「つくる」と「使う」 〜身体知に根ざした最小単位のものづくり | Takram・成田達哉さん〈3〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。デザインイノベーションファーム・Takramのメンバーに週替りでご登場いただく本シリーズ、3人目のゲストはプロトタイピングエンジニアの成田達哉さんです。
プロトタイピングエンジニアの仕事
原田:今月はTakram月間的な感じで、デザインイノベーションファーム・Takramに所属しながらユニークな活動をされている面々に週替りでご登場いただいています。今回は本業の話も伺ってはいるのですが、それ以上に個々の活動や個人と組織の関係などデザインの手前の話をお聞きしています。
前回はCulture & Relationsというチームで社内外に向けてTakramの活動を発信したり、カルチャーを醸成されている相樂園香さんにご登場いただきました。ご自身が主催されているデザインフェスティバル「Featured Projects」やリソグラフスタジオなど色々な活動のお話を伺いました。さらに、事業会社にいらっしゃったり、フリーで活動されていた経験もある相樂さんから見た個人と組織の関係や、Takramの特徴などについてもお聞きできました。
今週ご登場いただくのは、プロトタイピングエンジニアの成田達哉さんです。成田さんよろしくお願いします。
成田:よろしくお願いします
山田:よろしくお願いします。
原田:まずは、Takramにどんな経緯でジョインされ、いまTakramの中でどんなお仕事をされているのかというところからお聞かせいただけますか?
成田:僕は多摩美術大学でインタラクションデザインを専攻していたのですが、その時はどちらかというとメディアアートのようなものを作品としてつくっていました。基盤に対してプログラミングをしたり、ネットワークにアクセスしたりということをしながら表現をしていました。その流れで卒業後も創作活動を続けていたんですね。そこからアカデミックに従事したりしている中でTakramのメンバーと知り合い、そこから少しずつコラボレーターとして一緒に仕事をするような関係になり、2015年に正式にメンバーとしてジョインしました。
↓こちらからポッドキャスト本編をお聴きいただけます
▼Apple Podcast
▼Spotify
↓続きもテキストで読む
成田:Takramでは、デバイスエンジニアリングや3Dプリンタをはじめとするデジタルファブリケーションと呼ばれている技術、デジタルデータをマテリアライズして現実空間につくっていくという技術を使いながら、主にハードウエアのプロダクトやガジェットみたいなものをつくったり、そういうプロジェクトの前段階でプロトタイピングをして、製品にする手前でユーザーさんに意見をもらえるようなもの、動くプロトタイプみたいなものをつくるということをメインに、プログラミングと造形みたいなところを組み合わせたような活動をしています。
原田:Takramはそれぞれのメンバーがご自身で肩書きを考えていることもおもしろところだと思うのですが、成田さんは「プロトタイピングエンジニア」という肩書きをだいぶ前から名乗られていたのですか?
成田:プロトタイピングエンジニアという肩書きにしたのはそんなに昔ではなく、5年以内だと思います。もともとTakramのメンバーは全員デザインエンジニアだよねというところから始まっているので、僕も特に肩書きに強い意志があったわけではなかったのでそのままデザインエンジニアとしてやっていたのですが、デザインエンジニアリングの活動範囲の中でも、より僕がスキルとして展開しやすいものを明確に言語化した方が、クライアントさんとコミュニケーションを取る上でもわかりやすいということがあって。もちろん最後までフィニッシングするということもやるのですが、それ以上にその手前の部分で、何が価値として表されるのかということをクライアントさんと一緒に考えていく。まさにプロトタイピングと呼ばれている領域が自分の中でもしっくり来ると思ったので、肩書きをプロトタイピングエンジニアに変えたという経緯がありますね。
身体知を持ってモノの価値を確認する
山田:成田さんが考えるプロトタイピングというのは、定義しようとするとどんなものになるのでしょうか?
