デザインの「手前」や「周縁」に立つことで見えてくるもの | TAKT PROJECT・吉泉 聡さん〈1/4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。今週からの新ゲストは、TAKT PROJECTの吉泉聡さん。1回目となる今回は、デザインの手前や周縁に立つことをテーマに、吉泉さんのこれまでのキャリアを中心に伺いました。
機械工学からデザインの世界へ
原田:先月は、コクヨのインハウスデザイン組織・YOHAK DESIGN STUDIOの色々なメンバーの方にご登場いただいて、インハウスデザイナーとしてのキャリアや、これからのインハウスデザイン組織のあり方など、さまざまなお話を伺ってきました。 今日からまた新シリーズが始まります。今回ゲストにお招きしているのは、いまデザイン界で非常に注目されている方なのですが、実はこの方もインハウスデザイナーとしての時期が意外と長かった方なんですよね。
山田:そうですね。
原田:その辺のお話ももしかしたら出てくるかもしれませんが、本日お迎えしているのは、TAKT PROJECTの吉泉聡さんです。 吉泉さん、よろしくお願いします。
吉泉: はい、よろしくお願いします。
原田: よろしくお願いします。僕が吉泉さんに初めてお目にかかったのは、2023年の「TAKEO PAPER SHOW」という、先日「デザインの手前」にもご出演いただいた原研哉さんが企画・ディレクションされているイベントでした。 その時は、原さんと、日本デザインセンターの三澤遥さんと吉泉さんのトークに、僕がモデレーターとして参加させていただいたのが最初のご縁でした。もちろんそれ以前から活動は存じ上げていましたが、出会いとしては比較的最近なんですよね。 山田さんは、吉泉さんとのお付き合いはもう少し長いですかね?
山田: そうですね。ミラノに出展されていた際に現地でお会いしたり、一緒に東北にも行かせていただいたりしました。あとは、21_21 DESIGN SIGHTでTAKEO PAPER SHOWのタイミングに開催されていた展覧会「Material, or」にも関わらせていただいていて、そこでは吉泉さんがディレクターを務められていて、僕は企画協力という形でご一緒させていただきました。
原田:『デザインの手前』には、僕と山田さんの両方にゆかりのあるゲストは、意外と少なくて、どちらか一方とご縁があるというケースがほとんどなんですが、今回のように2人それぞれに接点がある方というのは、ちょっと珍しいパターンかもしれません。
山田:そうですね。長嶋りかこさん以来かもしれないですね。
原田:今回も4回にわたって、吉泉さんにじっくりお話を伺っていきたいと思います。

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原田:まずは、いつも通りプロフィールのご紹介から始めたいと思います。
山形県出身のデザイナー・吉泉聡さんは、デザインによる新しい概念の創出と具現化を行うTAKT PROJECTの代表です。東北大学工学部 機械知能工学科を卒業後、桑沢デザイン研究所でデザインを学ばれ、2005年から2008年までデザインオフィス・nendoに在籍されました。その後、2008年から2013年までヤマハのデザイン研究所に勤務され、2013年にTAKT PROJECTを設立されました。
以来、自主的なリサーチプロジェクトから生まれる独自のデザイン理論を携え、スタートアップからグローバルブランド、教育・研究機関、行政など、幅広いクライアントとともに多様なプロジェクトに取り組まれています。これまでに「Dezeen Awards 2019 Emerging Designers of the Year」をはじめ、「FRAME AWARD」「iF Design Award」「Red Dot Design Award」「グッドデザイン賞」「日本空間デザイン賞」など、国内外のデザイン賞を数多く受賞されています。
また、2023年には21_21 DESIGN SIGHTで開催された「TAKEO PAPERSHOW」内の展覧会「Material, or」では展覧会ディレクターを担当され、同年からは東北芸術工科大学の客員教授も務められています。これまでに手がけた複数の作品が香港の美術館M+に収蔵されています。 そんな吉泉さんに、4回にわたってお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。
吉泉:よろしくお願いします。
原田:初回は、プロフィールの中にもあった通り、吉泉さんのユニークなキャリアからお話をうかがいたいと思います。もともとデザインを学ばれていたわけではなくて、出発点は機械工学だったんですよね。そして、ご出身の東北でリサーチプロジェクトもされています。今回は『デザインの手前』的なテーマとして、ものづくりの手前にある学びや、「周縁」に立つことで見えてくるものなど、デザインの「手前」「周縁」というテーマでお話を伺っていければと思っています。
スタートはモノへの憧れ
原田:『デザインの手前』では、実はあまりデザイナーの方のキャリアを時系列で丁寧に追っていく、ということはしていないんです。
山田:あえて聞いていないというところがありますよね。いわゆる定番のインタビューだと、キャリアを順に追って話すという流れになりがちなんですが、そうするとそれだけで話が終わってしまうこともあるので。僕らはその先にある話を聞きたくて、意図的にそうしないようにしているところがあります。ただ今回は、ぜひお聞きしたいなと(笑)。僕自身もこれまで改めてちゃんとお聞きしたことがなかったので。
原田:大学では「機械知能工学科」に在籍されていたということですが、この学科では具体的にどのようなことを学ぶ場だったのでしょうか?
