インハウスから生まれる新しいデザインとは?【デザインウィーク関連企画②】 | HOJO AKIRAさん × NOMADIC COLLECTIVE・品川 及さん
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人がさまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。今週は、インハウスデザイナーとして働きながら、DESIGNART に参加していたHOJO AKIRAさんと、NOMADIC OLLECTIVEの品川及さんの対談をお届けします。
同じ企業に籍を置く2人のデザイナー
原田:先週に引き続き、秋のデザインウィーク関連の企画をお届けします。先週は、僕と山田さんで10月18日から27日まで東京各所で開催されていた「DESIGNART TOKYO 2024」を中心に、それぞれが気になった展示やデザイナーさんの話をさせていただきました。その中でも、企業でインハウスデザイナーとして働きながら個人でも制作をしている人が特に若い方々の中に多く見られたという話をさせて頂きましたが、今週はその中から2人のデザイナーにお越し頂いています。
コクヨのデザイナーとして働くメンバーたちによるデザインユニット「NOMADIC COLLECTIVE」から品川 及さん、同じくインハウスデザイナーとして企業でデザインをする傍ら、個人でもプロダクトデザインをしているHOJO AKIRAさんのおふたりです。品川さん、HOJOさんさんよろしくお願いします。
HOJO:よろしくお願いします。
品川:よろしくお願いします。
原田:まずは、それぞれがどういったデザインの活動をされているのかというところを自己紹介的にお話しいただいてもよろしいでしょうか?
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HOJO:先ほどご紹介いただいたように会社員として製品をつくりながら、個人として作品に近いような形のものをつくったり、クライアントワークなどを行っています。今回のDESIGNARTでは、表参道のTIRES GALLERYという場所をお借りして出展させて頂いたのですが、ソファをつくって皆さんに座って頂く形で体験をメインとした展示を行いました。マスプロダクト、量産品をつくる側が求めるものが過剰だったり、逆を言ってしまえばユーザーさん側も「あれが欲しい、これが欲しい」というところが過剰になっている気がするというところを考えながら、実験的にひとつプロダクトを展示しました。
品川:NOMADIC COLLECTIVEとして、同じ会社のメンバー4人と、あともう1人別のメンバーがいるので、計5人で活動をしています。生活に基づいたプロダクトを各々アウトプットで出している集団で、今回は4人各々がつくった作品を、全体の空間を通して見せていくという展示をしました。私個人としては、焼き物に技法である「排泥鋳込(はいでいいこみ)」という技法を使ったシリーズ2点、型にフォーカスを当てたものを制作し、展示いたしました。
原田:聞いたところによると、おふたりそれぞれがインハウスデザイナーというだけではなく、同じ会社ということも伺っているのですが。
HOJO:そうですね。自分の方が品川くんよりも3つ上です。
原田:ということは、おふたりともコクヨにお勤めということですね。しかも部署も一緒なんですよね?
HOJO:はい。一緒なのですが、うちの会社はグループで一個のものを一緒につくるという感じではないので、プロジェクトが一緒にならないと会ったり、話したりということはほとんどなくて。
品川:プロジェクトベースでそれぞれの担当がつく形になるので、プロジェクトに一緒に入らないとガッツリ仕事をする感じにはならないですね。
二足のわらじで行うものづくり
原田:普段会社ではどういったものをつくられることが多いのですか?
品川:チェア開発の部署なので、主にオフィスに置かれるような椅子をメインにつくっている形になりますね。
山田:そうすると、今回品川さんは普段とは全然違うものをつくられていて、HOJOさんはある意味量産の仕組みみたいなことをご経験も含めながら、企業の中ではできないことや、自分の中での可能性の突き詰め方みたいな形でデザインされているのかなと思うのですが、それぞれいかがでしょうか?
