に陥る!?
山田:冒頭で説明したように、僕は建築や家具のデザインがメインの分野なんですけど、家具の分野で言うと、2017年か2018年にフィリップ・スタルクというデザイナーが、カルテルという樹脂で家具をつくるメーカーから、フィリップ・スタルクのAIがつくったデザインの家具を発表したんです。フィリップ・スタルクはけれん味のあるデザイナーなので、AIの自分と本人が会話しているというプレゼンテーションをしながらつくったものがあって、それが意外と売れているんですよね。明らかにスタルクが手を入れていて、AIが生成したものに対して彼が手直しをしているんですけど、それがイベントで終わると思っていたら、意外といまも新作が出続けていて(笑)。スタルクがAIをさらに食ってしまっているというか、AIがつくったアイデアをうまく自分の味付けに変えて発表しているんです。
有馬:SF作品の『Self-Reference ENGINE』みたいな話ですよね。多分それは、「ポップな方のオレを出してくれ」に近いんじゃないかと。
山田:彼の場合は、自分の作品を全部AIに読み込ませることで、フィリップ・スタルクというデザイナーの持つデザイン性を学習させ、その上でカルテルという樹脂のメーカーに対して新しいデザインを提供するとしたら何をアウトプットができるのかということをした上で、最近では最近ではスツールやハイスツールのようなものをつくっていて、「AIすら自分の方に隷属させていくのか」という印象があります。ただ、家具の分野においては、AIは正直あまりうまく機能していないなというのが個人的な感想です。
有馬:それは多分、広義の「オレ壁打ち合戦」がコンテンツになっている例で、おそらくあまりコンピューターが好きじゃないと言うか、関心がないんじゃないですかね。
山田:基本的に道具としてしか使っていないということで、AIが持つクリエーションの可能性にはおそらく目を向けていないと思います。
土屋:例えば建築で言うと、レム・コールハースやMVRDVは、パラメトリックに設計するためにコンピューターを使っていますよね。例えば、ベランダの形がギザギザしているマンションをつくる時に、「各ベランダから公園が見える面積を全部同じにしたい」という問題を定義して、それをコンピューターに解かせるとこういう形になりますと。
家具の世界でも、強度を最大限に保ちながら資材を最小限にするためにトポロジー最適化を使う。そうした技術はCADの世界でも普通に使われていますが、あれも広義のAIだと思うんです。アルゴリズムではあるけれど、モダンなAIではない。でも、広義のAIではあって、結局は何に使うかだと思います。スタルクのような非常に作家性の強いデザイナーがAIに問題を解かせようとしたのか、それともルックを生成させようとしたのかで、使い方は全然違ってくるなとお話を聞いて思いました。
有馬:さっきの話にちょっとだけ戻ると、いわゆる均質化というか、均質化されたものを出力するのが凄く上手いというのがAIの特性ですよね。いわゆるデモクラタイズできる、つまりみんな似たような結果かもしれないけれど、それなりの結果を出せるというところがありますよね。
もうひとつは、探索ですよね。コールハースやMVRDVの建築は面白い形をしているけれど、そこにはきちんと理由がある。そういった価値観をもっと探索していけることがAIの良さというか、一緒に秘密を探り当てにいくようなファンクション、ひとつあるんだろうという気がしています。たくさん候補が出て、「これは違うな」「これはあまりうまくいかないな」「これはロジックとしては限りなく正しいけどあまり綺麗じゃないな」とか。その過程自体が人類の栄光ではありますよね、見つけていくというか。
土屋:そうですね。また、デザインが陥りがちなものとして、局所解に陥りがちということがあると思います。あるあるだと思うのですが、例えば全部Helveticaで文字が綺麗に組まれていて、見やすいグリッドが綺麗に切られているレスポンシブなLPがつくられたり。
有馬:いま、ディストピアの話をしていますよね。つまり、僕らも含めて言葉で説明できることを極限まで推し進めていくと、言葉で説明できることしかやらなくなる。そして、いま一番有名な書体で、一番有名なグリッドで組みましたという世界に到達する可能性があるわけですよね。
土屋:それはあると思います。デモクラタイゼーションという視点で言えば、八百屋さんがそれをつくれたら凄く良いだろうし、色んな人がネットでアクセシブルになること自体には価値があります。ただ、デザインが本来持っていた役割として差別化ということがあったわけですよね。横並びにした時に他と違うこれである、ということを強烈に打ち出せるかどうかということがある種デザインの役割だったはずなのに、それがAIによる最適化の結果、均質化されてしまう可能性がある。では、デザイナーがどう差別化を図るかという時に、援用すべきはまさに物語のデザインだったり、そうところに近いのではないかと思います。
