「デザインの民主化」の先には何があるのか? | VUILD・秋吉浩気さん × Synflux・川崎和也さん〈前編〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。今週から2回に分けて、VUILD代表の秋吉浩気さん、Synflux代表の川崎和也さんのトークを配信。前編では、テクノロジーがひらく新たな創造性をテーマにお話を聞きました。
制作ツールから開発するデザイナー・起業家
原田:先月4月は、「デザインの手前」2周年記念特別月間として、グラフィック、プロダクト、建築、広告など、色々な領域の新世代のデザイナーに週替わりでご登場いただきました。公開収録もだいぶ盛り上がりましたね。
山田:そうですね。まさか高校生まで来てくれるとは思いませんでした。
原田:今週からまた新しいシリーズがスタートします。今回は、2人のデザイナーにご登場いただく対談シリーズです。今回のデザイナーの方々というか、そもそもデザイナーとお呼びしていいのかという立ち位置の方でもあるのですが、建築とファッションそれぞれの領域で活動されていて、ご自身でも「メタアーキテクト」「スペキュラティブファッションデザイナー」という、若干身構えてしまうような肩書きおふたりに来ていただいています(笑)。建築系スタートアップVUILD代表で、建築家・メタアーキテクトの秋吉浩気さんです。よろしくお願いします。
秋吉:よろしくお願いします。
原田:もう一方が、スペキュラティブデザインラボラトリーSynfluxの代表で、スペキュラティブファッションデザイナーの川崎和也さんです。川崎さん、よろしくお願いします。
川崎:お願いします。
原田:おふたりは大学が一緒だったんですよね?
川崎:大学院が一緒ですね。
秋吉:僕は2年間しかいなかったのですが、その時に川崎くんは学部生でした。
川崎:そうですね。大学が24時間開いていて、朝まで残っていたら秋吉くんも残っていたみたいな(笑)。
秋吉:もう少し補足すると、僕は田中浩也研究室というところに所属していて、川崎くんは水野大二郎研究室に所属していて、同じ場所を共有していたんですよ。研究室は別なのですけど、ある種寝食を共にしていたというか、同じ場で「川崎くん寝てるな」みたいな、そういう感じでした。

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先月4回にわたって配信した番組2周年記念企画のシリーズを振り返るダイジェスト記事をnoteに公開しました。こちらもぜひご覧ください!
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原田:今回なぜおふたりをお呼びしているのかというと、先ほどお話しした2周年の記念企画でも「新しいつくり方」をテーマにしたように、いまデザインの対象が広がり、課題が複雑になり、テクノロジーやツールが均質化していく中、つくり方から考えないとなかなか課題に立ち向かえなかったり、アウトプットが均質化しがちになってしまう側面が思うんですね。その中で、つくり方自体から考えていくことはデザインの世界でもかなり大事だなと思っています。今回もそのテーマに近いというか、むしろそれを作品単位ではなく、産業や業界単位で変革を起こしていくために、つくり方を変えようとされているおふたりをお招きしたという経緯があります。
今回は前後編2回に分けてお話を聞いていきたいと思っています。前半は主に、クリエイティビティや創造性というテーマでお話を伺います。これからものづくりのあり方やデザイナーの役割が、新しいテクノロジーや制作環境によってどう変わっていくのか、それが人々の創造性にどんな影響を及ぼすのかといったお話です。後半は、「衣食住」という言葉があるように、建築とファッションというものは古来から人間の暮らしを支えてきた領域に関わられているおふたりに、サステナビリティというテーマでお話を聞いてみたいと思っています。やや大きな話にはなりますが、人間の暮らしがこれからどう変わっていくと地球のためにいいのか、そのために何が必要なのか、「生きること」や「暮らすこと」と「つくること」がこれからどうつながっていくといいのかといったことを聞いてみたいです。では、おふたりよろしくお願いします。