吉泉:あくまでも大学側の名前の付け方ですが、ざっくり言うと「機械設計」とかハードウェアに関することを中心に学ぶ学科でした。
原田:もともと吉泉さんのご興味としては、やはり工学的な、いわゆるエンジニアリングの領域に関心が強かったのですか?
吉泉:エンジニアリングに強い関心があったというよりは、小さい頃からモノが好きだったんです。当時は特に工業製品に憧れが強かった時代でもありましたし、自分自身そういうキャラクターだったと思います。たとえば、「あの車カッコ良いな」とか、「あの自転車良いな」とか、ウォークマンが凄く欲しくなった時期があったり、物欲が結構強くて。モノへの憧れがあったんですね。そういうものを自分でつくりたいなというところがスタートですね。
山田:意外ですね。いまの吉泉さんからは、そういったスタイルは全然見えないので(笑)。

原田:モノが好きというのは、デザイナーの方にも多いと思うのですが、どちらかというと仕組みや中の機構の話よりも、もう少し外見の造形とか、形をつくるというところにフォーカスしている方が多いですよね。同じ「モノ好き」でも分かれ道があって、吉泉さんの場合は工学的な方向に進まれたという。
吉泉:いや、大学に入る時点では、自分でもそんなによく分かっていなかったところが大きかったと思うんですよね、振り返ると。「魅力的なものをつくりたい」「そういうものをつくれる人間になりたい」という気持ちはあったんですけど、これは自分の生まれ育った環境の影響もあって、そもそも「デザイン」というもの自体にあまり馴染みがなかったんです。「デザイナー」という職業にも出会ったことがなかったし、正直よく分からなかったんですよね(笑)。だから、ものをつくるとなったら工学だろうという漠然とした考えで進んだんです。もちろん、仕組みや動きといったことにも興味はあったし、それを分けて考えていたわけではないんですけど、まずは大きな枠組みとして工学を勉強してみよう、と。
工学部に入ってからはそれはそれで面白くて、入って良かったんですけど、一方で、自分が思い描いていた魅力的なものをつくるに至るには、このまま工学だけを学んでいても到達できないかもしれないという感覚も徐々に芽生えてきたんです。それで、機械工学科の中でどのゼミに入ろうかなと考えた時に、「最適設計学」という分野を選びました。「最適に設計する」というのはまあそのままなのですが(笑)、なんとなくデザインにも近そうだなという気持ちもあって。実際にそこに入ってみて、改めて考えるきっかけをいただきました。「最適に設計する」というのは言葉としては分かるけれど、じゃあ「最適って何?」ということが本当は凄く重要じゃないですか。ただ、工学の中では、「最適」の定義がある程度決まっているというか、強い価値観に基づいているんですよね。どれだけ壊れにくいように設計するか、どれだけ軽くできるか、どれだけ燃費が良いかといったことを追い求めていていくのですが、その先に本当に人間が魅力的だと感じるものがあるかというと、必ずしもわからないなと。また、そもそも何を評価軸にすべきかがよくわからないような時代になってきているところもありますよね。だから、そういう技術的な最適化だけをひたすら追い求めても、自分が思い描いていたようなことにはつながらないんじゃないかとなんとなく思っていたんですよね。そういう経験があって、やっぱりデザインというものをちゃんと勉強してみたいなという、そういう学びがここではありましたね。
原田:工学もデザインも、広い意味ではものづくりに括れると思うんですけど、当時、吉泉さんが思い描いていた理想的なものづくりのあり方みたいなもので、何か事例としてイメージされていたものはあったのですか?
