「つくる」と「伝える」 〜一人ひとりが祝福される状況をつくる | Takram・相樂園香さん〈2〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人がさまざまなゲストとともにデザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラム。ニュースレターでは最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。Takramのメンバーに本業と並行して行っている個人活動や、組織と個人の関係について聞くシリーズ企画、2人目のゲストはCulture & Relationsの相樂園香さんです。
クライアントから「中の人」へ
原田:先週から、デザインイノベーションファーム・Takramに所属しながら色々な活動をされている方々に週替わりで登場して頂くシリーズ企画がスタートしています。前回は、デザインエンジニアの緒方壽人さんにお越しいただき、書籍『コンヴィヴィアル・テクノロジー』の話から、長野県御代田での暮らしまでTakramと並行されている色々な活動について伺い、「つくる」と「わかる」というキーワードや、その間を振り子のように行き来しているという緒方さんのお話を聞くことができました。
今週ゲストとしてお招きしているのは、デザイナーでCulture & Relationsの相樂園香さんです。相樂さん、よろしくお願いします。
相樂:よろしくお願いします。
原田:まずは相樂さんがTakramに関わるようになった経緯からお聞きしてもよろしいでしょうか?
相樂:Takramに参加したのは2021年1月です。ちょうどコロナの緊急事態宣言が出ていた時期に入社し、当時はリモートワークがメインだったので、メンバーに初めて会ったのが10月くらいだったと思います。
私の前職はメルカリでブランディングのチームにいたのですが、その時にロゴを変えたり、オリジナルの書体をつくったりしていて、その時のパートナーがTakramでした。当時はクライアント側としてプロジェクトを一緒にやっていたという関わり方でした。
原田:その時点では、Takramに後に所属するとは思ってはいなかったわけですよね?
相樂:はい、全然。

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原田:そこからどうしてジョインすることになったのですか?
相樂:本当にたまたまと言いますか。私は大体何も考えずに仕事を辞めて、1年くらい遊んだり、色んなところに行ったりするのですが、メルカリでもやっていた大きなプロジェクトが終わった時に、またそういうことをしようかと思って辞めたんですね。その時に、Takramの代表である田川さんから連絡をもらって。Takramが今後組織のあり方を考えていくにあたって、仲間を増やしていったり、輪郭を拡張したいと考えていると。その時にどういうコミュニケーションをしたらいいのかという話でした。私が2018年くらいからデザインのイベントをやっていて、デザインコミュニティに携わっていたりしたので、多分田川さんが色々な方にヒアリングをされていたと思うのですが、その中の一人としてお話をしました。
その時に、Takramが今後こういう風になりたいと思っているとか、組織としてどんなことを考えているのかということを初めて聞きました。その時に田川さんともう一人Takramのメンバーが同席していたのですが、私が「そうなんですね」と聞いている時に、メンバーの方も同じく「そうなんですね」という感じになっていて。「初めて聞きました」と。こういう話をTakramのメンバーが知らないのはもったいないと感じたのがひとつと、その時に「こういうことをするといいんじゃないでしょうか」と話していた中で、でもそれをする人を探すのが難しいよねと。その後、色々考えている中で、私がそれをやりたいかもという気持ちになって、田川さんに「今日お話したこと、私がやりたいかもしれません」とメッセージを送り、それから中の人になりました。
組織の活動や文化を内外に伝える
山田:(Culture & Relationsの)「Relations」というのは、外部とのリレーションだと思いますが、もちろんそれもあると同時に、内部へのリレーションという意味合いもあるわけですよね。
相樂:はい。Culture & Relationsでは、社内外の両方に対して、Takramが目指す大きな方向性の中でどんなカルチャーや関係性が必要になってくるのかということを考えていて、立ち位置としては外と中の間というか、社会から見たTakram、中から見たTakramの中間地点にいるように感じています。
原田:面白いですね。通常、組織の活動を外に発信していく人たちと、カルチャーや制度を耕したり、醸成していくようなチームはわかれていることが多いのかなと。