秋吉+川崎:よろしくお願いします。
原田:まずは、おふたりのプロフィールをご紹介させていただきます。秋吉浩気さんは、1988年大阪府生まれの建築家、起業家、メタアーキテクトです。芝浦工業大学建築学科卒業後、慶応義塾大学大学院政策メディア研究科でデジタルファブリケーションを専攻されました。2017年に、建築の民主化を目指すスタートアップVUILDを創業し、3D木材加工機ShopBotの販売、設計と加工を結ぶクラウドサービスEMARF、自分好みの家をアプリ上でカスタマイズし注文できるサービスNESTINGの提供などを行っています。並行して建築物の設計や施工も行い、これまでに設計した主な建築物に「まれびとの家」「小豆島The GATE LOUNGE」「学ぶ、学び舎」などがあります。これまでの著書に『メタアーキテクト──次世代のための建築』『建築家の解体』があります。
続いて、川崎和也さんのプロフィールをご紹介します。川崎和也さんは、1991年生まれのスペキュラティブファッションデザイナーです。慶応義塾大学大学院政策メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程を修了し、2019年に先端的なテクノロジーを駆使し、惑星のためのファッションをつくるスペキュラティブデザインラボラトリーSynfluxを創業されました。衣服生産における素材廃棄を最小限に抑えるデザインシステム「アルゴリズミック・クチュール」を開発し、GOLDWINやA-POC ABLE ISSEY MIYAKEをはじめ、多くのブランドで導入・商用化が進んでいます。これまで編著者として関わった書籍に『SPECULATIONS』『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』『サステナブル・ファッション』があり、初の単著となる『惑星のためのファッション』を2026年2月に刊行されました。
デザインの民主化は実現されたか?
原田:前半は、テクノロジーが創造性にどんな影響を与えていくのかという話を聞きたいと思っています。プロフィールでもご紹介したように、秋吉さんはデジタルファブリケーションという技術を用い、つくることの民主化を掲げながら色々な制作環境を提供し、プロの建築家やデザイナーはもちろん、NESTINGのようにデザインの専門家ではない方たちにも家をつくるツールを提供されています。川崎さんの場合は、どちらかというとプロのつくり手に向けてのツールだと思うのですが、アルゴリズミック・クチュールという衣服生産の廃棄を最小限に抑えるための仕組みを、機械学習や3Dシミュレーションという技術を使って提供されています。
テクノロジーの力を使ってものづくりのプロセスを変えようとしているおふたりに、そもそもなぜつくる環境やツールからデザインしているのか、そういったツールを用意することでデザイナーや建築家の創造性はどう変わっていくのか、あるいは一般の方の創造性にどんな影響があるのかといった話を聞きたいと思っています。さらに、これからデザイナー像みたいなものやものづくりのあり方がどう変わっていくのかについても聞いていきたいです。
前半と後半、それぞれの方が掲げている言葉を入口にしたいと思っています。前半では、秋吉さんの「メタアーキテクト」という肩書きの話から入っていきたいのですが、これはどういった意味の言葉なのですか?