吉泉:そうですね。先ほども少し触れましたけど、僕の世代にとってはウォークマンみたいなものが凄く刺さるものだったんですよね。よくこんなものがつくれるな、と。もちろん、形やデザインもあるんですけど、それ以上にああいう概念がどこから生まれてくるのかということに興味がありました。最適かどうかというところとはちょっと別の次元の軸をつくっていますよね。たとえば、「音楽を持ち運ぶ」という発想が、そもそもどこから出てくるのかというと、それはもう工学の分野だけでは説明しきれない。
よく笑い話として話すのですが、当時、僕がいた工学部では8割以上の学生が大学院に行くんですよ。だから、僕が大学院には行かず、デザインの方に進もうと思っていますと言った時、研究室の先生から「お前は“見てくれ”をやりたいのか」と言われたんです。もちろん、先生にまったく悪気はなかったと思うんですけど、そこには認識の差やボーダーが凄くあるということが興味深かったし、どうすればそれを解消できるのかといったことはいまでも考え続けています。でも、当時は本当にそういう時代だったんですよね。
原田:いまのお話を聞くと、吉泉さんがデザインに求めていたものは、ウォークマンのようなものがどうやって生まれてくるのかという問題設定の部分だったんだろうなといまの僕たちは想像できますが、デザインというのは、どちらかというと形をつくる行為という認識が強いですよね。そういう意味で、吉泉さんが当時からデザインの本質的な部分をすでに見ていたのが凄いなと。
山田:早いですよね。
吉泉:そうなんですかね(笑)。

デザインの概念が覆されたnendo時代
原田:桑沢でデザインを学ばれて、その後nendoに入られたんですよね。
吉泉:そうですね。ちゃんとデザインを勉強しなきゃという気持ちもあったし、どうやらデザイン系の学校に行かないと就職できないらしいぞということも分かってきて桑沢を選びました。ただ、実は僕、桑沢には半年しか通っていなくて、すぐに中退しているんですよ。デッサンとかを習ったくらいで終わってしまった感じなのですが、ちょうどその頃にnendoの佐藤オオキさんと出会って。佐藤さんがあるイベントで僕が通っていた学校に来てくれたことがあったんです。その時、nendoは始まって2~3年くらいのタイミングだったと思いますが、すでに活躍されていました。それで、ちょっと事務所に遊びに行かせてもらう機会をいただいて。その日からほぼ働くような感じになりました(笑)。
山田:当時は目白にオフィスがあった頃ですよね。
吉泉:そうですね。そこからお手伝いさせていただくようになって、自分としても凄く楽しいなと。もしかしたら、学校に通うよりもここで実務を通じて学ぶ方がいいんじゃないかと感じて、半ば自主的に学校に行かなくなって(笑)、そのまま働かせてもらうことになりました。想像もしていなかった流れだったんですけど、そこから始まっていますね。
大学生だった頃は、インハウスのデザイナーになれたらいいのかなみたいにぼんやりと思っていたんですよね。ちょっと職人的なデザインへのイメージがあって、「このRが…」とか、そういう部分にも興味があったんですよね。
でも、nendoはそういうタイプのデザインとは少し違っていて。アイデアが非常に強くて、ある種既存の文脈を良い意味で破壊しながらクリエーションしていくようなやり方なんですよね。正直、最初はそれがよく分からなくて、自分の中にあったデザインのイメージと違いすぎて、困惑するところも結構ありました(笑)。それを咀嚼しきれないまま働いていた時期もあったんですけど、振り返ると本当にそれが良かったなと思います。僕自身がまだちょっとしか知らなかった「デザイン」とは全然違う概念に触れる機会でしたね。

原田:その後、ヤマハに行かれるわけですが、これはどういうきっかけがあったのですか?
吉泉:nendoの中で色々経験を積ませていただく中で、最初に思い描いていたような工学とかデザインが結びついてモノが量産されて、みんなの生活を変えていくようなプロダクトになっていく。そういうところを改めて一度見たいなと思ったんですよね。
山田:そこから大きな会社に所属されるというのが面白いですよね。ヤマハという企業自体が世間一般でイメージされている以上に色々なことをされていて、研究開発にも凄く力を入れていますよね。ただ、あまり一般的には知られていない部分もあると思うのですが、なぜわざわざヤマハを選ばれたのでしょうか?