相樂:そうですよね。一般的にカルチャーチームみたいなところと、PRみたいなチームがあるのかなと思うのですが、私はこれまでのキャリアでPRという役職をやったことはないんです。ただ、カルチャー醸成に関しては、メルカリにいた時はつくる人が伝えるところまでやるというところがあって。特に私がいたブランディングチームは、新しいブランドをつくるとなった時に、社外に伝えるのももちろん重要なのですが、まずはもともとのロゴに愛着を持っている社内の人たちに、いかに新しいものを自分たちのものとして感じてもらえるのかというインナーコミュニケーションも大切なんですね。別物だとは思っていないくらい「つくる」と「伝える」が一緒にあったので、自分がこういう役割になるのは初めてですが、これまでもずっと自然と考えてきたことなのかなと。
Takramというのは、交流の数が多ければ多いほど良いと思っているチームでもない気がしています。ただ、自分たちが自分たちを何で繋いでいるのか、何でピン留めしているのかみたいな話は結構社内でも話していて。おそらくそれは好奇心みたいなものだったり、「学び続ける組織」みたいなバリューのところでみんなが繋がっているというか。個人でも活動できるような人たちがたくさんいる中で、なんでTakramというチームにいるのかとなると、そういう部分なのかなという気がしています。
山田:前回緒方さんのお話の中で、メンバーの皆さんがZoomに参加して、最近自分の中で起こった仕事以外のプライベートな話などをする時間を取られているという話をされていて。
原田:「Pendulum of the week」と仰っていましたね。
山田:それが緒方さんにとっては凄く楽しい時間だと。
相樂:それはうれしいですね。
山田:こうした仕組みづくりも相樂さんがやられているのですか?
相樂:そうですね。もちろん私だけではなくチームのメンバーもいるのですが、その会自体は私たちC&R(Culture & Relations)で運用をしています。最初はライトに5分ぐらいで「いま何に関心があるのか」ということを順番に話そうという会だったのですが、最近は20分くらいずっと話す人がいるくらい凄く熱量が高いプログラムになっています。
原田:ちょっと聞いてみたいですね。
相樂:凄く面白いです。例えば、スプラトゥーンをサウンドデザインの視点で見てみたという話もあれば、私は印刷が好きなので、自分の印刷スタジオのリノベの様子を現地からZoomで紹介したり、結構幅が凄くて。
山田:まさにPendulum(=振り子)ですね。内容は個々人ががみんなに話したいと思う内容であれば何でもいいということですよね。
相樂:はい。メンバーの話を聞きながら、Zoomのチャット欄でリアルタイムでやり取りしているのですが、スプラトゥーンの話とかnoteに公開したら面白いんじゃないかといった声は結構ありますね。
原田:先ほど少しお話に出ましたが、相樂さんご自身はこれまでいくつかキャリアを変えてきたんですよね。
相樂:はい。キャリアのスタートはロフトワークという会社です。ロフトワークも凄い説明が難しい会社で、色々なデザインプロジェクトをやっているのですが、オフィスに1階に「FabCafe」というカフェがあり、レーザーカッターや3Dプリンタなどを置いていて、コーヒーを飲むようにデジタルファブリケーションができるという場所が2013年くらいにできて、そこを主に担当していました。そこでは、デジタルファブリケーションや新しいテクノロジーというのをプロジェクトでもやっていたので、企画とものづくり、オープンにものづくりをするということが企業の中で盛んだったので、ハッカソンなどもやっていました。
ロフトワークの次がメルカリで、Takramが3社目になるのですが、振り返ってみると結構共通点もあるというか。ロフトワークにいた頃にやっていたFabCafeは、ファブラボというMITの授業の中で生まれたんですけど、ほぼ何でもつくるっていう授業があって。大学の実験で貧しい地域にものを与えるのではなく、道具を与えたらどうなるかというものだったんですね。そういう感じで、ものづくりというのがただ楽しいためのものというよりは、自分の生活を自分でつくる知識だったり、生きる力みたいなものだという考え方が凄く好きなんです。ものをつくれるようになると、つくり方がわかるので直すこともできて、その行為自体がヘルシーだし、生きていく力だなと。メルカリも新しくものをつくるのではなく、すでにあるものを循環する仕組みをつくるという意味で、自分の中ではそういうヘルシーさみたいなものが大事なんだなと、後から振り返った時に感じました。
デザインの祭典「Featured Projects」
原田:ここまで相樂さんのバックグラウンドについてお聞きしてきましたが、今日は本業と並行してやられている活動をメインでお聞きしたいと思っています。それで言うと、相樂さんがいまやられているものにデザインフェスティバルの「Featured Projects」というものがあると思います。以前に「デザインの手前」では、デザインメディアをテーマにした回にオンラインメディア「designing」の編集長である小山和之さんに出ていただいたのですが、「designing」とは兄弟的な関係にあるイベントですよね。このイベントがどういうものなのか、改めて簡単に説明いただいてもいいですか?
