企業の未来に貢献するインハウスデザイン組織のカタチとは? | YOHAK DESIGN STUDIO・鹿野喜司さん+安永哲郎さん〈3/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなゲストとともにデザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。YOHAK DESIGN STUDIOのシリーズ3回目は、安永哲郎さんに加え、チーフの鹿野喜司さんもお招きし、コクヨという会社におけるYOHAKの位置づけなどについて伺いました。
コクヨの総合力を体現するデザイン組織
原田:YOHAK DESIGN STUDIOのシリーズ、今日が第3回目です。 前回は、YOHAKのプロジェクトにおいて、プロデュースやプランニング、ディレクションを担当されている安永哲郎さん、アートディレクター/プロダクトデザイナーの佐々木拓さんに、具体的なプロジェクトについてお話を伺いました。
今週も安永哲郎さんには引き続きご出演いただきます。安永さん、今週もよろしくお願いします。
安永:よろしくお願いします。
原田:そして今週、新たにご参加いただくのが、YOHAK DESIGN STUDIOでチーフを務められている鹿野喜司さんです。鹿野さん、よろしくお願いします。
鹿野:よろしくお願いします。
山田:よろしくお願いします。
原田:今回は、YOHAK DESIGN STUDIOが会社にとってどのような役割を担っているのか、そもそもYOHAKがどういう経緯で立ち上がったのか、そういったことをおふたりに伺っていきたいと思っています。
その前に、まずは鹿野さんのこれまでのキャリアや、現在どのようなお仕事をされているのかについて伺ってもよろしいでしょうか?

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鹿野:2002年にコクヨに入社しまして、主に空間設計の仕事をメインにやってきました。2009年頃に、UDSという会社がコクヨのグループに加わりまして、そのタイミングで3年ほど出向していました。その間は、ホテルや商業施設の計画に携わっていて、3年経って戻ってきて、再びコクヨの空間デザインチームに所属しました。そこからさらに3年ほど経って、現在YOHAK DESIGN STUDIOを運営しているコクヨのクリエイティブ室の立ち上げに加わることになったという流れになります。
原田:YOHAK DESIGN STUDIOが生まれるところから、鹿野さんがずっと関わってこられたわけですね。
鹿野:そうですね。最初から「YOHAK DESIGN STUDIO」という名前が決まっていたわけではありませんでした。 僕がUDSから戻ってきて、色々と仕事に取り組んでいく中で感じたのは、コクヨは信頼感や親しみやすさというブランドイメージがある一方で、新しい取り組みをしていく上では、デザインやブランドに関わる要素が必要になってくるということでした。新しい取り組みをわかりやすく世の中に伝えていくためには、やはりデザインやブランディングにこだわったチームを立ち上げないといけないんじゃないかという認識がまずあったんです。
そのチームが、どこに位置づけられ、どんなことに取り組んでいくといいのかを社長と話し合っていく中で、「リテールをやってみよう」という話になり、そこからTHINK OF THINGの立ち上げが始まったんですね。
THINK OF THINGの立ち上げでは、何を扱うのか、どういう空間にするのかといったことを話していくうちに、実際にプロダクトをつくり、空間を設計し、さらにそのブランドをどう構築し、どう伝えていくかというところまでを総合的にインハウスで取り組んでいきました。その過程で、「これこそがコクヨらしい提供価値なのではないか」と感じるようになったんです。 これまでは「文具」「空間」など分けて考えることが多かったけれど、実際にはそれらをどう伝えていくかというコミュニケーションやブランド構築まで含めてすべて一貫して取り組んでいることがコクヨらしい総合力なんじゃないかと。それを小さなミニマムなチームで動かしているというのがコクヨらしいクリエイティブチームのあり方ではないかという話になって、それをYOHAKと名付けようと。
原田:まず「場所」がありきだったんですね。
鹿野: はい。THINK OF THINGの立ち上げが先になりますね。
原田:YOHAKはインハウスのデザイン組織として、新しい形を提示してくれているチームなのかなと思うんですが、逆にそれまでのデザイン組織ではできなかったことや、当時抱えていた問題意識のようなものは、どんなところにあったのでしょうか?