秋吉:話し始めると長くなりますが、それこそ川崎くんの師匠というか、指導教員だった水野大二郎さんが「メタデザイン」という話をよくされていました。当時、デジタルファブリケーションが普及した先に、デザイナーの職能がどう変わるのかという話があったんです。僕と川崎くんが在籍していた2013年頃に『オープンデザイン』という本が出たりして、その時に水野さんがおっしゃっていたのが、「メタデザイナー」という職業の話でした。デザイナーは一般の人たちの創造性を解放するための支援者、サポーターになるという議論があり、それに則って建築も「メタアーキテクト」になると考え、大学院にいる時からメタアーキテクトという職業について考え、修論でもそういう話を書きました。
そこから数年が経ち、当時の考えをアップデートした『メタアーキテクト』という本を2022年に書きました。この本の結論としては、日本型大工棟梁の現代版といった定義をしています。近代化以前の大工さんや棟梁というのは、自分でものもつくるし、道具もつくるし、生態系もつくるし、人も育てるし、尺寸みたいな体系もつくり、すべてのことをやってきた。要は、ものづくりをするとかデザインをするという狭義のデザインではなくて、広義のデザインをやってきていたわけです。ある種、マスタービルダー的にデザインだけではなく、つくることもやるし、システムアーキテクト的に周りにある生態系やシステム、仕組み自体もデザインする人だったのではないかと。
建築というデザインのど真ん中の外をどうデザインするかということにそもそも興味があったんです。むしろ自分でデザインやクリエイティブをやるということについては、大学院にいた時や卒業して数年はあまりしてなかった感じですね。
原田:それでいうと川崎さんは、秋吉さんのように大学時代に専門的なデザイン領域の中で勉強をされたわけではないと思うのですが、いまの話につなげるなら、ファッションをある種メタ的に見て、その環境から考えていくことをされていると思います。ファッションの中で専門的に学ぶということはどのくらいされていたのですか?
川崎:僕はファッションの専門学校などには行っていなくて、例えばミシンで縫うとかそういったことを大学の中で部分的にやった程度ですね。どちらかというと、どうデザインすべきかとか、どういうものをつくることによってデザインをアップデートできるかということに関心がありました。デザインリサーチという専門領域を専攻していたので、それを学ぶ中で自分のテーマとしてファッションにフォーカスするのが面白いんじゃないかと思ったというきっかけがあったという感じです。
ファッションの領域では2015年頃から、製品としての服のつくり方というよりは、素材であったり、製品としての服をつくるためのソフトウェアであったり、あるいはミシンのようなハードウェアをどう更新できるかという議論が盛んになっていたんです。ミシンもいまだに中国やインドなどで人間が手で縫っている部分が多いのですが、どちらかというとそういう部分に注目したというのが学びの経緯だったと思います。
原田:デザインをメタ的に捉え、デザイン領域の少し外から見てみる考え方は、デザイン研究の世界でもだいぶ前からあり、おふたりが大学で学んでいた時期にもそういうことが盛り上がっていたと思います。そこから10年ほどを経て、その考え方はより重要になってきているような気もしています。例えば、川崎さんが2023年に毎日ファッション大賞新人賞を受賞されたことも象徴的ですよね。いわゆるコレクションブランドのデザイナーではない方が受賞するのは異例のことで、ファッションをこういう形でデザインすることが認められたとも言えます。年を追うごとにその重要性が高まっている気もします。
川崎:ファッションの産業においてデザイナーはかなり権力が強いというか、象徴的な存在として長らくやってきていて、その歴史はオートクチュールまでさかのぼることができるので、だいたい250年くらいの歴史があるのかなと思います。一方で、いま報道などを見てみると、ファッションブランドといわれるような組織はおおむねコングロマリットの下についていて、デザイナーあるいはクリエイティブディレクターといわれる職能も年単位で交代しています。これは、デザイナーという象徴的な職能を据えて、高速なサイクルで衣服を売っていくというシステム自体の限界があるのかなと僕は思っています。そういったことも本には書きました。つまり、デザイナーの創造性というものを、消費を加速させるような方向性や、自らの創造性を盾にどんどんそれを加速させていくことには限界があるということだと思うんです。そういった認識があるので、僕みたいな人が出てきたのかなと自分では思っています。

