メンバーの課外活動は、デザイン組織に何をもたらすのか? | Takram・田川欣哉さん〈5〉
「デザインの手前」は、デザインに関わる編集者2人が、さまざまなクリエイターをお招きし、デザインの本質的な価値や可能性についてお話しするトークプログラムです。ニュースレターでは、最新エピソードの内容をテキスト化してお届けしています。デザインイノベーションファーム・Takramのメンバーに週替りでご登場いただくシリーズのトリを飾るのは、代表の田川欣哉さんです。
「つくる」と「生きる」が直結している
原田:先週までデザインイノベーションファーム・Takramに所属しながら、ユニークな個人活動を行っている4名の方々に週替わりでご登場いただきました。そうした活動にどういった姿勢やモチベーションで取り組まれているのか、その中で個人と組織の関係はどうなっているのか、そういった観点からデザインの「手前」の話を色々お聞きしてきました。
Takramのシリーズは今日が最終回になるのですが、簡単にこれまでの4組を振り返ってみようと思います。まず、デザインエンジニアの緒方壽人さんにご登場いただき、緒方さんが書かれた『コンヴィヴィアル・テクノロジー』という書籍やブログなどを通じてご自身の考えを発信されていることや、移住された御代田で暮らしをつくるということをやられている中で、「わかる」と「つくる」を行き来しながらものを考えたり、ものづくりをされているというお話を伺いました。
2人目はCulture & Relationsというチームに所属されている相樂園香さんに出ていただき、彼女が主催されているデザインの祭典「Featured Projects」や、個人的に仲間たちとやられているリソグラフ印刷のスタジオの話などを伺いました。そうした個人的な活動をする一方、Takramの中では組織の文化や関係を内外に発信したり、育むような活動をされている相樂さんは、「つくる」と「伝える」が常にセットであるというお話をしていただきました。
3人目としてご登場いただいたプロトタイピングエンジニアの成田達哉さんは、北軽井沢の別荘地に廃屋付きの山を購入して開拓している話や、コロナ禍に車を改造するなど仕事の環境を色々探求されている方です。そんな成田さんは、暮らしの中で「つくる」と「使う」という実験を日常的に続けていらっしゃるというお話を伺いました。
そして、先週ご登場いただいたフューチャーズリサーチャーの佐々木康裕さんは、もともとビジネスのバックグラウンドがあり、そこからデザインの世界に入ってきた方です。海外のカルチャーやビジネスの変化の兆しを発信する「Lobsterr」というニュースレターをやられていて、最新の動向をリサーチして「知る」ということと、Takramの中でやられている未来をつくっていくような言葉やヴィジョンを「つくる」ということの関係について話をしていただきました。
ここまで話してきたように、個人の中で2つの極を行き来するような振り子の考え方があり、これはTakramという組織が大事にしていることです。今回のシリーズでは、こうした振り子の話を軸に、個人と組織の間にどんなフィードバックなりループがあるのかという話を色々と伺ってきました。そうなると、最後はやはり組織の代表である田川さんにお話を伺わねばということで、本日ゲストとしてお呼びしたのはTakram代表の田川欣哉さんです。田川さん、よろしくお願いします。
田川:よろしくお願いします。
↓こちらからポッドキャスト本編をお聴きいただけます
▼Apple Podcast
▼Spotify
↓続きもテキストで読む
原田:早速お話を伺っていきたいのですが、今回出て頂いた4名の方のお話は聴いていただけましたか?
田川:はい。一つひとつ聴かせていただきました。みんな凄く楽しそうに話をしていたので、僕も聴いていて面白かったです。
原田:本当にそうですよね。皆さん凄く楽しそうに「つくる」ということを、生活と仕事分け隔てなくナチュラルに色々楽しまれているという印象が全体としてありました。
山田:つくることが生きることに直結してるというか。つくり方や考え方などはもちろん少しずつ異なるのですが、生きる喜びをそこに感じているというところが皆さんの共通点だなと。ひとつのデザインファームの中になぜこれだけ色んな人がいるのかというところも今日聞いていきたいなと思っています。
原田:今回企画を考えるにあたって、本業のデザインの仕事と並行して活動することの意味や、そこにどんな価値があるのかといったところを聞きたいと思っていたのですが、実際にお話を聴いてみると、自分を磨いたり高めるために個人の活動を頑張っているというよりは、まさに山田さんが仰ったように「生きる」ことと直結をしていて、呼吸をするかのように自然に活動を楽しまれている印象があって、そこに大きな気付きがありました。
田川さんはこうったメンバー個々の活動についてはどう見ていらっしゃるのか、あるいはTakramという組織としてこうした活動を推奨しているとか、その辺どんな感じで見られているのかということをまずはお聴きしてもいいですか?