成田:難しいですね(笑)。僕はプロトタイピングの中でも割とハードウェアに特化しているんですね。UIやグラフィックなどにおけるプロトタイプがスケッチなどであることに対して、どちらかというとインタラクションの部分で、モノを介してユーザーさんやクライアントさん、色んな企業や世界とつないだ時にモノに対してどういった価値が存在するのかということを身体知を持って確認していく作業が、モノがプロダクトアウトして世に出ていく手前で必要だと思っています。そこを実験的に凄く早いサイクルで検証していくというのが僕の役割です。
その中にプロダクト自体の精緻化というところもあるのですが、それよりもクライアントさんが実は気づいていない価値があったり、仮説があったとしてもそれが正しいかどうかわからなかったり、クライアントさんが製品をどう思っていて、それは実際に世の中にはどう受け入れられるのかというところをつなぎ込んで、そこのギャップをどんどん埋めていく。それがプロトタイピングにとって重要な価値だと思っていて、そのお手伝いというのがメインになります。ともするとプロトタイピングはフィジビリティみたいな実現可能性の話とか、外観が上手くできるのかとか、細かな仕上げが変わってくるのかというところに目が行きがちですが、ちょっとそれよりも前の段階で、「そもそもこれがどういう価値なのか?」ということを調べる。そこが僕の中ではプロトタイピングの大きな部分かなと思います。
原田:前回ご登場いただいた相樂さんが、Takramのメンバーそれぞれがつくっているものがちゃんと発信されなければつくっていないに等しいといった話をされていて、相樂さんにとっては「つくる」と「伝える」ということがセットであるという振り子の話も含めてお話しいただきました。製品の手前という話も出ましたが、それこそプロトタイピングというのはなかなか成果が見えづらい部分でもありますよね。具体的にどんなプロジェクトに関わっていらっしゃるのかというところを具体的にお聞かせいただけますか?
成田:NSKさん、日本精工株式会社さんのグローバルキャンペーンとして毎年やらせていただいている「_ with MOTION&CONTROL」というプロジェクトがあります。NSKさんはベアリングという機械部品の製造をしていて、その商材の魅力や価値を伝えるための広告映像をつくる仕事に関わらせていただいています。毎年NSKさんの商材を使っていかに美しい動きを表現できるのかということを、NSKの中の技術部と言われているメンバーと一緒にアイデア出しからはじめ、テーマを決めて機構をプロトタイピングしたり、制御しながら映像を撮影するというところまで一貫してやるプロジェクトにメンバーとして入っていて、これは2020年から続いています。
成田:最初は、プロトタイピングから機構設計、実際の組み上げというところまで僕がやっていたのですが、年を重ねるごとに最近はプロトタイピングフェーズを凄く厚めにやって、コラボレーターさんの設計者の方々に最初の設計を任せたりということをしています。アイデア出しをする時にみんなでスケッチを描いて、こんな形になったらどうだろうといった見た目の形の話だったり、機構の商材をどう使えるかみたいなアイデアをざっくばらんに出すのですが、その中から実際に機構を使ったりするというどうしても平面の目に見える状態だけではわからないようなところを、僕が3Dプリンタや3DCADを用いたり、サンプルの商材を使ったりしながら組み合わせて実際に動かしてみましょうと。その結果を動画にして次のミーティングに持っていったりしながら、こういう動きができるならもっとこういう表現ができるのではないかということを密に議論するということを毎週のように繰り返して精緻化するということをしています。僕がやっているプロトタイピングエンジニアリングのコアな活動としてはこういうところが大きいのかなと思います。
原田:オンラインでも映像が見られますが、これは検証なくしては絶対に実現ができないというか、まさに成田さんが色々検証をされた結果、この映像が出来上がっているということがある種想像しやすいプロジェクトですね。
仮説と検証を繰り返す生活の実験
原田:今回の本題である個人の活動というところで言うと、成田さんのFacebookを拝見すると色々な情報が出てきました(笑)。電気釜を購入して野良雲焼というものをつくられ、「暮らしと仕事の調和」について考え始めたのが2020年5月。
成田:見ていただいていますね(笑)。
原田:ご友人の千葉の土地をプライベートキャンプ場に開拓し、「仕事と遊びの境界」について考え始める。ルノーを購入して、「移動と暮らしと仕事」について考え始める。2021年にはキャンプナイフの制作を開始し、「暮らしと道具の関係」について考え始める。同年7月には、北軽井沢に1000坪の別荘地&くそボロ廃屋6棟を購入して開拓開始。「仕事環境の最適化」について考え始め始める。その1ヶ月後に開拓YouTubeを開始。これは僕も結構見させていただきました(笑)。「つくる」と同時に色々なことを考えているところが面白いなと思ったのですが、こうした活動は成田さんの中で一本の線でつながっているものなのですか?
