nomenaというチーム、コミュニティ、ブランド | nomena・武井祥平さん 〈4/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。武井祥平さんをお迎えする最終回は、エンジニア集団としてのnomenaが目指しているチームやコミュニティの形について伺いました。
多様な人が集う流動的な場をつくる
原田:エンジニア集団・nomenaの代表、武井祥平さんをお迎えするシリーズ、今日が最終回になります。前回は、進歩を続けるテクノロジーに対して、現代のデザイナーやエンジニアがどう向き合っていくといいのかということを、武井さんなりのテクノロジー観、技術観とともにお聞きしてきました。最終回は、前回の最後にも少し出た人材育成の話にもつながりますが、これからのエンジニア、あるいはものづくりのあり方を体現しているように見えるnomenaというチームが何を目指し、これからどんなコミュニティやつながりをつくっていきたいのかということを聞いてみたいと思っています。いまではnomenaはチームになっていますが、もともとは武井さん個人の活動からスタートしていますよね。
武井:そうですね。僕一人で始めたチームなのですが、2019年頃に新卒で入りたいと言ってくれた人が何人かいて、それが凄く嬉しかったんですね。それまでは、あまり大きなスタジオにしたいとは思っていなかったのですが、もしかしたら何か凄いことができるかもしれないなと思い、そこから少しずつ規模が大きくなってきたというのがこれまでの経緯ですね。
原田:いまnomenaの中にはどんなメンバーがいるのでしょうか?
武井:いまはエンジニアと呼べるような人が、6、7割くらいですね。美術系出身のデザイナーでもあり、エンジニアリング的なこともする人たちが2割くらいで、あと1割くらいがバックオフィスで、経理や総務など色々やってくれるメンバーという感じですね。
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山田:例えば、東京芸大の先端芸術のようなところを出ている方、建築工学をやっている方、武蔵野美術大学の基礎デザイン学科出身の方など、皆さん学歴も本当にバラバラで、インターン的にいる学生もいるし、コアなスタッフとしていらっしゃる方もいる。また、旧時代的な感覚だとテクニカルな事務所は男性比率が高いと思ってしまいがちですが、nomenaは女性の比率がかなり高く、いつお邪魔しても女性が多い印象があります。
武井:そうですね。多様性という言葉を強く意識しているわけではないのですが、色んな人が流動する場所をつくるということは、いまのビルに引っ越す前からテーマにしていたことでした。どうしても小さい規模の会社なので、利用できるリソースは限られているのですが、人の出入りが激しい場所だと、「いまこういう仕事があるんだけど興味ある?」とか、「こういうものはどうやればいいんだろう?」と気軽に話ができる人たちが割と常に近くにいるという状況になりやすく、小さい規模で仕事をしていく上では利点が大きいと考えていました。そういう意味でも、包容力のある場所があり、そこに気軽に来てくれる人を増やすというのがひとつの戦略としてはありましたね。
インターンが多いということも特徴的だと思いますが、nomenaでは、基本的にはアルバイト代を出して、パートタイムという立場で働いてもらう人のことをインターンと呼んでいます。なぜ「アルバイト」ではなく、「インターン」と呼んでいるかというと、来てくれる人たちにはお金のためというよりも、何か学びや経験をするために来てもらいたいという気持ちがあるし、僕らとしても来てくれる人から学びたい気持ちがあるからです。いま社員が10人くらいいるのですが、それに対してインターンも10人くらいいて、社員とインターンが常時1:1くらいの割合になっています。それも組織としての多様性に寄与しているかなと思っています。
学生インターンに対する思い
山田:教育的であるというお話がありましたが、それはずっと思っていたことでした。nomenaには、哲学だったり、自分のやりたいことだったり、方向性みたいなものを明確に持っている人たちが集まっている印象がありました。だからこそ、nomenaというグループで行われる展示の表現などを見ると、貫かれているものがあるということを感じていました。