HOJO:自分で言うと、会社との差みたいなところにつながってくるのですが、やはりインハウスでは大勢でつくることが多いので、自分のピュアな思いベースでつくるようなことはあまりなく、量産ベースというところで考えた時に人に伝えやすいというところが必要になったりするんですね。一方で、今回のように展示をしたり製品をつくらせていただく場合は、どちらかというとよりピュアに近づいていくのかなと思っていて、そういう差は出ているのかなと思います。
品川:私は今回焼き物という工芸に近いものなので、一見するといわゆるプロダクトデザインや会社での仕事とは全然違うものをやっているのですが、工芸的なものをやりつつも、やはり少し量産に向けてというところには関心があるので、両者が分断されてものづくりをしているというよりは、媒体が少し変わったくらいの感覚でトライをしているつもりです。
原田:根本的な話になりますが、普段インハウスデザイナーとしてデザインをされていて、並行して個人でも作品を制作して、こういった形で発表をするということに対して、どういうモチベーションで取り組まれているのでしょうか?
HOJO:大学生の時から、フリーランスのデザイナーの方々には憧れに近いものを持っていました。その人たちの仕事ぶりも含めて見てみたいということもあってインターンに行かせてもらうなど結構身近に接する機会があったので、フリーというのは一つの軸としてあるなと常に思っています。ただ、経験値としてインハウスというものも体験したいというところがあったので、入口として企業に入ったのですが、その中でインハウスの良いところ悪いところというのを両方体感として理解できてきたところがありました。そういうことが許される時代にもなりつつあるような気はしていて、特にうちの会社は働き方というものを提案していることもあって、多分こうした二足のわらじ的なことも許容してくれているような気がしています。それもあって可能な範囲で両方を続けているのですが、「麻痺しないように」という感覚が自分の中にあって、インハウスの良し悪しみたいなものを選別せずに鵜呑みにしてしまう自分が怖いというんですかね、情緒的な表現をしてしまえばですが。そこをモチベーションにアウトプットを続けていこうかなと思っていたりします。
品川:今年出した片方の作品は、卒業制作からずっと続けていたもので、シンプルに「つくりたい」という欲求が続く限りはつくろうという感じではあるのですが、僕の場合は一緒にやっているメンバーたちがいるので、モチベーションを高め合うこともできているという実感があります。
原田:同じ企業の中でデザインの仕事をしているメンバーがユニットとしてやっているけど、ひとつのものを一緒につくるということではなく、それぞれが別のものをつくっている。扱う素材やつくっているものは全然違うけど、NOMADIC COLLECTIVEというグループになっているという関係性が面白いですよね。一緒にひとつのものをつくろうという感じにはなっていかないのですか?
品川:実はそういう話も少しずつ出ています。僕たちの作品は結構バラバラに見えるという感想を頂くことも多いのですが、割と関心を向けている部分というか、根本的に仕組みに関心があったり、技法やつくり方に対してどういう新しい仕組みをつくれるのかとか、日常で見つけたものをどう最大値に持っていくのかとか、そもそもつくることをどうみんなに届けるのかという「LIGHT-PAPER」という作品があったりするのですが、そういうつくる部分や仕組みたいな部分にみんな関心があるのかなと思っていて。そういう部分では共通しているのかなと。
原田:僕も展示を見させていただいた時にちょうど品川さんがいらっしゃったのでひとつずつご説明頂いたのですが、プレゼンテーションを同じ空間の中でされているので統一感はもちろんありつつ、いま仰っていただいたように、アウトプットは全然違うけど、視点やアプローチにだんだん共通点が見えてくるところがあって。インハウスデザイナーという背景を知っているからこそ想像してしまう部分もあるのですが、普段量産品をつくられている中で、量産品におけるものづくりのあり方とか、消費と生産のサイクルとかそういったものを知っているがゆえに、量産品の方法論をちょっとハックしていくような、そういうやり方とか視点が共通しているのかなと。会場で品川さんも、普段同じ環境で仕事していることもあって視点が近くなってくるということを仰っていたと思うのですが、個人的にもそういう部分は感じました。
