「知る」と「つくる」~変化の兆しから複数形の未来を紡ぐ | Takram・佐々木康裕さん〈4〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。デザインイノベーションファーム・Takramのメンバーに週替りでご登場いただく本シリーズ、今週のゲストは、フューチャーズリサーチャーの佐々木康裕さんです。
ビジネスの世界からの転身
原田:今月は、デザインイノベーションファーム・Takramに所属しながら、ユニークな活動をされている面々に週替わりでご登場いただいています。このシリーズでは、Takramの本業のお話ももちろんお聞きするのですが、もう少しデザインの「手前」的な話としてメンバーそれぞれの個人の活動や、そこから見えてくる個人と組織の関係にフォーカスしています。
前回はプロトタイピングエンジニアの成田達哉さんにご登場いただき、ご自身がいま開拓されている北軽井沢の別荘の話や、趣味でつくられている色々なものと普段の仕事とのつながりなどについて色々興味深いをお話を伺いました。
今日は、成田さんとはまただいぶ異なる職能をお持ちの方にご登場いただきます。Takramのフューチャーズリサーチャー・佐々木康裕さんです。佐々木さん、よろしくお願いします。
佐々木:よろしくお願いします。
山田:よろしくお願いします。
原田:まずは、佐々木さんのバックグラウンドやTakramにジョインされた経緯などプロフィール的な部分を伺ってもよろしいでしょうか?
佐々木:Takramでは、気づけばだいぶ古参になっていると思うのですが(笑)、僕が入社したのは2014年7月なのでちょうど10年くらいが経ちました。Takramはデザインイノベーションファームということで、工学部や美大を出てデザイン事務所やメーカーに入ったりするような人が多いのですが、私は実はビジネス畑というか、わかりやすく言うと総合商社で新規事業開拓のようなことをやらせていただいていました。
デザインのど真ん中というよりはデザイン思考にとても興味があり、新規事業などをつくるための再現性があるプロセスは何かあるのかなと思った時に、当時はデザイン思考がとても魅力的なものに見えたところがあり、2013年からシカゴのある学校に留学し、そこで1年間学んで、帰ってきてすぐTakramに入ったという形になります。
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山田:そもそもなぜTakramだったのですか?
佐々木:アメリカで留学をしていて、正直向こうで就職もできればいいと思っていたのですが、ビザの関係などもあってなかなか難しかったんですね。それで日本で探そうかという時に、最初に思いついた会社がTakramだったんですね。なぜかというと、留学をする前に、AXISさんとIDEO TokyoとTakramの3社共同でデザイン思考ワークショップをやるというイベントがあって、留学前にたまたま参加をしていたんですよね。それでTakramを知ったのですが、日本に帰ろうかなと思った時に思い出して色々調べていたのですが、当時はTakram Design Engineeringという社名で、デザインとエンジニアリングが強い会社でした。当時Takramがブログサイトを持っていて、そこで色んな社員がブログを書いていて、それを読みながらとても深く考えてものづくりをしている人たちなんだという印象を受けました。考えている内容や思考の深さみたいなところが自分もシンパシーを感じるところがあって、もちろん専門性という観点ではビジネスとデザインやエンジニアリングは違うのですが、何か話が合いそうな感覚が勝手にあったんです(笑)。
原田:そういう意味では、Takramという組織の輪郭が佐々木さんが入ったことでビジネスの部分にも広がっていったというところがありそうですね。
佐々木:それもあったかもしれないですね。
原田:Takramでは具体的にどういったお仕事が多いのでしょうか?
佐々木:しばらくビジネスデザイナーという肩書きで仕事をしていたのですが、もう少し自分の強みというか好きなところを尖らせていきたいということがあり、肩書きに変えたことが個人的には大きな転機になりました。僕はリサーチの中でもとりわけ未来のことを考えたりすることが好きで、今年の4月頃からフューチャーズリサーチャーという肩書きに変えて活動をしています。例えば、某自動車メーカーの未来の戦略に近いようなことをプロジェクトの中で検討する機会があったり、最近だととある電機メーカーさんの未来ビジョンのようなものを一緒に考えて可視化したり、5年、10年、20年先の未来を考えて、それをどう事業に落とし込んでいくのかというところをやっています。
また別の柱としては、会社のヴィジョンや強みをいくつかの短いキーワードに結晶化させていくようなプロジェクトもたくさんやっています。平たく言うとヴィジョン・ミッションの言語化みたいな感じなのですが、もう少し色々なレイヤーで言葉が必要になったりするので、そういう時に会社の色んな声を束ねて、それらをどうフレーズに落とし込むかみたいなこともやっています。僕は凄く言葉が好きで色々こだわってつくるのが好きなので、そういったプロジェクトもこれまでに多数やっています。
原田:さっき少しお話に出ましたが、「ビジネスデザイナー」という言葉が佐々木さんがやりたいことや向かいたい方向とそぐわなくなってきたところがあったのですか?