川崎:僕は、産業のシステムやサプライチェーンの更新に、創造性のベクトルを向けることが重要だと思っています。秋吉さんの『メタアーキテクト』を改めて読み直して、本当に凄く良い本だなと思いました。建築やデザインの民主化といわれる方向性に、次のアーキテクトの道標を設定している本だと思いますが、民主化の可能性というのをいま振り返ってみてどう思っているかを聞いてみたいです。
ファッションの産業では、民主化によってさまざまなユーザーがSNSで発言するようになった結果、インフルエンサーらが消費を余計に加速させるようになったりしています。建築とは少し違うかもしれませんが、自分でつくるという文化もかつて60年代にはファッションにもDIYの文化があったのに、それがあまり広がらないところがありました。こうした中で民主化というのはいまなお重要な概念なのか、そのあたりの振り返りを聞いてみたいです。
秋吉:最近でも社内で、「建物の民主化」でも「建設の民主化」でもなく、「建築の民主化」とは何なのかという議論をしています。建物は機能を満たす箱のようなもので、建設は文字通りそれをつくることという感じで、ともすると我々の活動は「建設の民主化」をしているように見られるんですよ。素人が参加して家を建てる、みたいな。
でもやはり「建築」というのが重要で、サイトスペシフィックとも言われますが、美学や意思が介入した場所や人、その時期にしかできないような、かなりオートクチュール的なものだと思っています。そういうことに参加する権利のことを考えています。もはや権威とか富裕層みたいなパトロネージする人が大建築家に頼んで宮殿を建てさせるみたいな時代ではもうないと思いますが、一部の層しか美しいものやオリジナルなものにアクセスできなかった状況をもう少し多くの人に開きたいということが根底にあります。
先ほど紹介していただいた小豆島のプロジェクトや、「学ぶ、学び舎」などもそうですが、それこそ伊東豊雄さんとかが同じようなことをしている建築に対して、半分くらいのコストでできているんですね。よく僕らのポートフォリオを見せると、「お金がないとできないんですよね」と言われるのですが、実はそうでもない。金額的にも手頃さがあるし、形としても、最終的には僕の意思や癖が入ってはいるのですが、みんなで考えることを大切にしていたり、小豆島の事例では社員100人くらいが自分で丸太を削って、みんなで塗ったり、プロセスもかなりオープンになっているので、そこへの満足度や納得度は大きいと思います。
創業から5、6年くらい、住宅や家具といった領域で個人の民主化に取り組んできて、それはうまくいったのですが、建築となるとみんなで使う場所だったりするので、いくら個人がつくれるようになっても限界がある。その人たちの意見をまとめて、その人たちが想像しえないものをつくるという、逆にデザイナー的なクリエイティブが要求される局面が出てきたと思っています。ファッションとは少し違うかもしれないですが、建築は個人のものではなく、社会のものであり、文化のものであり、時間軸が長いものであり、複雑なステークホルダーと色々なレイヤーが重なっているので、誰かがリーダーシップを取らないとなかなかひとつの形に結実しない領域です。だから、民主化すればするほど、建築家的な仕事が求められるようになり、いまは正直そっちの仕事の方が全然多くなってきています。
やはり建物だけではなく、建築を民主化していきたいんです。いまユニークな建築というのは全体の1%以下だと思いますが、最近よくやるのは、1000万円くらいのベンチの予算があったとして、いままでだったら真四角なものをつくる予算だったものを、同じ1000万円でも9割5分くらいの大きさにしたら、ウネウネしたものだったり、自分が表現したいものができるというツールを提供しているんです。そうすると、「どっちがいいですか?」と聞くと、やはりオリジナルなものを選ぶ方が多くなってくるんです。そうするとオセロがひっくり返っていくというか、これまで1対9だったものが、デザインの領域を4対6ぐらいまで侵食していくことができる。それがまさに建築の民主化だと思っています。
民主化の先に求められるクリエイティビティ
川崎:秋吉さんのお話を聞いていると、民主化はある程度達成されたのかなと思いますし、VUILDがそこに貢献してきたんだなと凄く頼もしく感じました。また、動機が強い人、つまりつくりたいと思う人で、ある程度その自信や目的がある人が参加するための手段を整えてきたのが、秋吉さんなんだなと思いました。
その一方で、「デザインの民主化」「建築の民主化」と聞くと、やる気がある人だけが対象ではないとも思うんです。本当にマスの人たち、普通の人たちも参加してしまうとか、あるいは参加したいと思うような社会を目指すというヴィジョンもあると思うんですよ。秋吉さんは、民主化という言葉のレベル感や、あり得るべき社会のビジョンをどう考えていますか?