成田:活動のきっかけはその時々で突発的に感じたことやほしいな、やりたいなという欲求に対してアクションを起こしているだけなのなので、意図して色々なものを積み上げている印象は自分の中にはなくて。ただ、色々やった後にこれらがどうつながっているのかと振り返ることはあって、そうすると何かしらつながっている部分があるという自分の気づきみたいなものはありますね。
原田:開拓のYouTubeは最初から見始めると、しばらく草刈りをしていますよね(笑)。
成田:一生草刈りしてます(笑)。
原田:気づきというところで言うと、こういうことをしたらこういうことが見えてきたといった具体的なエピソードがあればお聞きしたいです。
成田:それこそ開拓の話も色々あるのですが、例えばバンライフみたいな話で、ルノーのカングーという車を購入した際はちょうどコロナに突入した頃だったんですね。その時にどうしても家の中で仕事をしないといけないみたいなことが強制されていて、Takramでも出社しない前提で仕事をしていました。そこから外で仕事をしたり、オープンスペースでコロナの感染対策ができている状況下だったら仕事ができるのではないかということが出始めていて。その頃に僕も車を買ったのですが、カングーというのはすでにバンライフをしている先駆者がいるモデルだったんですね。ちょうどコロナで、ただ山に行って車中泊をしたいということではなくて、仕事の場所を外に持っていくことで環境を変えたらどういったインスピレーションが湧くのだろうかみたいなことにチャレンジしたいという動機で始めたところがありました。
成田:実際やってみると仕事にはならなくて、外に行くと遊びたくなっちゃうんですよ。遊びたい気持ちと仕事に集中しなければならないという気持ちを分ける必要があるということがそこでよくわかりました。だから、凄く景色が良くて遊べるポイントに行ったら逆にダメで、行った場所でも仕事がちゃんとできる環境を構築できるような条件を揃えておかないと、自分の部屋やオフィス以外のところでの活動は難しいということがわかりました。
車の中で仕事をするとどうしても狭い空間だったりもして作業効率も悪いけど、別のところだったら意外と集中できるんじゃないかということで、別荘地というところを設定したというのがありました。北軽井沢に別荘地を購入したのは良いけれど、住めるようになるまではまだ全然開拓中という感じで、無理矢理そこで仕事をできなくはないのですが、別に効率的ではない。ずっと仮説を検証してわかったことに対して別のアプローチをしたらどうなるんだろうということをずっと繰り返しているような感じです。ここはこういうところが良いけど、ここは良くないよねというのをずっと追い続けているところがあるのかなと。
山田:開拓というのはある意味プロトタイピングとあまり変わらないというか。一般的な方からするとゴールがなかなか見えないので手をつけたくない領域という意味では共通するのかなという気もします。昔からそういうことがお好きだったのですか。
成田:まずモノをつくるということと、モノをつくるものをつくるということが凄く好きなんですよ。ナイフづくりの話も少ししていただきましたが、これもキャンプをするための道具を自分なりに最適化してつくるみたいなことが好きだったりとか、仕事をするための環境をつくるみたいなことが好きなんです。そういうことをずっとやってきていて、卒業制作も実はオーブントースターみたいなものをつくって、パンを焼くための道具をつくるということをやっていて。入れ子構造的に、最終成果物だけではなくて、そこに至るまでの周辺の環境や状況、スキルなど色んなものが介在しているのかということにずっと興味があるから、今回は別荘地の空間自体をつくり上げるということに興味が湧いている状態ということなのかなと思います。