佐々木:そうですね。ビジネスデザイナーというのは構えの広い言葉なんですよね。
原田:わかりやすさはある言葉ですよね。
佐々木:そうなんですよね。ビジネスとデザインがバラバラに独立したものとして存在している中で、それらをどう合わせ込んでいくのかというところは、僕が名乗り始めた2010年代中盤頃はとても意義があることだったと思うのですが、いまはそれがだいぶ広がってきた感覚があってですね。私は少し天邪鬼的な性格なものですから(笑)、これだけ色々な方が(ビジネスデザイナーを)やられているのであれば、自分はちょっと違う領域を開拓したいなという思いで始めたという感じですね。
原田:フューチャーズリサーチャーの「S」は複数形の「S」ですか?
佐々木:そうですね。何か未来を予測してそこに当てにいくみたいな手法が昔は流行っていたと思うんですよね。有名な例で言えば、石油会社が将来の需要予測をして、それに基づいてそれだけ採掘量を増やしていくのかみたいなことだったり、あとはシナリオプランニングといって色々なシナリオを組んでどういうシナリオになるかということをやっていたのですが、これだけ不確実性が高まると、「当てに行く」みたいなアプローチが向かなくて、起こり得る可能性空間を幅広く示していくというやり方の方がよりマッチするんじゃないかということで、常に複数形の未来を示していくという意味を込めています。
Lobsterrを始めた経緯
原田:その辺はこれからお聞きしたいLobsterrの話にもつながっている気がしています。佐々木さんたちが運営しているLobsterrはニュースレターをメインとして、ポッドキャストや書籍など幅広く展開されていますが、そもそもどういうきっかけで始まった活動なのですか?
佐々木:商社にいた2007年から2008年にかけてシリコンバレーにいたのですが、その時に情報の重要性というものを知って、それ以来海外のテクノロジーから始まったのですが、テクノロジーに伴ってどういう風に社会が変わっていくのかとか、新しいテクノロジーが生まれることで新しいタイプのコンテンツや音楽が生まれたり、そこからインスパイアされて新しい行動や慣習が生まれていくということに凄く興味があって、情報収集を好きでずっとやっていたんですね。情報収集のソースのいくつかにニュースレターというものがあって、アメリカでは2010年代頃から盛り上がってきていたんですね。ふと振り返ってみた時に、あまり日本ではそういうものがないなと思って、自分でつくりたいなと。自分でやろうかなと思ったのですが、一人で始めたら間違いなく続かない自信があったので(笑)、これは誰かを誘おうということで。最初は3人で始めたのですが、宮本裕人さんという編集者・ライターの方と、Takramと同じような業態の仕事をされている岡橋 惇さんという方でスタートしました。当時宮本さんには会ったことがなくて、SNSで勝手に私がフォローしているだけでした。
原田:以前にWIREDにいらっしゃった方ですよね。
佐々木:そうです。岡橋さんについては、ロンドンにいらっしゃったご経験があったり、その前には香港とかにもいたのかな。そういう多文化性が彼個人の中にあるということが個人的に惹かれたポイントでした。彼らの発信を見ていると、自分の興味関心と近そうだということで2018年12月にお声がけして、ありがたいともにおふたりともいいですよと言ってくれたので、2019年3月から3人のプロジェクトとして始めたというのが経緯になりますね。
原田:宮本さんは直接は面識がなく、岡橋さんについてもそんなに仲が良かったわけではないという話をどこかで読んだのですが、そのメンバーで始めるのは結構凄いというか。
佐々木:いま考えると不思議ですよね(笑)。おそらく直感的なところが大きかったのだと思います。岡橋さんは1回仕事を軽くしたことがあったのですが、もともと彼のお兄さんと知り合いだったというまた別の面白いご縁があったりもします。物腰の柔らかさというと少し違うのですが、おふたりとも何かを決めつけたり、強い言葉で何かを否定したり肯定したりする方々ではなくて、思慮深いイメージを受けたので、それで話が合いそうだなと思い、僕は一方的にナンパしたみたいな感じでした(笑)。
原田:Takramにジョインした経緯にも通じますが、佐々木さんの中で「思慮深さ」が結構キーワードになっていそうですね。
佐々木:そうですね。もともと物事の裏側を考えるようなことが大好きで、映画を見た後とかも「あのシーンのこのセリフはどういう意味があったんだろう?」とか、そういう分析をするのがとても好きなので、そこは仰る通り大事なポイントですね。
山田:マルチカルチュラルというか複眼的なものの考え方がメディアの魅力にもつながっていると思うのですが、その辺りは最初から強く意識されていらっしゃったのですか?