田川:そうですね。一人ひとりの活動自体は、お互いに認め合ったり、応援をするようなカルチャーがTakramの中に自然と空気感として漂っているなと思います。Takramの中で大事にしている哲学や価値観というのはあるのですが、そこはしっかり共有しつつ、それ以外はできるだけみんなそれぞれ自分の領域を持っていて、それぞれがTakramの外での活動も盛んにやっていて、そこで見聞きしたことや人とのつながりがTakramにも良い意味で還元されたりというところが自然と色んなところで起きています。どこかにマスターコントロールがあって、オーケストラの指揮者のようににやっているということではなくて、本当にみんなが個々に勝手にやっている状態の中でそういう空気感ができているというのは凄く幸せなことだと思っています。いくつかTakram用語のようなみんながよく使う言葉があって、さっき仰って頂いた「振り子」もそうなのですが、相樂さんの回で彼女も言っていたと思うのですが、「輪郭」という言葉も僕らはよく使うんですね。拡張する輪郭として自分たちを捉えようという話をよくするのですが、Takramに新しいメンバーがジョインしてくれた時もその話をよくするんですよね。あなたが今日入ってきてくれたことで、Takramの輪郭は昨日までとはすでに別のものになっている。そういう意味では、Takramはどういう組織なのかということを全然気にする必要はなくて、その人が入ったTakramというのが一番最新のTakramなので。お互いに影響しながら輪郭が変わっていくということをぜひ楽しんでいきましょうという話を良くするのですが、共有しないといけない部分はしっかり共有しつつ、違っているからこそ良いというのはカルチャーレベルでみんなが持っているような気がしますね。みんなそれぞれ全然違うということを志向している感じはもともとあるかなと思いますね。
好奇心にドライブされる組織
原田:出て頂いた4名の方に確実に共通していることは、好奇心が凄く強いということだと思っています。メンバー個々が掘り下げている領域やテーマというのはもちろんそうですが、もうひとつ周りのメンバーが興味を持っていることにも興味を持つというか、周りの人たちが追求していることも寛容に受け入れるということをさらに超え、前向きにそこに入っていくような凄く強い好奇心のループが組織の中にあるような印象を受けました。
田川:そうですね。「好奇心」や「学び」みたいなのは僕らの基盤というか、みんなをドライブしている大元になっていると思いますね。「それ何なの?」「ちょっと教えて」「知りたいんだけど」「これ知ってる?」「へぇそれ面白いね」みたいなことが会話のベースノートになっていて、そこに皆の色んな専門性やプロジェクトの話が乗っかってくるのですが。そこの部分は凄く分厚くて、これはプロジェクトに関わるデザイナーやエンジニアだけではなくて、例えば相樂さんもそうなのですが、オペレーションを見ているようなメンバーたち、例えば人事や会計を見ているメンバーなども基本的にそこはびっしり揃っていて、みんな「それなんですか?」「教えて下さい」「面白そう!」みたいな感じが凄くありますね。
山田:みなさん別のコミュニティ、要は会社の外で、相樂さんであれば「Featured Projects」だったり、緒方さんは御代田で色んな人たちとつながっていたり、それは成田さんもそうだし、佐々木さんの場合はまた別のプラットフォームをつくったり、色んな有機体の中で相互作用していくというか。ただ、日本の仕組みというか、割と仕事とプライベートの両軸で物事は進みがちなんですが、Takramのメンバーはそれが3つも4つもあったり、いろんなことに興味があって、お互いにそれが響き合って仕事にもつながっていくし、もしかするとそれが彼らの課外活動のところにも反映されていく部分があるのかなと。世代がバラバラの凄く魅力的な大学院のクラスとでも言うのか。
田川:たしかにそんな感じはありますね。多分一人ひとりでもできちゃいそうな人たちが、緒方くんとかももうだいぶ長くて、なぜ長くいるのかということはよく人からも聞かれるのですが、やっぱり一人でできることとチームでこそできることがそれぞれあって、みんな両方やりたいんだろうなという感じはしますよね。