山田:入れ子構造でもあり、連続としているというか。プロトタイピングの仕事も、成田さんが自分の生活をある意味つくろうとしてるところも、同じ軸線上にある考え方みたいなところがあるということですよね。
成田:そうですね。何かしらモノをつくるということはそのためのプロセスを知るということだと思うんですね。たとえ全然違うものづくりだったとしても、プロセス自体を応用することはできると思っているので、家を建てるみたいなこととプロダクトを設計するということは共通する部分がどうしても出てくるので、そういったところで仕事の方の設計にフィードバックがあるということはもちろんあるし、作業の難易度などにしても自分で手を動かすことでどういうポイントが難しいところなのか、こだわっているところなのかというところが見えてくる。実際に他の方がつくっているデザインや製品に対しても目が肥えてくるというか、見るポイントが分かってくることで仕事の解像度が上がってくるというのがずっとループしている感じはあります。
原田:YouTubeを見ていると、冬の時期は別荘地に入れないから、土地を3Dスキャンしてデジタルツインみたいな状態をつくり、デジタル上で別荘の玄関に飾るランプをつくるために、ネット上で色々なデザインを調べて、それを3Dデータでつくるみたいなことをされていますよね。これもある種プロトタイピングであるし、本当に自然な形でつくることを楽しんでいるんだということが凄く見えてくるというか、こういうところまで来ると、ただ草刈りをしているだけではなく、普段のお仕事と地続きなんだということが見えてきて面白かったです。
ちなみに、最近YouTubeの更新止まっていませんか?(笑)
成田:いやぁ(笑)。いま自宅に庭をつくっていて、自宅の開拓の方が忙しくて(笑)、全然行けていないというのと、ちょうどTakramのメンバーと福岡のアートブックフェアに作品を出展していたのでそっちの作品ばかりをずっとつくっていたんです。ようやく落ち着いてきたし、暑さも緩和したのでやっと行けそうなのですが、11月を過ぎるともう開拓できなくなるので急がなきゃと思っています。
原田:ブックフェアにTakramの有志のメンバーと行かれたり、ご友人の千葉のプライベートキャンプ場の開拓という話もありましたが、本業とは違う活動をする時にクリエイターの仲間が関わるようなケースは結構多いのですか?
成田:それほど多いわけではないですが、面白いことをしようと声をかけて集まる人はクリエイターがやっぱり多いですね。仲が良いのが大学の友達が多いということもあるのですが、そういう場に行くと情報交換を色々できたり、本来の目的であるコンテンツ制作以外にも、 「うちはこういうことがあったよ」ということとか業界の話も含めてできるので、そこはそこで価値のある活動だと思うし、それがまたやりに行くモチベーションにもなったりしますね。
原田:ずっと1人で開拓していても辛くなってくるところがありますもんね。
多様なメンバーで実現するプロジェクト
山田:社内での成田さんの働き方というのは、プロジェクトベースで色々な人とTakram内でつながっていく感じになるのですか?
成田:そうですね。Takramは基本的にプロジェクトベースでメンバーがアサインされ、そのメンバーで仕事を進めていくような感じなので。僕のメインの領域はハードウェアでメンバーはある程度絞られてくるので、毎回異なるメンバーと一緒にやるというわけではなく、ある程度決まったメンバー間でコミュニケーションを取りながらつくっていくようなことが多いですね。
山田:プロトタイピングエンジニアという役職は成田さんの他にはいらっしゃらないのですか?
成田:Takramの中にはいないですね。
山田:そうすると、これは成田さんに参加してもらいたいといったプロジェクトが出てくる度に声がかかるという感じなのですか?