秋吉:それで言うといまは教育にも関わっていて、僕らが販売しているShopBotは現在日本に290台くらい入っているのですが、そのうち3割くらいは高専など教育機関に導入されているんです。そういうことをこの8、9年やってきています。
多分川崎くんたちもBtoBtoC的に、色々なパートナーさんと組んでいると思いますが、僕らも株主構成でいうとコクヨさんがそうですし、業務提携で一緒にやっている相手として、DIY MARKETを展開しているカインズさんもいます。それぞれの領域のチャネル、たとえばオフィス領域、園芸やホームセンター領域などに少しずつ入り込んでいくことが重要だと思っています。あるいは、教育の図工の工程の中に入っていったり、そもそもそういうマインドセットがされている人自体をつくっていくことも含めて、色んなレイヤーで広く取り組んでいく必要がある。また、組織の方や、ほかの建築家の方々に対しても、我々が間に入ることで、ちゃんと予算と工期の中で実現してあげることもデザインを実現する手段の民主化だったりします。欲張りかもしれませんが、あらゆるレイヤー、ターゲット、チャネルに浸食していくことをやりたいと思っています。

川崎:なるほど。施主さんとの意思決定が凄く上手くいくのは、施主さん自身が参加して制作に携わるからでもあるし、あるいは福祉やサステナビリティ、BtoBのような専門的な領域に、デジタルファブリケーションや民主化のツールが忍び込んでいくことで、社会全体が変わっていくということは現実的にあるべきことだなと思いました。「デザインの民主化」や「建築の民主化」というと、全員ができないといけないんだといった形で極端な理想が語られることもありますよね。最近、エツィオ・マンズィーニという研究者が、『誰もがデザインする時代のデザイン』という本を書いているのですが、これはある種デジタルファブリケーションとも連動するような話として読めると思っています。
秋吉:まだ読めていないですが、ソーシャルインパクト的な話も入っていそうですね。
川崎:そうですね。そういう中で、いまあらためて「デザインの民主化」「建築の民主化」について語るときに、誰が参加して、どのような社会になるべきかということは、多分メタアーキテクトや建築家の人たちが考えた方がいいビジョンなんだろうなと思っています。
秋吉:メタデザイナーというのはデザインの教師みたいな存在でもあるから、結局その人がどれだけできるかということにも関わってくるんです。「じゃあお前は何できんの?」という話になってくるので、民主化を進めれば進めるほど、逆にアーキテクトとしての能力が試されるところもあります。そういう意味では、ボトムアップ的にみんなができるという話と、その中で良いものができるかどうかという話が両方出てくるんです。この数年は体験重視だったので、クオリティが問われてこなかった部分も正直あったのですが、むしろこういう過程だからこそいままでとは違う良いものがつくれるんだということを示したいし、アーキテクトとしてはそっちで勝負していきたい。これらは地続きにあるものなので、質も担保できるということをやっぱり言わないといけないなと思っています。
楽しければいい、プロセスが良ければいい、お客さんが喜んでくれればいいみたいなことに偏りすぎてしまうと、デザインの美しさや、もののクオリティの話がないがしろにされてしまう場合もある。こういうやり方で、こういう新しいツールや新しい仕組みがあるからこそ、出来上がるものも新しいし、いままでと違う美学や美しさやクオリティが出せるということも同時に言わないといけないと思っています。そういう意味でも「メタアーキテクト」と「アーキテクト」の両方の肩書きを掲げてやっていて、近年は自分のやれる仕事は逆にクリエイティブなところにしか残らなくなってきてるので、そこに注力している感じです。
プラットフォームに宿る美学とは
原田:インターネットが出てきて、民主化の概念は大きく変わり、インターネットやデジタルテクノロジー、デジタルファブリケーションのようなものと民主化がセットで語られることも結構多いと思います。これはデザインの世界に限らない話ですが、そうした民主化をさまざまな領域で促そうとしている人たちは、いわゆるプラットフォーマーと呼ばれたりします。