佐々木:そうですね。ニュースレターを立ち上げる時に考えていたのは、他の日本のメディアが取り上げていることを取り上げてもあまり意味がないんじゃないかということでした。とても小さいメディアとしてスタートしますし、テーマとしては海外のことを取り扱うということを考えていたのですが、例えば、「いまオリンピックを開催しています」とか日本のメディアでも取り扱う海外のトピックはたくさんあると思うんですね。そういうことではない独自のトピックを取り扱いつつ、海外にいた経験があったり、メディアにいながらユニークな視点というものをずっと探し続けていた経験をお持ちの2人と一緒にやることでパワフルなものになるんじゃないかと。
ニュースレターというメディアの特性
山田:仕事をするようになると、仕事以外の要素がなかなか情報として入ってこなくなりますよね。学生や若い頃というのはもっとアンテナを広げていたので、自分の興味外のことも含めて情報をキャッチアップするということをやっていたと思うのですが、それができなくなってきているなという時に、Lobsterrの存在を知り、自分がアクセスしていなかった情報につながっていけることが凄く魅力的で。新聞を否定するわけではないですが、例えば日経新聞を読むと日経新聞のビジョン、ある種の資本主義の考え方でしか物事が見られないので、凄い狭い考え方でしか経済が見られなかったり、社会の動きが見られなかったりするという弱点があるんですよね。そういう意味でLobsterrは雑談めいたものもあれば、何かヒントになることだったり、固まってきた自分の価値観を広げてくれるようなところがあって。Webはそういうことに向いているようでいて、意外と指向性が単一化するところがあると思っていて。その点、Lobsterrは個人的に凄く刺激をもらっているメディアです。
佐々木:ありがとうございます。どのフォーマットでやるのかというところも大きいかなと思っているんですよね。情報発信はTwitterでももちろんできるわけですけど、アルゴリズムで最適化されてしまうので、多分Lobsterrに興味がない人のフィードには流れていかないということがあるでしょうし、ニュースレターというフォーマットは良くも悪くもバズらないというか、拡散性が薄いところがあって。多分ニュースレターを読んでいる時の心理的なモードはTwitterを見ている時と少し変わると思うんですよね。週に1回しか届かないとかも含めて。いまはどうやってアルゴリズムでページビューを増やしていくのかみたいなところとか、動画や画像を使うみたいなところが現代的なメディアの条件になっていると思うのですが、我々はそこからいかに距離を置けるかみたいなところでやっているので、そういう意味で読んでいる時の心理的なモードがちょっと落ち着いた感じになるというのが一つあるかなと思っています。
あとは、取り上げるニュースも日本の他のメディアが取り上げなさそうなものという話がありましたが、大きな物語ではなくて小さな物語をすくい上げて、それをお裾分けするような心持ちでやっています。比較的マイノリティに光を当てることが多いのですが、マイノリティの中にも有名なマイノリティっているんですよね。最近だと黒人やLGBTQの方など有名なマイノリティではなくて、有名じゃないマイノリティもたくさんいるので、そういったところに光を当てていきたいなとはいつも思っているところですね。それが未来を考えるためのヒントになればいいかなと。
原田:Lobsterrではポッドキャストもやられていますが、ちょっとラジオ的なメディアという側面もある気がします。それこそポッドキャストはバズらないということもありますし、読者に向けて語りかけてもらっている感じがあって、普段触れない情報をおすそ分けしてもらうというか、ラジオパーソナリティではないですが、書き手の人のプライベートな経験なども一緒に伝えられるという。かつ音声メディアよりも自分が読みたいタイミングで見られるというところもあって、凄くプライベートなメディアでもあり、その情報の距離感が心地良いと感じる方がたくさんいて、Lobsterrが広がっているのかなという感じがします。
佐々木:ありがとうございます。
原田:ただ、ポッドキャストもやられていて、ニュースレターも毎週配信をされていて、週一というペースは凄く大事だと思うのですが、運営する側としてはどうやって時間をつくっているのか気になります(笑)。