面白くて、みんなある意味で欲張りというか、チームでやるからこそ社会にインパクトを及ぼせるようなスケールの大きい仕事がやれるところは組織の良いところかもしれないですが、やっぱり個人でチマチマ何かをやるのとか楽しいじゃないですか(笑)。そういうのは楽しいし、ある意味自分の世界観で完結できるからこそ語れる深さみたいなものがあって。やっぱりチームだと全体の調和だったり、凄く要素が複雑だったりするから、あるところだけ突出させてもうまくいかなかったりするし、仕組みとかシステマティックな話もあるので。みんな両方やりたいという気持ちがどこかにあると思うんですね。
それを別々の場所でやるというのもあるし、チームワークはTakramでやるけど、個人的な興味・関心はどんどん外でやるといいよねみたいなところは結構みんなに共通しているんでしょうね。個人の中である程度試したり検証してみたものを今度は社会化するというか、フルスケールのインパクトが起きるようなところで自分の仮説を試すみたいなとこも含めて投入してみるみたいなことというのは、みんなの試行錯誤の中で起こっているような気はしますね。
だから凄く見ていて面白いです。例えば、緒方くんの『コンヴィヴィアル・テクノロジー』も純粋に個人の思索というか、かなり長い時間の中で言語化されてきたもので、もちろん僕らも会話の壁打ち役になったりはするのですが、純粋に活動を応援しているし、それができると僕らのプロジェクトの中にも投入されてきたりもする。こういうものが社会に投げかけられることで、それを具体的にプロジェクトにしたいという声がかかってきたりというのもあるので、その辺の相互作用が見ていて凄く面白いですね。
やっぱり未来の可能性というのは凄く儚いし、頼りないし、「それって本当に将来的に芽があるのですか?」と詰めた議論になっていくと、簡単に壊れるじゃないですか。だからやっぱりある程度個人的に卵の中で育てていくような、安全空間の中で育てるフェーズというのは多分あった方が良くて、それがニワトリのような形で中から雛からパカッと出た瞬間に社会化されるというか、プロジェクトになっていくという、そういうプロセスがやっぱりあるんでしょうね。
原田:Takramのメンバーそれぞれ専門性が高くて、他でやられていない領域を開拓していくような方たちが多いと思うのですが、そこはやっぱり個人の中で突き詰めていくところがどうしても必要だと思う一方で、周りに仲間がいなかったり、試せる場所がないとどうしてもその「儚い未来」というところで言うと、孤独感に苛まれるみたいなケースもあると思うので、自分が追求してきたことを社会化する、実装する場としてのTakramというのはすごく大事だなと思います。
田川:僕自身がTakramをつくるというか、つくらなきゃいけなかった理由も近いところにあって。僕はバックグラウンドがエンジニアリングなんですが、一般の方々が使うプロダクトをつくりたいと昔から思っていたんですね。エンジニアリングをやっている中で、使いやすいものというのはある意味デザイン的な観点からの磨き上げや美しさというものももちろんその中に入ってくるのですが、それをエンジニアとしてやろうとした時に、社会がそれに凄く否定的だったというか。その辺りの美的な部分というのはデザイナーの仕事だと分業されているので、「専門的な訓練を受けていないエンジニアがなぜそれをやるのか?」 「君にやれるわけないでしょ」というのを20代の頃に凄く周りから言われました。僕は道具がつくりたいだけであって、道具の中とか外とかはあまり関係がなかったんですよね。例えば、人間でも中身と外見というのはメタファーとしては言いますが、2つを分けたら人間じゃなくなるし、分けることにどれだけ意味があるんだろうと20代の僕は結構混乱していて。「何で分けるんだろう?」と。
それを一緒にやるということを言うと、「いや、できない。無理だ」「一人の人間が一回の人生でやること自体に無理がある」と。「どっちか選びなさい」「どっちですか?」「決めなさい」といった感じで、年齢的に上の経験がある方から凄く否定的な言葉を浴びせられ続けて、どうしたらいいのかよくわからなくなってしまったんですね。その時も散々考えたのですが、1年くらい考えても答えが出せなかったんですよね。