プレーヤーではない人たちが、スタートアップとして新しいプラットフォームをつくるという動きが、デジタル社会ではスタンダードとしてあると思うんですけど、一方で、「美学」という言葉もありましたが、デザインや建築の話でいうと、枠組みだけつくるというよりは、やはり感性の部分と切っても切り離せないなと思っています。
その中で、プラットフォームになり得るものやツールをつくる人たちが、ある種の美学を持っていること、端的に言えば、高いクオリティでデザインを見られる人であることには、一定の意義があるのかなと思っています。「デザインの手前」に出ていただいたA-POC ABLE ISSEY MIYAKEの宮前義之さんはSynfluxともコラボレーションされていますが、彼はプラットフォームやシステムをつくる人ほど、美意識を持っているべきだという話をされています。全員が全員メタアーキテクトやメタデザイナーになる必要はないと思いますが、新しいツールをつくる人がある程度デザインというものに対して美意識を発揮できる人であるということは凄く重要なのかなと思っています。

川崎:新しい美学をプラットフォームの設計に忍ばせる、あるいはそのプラットフォームによって生成されたり制作されたりするものが、結果的に新しい美学を生み出すという話なのであれば、僕も重要だと思います。ただ、プラットフォームの設計が結果的にどういう新しい美学を生成できるのかという話については、まだあまり知見がないんです。
秋吉さんの『メタアーキテクト』を読み返してヒントになるかなと思ったのが、秋吉さんがそこで説明している「オートポイエーシス」という概念です。これは、生命がどういう挙動で動いているのかということを哲学者が研究したものです。これは、例えばソフトウェアやロボットの領域で、どうやって本当に生きているような動きを出せるんだろうということを研究者たちが参照できる概念なんですね。これは非常に面白いと思っていて、そこには機械論的に効率化・最適化を目的としたプラットフォームなのか、あるいはそうではなくて、使う人たちが生き生きしたり、喜んだり、楽しく感じたりするものなのかという違いがあって、これは抽象的なレベルで美学にとって重要だと思っています。でも、これは非常に難しい。もしソフトウェアタイプのプラットフォームならプログラミングによってデザインされるので、「生き生きとする」ということ自体をプログラムするのは凄く難しいですから。おそらくメタアーキテクトだったり、僕みたいな人間がエンジニアに無茶ぶりして(笑)、色々考えていくことになるんだろうなと思います。
ただ、ここは凄く掘りがいがあるし、僕の本もかなり抽象的な技術哲学の話をしているのですが、いまあらためて、デザイナーがプラットフォームをつくるときの新しい美学を検討する際には、そういう生命論までさかのぼった議論が必要かもしれないと個人的には思っています。ちょっと難しい話ですけど。
原田:そういう技術哲学の話もそうですし、哲学者や思想家の人たちが考えていることをデザインの世界に実装していくことは重要だと思いますが、それを担える役割は本当に一握りでもある気がしています。
秋吉:やはり、デザインとツールが切り離されていること自体がそもそもデザインの不幸というか、終焉なんじゃないかと思っているところがあります。どうつくるかというつくり方とデザインが連動していた時代、例えばバウハウスの時代から考えると、デザイナーはパッケージデザインや表層の方へ寄っていって、逆につくり方やツールやテクノロジーから遠のいてしまった。それは不幸なことだなと思っています。
本来、ツールをつくることとツールを使うことは表裏一体なんですよね。何かを刻むとして、それを刻むために自分の手に合う形で道具をつくり替えたり、そういうことによってモノを造形してきたのに、そこが離れてしまった。僕がSFCでデザインに触れていた時に面白いと思っていたのは、例えばProcessingというツールを取っても、ケイシー・リースとベン・フライみたいにツールメーカーとツールユーザーがニコイチだったことです。いまの美学がわかる人と、プラットフォームをわかる技術者が両輪でセットになっていない限り、どういう時にそのツールを使うべきかもわからないし、ツールを開発している側もどういうものが必要とされているのかわからない。