相樂:Featured Projectsはデザインの祭典と呼んでいて、2023年から開催をしています。品川に「THE CAMPUS」というコクヨさんの素敵な場所があるのですが、そこで2023年、2024年と開催をしています。「デザイン」と呼んでいますが、ファッション、グラフィック、建築、編集など結構領域が横断していて、「ものづくり」というテーマにみんなが集うようなイベントです。「トーク」「ワークショップ」「展示」「マーケット」「ミートアップ」という5つのプログラムがあることも特徴で、大体4,500人くらいの人が週末の2日間に集まっているといったイベントになります。
原田:僕は1年目は普通に遊びに行かせていただいて、2年目は時間の関係でメディア関係者向けの時間にお邪魔をしました。今年は、前回出演いただいた長嶋りかこさんや、番組の名付け親とも言える大原大次郎さんなど「デザインの手前」にゆかりのある方も結構出ていましたし、世代も領域も幅広く色んな人たちが集まっているイベントですよね。マーケットとかもとても盛り上がっていた印象です。
そもそもどういった経緯でこのイベントをやることになったのでしょうか?
相樂:そうですよね。私は結構記憶がなくなるタイプなんですが(笑)、Featured Projects自体は2023年からの開催で、前年の秋に発足しているチームなのですが、その前身となるデザインプロジェクトがありまして。「Design Scramble」という名前で、渋谷を舞台にしたデザインフェスティバルをやっていたのですが、Featured Projectsの共同代表である後藤あゆみさんから誘ってもらって、このイベントを一緒にやるようになりました。当時は企業のもとでそのイベントをやっていたのですが、コロナ禍などでオフラインイベントのあり方が大きく変わったところでDesign Scrambleは終了し、再度始めようという時に名前を変えて始めました。
原田:おふたりでイベントをされている中で、それぞれやりたいことは少し違うかもしれませんが、全体としてはどんなことをやりたいと考えているのですか?
相樂:いまちょうど2025年の計画をしているところで、少し体制などが変わる予定もあって改めて何をしていこうかという話をしている最中です。ですので、これからちょっと変わっていくかもしれないのですが、大きくは「よいものづくりは、明日を拓く。」というテーマを掲げて活動しています。そういう意味で、明日を拓くものづくりをしていきたいということがひとつと、「よいものづくりって何だろう?」ということを毎年みんなで集まって考えるような場だと思っています。自分自身の人生というかここまでもそうですが、FabCafeから始まって、ものをつくってそれを見てもらったり、その場で出会った人たちによって今日までが拓かれてきたという感覚が凄くあるので、ものづくりによって明日が拓かれるようなシーンを一つでも多くつくっていけたらということもあります。もうひとつは、「本当に良いものづくりって何だろう」と自分もずっと考えていて、その答えがある場というより、みんなで集まって考える場としてあればいいかなと思っています。
原田:例えば、前回出ていただいた緒方さんは、それこそ「よいものづくり」をご自身で色々考えられ、それを本やブログなどを通じて発信するというやり方をされていると思います。それで言うと相樂さんは、その場に色んな人が集まってそこで意見交換をしたり、作品に触れたりする中で、創発というか創造性を高めていくような場をつくるような活動をされているように感じます。FabCafeなどにもそうした側面があると思うのですが、その場でものをつくって影響を与えあって、場の創造性を高めていくという。そういうテーマが相樂さんの中でひとつあるのかなと。
相樂:意識したことはなかったですが、たしかにそういう面はあるかもしれません。これまで私たちが意識していたこととして、リアルな場でしか味わえない熱量みたいなものがあるよねということで。そういう意味でイベントはオンライン配信をしていないんですよね。配信した方がたくさんの方に見ていただけるとは思うのですが、その場に来ることで出会える熱量のようなものがあると思っています。もうひとつ特徴だと思うのは、イベントの最後を「哲学対話」で毎年締めていることです。こういうイベントには何かを得に来ている人が多いと思うのですが、答えを得るのではなく、どちらかというと問いで終わるというか。その問いを持ち帰って1年間考え続けたり、持ち帰った後も対話が続いて、次の一年でまた出会うといった感じのイベントなのかなと思っています。
物事が成り立つ過程を知りたい
原田:Featured Projectsでは人が集ったりつながる場をつくるといった役割だと思うのですが、つくる側としても相樂さんは色々な活動をされていますよね。リソグラフのスタジオなどもそうした個人でやられている活動のひとつなのかと思うのですが、その辺のお話も聞かせていただけますか?