何かを選べと言われて、「そりゃそうだよな」と思って選ぼうとするのですが、夜滾々と考えて、「よしエンジニアリングだ」と思って寝ても、朝起きるとふとデザインのことを考えている自分がいて、何回やってもそうなるということは、自分にとってとても不自然なことを決めようとしているのかもしれないと思うようになり、最終的には「決断しない」という決断をして、20代の間だけはどっちもやってみて、ダメだったら30歳の時にスパッと諦めてエンジニアになるということだけを自分の中に約束して。無決断という決断をしたんですよね。それが自分の中での原体験としてあって、そこから色々経験をする中で、Takramをつくるときには、デザインとエンジニアリングをそれこそ両方やり得るかもしれないという仮説を自分がある種生贄になりながら、プロトタイプとして成立するかどうかというのを社会の中で実験してみようという気持ちでスタートしました。
今回取り上げて頂いたメンバーたちもどこかしらそういうところがきっとあるんじゃないかなと思っていて。あれもやりたいし、これもやりたくて、どっちも選べない。どちらも本当の自分のような気がするし、でもどちらか選べと言われたら選ばなきゃいけない気もするんだけど、といったところである意味彷徨っているというか、ウロウロしているような。一つに決めきれなかった人たちの駆け込み寺的な存在とだったいうところが、いまのTakramの中核をつくってくれているメンバーたちには少なからずそれがあるんじゃないかと。単にそうしかできないからそうやっているだけなんだと思うのですが(笑)、選べなかった自分たちをおおらかに肯定して、選べなかった自分たちだからこそある意味探索できる領域とか、そういう自分たちなりのユニークな社会に対する貢献のあり方があるかもしれないから、それを前向きに探していこうみたいなところはもともと組織の根っこのところにあると思うし、それがたぶん自分たちが社会に提案しているトレードオフの解決のためのアンチテーゼみたいなものになっていて。「選べ」と迫る社会に対して、「いや、選ばなくても少なくとも2つはいいのかも」みたいなところですね。それぞれがそこにチャレンジしている感じはありますね。
越境のプロフェッショナルになる
原田:振り子というと、2つの極を行き来するイメージがありますが、別に2つに限らないし、個人の中での振り子というのを考えると、いくつもやりたいことや興味があって。振り子と言うとそこに相互作用やつながりがないといけないと思いがちですが、実はそうでもなくて、自己矛盾も含めて色んな興味があって、それこそ決めることを半ば諦めているような態度というのは皆さんから感じました。
今回の企画では、便宜上それぞれの振り子を2つに定めてタイトルをつけたりしているのですが、「自分の振り子はこれとこれです」と明確に言える人もいれば、これもそうかもしれないし、あれもそうかもしれないという感じで話しながら考えるような方もいて、そういった態度がまさにいま田川さんが仰っていたこととつながるように思いました。
山田:物事は二項対立で考えがちですが、それは対立ではなくて内包しているものであるというのは、人生を重ねていくとわかることなのかなと。ある視点からすると矛盾に見えることをどういう風に楽しむのかというところがあって、そこは皆さん共通しているところなのかなと思いました。
また、Takramはサークルというか、みんなが並列にいて手をつなぐこともあれば、ちょっと出かけてまた帰ってくるような、球体型というのか、人の関係性が凄くニュートラルな感じがします。それが旧態依然とした社会の考え方からすると、矛盾だったり、言ってしまえばルール違反に見えるようなところもあるのだと思いますが、「そんなルールがなぜあるのか?」「変えていってもいいんじゃない?」というのが、まさにTakramが築いてきた時間なのかなと改めて皆さんのお話を聞きながら改めて思うところがありました。