山田:それぞれがクラフト的な視点に行ったり、もう少し包括的にデザインの民主化じゃないですが、方法論みたいなところにいっている作品もあったり、皆さんの世代ならではの色々な視点や関心を持ちながらデザインについてプレゼンテーションされているというところが大きな共通点なのかなと思いました。
研ぎ澄まされた量産品の世界
山田:一方でHOJOさんは、ご自身の中で課題を設けて、それを追求していた部分があるのかなと思います。やはり個人で出すとなるとどうしても工業化よりは工芸化に近づいていくものだと思うのですが、HOJOさんは工業化を見据えている若いデザイナーの中では突出したデザインだなと思いました。マスプロダクションを普段やられているということもあると思うのですが、再現性の高さというのはデザインの中で凄く重要なことなので、そういう意味で非常にユニークな作品であり、完成度の高さも感じさせるものでした。
HOJO:前回DESIGNARTに出した照明も含めて、僕は量産品というものが実はとても好きで、それを否定するようなことはしたくないと思っています。インハウスという組織全体を否定したくなくて、良いところと悪いところがあるという表現をするにおいて、手工芸的な要素が一点でも入ると説得力に欠けてくるというのがあって、全体としてあまりハンドクラフトライクなことはやめようというのが狙いとしてはありました。
たぶんそれは、自分が大学を卒業したあたりの時に、マルチスタンダードの方々が凄くグッときた時代だった気がしていて。その時に自分の中でコンプレックス的に、やっぱりこういうのカッコ良いよなというのがあって自分でも挑戦してみたことがあったんですよね。でも、案外自分にはその引き出しがないということもやっていくとわかっていくというか、そもそもあまり興味がないというか、自分の中では量産という軸が結構大事で、自分のアイデンティティに近いんだなと。あまりそちら側に行かないように意識的にしているつもりはないのですが、結果としてあまり行かないのかなと。
山田:マルチスタンダードの話は少し補足が必要な部分があるかもしれませんが、アートピースと言うか一回性が高い製品というかデザインをつくっていくような、HOJOさんより少し上のデザイナーたちで、皆さん現在も活動をされていらっしゃいます。そういうものに対してご自身の中ではそこではないというか、そこには行かないんだということを手探りの中で見つけられたというのも凄く良い話だなと思ってお聞きしていました。
原田:HOJOさんの量産品に対するまなざしというのは、企業で量産品を実際につくられるようになって変わってきた部分というのはあるのでしょうか?
HOJO:今回の展示も含めて、最近色々聞かれる中でそういうことも考え始めたのですが、企業に入る前から、自分は金沢美大というところだったのですが、その頃から興味の矛先としては量産品だったなと思います。うちの大学には工芸もあるのですが、そこよりはやはり量産品にずっと興味があって、こういう世界、プロダクトデザイナーを目指そうと思ったのも案外そこだったんだろうなというのが自分の中にはあると思います。
原田:インハウスでマスプロダクトをつくられていると、ある種その反動で工芸的なものに寄っていくんじゃないかというところは想像に難くないところではあるのですが、品川さんは量産品をつくっているから逆にこっちに寄っているとか、量産品をつくっているからというところがご自身のものづくりに関係しているところはありますか?
品川:凄く研ぎ澄ませて品質が高いものを届ける量産品の世界は僕も凄く良いなと思っているのですが、最近は買ってすぐに壊れて捨ててしまって、同じものが売っているからまた買い替えることができるという世界が割と多いなと思っています。もう少しつくり方自体にストーリー性があったり、つくり方によって愛着を生むことができるようなものづくりに個人的にはいま関心があって。ただつくり的に一点物ということではなく、もう少し量産に落とし込めそうなラインを狙いながら、そこにストーリーがあるみたいなものをやりたいと思ってやっていますね。
量産品に感じる魅力と違和感
原田:おふたりとも共通して量産品に対する敬意があり、それ自体は全く否定されていないと思うのですが、一方で日々量産品をつくる環境にいると、そこで感じる違和感や、「ここはどうなんだろう?」みたいなところもある程度見えてくるのかなという気がしています。その辺りが個人でつくられているものにつながってくるところはあるのでしょうか?