鹿野:コクヨのデザイン部門は、各事業部の中に属しているんですよね。だから当然、事業が最優先であるべきという前提がありました。空間事業、文具事業といったようにそれぞれの領域に分かれていて、それぞれの事業目線で最適なデザインアウトプットを出していくということなんですね。でも、コクヨが目指しているクリエイティブチームのあり方は、もっと総合力に重きを置いたものなんです。たとえば、手のひらサイズの文具から家具、そしてその家具を置く空間、さらにはまちづくりのようなスケールの大きな空間まで。そうしたすべてを横断的に扱うには、やはり事業部を超えた取り組みでなければなりません。これまでは、そうした横断的な動きができる組織が社内に存在していなかった。だからこそ、従来とは異なる、新しいチームを事業部の外につくる必要があったんだと思います。
コクヨの中で育まれてきた文化
山田:コクヨはいま創業120年くらいですよね。1世紀以上続いてきた会社ということで、そもそもデザインの文化はどういう風にあったのでしょうか。コクヨのロゴは子どもの頃からみんな目にしていると思うんですけど、それをデザインのアイデンティティとして認識していたかというと、ちょっと難しいところがありますよね。いわゆる質実剛健というか。これらは子どもの頃から学校などで身近な場所に当たり前にあったものですが、尖ったデザインの印象はあまりなかったイメージがあって。
安永:コクヨは凄くアノニマスな存在のようでありながら、それでも「コクヨ」という名前は多くの人の中にちゃんと残っていて、ある種の企業イメージや、つくるもののイメージが定着している。だからこそ、逆に大きなギャップとして見えてくる部分もあるのかなと思います。でも、内側にいる僕たちとしては、何か大きな方向転換をしたというよりも、これまで伝えたかったけどうまく伝わってこなかった価値、本当はこういう意図や思いでデザインしてきたんだということを、視点を少し変えることで伝わりやすくなったり、接点が変わるだけで印象が変わるようなことをやっている感覚に近いんです。
コクヨというブランドについて社内で語り合っていると、凄く内向的な集団なんだなと思うことがあります。お客様の背中をそっと押すような存在であろうとするとか、自分たちがやっていることをそんなに大したことではないと控えめにコミュニケーションするだとか、そういう奥ゆかしさが伝統的に根付いている会社なんですよね。でも、少し切り口が変わるだけで、「なんでそんなことまでするんだろう?」という強いこだわりにも見えてきたりするし、「それをやるために、見えないところでどんな価値を積み重ねてきたんだろう?」と、その背景にある深さにも気づかされるんです。そういう意味でも、これまで積み重ねてきたもののひとつの出口として、こうしたアウトプットがあり得るのかなという感覚を持っています。
原田:もともと持っていた資産や価値を可視化してあげるというのは、いわゆるブランディング的なデザインの力だと思うんですよね。それを本当にうまく可視化できるのは、やはり内部でその歴史を共にしてきた組織だからこそ、という部分が凄くあると感じています。たとえば、外部からアートディレクターを呼んできて、「うちはこういう歴史があります」と資料を渡してブランディングしてもらうのとは、やっぱり違う現れ方になると思うんです。
山田:自分たち自身のことを扱っているからこそ、外部とは違う視点や深さがありますよね。
原田:形にした後もずっと関わっていけるというのは、インハウスのデザイナーやデザイン組織ならではの大きな強みだと思います。デザインを育てていくというような部分も含めて、やっぱりインハウスだからこそできることがやはりあるのかなと。
安永:そうですね。 最近は、「自分たちは何者なのか?」というテーマを、経営と同じ目線で語り合う機会も結構多くなってきました。そうした中で感じているのは、自分たちがやっていることは、一見すると凄く素朴で普遍的で、角の立たないものに見えるんだけれども、実はもの凄く細かいこだわりがあったり、「なんでこんな商品が生まれたんだろう?」というようなものが、当たり前のように並んでいたりする。そういうある種の異常性みたいなものも実は備わっているんじゃないかという話も出てきたりして。「それは一体何なのか?」を考えていくプロセスの中で、価値の再定義みたいなことが自然と起きて、THINK OF THINGのように自分たちの価値を伝えるための場所やプロジェクトが生まれたり、またそこからさらに新しい何かが生まれていくという流れが、徐々にできてきている感覚があります。
鹿野:THINK OF THINGの立ち上げ時に、「レビュー」というキーワードがありました。これまでコクヨが取り組んできたことの本質を、改めて見直してみようという視点です。モノの価値だったり、形やデザインの感触みたいな部分も含めて、異なる目線が入ってきて変わっていったものがたくさんありました。