成田:そういうことも結構あります。もともとプロトタイピングエンジニアでハードウェアを主にしているのですが、別の仕事では例えばハードウェアの製品を出すにあたってその価値を伝えるために、ハードウェアそのものをつくるのではなく、それを使うペルソナがどんな体験価値を得られるのかというストーリーをつくるような仕事も結構あったりするし、実際にはつくらなくても、モノをつくるという知見が必要なプロジェクトにアサインされたりということももちろんありますね。
山田:それを広げられるメンバーと一緒にやっていくことが凄く重要なのかなという気がします。
成田:僕以外のメンバーがプロジェクトをリードしていくような時、それこそNSKさんの事例で言うと、もともとは機構をつくるとか制御するという話ではなく、グローバルキャンペーンで基本的にはコミュニケーション戦略を考えるという案件だったんですね。なので、映像をつくるということも外注したり代理店にお願いをすることをもともとは考えていたのですが、アイデアを出した結果、それをTakramというデザインエンジニアリングをコアとするメンバーが提案したものとして凄く共感を持っていただいて、モノをつくれる会社がモノをつくるCMをつくった方がいいだろうということで少しずつ変化していって。だとしたら、実際にモノをつくれるデザインファームが一緒にやるとより良い作品になるんじゃないかということで追加で依頼が来て、そこに僕が入るという形になりました。
必ずしも最初からR&Dでハードを持っているからよろしくお願いしますということではなく、全然違う方面だったけど、ハードの会社さんだったりするとお互いにハードの知見を持っているので、そこでのコミュニケーションが凄く円滑になったりするので、それならハードウェアのプロトタイピングも同時にお願いしますというお話を新たにいただくというのはいくつかあったりしますね。
原田:成田さんの専門であるハードウェアのプロトタイピングの技術だけではなく、TakramにおいてBTCと言われているように、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブにそれぞれ強い人がいて、そのメンバー間における振り子ができるからこそ色々な仕事を形にしていけるということがあるのだと思います。
「つくる」と「使う」の振り子
原田:振り子の話を今回の企画に繋げると、チーム内でのメンバー間の振り子というのと同時に、個々の中にも振り子があるという話で、緒方さんであれば「つくる」と「わかる」の間を振り子のように行き来しながら物事を考えたりものをつくったりされているという話があったり、相樂さんの場合は「つくる」と「伝える」という振り子があり、ご自身でクラフト的なものをつくりながら、それをちゃんと伝えるというところをセットで考えていくという話がありました。それで言うと成田さんの中での振り子的なものとして思い浮かぶものはありますか?
成田:「つくる」と「伝える」は取られたなと思いました(笑)。僕も基本的には価値をちゃんと認知することが凄く重要だと思っていて、そのために僕ができることはつくることであるというのがメインではあるので。
原田:例えば、自分が使う身の回りのモノを何でもつくられているわけじゃないですか。それで言うと、シンプルに「つくる」と「使う」みたいなところをずっと行き来しているようにも外からは見えるというか。
成田:それはそうかもしれないですね。やっぱりプロセスというものが凄く大事だと思っているので、使ってみてどうだったかという身体知をちゃんと得るということがつくることにフィードバックされるという意味では、「つくる」と「使う」は結構重要かなと思います。
本当に小さな洗面台の眼鏡置きのところに仕切りをつくって、もう少し化粧品が置けるようにしてほしいみたいなことを妻に言われて、3Dプリンタでつくったりしているのですが、こういうものもユーザーの要望が与えられた既製品とマッチしていなかったから、それに対応していくということだと思うんですね。そういうことをプライベートでやっていたりします。