田川:たしかにそういうのはあるかもしれないですね。とにかく、何か一つの物事を決めるにしてもみんなで結論が出るまで粘って議論したりするところがあって、そういう意味だとトップダウンみたいなものが全然ないんですね。基本的にデザイン組織というのはトップダウンが多くて、チーフクラスのデザイナーがいるところもあれば、グラフィックデザインなどでは一人のスターデザイナーがいて、その下にアシスタントがバーっといるようなところが国内でも海外でも結構多いと思うんです。その点僕らはかなり不思議というか、リーダーシップが分散していて、ボトムアップかどうかもわからない。ボトムアップと言うからには「ボトム」と「トップ」があるのですが、そもそもトップというものがなくて、すべてが水平で移動しているようなイメージがあります。ニューヨークのメンバーと話をしていても、Takramのような組織というのは海外でも本当に珍しいよねと(笑)。最近はそう言われることが増えてきている感じはありますね。凄く東洋的なのかもしれません。西洋的なアプローチだとしっかりストラクチャを持たせるし、ジョブディスクリプションもかなり責任範囲をしっかり決めてアプローチすると思うのですが、僕らは本当に一人ひとりを信じているというか、それぞれの可能性が見ていて一番面白いので、その人たちの動き方だったり、それぞれが掛け算されるような形をどうやったら取れるのかということをみんなで考えている感じはします。みんなが考えもするし、つくりもする。僕がTakramの好きなところは、経験値が高い人でも自分で手を動かすし、経験値が低い人でもリーダにもなれて、その間のスイッチが縦・横・斜めで凄い頻度で自然と起こる組織なんですよね。ある意味ストラクチャがしっかりした組織の中でデザインのキャリアを歩んでいくと、経験値が高い人たちはどんどんランクが上がっていって、たくさんのプロジェクトを見る立場になっていく。そうすると、一つひとつのプロジェクトへの関与が減っていくところがあるし、自分で手を動かすというより、メンバーに手を動かしてもらうようなところもあったりすると思んですね。経験値が上がっても、誰かのチームの中で働くのは凄く良いことだと思うことがあって、僕自身Takramの中では一番経験値的には長いと思うのですが、若いメンバーのプロジェクトにメンバーとして入ることがいまでも結構あるんですよ。プロジェクトの中にはプロジェクトディレクターという人がいるんですけど、例えば僕がプロジェクトメンバーだった時に、そのプロジェクトの指揮は誰が取るのか、良い悪いのジャッジは誰がするのかというと、リーダーがやるんですね。僕も一意見として色々提案したりするけど、採用されない場合も全然ある。僕がメンバーの時は、ディレクターの向かう方向性にできるだけ自分がどう貢献できるのかというチームシップ的な動き方もするし、それがみんなの中で起こるんですね。それは自分にとっても凄い幸せなことだと思っていて、例えばあるプロジェクトで僕がメンバーに入る時というのは、僕よりもそのメンバーの方がその領域に関してはプロなので、その人がリーダーをやっているんですよね。そういうチームにメンバーで入ると凄く学べるんですよ。「Instagramの広告ってこうやるんだ!」みたいな現場的な学びがあって、これは多分経験値が上がってくるとなかなか接するのが難しいんですよね。なぜなら、先生と呼ばれるようになったり、あなたがリーダーですよねと言われるようになったりすると、そういう初心者的な状況に自分がなってもいいとあまりならないから。これはフリーランスで活躍しているデザイナーも同じだし、組織の中でキャリアアップしていくデザイナーも全く共通するところがあって。そういうループから逃れて、いつまで経ってもある意味学ばなきゃいけないし、学び続けることで視野を広げたり引き出しの量を増やし続けられるということは、自分にとっても凄く幸せな環境だなと思うところがあります。
田川:その辺がさっきおっしゃっていただいた好奇心みたいなところと結構根っこで繋がっていて、新しい分野を学ぶ越境みたいな話ですね。例えば、デジタルデザインのエキスパートであれば、当然組織からするとその領域で価値発揮してほしいという期待になりますし、これはフリーランサーでも一緒で、その道のプロにはそこの仕事が来るわけじゃないですか。となった時に、「いや、なんかプロダクトデザインをやってみたいんです」とか「3DCADいじってみたいんです」ということがあっても、普通だとそっちに割ける時間はないですよね。だけど、Takramの場合は、自分が少なくとも年間で数個のプロジェクトについては、自分がやったことのないプロジェクトに入っていって、領域を拡張したり勉強しようというのが、僕らのひとつのパッションになっているので何の違和感もなく、ある意味役に立たない人がプロジェクトに入ってくるんです(笑)。