THINK OF THINGのもともとのMDのテーマにもあるように、モノとモノ、価値と価値のあいだを狙っていくとか、 モノをつくる時に一歩手前であえて止めておいて、最後のワンアクションはユーザーに委ねるという考え方があります。大事なところはしっかり押さえながら、そこから広がる可能性を重視したMDのセレクトも行っていました。モノの本質は変えないけど、見え方や捉え方を変えていくことによって、さらにアップデートしていくというのが、デザイン表現としてひとつあるのかなと思っています。それがTHINK OF THINGで形にできたという手応えがあって、その思いを皆が持ちながら、それぞれのデザイン業務に取り組んでいるというのが結構強いのかなと思いますね。
原田: 社内におけるデザイン組織の役割は、例えばブランディングを担ったり、広告をつくったり、あるいはプロダクトのデザインを担当したり、販売促進的なことに関わったりと、企業活動の中のさまざまな局面で発揮されるものだと思うんですよね。 そうした中で、「このデザインはこのためにある」と明確に定義されている方が、企業としては考え方を整理しやすいじゃないですか。そういう意味で言うと、YOHAK DESIGN STUDIOは、その役割があまり明確ではないようにも見えますが、あえてそうしているというところもあるように思います。 とはいえ、企業という枠組みの中で見るとそれにはやはり難しさもある。
山田:普通に考えたら、なかなか決裁が下りないですよね。
原田:端的に言うとそういうことですよね(笑)。YOHAKは社内的にどういう位置づけとされているのか、改めて伺ってみたいなと思います。
鹿野: THINK OF THINGを立ち上げる時も、これまでコクヨではできなかった取り組みをリテールという場を通じて実現できたらいいよねという思いがありました。コクヨの「品質」といえば、何回もトライを重ねて、安心して商品を届けられるように整えていくというスタンスが基本にあると思うんです。 でも、その品質の価値観は、使う人によって変わってくる部分もあると思うんですよね。どこから購入するか、どんな場面で使うかによっても捉え方が変わる。そういった部分にこれまでなかなか踏み込めなかった。だからこそTHINK OF THINGでは、そういう新しいチャレンジをしてみようと考えました。
コクヨは基本的にBtoBのビジネスモデルなので、顧客との直接的な接点が少なく、商品を届けた後のケアまではなかなかできないんですよね。 でも、ダイレクトに顧客とつながる場所があると、実際にお話をしたり、こちらの意図を正面から伝えることができる。 そういうここでしかできないことができるのが、THINK OF THINGだったと思います。
鹿野:だからこそ、いままでできなかったことにあえて取り組んでみるというのは、YOHAKにとって凄く大事な姿勢なんだと思います。 「これは無理なんじゃないか」と思っていたことでも、実際にやってみたら「できるじゃん」と気づけることもある。たとえば、「こんな商品でもちゃんと興味を持ってくれる人がいるんだ」と実感できる。 そういう思い切りの良さのような感覚を、会社に戻すことができるんですよね。それは、単にデザインをフィードバックするということ以上に、チャレンジの姿勢を社内に戻していくような感覚に近いのかもしれません。
原田:デザインにおけるR&Dから実証実験、マーケティングまで、その一連のプロセスをやっているという点で、これまでのインハウスのデザイン組織が取りこぼしてきた部分をしっかり拾い上げているなと凄く感じます。
安永:そうですね。もともとコクヨの企業風土として、お客様よりも先に自分たちが失敗するという風潮があるんです。1960年代から我々は自社のオフィスを「ライブオフィス」と名づけて、お客様に公開し、見学自由にしてきました。その中で、自分たちが実際に働いてみてこれはダメだと思ったら、また別の形でチャレンジしてみる。そういう試行錯誤を当たり前のように繰り返してきた歴史があるんです。そうした文化が当たり前にある中にいると、「こうあるべき」という以前に、どれだけ多くの可能性を自分たちが体感できているかということの方が、将来的な成功につながっているということを体得している感覚はあります。だから何をやってもいいという意味ではないのですが(笑)。
デザイナーのキャリアにおけるYOHAK
原田:YOHAKに所属されているデザイナーの方々は、グラフィックをやったり、プロダクトをつくったり、時には写真も撮ったりと、色々な活動をされていますよね。そのすべてをYOHAKがもともと明確に求めていたものではなかったのかもしれないですが、結果としてそうした個々人の活動がYOHAKの形やあり方を少しずつ変えていける余地があるように感じます。多くのインハウスのデザイン組織では、「与えられた役割をきちんと全うしてください」ということが基本だと思うんですが、YOHAKにはそこにも余白がある。そういう意味で、デザイナーとして働く環境としても、他のインハウス組織とは違う、凄く良い環境なのかもしれないなと。実際に、YOHAKの中で働いているデザイナーたちの声や反応はどんな感じですか?