HOJO:一概には言えないなと思っています。誰も悪くないし、誰も責任がないというか、「こうだから、こうしています。しようがないでしょ」といった佇まいなのかなというところが自分の中にはあって。企業も別に勝手にやってるわけではなくて、お客さんが求めてくれるからそのクオリティまで上げていきたいという意思のもとで色んなものが厳しくなったり、色んな機能が飽和していくところがあって。特に家電なんかはそれが多い気がするのですが、使うかわからない機能がたくさんついているというようなことが起きてしまうんだろうなと思っていて。先ほど品川さんが仰ったように簡単に捨てられてしまったり、取り換えが効くというところも原因としてはあったりということを考えると、やはりユーザーにもある程度の問題はあるし、一方でメーカー側にもある程度の問題があるなというところもあったので、今回自分は体験型というところを大事にしました。展示をしてこうなんですという答えを出して終わりではなく、僕はこう思ってこれをつくりましたが、「皆さんはその思想のプロダクトに座った時にどう感じますか?」という会話ができたらいいかなというところを大事に展示を行いました。インタラクティブなコミュニケーションが起きたら良いなと。
山田:HOJOさんの提案は、2つの素材しかなくて、しかもそれらは結合しておらず、フレームにクッションを乗せているだけなのですが、これでいいというか、これで十分だなと思えるものでした。フレームがあって、その上に座り心地の良い座面が乗っていれば、複雑なサンドイッチをした状態のソファというものが必ずしも正解なのかということなど、普段の自分の生活自体を見つめ直すという意味で、まさにHOJOさんがご提案されていた内容というのは問題提起なのかなと。もちろん、あのソファを本当に製品化していこうとすると一つの企業として考えたらマスを見ないといけないのでなかなか難しい部分はあると思うのですが、現状の社会問題に対する提起はなされていて、とても面白いなと思って見ていました。
原田:これは「ベンチ」ではなく「ソファ」と言っているところも結構ポイントとしてありますよね。「ベンチ」と言われるのと「ソファ」と言われるのではどうしても捉え方が変わってくるし、ソファというのはやはりクッションがくるまれているもので、柔らかくリラックスして座れるものがという印象があって、実際座り心地自体は良いのですが、「ソファってこういうものだよね」という刷り込みが受け手側にはあるので、そことの差分で見た時にどうしても「え?これがソファなんだ」という違和感がある。その違和感から改めてソファとかデザインについて考え直したり、再生や循環という観点についても、そういったアプローチで言われると「たしかにそうか」と思えるというか。ある意味受け手側の感覚が試されるようなところも大きいのかなと思いました。
HOJO:ありがとうございます。今回はDESIGNARTという「デザイン」と「アート」という言葉をくっつけた造語のイベントだということを考えた時に、プロダクトアウトに近いことの方が意義があるなという目的意識もあって、ただ「商品にしたいんです」ではなく、商品に見えるけどどちらかというと伝えたいのはその内側にあるコンセプトで、それはアートっぽい佇まいですよね。展示を見て、「製品化するんですか?」「外で使えるんですか?」という話が出る人と、「これはアートだね」といってくれる人に二分される状況というのもなかなかおもしろくて、ユニークな場所にできたなと思います。
原田:NOMADIC COLLECTIVEは、普段量産品をつくられている中で感じる違和感などがつくるものに反映されている部分というのはありますか?
品川:それぞれのメンバーによって結構感じている部分が違うというのが大きくあるんだろうなと思っているのですが、やっぱり色んな思惑が生まれることは多いじゃないですか。純粋な気持ちだけではなくて、マーケティングの方とか営業さんとか、お客様の声を開発側に届けてくれる方とか色んな人の視点が入っていて。「本当にそうなのか?」というのが確かめきれないないまま処理されていくということもゼロではないと思いますし、ただ先ほども言った通り、質を高めるという観点で言うと、間違いなく密度高くやっていると思うので、それを否定はまったくしないですし、量産でこうなっているということにはそれ相応の理由があると思うので、そこを変えるというのはよほどのことだし、変える価値が本当にあるのかということを判断する意味でもインハウスとして働いている意義は凄くあるなと思ってやっていますね。
HOJO:色んな思惑があるというのは本当にその通りで、量産を否定するというのはなかなか難しい行為だなと思いますね。でも、「量産のここは変だよね」というところを噛み砕いて否定していくことは必要なプロセスかなとは思ったりしています。特にここまでモノが飽和した時代なので。
インハウスデザイナーにできること
原田:ここは変だよねとか、変えられるかもしれないということが中にいることで見えてくることはあると思うのですが、次のアクションとしてその違和感を個人の作品に反映させるというアプローチもあれば、内部で何か変えられるアクションを中に向けてやっていくということもあると思うのですが、その辺はおふたりそれぞれどういう考え方なのですか?