佐々木:大変なんですよね(笑)。もう5年半くらいやっている形になりますが、ニュースレターの運営で言うと大きく2つのブロックがあって、世界のニュースをキュレーションしてお届けするパートに加えて、冒頭にショートエッセイをつけているのですが、ニュースのキュレーションについては普段から好きでやっていることなので、例えば食事をしながらとか電車に乗りながら、何か面白いことないかなと調べているので、自分の生活リズムの中で追加の負荷が発生する感覚はあまりないので負担はかからないんです。一方でショートエッセイは結構大変で(笑)、3週間に1回当番がまわってくるのですが、その週は何を書こうかなという感じで凄いソワソワしています。
山田:「今週はお休みです」と書かれているケースもあって、だから無理なく続けられるのかなと。
佐々木:そうですね。そこは本当にありがたくて、読者の方もご理解いただけている方が多くて、「無理せずに続けてください」という声もたくさんいただくので、本当にありがたいなと思っています。
「知る」と「つくる」の振り子
原田:いまはメンバーシップもやられていてマネタイズも意識されていると思うのですが、一方で時間がなくてもやりたいことだからやっているという点ではライフワーク的な位置づけでもあるように思います。佐々木さんにとってLobsterrはどういう存在なのですか?
佐々木:もともと自分が好きなリサーチするということをアウトプットしたらいいじゃないかという形で始めたのですが、良い意味で意図と違う方向にLobsterrが転がっていっているところがあります。運営をしながら新しい世界の流れに気づいたりとか、その中で自分が大げさに言うとこれからどういう風に人生を歩んでいけばいいのかみたいなところに気づかされたりとか、Friendshipといってメンバーシップに参加いただいている読者の方との対話の中で新しい気付きがあったりするので、自分の中ではまさにライフワークと言っていいくらいのポジションになってきた感じがあります。いま一緒にやっている岡橋さんも同じように思ってもらっているのはとてもうれしいですね。
原田:今回お聞きしたいテーマとして大きなところは、そういったライフワークとも言える個人の活動と本業の関係、そこにどんなフィードバックがあるのか、あるいはないかというところです。
佐々木:リンクはとてもあって、自分の中で世界の潮流の種みたいなものが凄い量ストックされている感覚はあって、例えばTakramで何かリサーチプロジェクトが始まるという時に、1日目から凄い量のアウトプットができる状況になっていることは大きなアドバンテージだと感じています。あと、相互作用的なところではTakramの仕事も刺激的なものや、世界に目を向けたものが多かったりとかするので、そこで考えたこと、知ったこと、感じたことがまたLobsterrの活動にフォードバックされるところがあります。それぞれが別の独立した活動ではありますが、とても良い形で自分の中でループしている感覚はありますね。
山田:LobsterrはTakramのメンバーはどれくらい読んでいるのかとか、反応はどうなんでしょう?
佐々木:どうなんですかね(笑)。僕も気恥ずかしいし、あまり「読んでる?」と聞いてプレッシャーに感じてもらっても困るので自分からは聞きませんが、一緒に食事に行ったりした時に「この前、これ書かれていましたよね」とか言ってくれるメンバーもいるので、こっそり読んでくれている人も結構いるんだろうと思います。
原田:今回のシリーズでは、例えば緒方さんであれば「わかる」と「つくる」、相樂さんは「つくる」と「伝える」などそれぞれの中に振り子があるという話が出てきます。佐々木さんの中での振り子として何か明確なものはありますか?
佐々木:そういった意味で言うと、振り子の片方の極には間違いなく「知る」というところがあります。もう一つは何だろうな。自分がなんでLobsterrの活動をしているのかと考えた時に、常に世界の新しさに驚いていたいという欲望が自分の奥底にありそうだと最近は思っているんですが、それで言うと単純に「知る」ということだけではなく、その先に「驚く」とかそういう感情を求めている感じがあるので、「驚き」と「知る」みたいなところで振り子を振っているのかもしれないなとは思いました。
原田:Takramは基本的にはものをつくる会社なので、「つくる」がベースにある人が大半だと思うのですが、佐々木さんご自身としては、少し立ち位置が違う感覚というのがあるのですか?