武井:学生さんに対する思いは、多分人より強いと思います。僕自身が学生の時に本当にお金がなくて、ものをつくるにしても、海外で展示するにしても宿泊から食事まで色々お金がかかるんですよね。どれだけ「つくりたい」という思いがあっても、それを自由にすることが難しい学生時代を経験しているというのが大きいのかなと思っています。
自分で作品と呼べるようなものをつくり始めたのは大学院の時だったのですが、その時点で近くにそんなに何かを聞ける人がいなかったということもありました。それによって色々試行錯誤して経験も得たことは多かったとは思うのですが、もっと近くに聞ける人がいて、そういう人たちと一緒に何かをつくれる環境があると、より力強いものづくり、創作活動が実現できるんじゃないかなという思いがあり、そういう場所をつくれたらいいなと。
学生さんの中には、凄いことを考えている人も結構いて、それを高い熱意を持ってつくり続けている人もいるのですが、お金やチャンス、つくる場所がなかったりすることで悩んでいる人も多い。そういう人たちに接しているだけで凄く刺激をもらえるし、特にnomenaに来てくれるインターンの学生は、本当に優秀な人が多いんです。最先端のことを研究していたりする人たちが多いので、そういうものをカジュアルに聞いたり、教えてもらえることは、僕にとっても凄くプラスになります。一方で彼らにとっても、nomenaという環境をプラスに感じてもらえていることはうれしいことだなと思うので、nomenaにとっても、nomenaに来てくれる人にとってもプラスになることをやっていけるといいなというのがありますね。
原田:聞くところによると、プロジェクトごとに学生のインターンの方がかなり活躍すると。
武井:本当にそうなんですよ。先ほども言いましたが、みんな本当に優秀だということもあるのですが、「この人とこの人を入れた時に、ここが足りていない」ということがあるんですね。 例えば、BLUE OCEAN DOMEのアートピース制作のプロジェクトでいうと、学生さんが担ってくれた部分が大きかったです。非常に有能な藤堂くんと金子くんという建築出身の2人のメンバーが、水の挙動のシミュレーションと、水が流れる器の形をCADで設計する部分を担ってくれました。形を決定するために、水が実際どういう流れ方をするのか、どういう斜面、どういう曲面に水が流れるとどういう挙動をするのかという実験をひたすら色んな条件でしてくれるという凄く重要な仕事をしてくれました。
いまいるメンバーだけだと、能力としても知識としても限界を感じていたところで、途中から2人にジョインしてもらいました。そもそもスキームが決まっていない中で、彼らは彼らなりのやり方で「こういうものが必要なんじゃないか」という提案をしてくれたりしました。基本的には彼らができることの中でやるわけなので、それは自分たちが得意なことだったりすると思うんですね。彼らが得意なことの中で、いまプロジェクトに足りていないものを積極的に補ってくれたということが、凄く大事なポイントだったと振り返ってみて思いますね。

原田:一般的に言われるインターンとは、だいぶ位置づけが違う役割を担っていますよね。どうしてもインターンというのは基本的に雑務に近いことだったり、あてがわれたパートを担わされることが多いと思います。そもそもそこからして違うということが凄く大きなポイントなんでしょうね。
山田:学生が建築事務所のオープンデスクで模型をつくるということで、結果的に万博という国家的な事業にコミットできたという機会はあるかもしれませんが、そういうものとはだいぶ違うわけですよね。
新しい教育の形でもあると思うし、世代論にしてしまうのは乱暴ですが、若い世代の感性や彼らが置かれている環境によって、色んな刺激を受けることもできると思うんですね。nomenaならではのアウトプットの仕方だったり、最後のアウトプットまで持っていく忍耐力や胆力のような学校ではなかなか得られないものが、武井さんたちの仕事を通じて得ることもできる。なかなか、これまでのデザイン事務所などではなかなか見られない経験がここではできるのかなと。
ブランド化することへのおそれ
原田:nomenaは、輪郭が明確な組織をつくるというよりは、ものづくりをする人たちの場や環境、コミュニティをつくるという意識が強いのだと感じます。それは、高い熱量を持った人が集まる環境をつくるということだと思うのですが、そのためにはどんな要素が必要になるのでしょうか?