有馬:アート作品に近くなってしまうかもしれませんが、結局その人がつくる理由ですよね。それは物語かもしれないし、その人のルーツや生まれかもしれない。なぜこのデザイナーさんに頼むのかという意味を、多分発注する側も意識した方がいいし、デザイナー自身もなぜ自分が頼まれているのかということもかなり強い動機になると思うんです。
必然があるアサインというのは、アニメやゲーム、漫画の世界にはたくさんあるんですね。「これはこの人になるでしょ」みたいなことがスタッフリストを見れば思うわけですよ。そこにはセンスやプロデュース能力が働いているわけですよね、アサインの力に。たぶんデザインの世界もそこに至るはずだという気はしています。
土屋:やっぱりその時にデザイナー自身が、アサインされる理由となるナラティブを持っている必要があります。これまで何をどうデザインしてきたのか、どういう考え方でつくってきたのかというキャラが立っていないと、使われなくなっていくリスクがある。デザインが単なる技術であれば、最適化されていくこと自体は問題ないのですが、もっとクリエイティブな行動なのだとすれば、AIにできないことを意図的に掘り下げてキャラを立たせていくことが重要になっていきますし、ニーズも高まっていると思います。
先日、北千住デザインさんが「HTML Energy」というイベントをされていましたが、いまあえてHTMLを書こうぜというムーブメントが海外から盛り上がってきているんですよね。言わばバナキュラー、つまりグローバルなデザインではなく、もっと土着的なデザインです。日本人がHTMLで書いたウェブデザインと、ヨーロッパの人がHTMLで書いたウェブデザインは全然違うと思うんです。昔、オランダのウェブデザインは凄く特殊で、「.nl」というドメインが付いているとなんか変なデザインが多い(笑)。そこには土着的なキャラクターが現れていました。日本でもセミトラさんなどがその影響下にあると思うのですが、そうした多様性がAIによって失われていくとすれば凄く危ないと思うし、逆にどうやって多様性を失わないか、その戦略を考える必要が出てきているのかなと感じます。
肩書きだけではアサインしない
原田:デザイナーやデザインの専門性がどんどん技術に寄ってきている中で、そこではない専門性とは何かということがますます重要になっている気がします。デザイナーとエンジニアという専門家同士がコラボレーションする状況が長く続いてきましたし、それ自体はひとつの美しい形だと思いますが、AIエージェントみたいなものが出てきて、AIが専門性を担保できるようになってしまうと、専門家同士のコラボレーションに意味はあるのか? むしろ専門家同士ではないコラボレーションの方が面白いものを生むということもあり得るかもしれない。いままさにそういうことを考えるタイミングなのではないかと個人的に思っていたりします。
有馬:そういう時に、その人をどういうタイプの輪郭として信頼するかという話はありますよね。関心がある人でもいいのかもしれないという仮説は成り立ちそうな気もするし、一方で、ある領域を徹底的に掘り下げたエンジニアでなければ到達できないインサイトもある気がするんですよ。例えば、市場に出ているVRデバイスを一通り全部試したことがある人というのは、パンパない信頼が置ける(笑)。その人がたとえUnityを極めていなくても、組む意味は大いにある。明らかに興味の領域や文脈と合っていそうな気もするし。
僕らはそう考えると人に対してかなり多層的な理解をしていますよね。「この人はデザインが上手い」という粗い理解ではなく、「こういうことに興味がある」「こういう格好をしている」「だからこういう表現をしているんだな」といった、バイアスも含めた複合的な理解をしている。人間のセンサーは本当に豊かなんだと実感します。コロナ禍を経た僕らはそれが余計にわかりますよね。人と会うとこんなに情報量があるのかと。
土屋:肩書きでアサインすることはないですよね。
有馬:ないですね。うちの部署では、ファンクションで人を増やさない方針なんですよね。必然があって増やす。だからアシスタントも1人しかいません。誰か助け……、いまのところ必然しか頼れていないというのがありますね。
土屋:僕は肩書きがずっとないので。
有馬:それいいなぁ。名刺にはなんと書いているんですか?