佐々木:そうですね。ただ、僕も「つくる」ということでいうととても強いこだわりがあって、でもつくる対象物がTakramの他のメンバーとはだいぶ違うという感覚がありますね。どちらかと言うと僕は言葉をつくることが多いので、そういう意味では、「知る」と「つくる」(言葉)とも言えるかもしれないなと思いましたね。
山田:佐々木さんが入られてから、もちろん渡邉(康太郎)さんもいらっしゃるのですが、ものづくりというTakramの軸に、ものを「語る」というナラティブな要素が入ってきたのではないかというのが個人的な印象です。渡邉さんは凄くポエティックな物語で、一方の佐々木さんは社会性のある物語をつくれられる方という印象があり、それによってTakramの輪郭が凄く広がっていったのかなという気がしています。
佐々木:そういった意味で言うと、少し話が戻ってしまいますが、僕がTakramに入ったのは渡邉さんの存在が結構大きかったかなと思っています。当時のTakramは彼がいたから良い意味でエンジニアリングすぎないというところが担保されていたと思うし、Takramのアウトプットの中でそれこそ言葉とかナラティブとかストーリーみたいな部分にとても魅力を感じていたというのはあったかなと思います。彼がいたことで、多分無意識的に自分は違うところでどう価値を出せるのかみたいなところを考えていたでしょうし、新しい文化の芽ばえが新しいビジネスチャンスにどう繋がるのかみたいな語りというのは、僕が参加するまでのTakramにはあまりなかったかもしれなくて、そういう意味では補完関係にあったのかなと思いますね。
光が乱反射する多面体的な組織
原田:これはかなりの部分仮説も入るのですが、デザイナーの課外活動的な今回のテーマにおいて、デザイナーとして普段やっていることの延長として違う活動をしてみるというのは割と考えやすいところかなと思うんですね。一方で佐々木さんはもともとビジネスの世界にいて、そこからデザインに足を踏み入れたわけじゃないですか。両者は当然つながってはいるけれど、それまでやっていたビジネスの延長線上とはまた少し違う足の踏み出し方をしている気がしていて。自分の仕事以外の活動をする時に、ある種自分の延長線上ではない場所にあえて行ってみるとか、そういうことを想定してみるということももしかしたら大事なのかなと。
相樂さんに出ていただいた回で、これまでにやってきた延長線上ではない仕事やプロジェクトができるようになりたいと田川さんが仰っていたというお話が出たのですが、そこにちょっとつながる話だと思うんですね。自分がいま置かれている環境でないところというか、僕は佐々木さんに「分人」的なイメージというか、いろんな側面が個人の中に入っていて、必ずしも全部がつながっていなくてもいい、みたいな考え方があるような気がしたんですよね。デザイナーが個人で活動をするという時に、どしても「つくる」ことと繋がりがちですが、実は「つくる」と離れた活動を想定してみる、そういう未来を想像してみることも大事なんじゃないかなと。
佐々木:本当にそうだと思いますね。そういった意味で言うと僕はデザインバックグラウンドじゃないというところもあるので、あまり「つくる」ということにこだわり過ぎず、色々と自由にできているのかもしれないなと思ったりはしますね。
原田:そういうバックグラウンドのある人たちと同じ組織の中で接することができる環境というのは、Takramの特徴というか強みでもありますよね。
佐々木:まさにまさに。そういう意味で多分私が一番得している気がしています。例えば、インダストリアルデザイナーだったらインダストリアルデザイナーの同僚がいるじゃないですか。エンジニアも然り。でも僕の場合は自分と全く近しい人がいなくて、全員が僕と違う感じなので(笑)、全員から刺激を受けられるという意味では一番僕が得してるなといつも思っていますね。それこそ成田(達哉)くんとかも全然バックグラウンドも違うし普段やっていることも違うけど、彼の話から良い意味で自分と違うからとても刺激を受けたりしているのかなと思っていますね。
原田:個人と組織という話でいうと、デザインの世界ではこれまで一人の有名なデザイナーや建築家がいて、そういう人がトップにいるピラミッド的な組織構造のもと、その個人の名前で仕事をやっていたところがあったと思うんですね。それが佐々木さんが学ばれたデザイン思考なども出てきて、デザインがどんどん分業化していく中で、もう少しチームプレイで組織でデザインしていこうという流れがあると思うんですね。個人から組織へという流れがある中で、Takramという名前がたしかに前には出ているけど、その中の個々の顔も見えるというか、そういうバランスというのはなかなか他では見られないなと思っています。個々でやりたいことが強い集団というのは、組織として向かいたい方向との整合性を合わせるのが難しいと思うのですが、現状としては外から見るとそれが成立しているように見えます。それはなぜだと思いますか?