お互いを引き立て合う関係の中で、「こういうデザインをやりたいから、こういうツールが欲しい」と言えるかどうかが、デザインが先細るかどうかの臨界点だと思っています。新しい服や新しい表現をするためには、新しい技術を使いたいと思うだろうし、その技術から発想してデザインが生まれることもある。その現場が近ければ近いほど、デザインの本質に近づいていくんじゃないかなと思うんです。逆に、そこから遠い人は「本当にデザイナーなんですか?」と問いたい。少なくともそれが僕のスタンスです。
山田:僕は色々な建築空間に取材で行くのですが、VUILDでつくってもらった造作が本当に増えているんですよね。「この造作どうしたんですか?」と聞くと、「実はVUILDさんで」という話になることが多い。デザイナーというか、別の冠を持った建築家がいて、その中にVUILDが入っている。
秋吉:僕ら自身としてはそういうツールとして使ってほしいんですよね。建築家の表現や、他のデザイナーが「こんなことをやりたい。いまの俺たちにはできないけど、これを開発したらできるんじゃないか」と考える中で、コモンズとして共有できる技術が生まれる。それをみんなが使えるようになっていくと、素人も変わっていくし、プロも変わっていく。要は、プロのデザイナーにとっても、ものをつくるとかものづくりから発想するアイデアとか、そういうクリエイティブな権利を取り戻していくこと自体が民主化活動だとも言えるんですね。
僕は、本来デザインというものは当然社会に近く、社会と接続しているべきだと思っています。でも一方で、技術にも接続していない限り、その推進力を失ってしまうんじゃないかとも思っています。だから、そういう技術基盤をどれだけ提供できるか。特に最近は、プロフェッショナルな人たちに対する創造性支援みたいなところを促進しています。「このアイデアは、この技術があるからこそできる」と言えるような技術を僕らは持っていたりするので、そういうことをみんなでつくっていかなきゃいけないと思っています。だから、業界の他のデザイナーさんに対しても、「一緒にやっていきましょう」と言いながら進めているんです。

テクノロジーがひらく新しい創造性
原田:秋吉さんのお話にもあったように、設計と施工が乖離していってしまった近代デザインの話はよく語られると思います。本来は秋吉さんが言うように、そこがもう一回つながっていく、あるいは戻っていくことが凄く大事だと思っています。理想としては、みんながそこに向かえればいいと思うんですけど、いまはだいぶ離れてしまっているので、すぐにそこには戻れない状況もあると思うんですね。いまその間に距離がある中で、デザイナーの人たちとどういうふうに手をつないでいくのが現実的なのか。あるいは、つくる環境を提供している側として、デザイナーにどういうものを渡していけるのか。そのあたりをどう考えていらっしゃるのかも伺いたいです。
川崎:VUILDを見ていて羨ましいのは、ShopBotがあることです。木材の切削をあれだけ簡易的にできて、しかも覚えがいがあるマシンがある。木材というのは強度があるじゃないですか。一方で、服はテキスタイルなので柔らかいんですよね。だから、剛体を切ったりジョイントしたりするのとはかなり話が違う。自動化したり、CNCと言われるようなコンピューター制御でやることに対して、少なくともハードウェアの領域では結構ハードルがあるんです。
だからファッションの領域では、ソフトウェア的なアプローチの方が面白いんじゃないかなと思っています。コストや生産管理の話、設計図である型紙の話もかなりデータで制御されているので。しかも、みんなそこが結構大変なんですよね。数千、数万着同じものをつくり続けることが前提になっているから、そこに介入してできるだけ最適化したり、あるいはその中で面白い創造性が繰り広げられたりするようなツールを一緒につくっていくのがいいんじゃないかなと思います。