土屋:クリエイティブディレクターですね。
有馬:結局そうなっちゃいますよね(笑)。今度「せーの」で外しません?(笑)
でも、人間は他人を見る時にもの凄く色んなことを考えているということに対して、僕らはもっと自信を持つべきですよね。
土屋:AIが得意とする作業というのは、膨大に学習させたデータを超多次元空間にプロットして、その中からプロンプトに対して近いものはこの辺ですよと引き当てることなんです。こちらから投げ縄ツールのようにバーッと投げれば、その中から確実に拾い上げてくれる。問題は、その投げ縄をどのエリアに投げるのかを把握できているかどうかで、そこが非常に重要になる気がします。それは、的確な言葉で指示することかもしれないし、エージェントとの対話を通じて引き出すことかもしれない。そしてそれは、もともとアートディレクターやディレクターの職能としていままであった技術でもあると思うんです。
有馬:そうですね。良いリファレンスを見せて指向性を大づかみにつくって、そこから確度や解像度を少しずつ高めていくという話ですよね。データ同士がニューラルにつながっている空間において、僕らがどう考えさせ、どうお互いに考えていけるといいのか。別に総ディレクター化なんてことを言うつもりはないし、逆に形を追うこと自体を楽しむ人もいる。形を追うのはハイプじゃないのかというと決してそんなことはない気がしていて、つくってみないと分からないことだってごまんとあるわけですよね。実は僕、この壇上に来てから20分くらいパスをいじっているのですが、絶対誰にもバレていないと思うんですよ(笑)。そういうことだってあるわけですよ。ちなみに、うちの社長もパスを引くんですよ。
山田:え!
有馬:全然引きますよ。でもそれは僕にとっては当たり前のことなんですけど、社外の人にとっては当たり前じゃないからいまこうやって話すとこうなるわけです(笑)。あと、社長は絵上手いですね。
山田:それは知ってます(笑)。
有馬:結局、そういうことなんだろうと思います。うちらに関してだけなのかもしれないけれど、手を動かす実感をもとにディレクションする人は一定数いますよね。そこにしっかり根付いている人もいれば、探索だけが得意な人もいるかもしれないけど、別に両方がいていいし、諦めてほしくないなと思うんです。
土屋:デザインがある程度自動化されることで、いわゆる編集者的な技術を持った人がよりデザインのアウトプットを出しやすくなるという視点もあると思いますし、デザイナーがエージェントと会話することで他の領域にデザインを注入できる可能性もある。だから、一概にAIによって僕らの技術や仕事がスポイルされるということはないと思うし、むしろ可能性は広がるはずです。ただ、それが良い方向に広がるためにはどうしたらいいのか。そのために何をすべきで、何をすべきでないかという議論が、いま多分デザイナーにとって大事なんですけど、まだみんなそんなに真面目にやっていない感じがします。
有馬:やっぱり大っぴらにすると嫌われそうだとか、いろんなバイアスがかかっていると思います。
土屋:音楽の世界でも結構そういう話は聞きますよね。AIを使うのは絶対ダメという人もいれば、もっと柔軟に取り込んでワークフローに組み込もうという人もいる。イラストの世界でも、生成AIに対してアンチが凄いじゃないですか。
有馬:僕も絵描きやアニメーターの友達が多いので、やっぱりそういうことはタイムラインでは話せないですよね。両方の言い分が凄くよくわかるからこそ難しい。Midjourneyが登場した時の夏は、正直かなり疲れましたね、両方から色んなことを言われて。まあでも、それはたしかにあるなと思います。結局、落ち着くべきところに落ち着く部分もあるし、それぞれが思っていることを思っていていいんだと思います。
土屋:デザイナーもプログラマーも、もともと技術者ですよね。だからAIという技術も、もっと技術者目線で分解して扱っていけばいいと思うんです。いまはAIが過剰にハイプになっていて、AIによってどうなるんだと大きな話にしがちですが、ただの技術なんですよね。それをどう分解し、どう扱えば変な結果が出るのか。新しいプラグインを手に入れたみたいな感覚でもっといじってみればいいんじゃないかなと僕は思いますけどね。