相樂:印刷の話は2時間くらいかかるかもしれません(笑)。いま古い一軒家を借りていて、そこをリノベーションしながらリソグラフプリンタという見た目的には大きな複合機みたいなものを置いて、印刷を楽しむスタジオをやっています。そこで自分たちが制作をしたり、たまに友達が来て本をつくったりしているというものですね。リソグラフプリンタは2016年くらいに一回購入して自宅に置いていたんです。
原田:自宅に置けるものなのですか?
相樂:自宅に置いたのは初めてらしいです(笑)。音もサイズもインクも大きいので、当時家にあった机を捨てて、代わりにリソグラフプリンタを置くということをやっていました。
原田:ある意味生活を犠牲にしてまで(笑)。
相樂:そうですね。私はもともと「出力」が好きなんですよ。印刷というよりは出力そのものが好きなので、紙にとらわれず3Dプリンターやデジタル刺繍なども好きだし、データがリアルなものになって、フィードバックの繰り返しが自分でできるみたいなところが好きなんです。リソグラフプリンタはもともとレンタルしていたのですが、レンタルだと正しい使い方しかできないので。入れちゃいけない紙は入れられないですし、やっぱりハックするには持っていないとということで自分たちで購入しました。
原田:相樂さんの他に何人かメンバーがいるんですか?
相樂:はい。2人でスタジオをシェアしていて 、プリンタも2人で買いました。
原田:他にも相樂さんのSNSなどを見ていると、「WORKSIGHT」というコクヨがやっているメディアの編集に関わっていたり、知り合いのクリエイター仲間みたいな方たちと展示をしていたり、いろんな活動を個人的にされていますよね。
相樂:結構気になることが多くて、日々気になっていることとか知りたいなってことがあれば、結構どこにでも行くタイプですね。出来上がった完成物よりもその成り立ちが気になるというところがって、工場見学なんかも凄く好きですし、メディアがどうやってできているのかとか、その過程が覗けるというか、自分で理解したいという気持ちが結構強いのかもしれません。
育ってきた環境も影響していて、自分の目で見るとか選ぶことが大事だとされてきたので、例えば小さい頃に海外とかにも結構連れて行ってもらったりしたのですが、自分では買えないような高級なお店とかに行っても、買えなくても良いものがどういうものか、どうやってそれができているのかということをちゃんと見ておきなさいと結構言われていました。多分、好奇心とともに生まれた(笑)。本当にいままでどの場所に行っても凄く楽しい人たちが無限にいて、FabCafeも毎日がイベントという感じだったし、メルカリでも特にエンジニアリングとかFabCafeで出会ってきたものづくりとは違う種類の人たちと出会ったり、Takramもみんな興味関心の幅が凄く広いので、飽きることがないというか。知りたいことが多いのに絶対できないじゃないですか、全部は。だからそっちに落ち込むことの方が多いです。
原田:ここまでお話しいただいたような自主的な活動というのは、別にやらなくてもいいわけじゃないですか。その時に、誰とやるのかということも結構重要なのかなと思っていて。それぞれ個別の活動をするにあたって、相樂さんにとってパートナーというのはどういう存在ですか?