鹿野:YOHAKは色んなところから、デザインや人、考え方などさまざまなものと出会っては、それを吸収していくような組織なんです。常に余白を探しているような状態なので、そうした接点や学びに対してはできるだけ広く自由に活動してもらいたいと思っています。空間設計の仕事はどうしてもやり切るフェーズがありますけど、ユニークなプロジェクトが増えていくと、その分色んな人との接点が増える。クライアントだけではなく、さまざまな人とのつながりの中で、自分の新しい興味が出てきたり、相手の興味と自分の関心が重なって、そこに対する深掘りが強くなっていったりする。そういう関わり方をそれぞれが持ちながら取り組んでいくことで、あらかじめ決められたアウトプットではなく、もっとジャンプアップするような、そういう瞬間が各プロジェクトの中で自然に起きたらいいなと思っているんです。そうしたスタンスでいてほしいということは、常にみんなに伝えていることでもあります。
原田: 例えば、YOHAKで経験を積んで独立しようとか、キャリアアップにつなげようとか、色んな考え方があると思うのですが、 YOHAK DESIGN STUDIOとして、あるいは鹿野さん個人の考えとして、デザイナーのキャリアに対してどういう見方をされているのか、そのあたりのお考えはありますか?
鹿野:YOHAKが育っている状態が、コクヨにとっても貢献になっていると思いますし、チームとしてのレベルも上がっている状態だと思っています。そして、そのYOHAKを形成しているのは、やはり人なんですよね。たとえば、誰かが独立して外に出て活躍していくということも、ひとつの仲間であるという前提のもと、それは大いに良いんじゃないかと。そうやって出ていった人も含めてYOHAKがつくられているというのは、それはそれで全然アリかなと思いますね。
原田: 現状は、佐々木 拓さんや金井あきさんのように、YOHAKの外に出るわけではなく、それぞれが個人としての活動も評価されることで、「YOHAK DESIGN STUDIOって一体何なんだろう?」と興味が集まってきているような状況もあって、なかなか他の組織ではあまり見られないユニークな状態なのかもしれないですね。
山田:そもそもコクヨは、働き方の研究をしてきた会社でもありますよね。そういう意味では、YOHAKのようなあり方もひとつのケーススタディというか。いまの時代のニーズや社会からの要請に合わせて、こういう形のオフィスがある、働く集団が存在しているということなのかなと。
鹿野:YOHAK自体は、やはりミッションを担っている存在だと思うんです。会社から与えられたミッションをどれだけきちんと果たせるかということが大事なんですよね。それをこれまでの会社の組織と同じように一緒くたに考えてしまうと、たぶん運営もうまくいかなくなると思うんです。例えば、個人で起業した上でYOHAKに属するという選択肢も当然あると思いますし、社員としてなのか、業務委託なのか、あるいはパートナーなのか、色々なかたちがあってよくて。要は、個人が自分の仕事とYOHAKでの仕事をうまくバランスさせながらやれている状態がとても魅力的だと思うんです。個人だけではできないことがYOHAKにいるからこそできる。逆に、YOHAKというコレクティブだからこそ、より大きなアウトプットを出せる。そうした行き来をしながら、YOHAKとしてのミッションをしっかりとアウトプットし、自分自身も個人としてアップデートされていく。そういう関わり方こそがいまのYOHAKに合っていると思いますし、YOHAKにとってもその方が良いんじゃないかと。自由である一方で、やはりそこに課せられた「こういうアウトプットを出すべき」「このミッションに応えるべき」といった、部署としての責任も当然あります。それに対して真摯に取り組むことが大前提だと思うんです。そういったバランスをうまく取りながらしっかりと貢献できていれば、全然問題ないんじゃないかなと。
山田:結果を出すためにどういうプロセスを経るかという違いだけということですよね。
鹿野:そうです、そうです。プロセスが変わっているだけな気がしますね。
安永:自律的であることがYOHAKのミッションだと位置づけるのは、凄く気持ちが良いことだなと。そういうミッションがあるからこそ、いわゆる“組織としての組織”みたいな枠組みにとらわれずにいられる。結果的にその方が、ポジティブな可能性を広げていけるということもある。有機的な活動体のような状態で色々な試みることによって領域横断ができたり、必ずしも常に集まっていなくても活動が成立する。物理的に集合がすべてではないということもYOHAKとして体現できていると思います。これを信じてもう少し色々な挑戦をしてみてもいいのかもしれないな、と今日あらためて感じましたね(笑)。
デザインが会社自体に及ぼせる影響
原田:ちょっと大きな話になるかもしれないですが、企業のデザイナーやデザイン組織が会社自体にも影響を与えることができるんじゃないかという気がしています。つまり、会社の考え方そのものをデザイナーやデザインの視点から少しずつ変えていくような役割も本来は担えるんじゃないかと感じています。 YOHAK DESIGN STUDIOは、特にそうした可能性を秘めたチームなんじゃないかなと思っているのですが、そのあたりについて、おふたりは何かお考えがあったりしますか?