有馬:そうですね。あえてミクロの視点で扱う部分もあれば、マクロで考えるともっと解像度の高い考え方ができそうな気がします。一度探索してみたら、もっと良い答えにたどり着けるかもしれないとか。例えば、角丸の具合をリサーチベースでこれくらいと決めたとしても、本当にそうなのかもう少し探ってみようみたいな。その結果として、角丸が6Rから6.2Rになるかもしれない。それはコンピュテーションのおかげかもしれないし、リサーチでインサイトを見つけたおかげかもしれない。そういうことで良いような気もしています。両方が少しずつ変わるけど、仕事が大きく様変わりするわけではない気もしているという実感ですかね。
デザインの主体はこちらにある
土屋:いつもAIとデザインの話をすると、こういう感じでちゃんと結論は出ないんですよね(笑)。でも、そこが面白いし、考えていく価値がある領域だからこうなるのかなという気がします。
有馬:そう思いますね。オチじゃないですが、ちなみに自分が一番使っているのは、多分イラレの拡張機能をめちゃくちゃつくってもらっていることですね。僕のMacで走っているイラレは、僕が考える最強のイラレになりつつありますね。整列コンポーザーがメチャクチャ充実しているとか、パスのアウトラインを綺麗に処理するとか。例えば、パスのアウトラインに頂点を綺麗なドットを打ってもらって、ポイント数を正確に計測するとか。イラレのファイルで使っている色の数を一覧化してダイアグラムにするスクリプトだったり、そういう結構楽しいものをつくってもらっていて、自分が何が可視化されると面白いのかなということに日々向き合っています。「俺イラレ」になっています(笑)。
土屋:やっぱりツールをつくるのに活用するというか、エージェントはあくまで補助であって、デザインの主体はこちらにあるのは当然として、それをやるためのエディターさんや技術屋さんの役割をAIが担ってくれる感じなのかなと。
山田:ものづくりの世界では、割といまはクラフト志向で工芸の方に向かっている感じなんですよね。いまの話を聞いていると、HTMLというのも実は工芸、クラフトなのかなと思う部分があって。イラレの調教の仕方とかも凄く属人性が出ますよね。
有馬:もともとコードも工芸ですよね。
山田:結局手を使ってものをつくっているから工芸なのかなと。
有馬:技術的な話を少しだけすると、解決の仕方にメチャクチャその人らしさが出るじゃないですか。エンジニアリングでも「この人っぽい実装だな」というのがある。例えば、ニコニコ動画の実装というのは、よくよく見るとどう考えてもニコニコ動画をつくった戀塚(昭彦)さんというエンジニアの癖が出まくっていて(笑)、そういうのはありますよね。
山田:ものからその人のバックグラウンドが見えてくる。
有馬:「どう考えてもこの人の仕業だな」というコードはやっぱりあるんですよね。
土屋:「美しいコード」という表現をしたりしますよね。
有馬:これをエラーとして拾わないのかみたいな美しさとかもありますね。
土屋:工芸という話で言えば、例えば3Dプリンターというのは一見凄く機械的なものですが、今後はコンセプトとして機械やロボットによる手工芸みたいなものが出てくると思うんですよね。3Dプリンターはメカニカルには積層をしていく仕組みですが、ちょっとしたノズルの具合や使う素材によって少したわんだりして、そこがまたアジになる。そうなると、ロボットによる手工芸と言える可能性がある。要はそれをどう人間がコントロールするかということで、主体はあくまでもこちらにあり、その手工芸性をどう担保するかというところまでデザインできれば、AIを活用する価値は大いにあると思います。
原田:お時間が来てしまいましたので、このあたりで締めたいと思います。
本日はdotFesの特別公開収録として、日本デザインセンターの有馬トモユキさん、そして後半はDentsu Lab Tokyoの土屋泰洋さんにも加わっていただきました。どうもありがとうございました。

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