最初はちょっと難しいのですが、越境を重ねていくとある意味越境のプロになっていく人たちがいるんですよね。そういう人たちというのは、1、2ヶ月で猛烈にその領域の専門知識をキャッチアップして、2回くらいプロジェクトをやればある程度のレベルで仕事ができるようになっていくんです。皆さんもおわかりになるんじゃないかと思うのですが、何か物事を深掘っていくと、分野が全然違っても結局本質が共通していたりするじゃないですか。その背景にある本質的なストラクチャとか、哲学的なレベルまで煮詰めていったら結局同じ話だよね、これと。例えば、お寿司を握る職人が大切にしていることと、グラフィックデザイナーが文字を扱う時に大事にしていることが実は奥底で一緒だったみたいなことは結構あるので、領域を越境しながら深堀っていった時に、部分部分で見えてくるもののさらに奥に潜んでいる普遍的な共通項みたいなところまで掘り探っていった人たちというのは、越境のスピードが恐ろしいほど早いんですよ。そうなった人たちの成長速度を見ていると面白くてですね。例えば、ユーザーインターフェースのデザインをやっていた人が、グラフィックデザインやブランディングに越境して、その後プロダクトデザインとかに越境して、そうした柱を3、4本備えた人たちというのは面で見られるようになってきて、それがその人自身のユニークさにもつながる。色々知っているからこそ、一つの分野を色んな方向から複眼的に見られるニュートラルな視点に到達したりというところは、僕らが一つに絞れなくてウロウロしているからこそ価値を発揮できるところなのかなと思うところがあって、みんなそれにチャレンジしているような気はしますね。
そういう地点に立とうと思うと、やっぱりピープルマネジメントとかに埋没して、例えば自分の時間を80%くらいをそれに使っているとできないんですよね。自分で物に触ってつくるとか考えるとか自分でやっていないと。人にやってもらっているだけだとやっぱりそこにはいけないので、その時間は凄く貴重だなと思いますね。
自分を信じること・謙虚であること
原田:今回のテーマに戻ると、個の活動が組織にどうフィードバックされているのかというところをもう少しお聞きしたいなと思っていて。その辺にどんな期待があるのか、どういった可能性を感じられているのかとというところをお聞かせいただけますか。
田川:僕らも最初は個人の活動と組織の関係というのがよくわかっていなかったんですよね。でも、みんなが個人の領域を開拓して新しい視点によって一歩も二歩もでできることが多くなっていくのを見るし、やっぱりみんなが見ている風景がそれぞれ全然違うんですよね。緒方くんの場合だと、御代田の周辺で見えていることは、やっぱり都市で生活している人たちの感覚とは全然違う風景だったりするし、相樂さんにしてもデザインのコミュニティをつくるというのは全然違うレベルの話が含まれる。そうした多様性は新しいアイデアやアプローチを探していく上では本当に重要だなと思っています。
やっぱり人間は自分が知っている材料で考えちゃうじゃないですか。それはもう仕方がないことだと思うんですよね。だけど、価値観や大事にすることがある程度一致していて、みんなが安心安全な環境で発言や提案ができるという時に、それぞれが全然違う体験をしてきていたり、例えば最近は地方で暮らしているTakramのメンバーもかなり増えてきているので、やっぱりその辺の偏りを外からの視点で、「いまこういうことになっているけど、全然違う視点から見たら全く違うように見えていますよ」みたいなことをインプットしてもらうだけでも、僕らはメチャクチャ謙虚になれるんですよね。僕は個人的に、アイデアを考える人は自分の中にある可能性を信じる力というのもとても大事だと思うけど、もうひとつ片輪として謙虚というか、世の中で起こっている物事に対してちゃんと目を見開いて見ようとしているということも重要で、そのふたつの振り子なのか、両方が重なった時に自分が信じているものが世の中に対して役に立てるようなものになっていくというところに繋がっていくと思っていて。独りよがりでもないけど、ただ人の意見を聞いてそれに応える形でつくっているわけでもないという絶妙なバランス。