吉泉:ヤマハのデザインはもともと凄く好きだったんです。「サイレントバイオリン」みたいなものがあったりとか、長い歴史を持つアコースティックな楽器の世界に、ある意味で日本が得意とするデジタルの要素をどう融合させるかという点で、非常にうまくデザインとして昇華していると感じていました。そういうプロダクトに惹かれていたというのがあるのですが、むしろ入ってからの方が良かったと思うことが多くて、運が良かったなと。
ヤマハは音楽というものを本当に深く考えていく会社なんですね。音楽がなぜ存在するのか、その音楽を生み出すための楽器がどうあるべきか。それを考えている会社だとも考えられるんですよね。音楽というのは、デザインにもつながるところですが、芸術性のあるものだけど生きる上で絶対に必要というわけではない。フィジカルな生存という意味では不要だけど、でもやっぱりないと豊かには生きていけない。つまり、工学的には説明できないものを含んでいるけど、間違いなく人生にとってエッセンシャルなもの。そういう魅力があるものについて考え、そのためのツールをつくるというのは、デザインとして非常に高度なことをやっているなと社内の皆さんのお話を聞いて思ったんですよね。ヤマハのデザイン部門では、「use」ではなく「play」というキーワードもあったのですが、その「プレイする」という視点は、音楽に限らず、色んなことに展開できるデザイン的な思想だなと感じました。
山田:そういった意味でも感性に働きかけるというか、ちょっと独特のスタンスを持った会社ですよね。そこが面白いというか。
吉泉:そうですね。ピアノとか楽器を演奏するというのは本来は難しいことなんですけど、それを誰にでもできるようにするのがヤマハのデザインではないんですよね。むしろ、その難しいことに日々向き合いながら、だんだん弾けるようになっていく喜びとか、上達していくことの楽しさ。「プレイする」というのは、「簡単に使える」ということとはちょっと違う次元の人とモノとのインタラクトだと考えているところがあって。そういう体験は、不便といえば不便かもしれないけれど、人生を豊かにしてくれる。そういうことを真面目に、豊かなものとしてどう考えていけるのかということを追求していたりするのかなと。
「周縁」からデザインを見つめる
原田:面白いなと思うのが、いまTAKT PROJECTは凄く先端的なデザインをしている集団という認識をされていて、かつ世界的にも注目されているわけですが、 吉泉さんがなかなか「デザインの中心」に行かないというか(笑)。むしろその外堀をぐるぐる回りながら、デザインを相対的に見つめて、その輪郭をつかんでいくようなキャリアの歩みをされていて。 外からデザインを見ている時期が長かったという点は、結構ポイントなんじゃないかなという気がしています。
吉泉:そうですね。ありがとうございます。いまも僕はデザインの中心にいるとは思っていなくて。俯瞰的に、「自分はデザイナーじゃないのかもしれない」くらいの解釈で、でもデザインのことが凄く面白いと思っている。「それは一体何なんだろうか?」ということを、少し外側から考えているような感覚はありますね。
原田:いまのお話に関連するところで、今回お聞きしたいもう一つのテーマが東北の話です。やっぱり「デザイン」は都市的な営みというか、都市の中で行われる活動というイメージが強くて、実際にそういう側面があると思うんですよね。それで言うと東北という場所は、地理的にもデザインの文脈でも中心ではなく、むしろ周縁と見なされやすい場所なのかなと。吉泉さんがそこに行くという選択をされたのは、おそらくデザインの外側に出るという考え方ともつながるような気もしていて。その東北でのリサーチ活動についても、ぜひお聞きしたいなと思っていました。
吉泉:はい。2021年に仙台にサテライトラボという形で拠点を設けました。なぜそうしたかというと、東京を中心にデザインの仕事をしていく中で、さまざまな課題に向き合ってきたんですね。それらをデザインで解決していくというのが日々の仕事としてあるわけですが、そうした課題を改めて考えていくと、それらは人や都市に根差した問題であることが多いんです。たとえば、自然環境をどう扱うかという話もそうですし、ジェンダーや人権といった問題も同様です。そうした色々な問題が都市の中から生まれているんじゃないかと思った時に、それらを都市の内側から考えることももちろん大切なんですが、外から考えてみることにも必要なんじゃないかと。そうした漠然としたモヤモヤを少しずつ形にしていく必要があると感じて、東北に拠点を置いてみることにしたというのが経緯ですね。

原田:これまでにどんなことをされてきたのですか?