HOJO:今回競合になってしまうオカムラさんが似たようなマテリアルを使ってプロダクトアウトをしていて、それもあって交流が生まれたり、日立の方とかも見に来てくれて、「たしかにこういう思想がインハウスには必要かも」という反応をいただくことができました。自分が個人で取り組んでいる活動が逆輸入的に伝わっていったらいいなという狙いもあって、少し挑戦的というか、一見すると(マスプロダクションを)否定してるようにだけ見えてしまうのですが、やはりバックグラウンドがインハウスなので、それを否定しているわけではなく、より納得がいくものを企業から出していけたらいいなと思ったりしましたね。
原田:コクヨの社内だけではなく、量産品のオルタナティブなアプローチを他の量産をやっているメーカーに向けても見せることで、何か感じてもらえることがあるんじゃないかと。
HOJO:そうですね。自分たちの会社だけではなくて、やはり全体の考えが変わっていかないと変わらないこともあると思っています。
山田:僕も東京ビックサイトでの発表などに仕事柄行くんですよね。ある意味でインターナルというか、同じ業界の中でのBtoBの動きであったり、その中で例えばオフィス家具の未来みたいなところを競合ではあるけどお互いに盛り上げていこうという機運があって、もちろんそういうことも大事なのですが、やはりそれだけだと見えない世界というものがある。僕ももともと会社員なのでよくわかるのですが、会社の中だけでまわっていると外を見ていない部分だったり、社内事情だけで動いてしまう部分もあったりするので、どういう風に外に目を向けていくのかみたいなことを個人でやることも素晴らしいことだし、会社としても色んなプログラムを組んでいるのはそういうことだと思うんですよね。
品川:やはり1軸だけになってしまわないことで見えてくるものが多いとずっと感じています。インハウスや個人の活動だけではなく、例えば僕はビジュアルをつくったり自分の作品の写真を撮るということをするのですが、そういうものが会社で自分がつくった製品をプロモーションしていく時などにも反映されていく瞬間はあるなと思っていますし、DESIGNART のようなイベントもインテリアの業界のことを色々わかっていらっしゃる方に直接お話を聞けるタイミングでもある。そういうことも踏まえて、多角的に会社のやっていることを見ていけるのではないかと思っています。会社という場でやっていくのであれば、量産の中でもこういうことができるんじゃないかということにはつなげていきたいなと思っています。
独立をすることが正義ではない
原田:2人は個人の活動を主流にしていくというか、独立してやっていくことも含め、今後のキャリアについてはどんなイメージを持っているのでしょうか?
HOJO:ずっと色んなデザイナーさんからそれを聞かれているというか、「いつ辞めるの?」というひどい聞き方ですが(笑)、毎度凄く考えさせられるなと思っています。でも、やはり自分は好きなんですよね、うちの会社だけではなく、インハウスのものづくりの体制自体も。二足のわらじを履いていれば商品として他のものにも触れたりもするので、いまは一番楽しくできているなという実感が正直あります。かれこれ5、6年いまの会社にいて、二足のわらじを履かせてもらっているのですが、その中で会社が目指すべきデザイナーのキャリアと、フリーランスが目指すべきデザイナーのキャリアは全く違うということにも最近とても気づいてきていて。どちらを自分の中で大事にするのかというところがまだ決めきれていないところがあって、それは一概にデザインというところだけでは決められないのかもしれないと思っています。
品川:僕はまだ会社に入って3年目ということもあるので、正直独立というのはいまはまだ何も考えていないというのが正直な気持ちです。会社で学べることもまだまだたくさんありますし、いきなり私はフリーランスですという形にすぐになることはないだろうなと思っています。あと、上の世代の方たちとの違いで言うと、僕たちの世代はずっと不景気じゃないですか。購買をするということに対するハードルがどこまで上がっているのかということを明確に示すデータがあるわけではないのでわからないのですが、何となくハードルは高いんじゃないかという想像をしている自分もいて。少なからず両方ともやっていくというのがいまの僕の答えではあるかなと思ってます。