相樂:それは凄く大事ですね。私は好奇心が強いタイプだと思うのですが、過程には興味があるので終わったことへの執着が弱いというか。そこを継続してくれているというか、自分の好奇心が絶えないとわかった後にも続いていくという時にパートナーやチームの存在が凄く大きい気がします。
Featured Projectsだと一緒にやっている後藤が炎みたいな人で、常に大きな意思を持って「こうしたい!」ということがあるんですね。私はよく「風」と「火」と言っているのですが、その火がどういう方向に行ったら楽しいのかとか、こういうふうにしたらより良いかもしれないねと乗っかっているところがあって、自分の中から湧いてくるエネルギーではないというか。
どちらかというと、家でずっと出力をしたり実験をしているのが好きなのですが、展示を一緒にやっているメンバーとかも「つくったんだったら見せようよ」と言ってくれたりするんですね。展示は3人でやっているのですが、「こんな展示に誘われたからやりましょう」と言ってくれたり、自分の好奇心とそれを外にどう見せていくのか、しっかり続けていくのかというところはチームメンバーのエネルギーですね。
リソグラフのスタジオにしても、もう一人の子が「スタジオを持とうよ」と言ってくれていて、私はやめられないことをやるのが凄く苦手で(笑)。スタジオは賃貸なのでやめられるんですが、できるだけ身軽でいたいという思いが結構強くて。場を持つとかやめられないなにかをやることは凄く苦手なんですけど、その子が「メチャ良い物件が出てきた」というので見に行ったら凄く良くてすぐに借りちゃったのですが、いつもそういう感じですね。
「つくる」と「伝える」の振り子
原田:お話を聞いていると、「つくる」プロセスやメカニズムを知りたいというつくり手としての興味関心が強いと感じるのですが、一方で Takramでやられているようなカルチャーを醸成したり伝えていくようなこととか、Featured Projectsで色んな人がつながる場をつくっていくみたいなところもあって、Takram的に言うとそういう振り子があるように感じます。相樂さんの中では、「つくる」ことと「伝える」とか「つなぐ」ことはどういう関係なのですか?
相樂:Takram内で話をする時に、自分の振り子は「つくる」と「伝える」という部分かなと思っているのですが、それがなぜなのかと言われるとよくわからないんですよね。人が多い場所が好きなわけでもないし、家に籠もってものをつくっていたいタイプなのに、なぜやってしまうのかというのは自分でも結構不思議というか。ただ、自分がものをつくれる能力を持っているということを自分で気づいてもらえる瞬間というのが凄く好きで。デザインやものづくりというのは、センスがある人とか特別な人がやるものだと本人も含めて思いがちですが、例えば家の段差が気になっていると思った時に、「3Dプリンタを使えばこういうことができるよ」と伝えてあげて、本人がやってみた結果、生活が凄く便利になったというような体験が凄くうれしいというか。そういう瞬間に立ち会うのが凄くうれしいと思っているというのはひとつあるかなと思います。
ドライな言い方になるのですが、Takramでコーチングを受けているのですが、その方から「相樂さんは人のポテンシャルにレバレッジをかけるのが好きなんですね」と言われたんです。
原田:ドライですね(笑)。
相樂:それだけを聞くとドライというか、人間的じゃない感じがするんですけど、でもそうかもしれないなと。それはちょっと発見でした。
原田: 相樂さん個人の中で、「つくる」と「伝える」が振り子になるというか、例えば、Featured Projectsでの経験が自分のつくるものに作用するといったことはあるのですか?
相樂:どうなんだろう。もちろん、たくさんの人と出会って話を聞いて影響されているとは思うのですが、あまり未来を予想したりつくってみようとしたことがないので、「(自分の)何に対してレバレッジをかけるのか?」みたいな感じかもしれないですね(笑)。
原田:面白いですね。周りの人だとその辺がもう少し客観的に見られるというか。先ほどのパートナーのあり方にもつながってくる話かもしれませんが。
相樂:Takramにおいても、そのプロジェクトを発信しないとなかったことになるというか、ものをつくることと伝えることは自分の中では切り離せないところがあって。つくったなら届けるところまでやるという意識があって。Takramは色んなメンバーが集まって色んなプロジェクトをやっているので、凄くシンプルに言えばプロジェクトをWebサイトに載せなかったら、その方はそれをやっていないことになると言いますか。もちろん実際はやっているのですが、それが見えないという時にそれは載せた方がいいし、一人ひとりがちゃんと祝福される状況をつくるということを、社外に対してもそうですし、社内に向けても60人がそれぞれのプロジェクトをやっているので、意外と誰が何をやっているのか知らなかったりするので、それをお互いがちゃんと興味を持って知れていて、祝福できるみたいなことは、それはそうあってほしいよねという感じですね。
原田:Takramという環境にいるから、自分にこういうフィードバックがあるということはありますか?