吉泉:やはり現地に入って、フィールドワーク的なことをしていくというのが一番大きなところですね。
原田: 一言二言でご説明いただくのも難しいとは思うのですが、実際に東北でリサーチを続けてきて、現時点で見えてきたものがあるとすれば、どんなことでしょう?
吉泉:デザインにおける論法として、いわゆる二項対立的な、何かを際立たせて見せるようなデザインの手法は見直すべきなのかなと思っていますね。「こうではなく、こうだ」とか、「分かりやすく伝える」「はっきりさせる」といった考え方。でも、そういうアプローチの中でこぼれ落ちている大事なものたちが凄くたくさんあるなと思っていて。そういうことにどう向き合っていけるかということについて、東北という場所から学ばせていただいている感覚があります。
たとえば、岩手の遠野という『遠野物語』で知られる場所にも行きましたが、あの土地には妖怪とか河童みたいものだったり、現代的に言えば「そんなのあるわけないでしょ」という話がいまだに息づいている。でも、そうした話が完全に否定されることなく、「そういうこともあるかもね」という空気が、地元の方々の中にあるんですよね。自分たちが知らざる異界みたいな存在をクリアにしているわけではないけれど、わからないものとして共存して生きているような感覚があるんですよね。
都市においては、「分からない」というのは非常に気持ち悪いことで、クリアにしていったり、デザインにおいても透明性を高めてジャッジしていこうという考え方が基本的には働いていると思うんですね。でも、そうじゃないあり方がむしろ大切で。なぜかというとそういう曖昧なものが、さまざまな対立や緊張をやわらげる、緩衝するような役割を果たしているんですね。それはある種人間の知恵や知性的な活動だと思うのですが、都市においてはそういったあり方がどんどん難しくなってきているのかなと。
原田:ある種の「世界の捉え方」が違うということなのかなと思います。「そういう捉え方もあるよね」ということをリサーチを通じて知っていくというのは、人類学的なアプローチでもあると思うんです。そうした異なる価値観や知のあり方に出会った時、デザイナーとしてそれにどう向き合うかというと、それを自分にインストールしていくことが大切なのか、あるいは観察をすること自体が大切なのか。やっぱり自分自身が変わるということが大事になってくるんですかね。
吉泉:そうですね。自分自身が、そうした考え方を持てるかどうかというのは、やっぱり凄く大事だと思っています。先ほどの話し方だと、都市がダメなもののように聞こえてしまったかもしれませんが、それはまったくそんなことはなくて。都市的なものもそれはそれでとても大切なんですよね。大事なのは、自分の中で都市的なものと、そういった都市にはない外側のもの、こぼれ落ちてしまうものをどう共存させながら、目の前のデザインワークに向かっていけるか。自分自身をどうアップデートしていけるか。そういうことを楽しんでやっています。
吉泉:「最適」とか「評価軸」というものをデザイナーはそれぞれに持っていて、自分が良いと思うから提案しているわけですよね。でも僕は、その自分の評価軸自体を変えていきたい。変えるというより、もう少し多様な考え方を取り込んだ上で、評価軸をつくっていきたいという思いがあります。それは、デザインにとても深く関わってくることだと思うんです。社会が「何を良しとするのか」という問いをデザイナーもですが、クライアントの方々ともそうした視点を共有できたらなと思うんです。いま考えている方向じゃない可能性だって評価軸としてあり得るかもしれないよねというものをテーブルに上げた状態で、日々の仕事ができていったら凄く良いなと思っています。
デザイナーというのは、本来そういうみんながまだ気づいていなかったような視点を持ち出して、共有して、議論して、そっちの方向に一緒に向かっていくということを示す役割があると思っています。だからこそ、まずは自分自身がそれを思えているのか、そういうことを携えているかというところから始まり、それをどうやって皆さんと共有できるかというところから、デザインというものが発生し出すのかなと思います。
原田:デザインが「見てくれ」だと言われたところから始まり、色々な場所に自分自身の身を置いて、ご自身でも理解しながら、同時にそれを外に向けても伝えていく。いまの吉泉さんはまさにそういうことをされている最中なのかなと。
1回目は、デザインの手前にあるキャリアの話や、デザインの中心ではない場所に身を置いてみることで見えてくるものについて伺ってきました。次回は、今回のお話とも少しつながると思いますが、改めてそもそもデザインとは何のためにあるんだろうというところで、デザインの目的についてお話を伺ってみたいなと思っています。吉泉さん、来週もよろしくお願いします。
吉泉:よろしくお願いします。
山田:ありがとうございます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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