安永:直接的に「デザイン」という切り口で言うと、たとえば新入社員や感性の豊かな若手社員がYOHAKのような仕事や世界観に触れた時に、「自分もこんな表現をしてみたい」と憧れてくれる。あるいは、「デザインでこんなに幅を広げられるんだ」と感じ取ってもらえる。そういう存在としてのYOHAKというのは、企業内で凄く重要な位置づけにあると思っています。
もっと広く企業全体の視点で見た時には、いまコクヨにはひとつ課題が浮き彫りになってきているんですね。というのも、コクヨは色々な点の事業や商品が集まってできている企業なので、そこを俯瞰して全体の世界観を構築していくディレクションやプロデュースといった目線や役割が明確に存在していないんですね。その結果、ブランドとしてはお客様から凄く親しまれ、愛されているにもかかわらず、「自分たちは一体何者なのか?」ということを語りきれていない。そうした状況の中で、ブランドディレクションやブランドボイスをどう表現していくべきかといった議論が、社内でも活発になってきています。そこで、デザインというものをひとつのきっかけにしながら、企業としてのフィロソフィーをみんなで考えていくような文化が少しずつ育ってきていて、それもYOHAKが社内に与えている影響のひとつだと思っています。
山田:そこをどう伝えるのかというところを主体的にやらないといけない時代になったのかなというのはありますよね。
安永:そうですね。企業の社会的責任がますます問われる中で、売るためにブランディングをするのではなく、いかに世の中にとって必要な存在になるかという観点からのブランディングが重視されるようになっています。そういう時代において、我々のような企業は、もちろん「この商品をいくらで売るか」という視点も企業が持続的に活動するために必要な“種”なのですが、同時に「世の中にどう必要とされるか?」ということを丁寧に紡いでいくことも凄く大切。そのために、YOHAKがあること、デザイン的な目線があることが、しっかりと効果的であってほしいなと。
山田:結果として、大きな主語だったものが、もう少し「個」の主語、つまり小さな主語へと切り替わっていくような流れがありますよね。そのひとつのレイヤーとしてYOHAKがあったり、場合によってはその中のデザイナー個人の名前が前面に出ていったり。そういったかたち自体がいまの時代の要請というか、ある種の必然として起きているんじゃないかと思います。そして、コクヨという企業全体もそうした方向に向かいつつあるのかなと。
原田: 「デザイン経営」のようなことがよく語られるようになって、インハウスのデザイン組織やデザイナーも世の中的にどんどん増えている状況があると思います。 でも、どうしてもそこでは当然ながら経済性がまず第一に求められていて、利潤を上げるためにデザインを活用する。もちろん、それはデザイン経営のひとつの本質ではあると思うのですが、安永さんがおっしゃっていたようなある種の社会性や、企業文化、つまりカルチャーをつくっていくというところでも、デザイナーやデザインの考え方は本当は活かせるものなんじゃないかと。そういう意味では、売上を高めることだけではない、デザインを経営に取り入れる意義が本当は色々あると思うんです。 でも、そのあたりまできちんと踏み込んで実践できているケースは、実はまだあまり多くないのが現状なのではないかと。 そうした中で、YOHAK DESIGN STUDIOの取り組みは、そういった部分まで意識されている活動だなと感じています。
安永: そうですね。やはり人格的なものが企業にとっても凄く重要だと思うんです。 そのために、「Be Nice」とか「Be Good」みたいな姿勢や価値観を、会社の中にいかに状態としてつくり出していけるか。 そういうことを、経済性と同じくらい大切なものとして扱いたいというのが自分たちのベースにあります。 YOHAKのような組織があることで、少しでもそこに貢献できたらと考えていますね。
原田: 3回目となる今回は鹿野喜司さんと安永哲郎さんに、コクヨという会社におけるYOHAK DESIGN STUDIOの役割や位置づけ、インハウスデザイン組織のあり方、デザイナーの働き方などについて色々とお話を伺うことができました。本日はどうもありがとうございました。
鹿野+安永:ありがとうございました。
原田:最終回となる次回は、1、2回目にもご登場いただいたアートディレクター/プロダクトデザイナーの佐々木拓さん、そして2000年代生まれでYOHAK最若手のデザイナー・有本怜生さんをお迎えします。おふたりには、インハウスデザイナーとして働くことや、デザイナーとしてのキャリアなどについて聞いてみたいと思っています。今日はここまでにしたいと思います。
山田:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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