佐々木:いやぁ、何ででしょうね。いまTakramもヴィジョンについて議論しているのですが、良い意味でつくることに苦労しているんですよね。例えば、会社のトップ層が向かうべき方向を定めて、みんなでこっちに行くぞということが良い意味でやりづらいということだと思うんですよね。そうではなくて、個人にやりたいことがあったら、それを会社のルールを新しくつくることをしてでも全力でサポートするみたいな、そういうカルチャーと実績があって。個人を立たせながら組織力もあるという、面白いバランスになっているなと思っています。
僕はここ数年心がけかけてることがあって、あまり自分が前に出ない方がいいなと最近思うようになってきているんですね。ビジネスデザイナーという観点でも私以外にたくさん活躍をしているし、とても優秀なメンバーがたくさんいるので、「もっとみんな前に出ればいいのに」みたいな感じで(笑)、自分が出すぎちゃうと良くないと思っています。そういった個人がスポットライトを浴びるような構造をたくさんつくろうとしているところはありますね。個人に光が当たるけど、特定の個人に光が当たりすぎないと言うか、どこから光を当ててもキラキラ輝いている状態をつくろうと頑張っている感じですね。乱反射をしている感じというか。
山田:Takramは多面体ですもんね。
佐々木:そうですね、多面体ですね。
原田:最後に、佐々木さんから今後の告知やお知らせがあればお願いします。
佐々木:Lobsterrではニュースレターとポッドキャスト、メンバーシップをやっていて、実は新たに本をつくろうとしているのですが、それとは別に新プロジェクトを立ち上げようとしています。Lobsterrでは仕事のつながりでは生まれ得ないような新しい社会的なつながりをつくれないかと前から思っていて、その一環でブッククラブを始めます。今年にトライアルをやって、来年からはマンスリーの活動としてやっていこうかなと思っているので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
原田:今週までデザインエンジニアの緒方寿人さん、Culture & Relasionsの相樂園香さん、プロトタイピングエンジニアの成田達哉さん、そしてフューチャーズリサーャーの佐々木康裕さんの4名にお話を伺ってきました。
山田さん、ここまで4名の方に伺ってきてどうでしたか?
山田:輪郭はおぼろげに掴みつつも、やっぱりちょっと不思議な組織だなというところは変わらないかもしれないですね(笑)。でも、自分たちの組織が健全であり続けるために個の魅力を輝かせていこうという、それは別に個々をタレント化するということではなく、あくまでも個の人間としての活動を大事にしながら、仕事も楽しみながら進めていくという極めて真っ当な考え方ですが、そのためには常に組織を変えていかないといけないところもあって、それには凄く体力も必要になるわけですが、そことちゃんと向き合っていることが面白いなという気がしましたね。
原田:佐々木さんの活動に紐付けるなら、Takramの組織のあり方は今後の組織と個人の関係や、デザイン組織のあり方における未来の兆しを感じさせてくれるような形なんだと。
山田:そうですよね。有機的な関係性をいかに築けるのかということが凄く大事なことなんだというのを改めて感じました。
原田:それで言うと、組織の代表である田川(欣哉)さんのお話もぜひお聞きしたいところですよね。実はまだオファー中なので出ていただけるのかは確定できていないのですが、せっかく色々なお話を伺えたので、ぜひ田川さんにもTakramの組織についてお話を聞きたいなと思っているので、ぜひ楽しみにお待ちいただきつつ、しれっと別のシリーズが始まった場合は…。
山田:お忙しかったんだなと(笑)。
原田:その時はご容赦いただければと思います。では、ここまで佐々木さん、そしてTakramの皆さん、どうもありがとうございました。
山田:ありがとうございました。
佐々木:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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