成田:「誰のためにつくるんだっけ?」「何のためにつくるんだっけ?」ということが、つくるというところにはかかると思っていて、それが抽象的であればあるほど網羅性を持つから、「みんなのために」「世界のために」ということは言いやすいのですが、自分ごとにはなりにくかったりする。一度どこかにピン留めしてあげて、小さな領域において使われるとしたらどういうあり方があるんだろうというところに落としてつくってみるみたいなことを何個もやってあげるだけで、迷っている人たちに対して、自分が「何のために」「誰のために」つくっているんだろうという意識を明確化できたり、それを一度つくることで自分たちが目指しているところと、このユーザーがマッチしていなかったことがわかったりということが起こる。つくらないとわからないということが結構大きいと思うし、そこが自分のスキルセットとマッチしているのかなと。
原田:「誰のためにつくるのか」という部分で、最も明確に分かる「自分のため」につくるということをやっているというのは、たとえそれが遊びであったとしてもデザインやモノをつくる人にとってはある種のトレーニングになりそうですよね。
成田:「少なくとも僕は使いたい」みたいな最小単位がわかっていることは大事かなと。
山田:個人的な欲求が社会を変えていくことは大いにあり得るじゃないですか。プロトタイピングというのは、もちろん個人的な欲求だけではないと思いますが、そういう部分も凄く大きな軸にあるのかなと。そういう意味では、本当に生活のこととお仕事のことというのは全く別軸で語ることではないというか、やっぱり深い部分でつながっていることなんですよね。
成田:そうですね。
原田:全部が全部プライベートや課外活動的なものを仕事に繋げなきゃみたいになるとずいぶん窮屈になるし、つまらなくなってしまうと思うのですが、先ほどの「暮らしと仕事の調和を考える」とか、振り返ってみてこの活動が自分の仕事にどうつながるのかとちょっと考えるだけで、もしかしたら違うのかもしれないなという気がしました。
知の欲求がサイクルする組織
山田:Takramはインテリジェンスな組織のイメージが強いですが、よくよく皆さんにお話を聞くとちゃんと生活を楽しんでいるなという感じがします。
原田:それをナチュラルにやられていますよね。
山田:そうですね。ワーカホリックという言葉は良くないかもしれないですが、仕事も楽しんでいるし、生活にも楽しみがあって、もちろん大変な部分も色々あると思うのですが、その両輪がうまく回っている感じがします。
原田:自分も楽しむし、他人が楽しんでいることも楽しむといった関係性が、ここまでのお話の中で見えてきた感じがしますね。
成田:デザインファームという組織そのものが、インハウスデザイナーや企業のデザイン部とは少し違うところがあって。クライアントさんが多様であるように、その多様な価値を吸収したメンバーが揃っているので、そのメンバー間の交流による知の共有みたいなものがあるんですよね。凄く色んな知見が入ってきてそれらが合わさったり、個々の趣味趣向みたいなものも共有されるので色んな情報が入ってきて凄く楽しいんですよ。全然知らなかった世界が見えてくるのも楽しいし、自分がそういう話をしても楽しんでもらえるというのが相乗効果的に起きていて。コミュニケーションをする施策というのもTakramの中にはたくさんあったりするので、そういうところで交流を取りながら話をしていくと、自分が好きで活動していることにみんながポジティブになれるというか。それを否定するような枠組みは一切ないので。もちろん、副業をしている方もいますし、そういったところもオープンになっていて、その情報を聞いたりもできる。知の欲求がずっとサイクルしていって、自分も活動にポジティブになれるというのはTakramの大きな価値になっているのかなと思いますね。
原田:Takramには辞める人が少ないという話も伺っていて、それはクリエイターとして居心地が良い、働きやすい、自分がやりたいことを実現できる環境であるということなのかなと思います。
成田さん個人の欲求でも、Takramという組織としてでもいいのですが、今後Takramでこういうことができたらいなということがあれば聞かせてください。
成田:以前に、みんなで作品をつくろうということでロンドンで展示したことがあったのですが、そういうことはまたやってみたいなと思いますね。以前はデザインエンジニアという枠組みのメンバーがたくさん集まっている状態でしたが、ビジネスデザイナーが入った頃から本当に多様なメンバーが集まってきているので、そういうメンバーで全然志向の違う展示をやってみたりとか。いまだとメディアアート展ということではない新しい展示みたいなものができそうな気がするので、そういうTakramの価値を発揮できるような空間をつくれるといいなと個人的には思っています。
原田:そういうことを話す機会や場はあるのですか?