原田:最適化の話と新しい創造性という話、テクノロジーを考える時にはこの2軸があるのかなと思っています。新しい創造性を喚起していくようなテクノロジーのあり方や使い方にどういう形があり得るのかに興味があります。
川崎:僕はそこについて、アルゴリズミックデザインやオープンデザインの分野で言われてきたことを、まだ結構信じています。単純に、とにかく大量に出せるとか、大量に出した結果、ある閾値を超えたところでヘンテコなものが1個だけ出るとか、そういうことがある。むしろ、たくさん出したり、極限まで最適化するベクトルを働かせることがデジタルの得意なことだから、遠慮せずにそれをやった方がいいと思います。
ファッションの世界では、デザイナーがいてアシスタントがいるのですが、いままではアシスタントが手でがんばって、「いっぱいアイデアを考えて参りました」みたいなことをやって、最後は謎の勘で「これがいいね」と選ばれる、みたいなことがあったわけです。マーク・ジェイコブスのドキュメンタリーを見ていると凄いなと思うのですが、でもこれは人間の認知限界を前提にしています。
だから、それを超えるような生成力が手に入ったときに何が起こるのかということを僕たちは考えています。ISSEY MIYAKEと取り組んだ際はそれをやりました。とにかく一回数を出してみて、そこから結果的に選ばれたのが、エラーというか、普通だったら縫製されないようなものだったのですが、それをあえて選んだりするプロセスでした。だから、最適化と新しい創造力は別個にするのではなく、重ね合わせる方が面白いんじゃないかなと思います。
秋吉:最近、AI系のカンファレンスに結構出るのですが、僕らもまだやれていないと思うのは、まさにAIを使ってどうクリエイティブやデザインを前進させるか、というアイデア出しやクオリティを上げる方の議論なんですね。どうしても業務効率や生産性向上の話になりがちで、生産性を上げて何をするのか、その先でクリエイティブをどう上げるのかという議論までまだいけていない。
その中で面白いなと思ったのは、音楽の分野です。徳井直生さんという、もともとSFCのエクスデザインプログラムにいた先生が、いわゆる変換器みたいなもの、AI駆動の音を変換する機械をつくっていて、それによって音楽表現が変わるというのを実演しています。そうやってある種楽器を発明する延長にAIやフィジカルなものがあるという感覚で、建築やデザインもいままでのドラフターやペンの延長、あるいはIllustratorやCADの延長として、AI的なものや現代のテクノロジーを活かして、よりドライブさせることができるはずなんですよね。そういうことを僕らももう少しやっていかなきゃいけないというのは、ここ最近色んな色んな人の話を聞いていて、まさにいま課題に感じていることです。
川崎:LLMが収集できるデータでそういうツールみたいなものがかなり簡単につくられる未来が近づいてきています。いわゆるバイブコーディングのように、AI前提でコーディングしてしまうものですね。1、2週間でツールをつくってしまえるような世界が来ているので、ツールからデザインする、デザインのツールをつくるということに対するAIのインパクトはかなり大きいと感じています。これはデザインの業界でももっと議論した方がいいですね。
原田:ここまでVUILD代表の秋吉浩気さん、Synflux代表の川崎和也さんに、ものづくりにおけるツールのあり方や、今後テクノロジーが創造性をどう変えていくのかというテーマを中心に色々お話しいただきました。後編では、クリエイティビティというところからサステナビリティというところに軸足を移し、衣食住という人間の根源的な営みを支える建築とファッションの領域で活動されているおふたりに、地球の未来を考えた時にものづくりや人間の暮らしがどう変わっていくといいのか、そのために何が必要なのかという話を聞いていきたいと思っています。では、ここまで秋吉さん、川崎さん、ありがとうございました。
秋吉+川崎:ありがとうございます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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