武井:色々なレイヤーがあると思っているのですが、特に社員と呼んでいるnomenaのコアに近いメンバーに対して心がけているのは、分業をできるだけしないということと、ルールをできるだけつくらないということです。
まず、分業をできるだけしないということについてですが、僕は前職が営業職だったのですが、それだけではなくデザイン、制作、プログラミングなど色々なことを一から十までできるようになりたいと思っていました。それはやっぱりものづくりへの興味があったのだと思うのですが、自分ができるものづくりの幅を広げていくと、その分可能性が広がるという感覚があって、おそらくいまのnomenaにもそういう人が集まっているかなと思っています。
どうしても組織として成熟してくると、分業して効率的に物事をこなして利益率を高めていくということが起こるのですが、それに割と懐疑的な態度を取っているところがあります。効率を求めないといけない部分もあるのですが、効率化することで良いアイデアが出せるかというと、そうでもない。色々な仕事を経験する中で培った経験から、より幅広い発想ができるようになることがあると考えているので、できるだけ分業しないということを意識しています。
また、できるだけルールをつくらないということに関しては、ルールというのは基本的に効率化の手段だと思っているんですね。繰り返し起こる問題や事象に対して、毎回考えるリソースを減らすためにルール化していて、それはある種ショートカットしているということだと思うのですが、そうするとどうしても形骸化が防げなくて、「何でこれをやっているんだっけ?」みたいなことがどんどん増えてしまう。そうなると、納得感を持って自分たちで組織を運営していこうという意識につながりにくくなってくるんじゃないかなと思っています。
人数が少ないうちは、繰り返しの問題に対処するためにリソースを節約することよりも、一回一回なぜその問題が起きたのかを考えて、今回の場合はどう対処するかということをケースバイケースでやっていく方がいいんじゃないかと。そうすることで漫然とした意識にならずに、常に熱意を持って、「自分たちはやりたいことをやるためにnomenaにいるんだ」という感覚を持てる。形骸化するようなものを排除していくことで、常にフレッシュな気分で強い熱量を維持できるんじゃないかという仮説を持ってやっていますね。
原田:色々なデザイン事務所、クリエイティブスタジオを見ていると、nomenaのように組織としての流動性や多様性を高めるということをみんな目指していると思うのですが、なかなかそれが上手く機能していない現実があります。チームの中核と、周辺を取り巻くクリエイターによる良い生態系つくりたいけれどなかなか上手くいかないといった状況がある中で、いま武井さんがお話しくださったnomenaのあり方には、色々なヒントがあると思いました。
大前提として、優秀なインターンが集まるということも凄く大事なことだとは思いますが、少し観点を変えると、nomenaという存在自体が優秀な人達が集まってくるブランドにもなっているということだと思います。そうした外から見た時のnomenaのあり方を形作っていくことに対して、武井さんはどのくらい自覚的なのかということについても聞いてみたいです。
武井:最近だと毎日デザイン賞をいただいたり、メディアに出ることも多いんですね。その中で、「nomenaってこういうものだよね」ということをみんなが意識するのは悪いことではないのですが、「nomenaらしさを守らなきゃ」とか、「nomenaとして期待されているものに応えなきゃ」という感覚も同時にやっぱり生まれつつあるんですね。nomenaに参加してくれている若い人たちと直接コミュニケーションを取る中で、ブランドを守ろうとしたり、自分がそれを損なうことを恐れるような感覚があるということを最近知って、それは結構怖いことだなと。
まだまだ自分たちはよくわからない存在のはずだし、もっと色々なところで色々な仕事をしたいと思っているのですが、ブランドが固定化されてしまうと、やることも固定化されてしまうんじゃないかと。いまは来る仕事すべてが難しくて、やったことがないことだからその都度新しいアプローチが求められるというところがあって、それによって自分たちも楽しく仕事ができているし、結果的に面白いものがつくれていると思うのですが、ブランドが固定化することで保守的な環境に突入してしまうのではないかという恐れが最近はあります。
武井:もっとチャレンジングな気持ちを持ち続けたいと思うし、あくまでいまのnomenaのブランドというのは、いま集まっている人たちが「これくらいならnomenaに注ぎ込もう」という感じでつくられている秘伝のスープみたいなもの。だから、そこに別の人が入ってきたらまた別のスープになるだろうし、変化し続けるものだと考えています。かつて培ったものは残りつつ、形を変えながら常に面白くありたいんです。