相樂:それは凄くあると思います。Featured Projectsは自分が企画をする側ですが、Takramだと日々どういうご相談が来るかとか、大きな意味での世の中の変化とか、どういうところに課題があるのかということをメタ的に見ることができます。それに対して本当に色んなアプローチの仕方をメンバーがするので。
TakramにはBook Purchaseという制度があって会社のサポートで本が買えるのですが、誰がどんな本を読んでいるかということもすべてSlackに流れてくるんですね。
自分では絶対選ばないであろう本とかを見て学ぶこともできるし、自分の輪郭や好奇心の輪郭が拡張されていくイメージがあります。あと、できることも全然違うというか、自分でもデザインの仕事をやっていたりもするのですが、Takramではプロジェクトのことを「テコ」と言っているんですね。プロジェクトというテコを使って世の中に作用すると考えているのですが、そのテコがより大きいと言うか。みんなのスキルもありますし、みんなが集まることで棒が長くなって使えるテコが大きくなる感じもあります。自分一人でできるボリュームや内容と、Takramだからできるテコの作用のさせ方みたいなものは全然違うのかなと感じます。
過去からの延長線上ではない未来
山田:メンバーの強い個性というものをTakramに引き込むようなところはないのですか?
相樂:面白い話を聞いた時などは結構共有していますね。性善説というかポジティブ側の話だと、お互いに良い作用が生まれたら良いよねということだと思います。もちろん副業と捉えるとできないこともあったりするので、常に何というか、自分の活動をちゃんと応援してもらえる状態にあるためにそこは良い影響を生めたらいいなとは思っていますが、無理にくっつけようとも思っていないですかね。でも、Featured Projectsは毎年田川さんにも出ていただいたり、企画をする時もメンバーにどういう人やテーマだったら話を聞きたいかなど雑談的に話を聞いたりしています。
山田:外での活動を社内でリサーチができるという(笑)。
相樂:もう一番の福利厚生ですね(笑)。

山田:前回緒方さんとお話ししてる時に個人的に感じたことですが、Takramという組織は常に分子結合図のあり方が変わっていくようなところがあって、その時々でオーガニックに生物みたいに必要な状況に応じて必要な部分を拡張しているような感じがします。でもそれは組織の人数が多くなると難しくなる部分があって、60人という数も決して組織として少なくないと思うんですね。それがこの中でできているというのは、やっぱりみんなで対話やコミュニケーションを続けられているというのが凄く大きいのかなと思うのですが。
相樂:そうですね。私も本当に入って一番ビックリしたことが、「こんなにみんなで話して決めるんだ」ということでした。会社全体のあり方やミッションを全員で話すというのはビックリしたことで。
いまTakramではこれまでの延長線ではない未来をどうつくるのかということを議論しているところなんです。自分たちがやってきたプロジェクトが自然と自分たちの未来をつくっていくところがあるというか、それらを見てお問い合わせをくださることが多いので、田川さんなんかはよく「バックミラーを見ながら運転をしている感じ」だと表現しています。最近は、予測できるラインからロケットが発射する時みたいに一段階ラインが変わるというかジャンプする部分があるんですけど、そういう変化をどうやって自分たちで意識的に生んでいけるのかということをいままさに話し始めているところでもあります。
原田:それは意外と今回のテーマじゃないですが、個人の活動というのがひとつの突破口になるような可能性があるんじゃないかと感じました。例えば、Featured Projectsをやっている相樂さんの活動を見てTakramに新しい依頼が来るとか、そういうこともあり得るんじゃないかと。
相樂:そうですよね。そういうことがあるといいねとよく話していますね。
原田:最後に、相樂さんから今後の告知があればお願いします。
相樂:Featured Projectsは2025年にちょっといままでと違った形で開催しようと考えているので、ぜひ楽しみにしていただけたらうれしいです。また、Takramでは定期的に「Takram Night」というイベントをやっていて、プロジェクトの裏側をお話しているので、そちらもぜひ遊びに来ていただけるとうれしいです。
原田:次回は、プロトタイピングエンジニアの成田達哉さんにご登場いただきます。相樂さんから見て成田さんはどんな方ですか?
相樂:Takramではプロトタイピングエンジニアとしてハードウェアをどんどんつくっている方なのですが、実は山を持っていて、その開拓をしているYouTubeをやっているということなどをそれこそPendulumのコーナーで見たりしていました。ただ、普段からそれについて聞く会が社内であるわけでもないので、私自身この機会に知りたいなと思っています。
原田:僕らも成田さんとはまだお会いしたことがないので、どんな方なのかいまから楽しみです。今日はどうもありがとうございました。
山田:ありがとうございました。
相樂:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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