それがちぎれないギリギリのテンションで存在している状態を、僕らはクリエイティブテンションと呼んでいて、その間を行ったり来たりする時にそのクリエイティブのバネ力を発揮するみたいなことを僕らは凄く目撃しているので。これが僕らが言っているイノベーションの何か根源的なものなのかなと思っているんですよね。そういうことを考えながら、組織として実体化して運営していくというのはまたHOWのレベルで色んなことをやらないとその絶妙なバランス感をキープするのは難しいので、日々ある意味試行錯誤ばかりですけどね。上手くいかないこともたくさんあるけど、そこはある種の楽観性で、ダメだったらまた変えればいいじゃんという感じで、自分たち自身にプロトタイプだと言い聞かせながら。そもそもスタートの時点では全く価値が認められなかった僕らだから、失うものもないのであまりやり方にこだわらず、「より良いやり方はないかな?」という感じで常にやっている感覚が凄くありますね。
原田:Takramは基本的に個々のメンバーの主体性にかなり委ねていると思うのですが、一方で会社という組織のプラットフォームや基盤を整えるということもある程度必要ですよね。色々な会社の制度やコミュニケーションの機会もつくられていて、そうした会社の基盤づくりというのは田川さんの一つの役割ではあると思うのですが、プラットフォームとしての会社と、個のクリエイティビティみたいなバランス、これはデザイン組織を経営されている方は皆さん悩まれるところだと思うのですが、田川さんにいま見えている理想のあり方や、これから目指していくところも含めて、どういった関係性を考えていきたいと思われているのか、その辺を聞かせていただけますか?
田川:カテゴリークリエイションと言っているのですが、1人ひとりのメンバーが自分の仮説を領域としてつくっていって、そこの第一人者的な感じで活躍している様子をたくさん見れると嬉しいなと思いますし、その過程って本当に孤独な探索なんですよ。このままいっても本当に芽があるのかなと思いながら試行錯誤していく期間というのがやっぱり4、5年あるので、それをみんなで「がんばろうね」「わかるその気持ち」みたいな感じで励まし合いながらやっていけるようなカルチャーを大事にしていきたいなと思っています。その結果として、色んな領域の第一人者が集まっているような組織になっていったら、こんなにうれしいことはないかなと思いながらやっていますね。そういう意味では、緒方くんとか佐々木さんとかはそれぞれの領域でそういうレベルの活躍をしてくれていたりもするので、そういう人たちがオフィスに行くといて、これどう思いますか?と言えば教えてもらえるというのはある意味幸せな環境なので、そういったことをこれからもどんどんつくっていけたらいいかなと思いますね。
原田:今日はTakram代表の田川欣哉さんに、ここまでシリーズで展開してきたTakramの個々の活動についてどう見ていらっしゃるのかということや、個人の活動と組織の関係などについて色々お聞きすることができました。今回のシリーズの最後にふさわしい総括的な内容になったかなと思っています。
最後に、Takramとして今後のお知らせなどがありましたらお願いします。
田川:こんな感じで僕らも自分たちでプロトタイプで探索しながらやっているので、発信するメッセージや考え方もどんどん変わっていくところがあると思うのですが、ぜひ興味がある方は色んなところで接点を持っていただけるとうれしいです。
原田:田川さん、今日はどうもありがとうございました。
山田:ありがとうございました
田川:ありがとうございました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
「デザインの手前」は、Apple Podcast、Spotifyをはじめ各種プラットフォームで配信中。ぜひ番組の登録をお願いします。
Apple Podcast
https://apple.co/3U5Eexi
Spotify
https://spoti.fi/3TB3lpW
各種SNSでも情報を発信しています。こちらもぜひフォローをお願いします。
Instagram
https://www.instagram.com/design_no_temae/
X
https://twitter.com/design_no_temae
note
https://note.com/design_no_temae