先ほど話に出たインターンが凄く活躍していることは象徴的で、その時たまたまいる人が活躍したからこういうものができたということで、nomenaという場所にたまたまいた人たちが何か面白いものをつくるということがひとつの価値だと思っています。インターンは2、3年くらいの周期で入れ替わっていくメンバーだったりするのですが、そういうことも含めて特定のスタイルのようなものはつくれないのですが、通底する精神性みたいなものがクオリティとして現れてくるという状態が目指しているところですね。
原田:nomenaのベースにしているエンジニアリングというものが、デザインとは違って、形をつくるプロセスではないということも影響している気がしています。デザイナーの場合、「あの時のああいう感じでつくってください」といった依頼も多いという話はよく聞きますが、nomenaはあまりそういう依頼のされ方がなさそうな気がします。
武井:そうですね。スタイルみたいなものはあまりないのかなと思っています。
原田:そこが固定化されていないということもポイントなのかもしれませんね。
山田:毎回方法論から考えていかないといけないとなると、事務所として流動的であり続けるというのは凄く理にかなったやり方だし、自己模倣を繰り返すということには陥らないのかなと。そこをすごく意識的にやられている感じはしますね。
武井:そうですね。
原田:その辺りの話は、1、2、3回目のエピソードに通じる気がしています。1回目のデザイナーのパートナーであるという話、2回目の「現象」をつくるという話、そして3回目の技術の話にしても、nomenaの場合、「プロジェクションマッピングで何かをやってください」という感じで技術のアプローチから入るわけではないですよね。そういう意味で、どこから見ても不定形というか、変化し続けるアプローチやプロセスを取り続けていることが、ブランドが固定化しないというところにつながるのではないかと感じました。
武井:たしかに。
原田:ここまで全4回にわたって、nomenaの代表、武井祥平さんにお話を伺ってきました。最後に、nomenaの今後の展望や、武井さんが個人的にやりたいことなどを伺って終わりにできたらと思います。
武井:個人的な課題としては、スタジオ運営というのが大変だなと感じています(笑)。先ほどから話しているように、効率性を求めていない組織なので、組織を継続していくための資金をきちんと稼ぐこと自体も大変ですし、一人ひとりとのコミュニケーションも、その都度かなり気を使う必要があります。そういう意味では、結構大変な状況で経営をしています(笑)。もう少し組織としてエネルギーの偏りをなくす形で、無理をせずにこうした活動が続けていけるといいなと思っています。あまり野望的な話ではなくてすみません(笑)。
原田:武井さん個人としても無理はなさらずに(笑)。
武井:無理なくやっていけたらいいなというのが今後の展望です(笑)。
原田: nomenaのスタジオにはギャラリーもありますが、今後展示の予定などは?
武井:できるだけ定期的に、個展や親しい作家さんの展示などを企画展としてやりたいと思っています。 ただ、いまは色々と大変な状況でなかなか余裕がなく、定期的にできていないのが正直なところです。今後は精力的にやっていきたいと思っていますので、もしnomenaギャラリーで展示をしたいという作家さんがいらっしゃれば、ぜひ声をかけていただけたらと思います。
山田:僕から告知をしてもいいですか?
原田:どうぞ。
山田:TOKYO NODEで、1月30日から『攻殻機動隊』の展覧会が始まるのですが、会場で押井守さん、神山健治さん、黄瀬和哉さん、荒牧伸志さんのインタビュー映像が流れているはずで、そのインタビューと図録のテキストを担当しました。TOKYO NODEは武井さんが少し前まで『デザインあ展neo』に関わられていたということもありますし(笑)、よければぜひ会場にお越しください。
原田:「デザイン手前」の次回のゲストは、スウェーデンを拠点に活動されているガラス作家の山野アンダーソン陽子さんと、日本の伝統的な素材である藁を用いたものづくりをされているクラフトデザインユニット・Straftの2組です。
山田:これまでも度々行っている2組のデザイナーによるトークを通じて、クラフトとデザインのあいだを探っていきたいと思っています。
原田:ぜひこちらも楽しみにお待ちください。では武井さん、ここまでどうもありがとうございました。
武井:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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