成田:Takramの中には色んな部活みたいな感じのものがあって、デザインエンジニアとかプロダクトデザインとかUIデザインみたい部活があるのですが、僕が入っているデザインエンジニアリングの部活では、展示をしたいねとか、モビリティをつくりたいよねとか色んな話が出ています。なかなか実際に稼働してやるというのは難しいところもありますが、自分の趣味の中でつくったり、ちょっとした時間を与えられたりするので、その時間内でできることをシェアしたりしています。そういうものがどんどん溜まってくると閾値を超えてくるところがあると思っていて、いまは色々なメンバーがその閾値の中で知を貯めている状態だと思うのですが、そこを超えてくると凄く良いものができるんじゃないかなと。結構兆しとしてはありますね。
山田:そうすると、成田さんが入社した2014年からいままでの間で会社としてのTakramは結構変わってきたと。
成田:変わったと思います。もともとデザインエンジニアリングの集団としてデベロップしていくような会社で、いまもそうなのですが、もう少しデザインとかエンジニアリングとか個別のプロダクトアウトに関わるところだけじゃなくて、もう少し上層の部分から関わりましょうというところになっていて、上層から関わることでアウトプットの質は全然変わってくるんですね。そこの精緻化に凄くつながっているとなると必要な知見が変わってくるんですね。最初の頃はアウトプットをつくれる力が高ければある程度仕事がこなせていて、そこにプラスしてそのメンバーがディレクションやマネジメントの能力を付加していくような成長の仕方をしていたと思うんですね。いまは色んなプロフェッショナルの成熟したメンバーが中に入ってきて、全体の輪郭を広げていくような形になっています。そういう意味で、考え方も領域も全然違う形に変わってきているかなと思います。でも、最後のやりたいことだったり、目標値みたいなものがブレているわけではなく、本当に解像度高くなって、やらないといけないことも増えたけど、それに対して高いモチベーションを持っているメンバーがアサインされていっているという感じです。
原田:ありがとうございます。最後に、告知やお知らせごとがあればお聞かせください。
成田:今年もNSKさんのグローバルキャンペーンがまさにいまプロトタイプをつくりながら進行しています。年末辺りに公開になる予定なので、興味がある方は見ていただけたらとても嬉しいです。
原田:次回は、フューチャーズリサーチャーの佐々木康裕さんにご登場いただきます。先ほど成田さんからもお話があったように、Takramの活動が広がっていったという意味では、佐々木さんはもともと総合商社で働かれていた方で、ビジネスデザイナーとしてTakramの活動をさらに広げたおひとりかなと思います。佐々木さんはTakramの活動に加えて、Lobsterrというニュースレターをやられたり、色々な形でカルチャーやビジネスの変化の兆しを発信されている方です。
成田さんから見た佐々木さんはどんな方でしょうか?
成田:TakramではみんなOZさんという呼び方をしているのですが、やっぱり全然違う感覚やスキルセットを持っている方ですね。僕はずっとものづくりをやってきたので、ものづくりがユーザーさん側に与える効果みたいなものはある程度イメージが湧いていたのですが、その製品を実際につくることで会社にどんなフィードバックがあるのか、ビジネスとして成立していくのかというところまで総合して考えた上で良いものと言えるかどうかというところは全然わかってなかったんですね。OZさんが入ってからそういうところでビジネス化をしたり、会社もユーザーも全員が価値をちゃんと享受できるということにつなげるということが一緒にプロジェクトをやっていた時に見えてきたりして凄く勉強になったというのをいまでも覚えています。そういう印象がある方なので、新しい切り口でデザインのことを聞けるのではないかと思います。
原田:これまで出ていただいた御三方はやっぱり「つくる」ことがベースにありますが、逆に佐々木さんはビジネスのバックグラウンドがあり、そこからデザインの方に入ってきたという意味でも、これまでとまた違った話が聞けるのではないかと思っています。
山田:今日成田さんから色々お聞きできた、ものを「つくる」というところと、ものを「語る」というところの両面がTakramのいまをつくっているのだとすると、佐々木さんはまさに「語る」人ということですよね。
原田:楽しみですね。成田さん、今日はどうもありがとうございました。
成田:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
「デザインの手前」は、Apple Podcast、Spotifyをはじめ各種プラットフォームで配信中。ぜひ番組の登録をお願いします。
Apple Podcast
https://apple.co/3U5Eexi
Spotify
https://spoti.fi/3TB3lpW
各種SNSでも情報を発信しています。こちらもぜひフォローをお願いします。
Instagram
https://www.instagram.com/design_no_temae/
X
https://twitter.com/design_no_temae
note
https://note.com/design_no_temae