原田:少なくとも確実に言えるのは、独立が全然正義ではないということですよね。独立しないとできないことも当然あるとは思いますが、「デザインの手前」でも以前にTakramという会社の中で多様な個人活動をされている方々に連続して出ていただいたのですが、組織の中の個人が外で自由に活動してることは、捉えようによっては会社にとってもそれが多様性になるし、個人と組織のそれぞれに良いフィードバックを及ぼし得る可能性は全然あると思うんですよね。かつ、組織の中で自分がやりたいことがある程度実現できていれば独立する必要がないということもあると思うし、ものづくりにおいて課題が多い中、その課題と向き合う上でより社会にインパクトを与えることをするためには量産に取り組むということは凄く大事なことでもあると思うので、どちらかひとつに選ぶ必要があるのかどうかというのは凄くあるなと思いますね。
HOJO:そうですね。いまがちょうどその過渡期な感じはありますね。いままでどちらかを選ばないといけなくて、外でやりたかったら(会社を)辞めろみたいなところがありましたが、それがグラデーション的に変わってきているなと思っています。フリーランスになった時は色々な懸念があって、もちろんお金の問題とかもあると思うのですが、売るためにとか仕事を取りに行かなきゃいけない展示にするんだというよりは、もう少し余力のある見せ方ができるというのものもインハウスにはできる。インハウスの人たちがスキル不足だとは思ったことは一度もないですし、そういうことを踏まえると、新しいデザインというものがインハウスから徐々に生まれてくるんじゃないかと思ったりしますね。
山田:コクヨさんの製品のジャンルをつくっていくことの面白さや、THINK OF THINGSなどちょっと不思議な活動もあったりする会社なので、その中で自分が楽しいと思える仕事を見つけ出せることというのは、インハウスの楽しみだったりしますよね。僕も会社にいた頃は、会社がある種与えてくれる課題というものにどう取り組んでいくのかというのは面白さでもあるし、自分が普段考えないことを考えることができたり、会社の仕組みを上手く使えるところがあったり、大きな企業の中にいるからこそできることもあったりするので、僕も独立が正義だとは全然思いません。なかなか答えや正解はわからないし、その時の自分や社会のあり方によってその辺は変容してしまう部分かなと思いますが、いまの自分の状況を楽しみながらデザインするのがいいのかなと思います。
原田:このポッドキャストを聴いている方の中には、おふたりと同じインハウスデザイナーとして活動されている方ももちろんいらっしゃると思うのですが、ひとつこれ大事なのかなと思うのは、今日の話の中でも出てきたように日々量産品をつくっている中で、その面白さや魅力、あるいは違和感を抱くようなこととか色んなことがあると思うんですよね。どうしても会社というのはそういうことを気にせずに働けてしまう環境でもあると思うのですが、そこで感じたことを自分の問題意識に昇華させたり、探求のテーマにしていくみたいなことが大切なのかなと。おふたりはそれをされていると今日のお話を聴いていて思ったのですが、そこができるかどうかが凄く大事だし、ご自身が探求したいと思っているものを個人でも試せるし、企業の環境の中でも試せるといいんだろうなと。そのスケールや質というのはそれぞれ違うと思うのですが、どちらにせよそもそもの問題意識みたいなものは日々のデザインの活動の中で本当は見えているはずなのに、会社の環境がそれを見えなくさせてしまうみたいな状況もあるのかなと想像ができる。インハウスであろうと独立しようと、デザインをしていく上ではそこが大切なんじゃないかと個人的には思いました。
原田:今日は企業に勤めながら個人でも活動をされているNOMADIC COLLECTIVEの品川 及さんとHOJO AKIRAさんにお越しいただきました。
次回も今週に引き続き、東京のデザインウィークの期間に開催されていた展示に関わられていたおふたりをゲストとしてお招きする予定です。10月12日から27日まで、カリモクコモンズ東京で行われていた「walking sticks & canes」という杖の展示があったのですが、こちらの企画・キュレーションを担当されていた武内経至さんと、この展覧会に出品されていたプロダクトデザイナーの熊野 亘さんをお呼びする予定です。
品川さん、HOJOさん今日はどうもありがとうございました。
品川:ありがとうございました。
HOJO:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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